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おっさんAの異世界冒険譚 ~転生者、詰みそうな町を事業計画で立て直す~  作者: タツダノキイチ
第三部

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90/91

おっさんA、仲間を取り戻す

兵站を築く日々が続く。

とにかく必要な物資を近隣の村に運びまくった。

時に前線に立つこともあったが、ほとんどは後方支援で終わる。

軍人はやはり手慣れたもので、私は、

(ああ、こういうのにはかなわないな)

という印象を持った。

「またカレーが大絶賛だったね」

「そうだな。野営で温かいものが食えるだけでもありがたいと思ってくれたんだろう」

「そう? アレンのカレーって普通に食べても美味しいよ?」

「ははは。ありがとうな」

そんな話をしつつ次の村へ次の荷物を運ぶ日々に戻る。

やがて、前線が落ち着いてくると、そこで辺境伯様の大鉈が振るわれた。

町は混乱に陥りかけたが、コレニアット商会の強い意向で商業ギルドとの融合はすんなりと決まり、物の値段も徐々に落ち着いていった。

徐々に明るさを取り戻しつつある町の人たちの顔を見て、

(それでもカルテル体制に変わりはないんだがな。まぁ、これまでよりマシになったぶんだけで御の字さ。俺は整えられるだけ、整えた。おそらくだが、コレニアット商会のユークリウスさんと辺境伯様ならお互いにこの状況をうまく利用してくれるだろう。あとは町の未来に託すのが俺の仕事だ)

と思い、ひとり軽いため息を吐く。

そんな日が続いていたころ、本隊の第一陣帰還の報せを聞いた。

慌てて軍の駐屯地となっている辺境伯屋敷に行き、詳細を尋ねる。

「詳しいことはわからん。ただ、本隊に死者はいないということだ」

という話にほっとし、その日は宿に戻った。

「よかった……」

ほっとしてつぶやくようにそう言い涙ぐむリズと一緒にささやかな祝杯を上げる。

「帰ってきたら大宴会だな」

そう言って久しぶりに飲む酒は私の胃にじんわりと沁みていった。

そして本隊帰還の報せを聞いた翌日。

さっそく辺境伯屋敷に向かう。

居ても立っても居られない気持ちで行くと、そこにはところどころに包帯を巻いたサーニャと少しやつれた様子のマイの姿があった。

「サーニャ! マイ!」

駆け寄っていくリズの後をゆっくり歩いていく。

抱き合い涙顔で笑う三人を見てほっとしていると、そこにジャック軍務卿とエリス様が近づいてきた。

その様子を一目見て思わず苦い表情になってしまう。

(こんなにも痛々しく……。そうか。そんなにも壮絶な……)

そう思うと、私は自然と二人に頭を下げていた。

「無事終わった。苦労を掛けたな」

「とんでもございません」

「そっちの戦いはどうだった?」

「おかげ様でなんとか勝利いたしました」

「そうか。それはよかった」

そう淡々と話し、握手を交わす。

いつも通り微笑むエリス様とも握手を交わしたが、その姿を直視することははばかられるように思えた。

「席を用意してある。お茶にしよう」

そう言ってジャック軍務卿が私に背を向ける。

私は一瞬迷ったが、エリス様が、

「みんなもお茶を飲みながらお話しましょう」

とみんなを誘ってくれたので、少し安心してジャック軍務卿のあとについていった。

メイドがお茶の用意をして下がっていく。

それを見たジャック軍務卿が、

「とりあえず、概要を報告しよう」

と言って今回の作戦の概要を聞かせてくれた。

聞くだけで恐ろしい冒険譚に肝を冷やす。

(完全に別次元の話だ)

そう思って聞いていると、最後にジャック軍務卿が、

「私もエリスもこれで引退だ。軍の戦力はある程度落ちるだろう。それだけが心配でならん。そこでサーニャとマイには是非軍に入ってもらいたいと思っている」

と衝撃的なことを言ってきた。

いかにも「どうだ?」という視線を真正面から受け止める。

たじろぎそうになる心に鞭を入れ、

(ここは勝負だぞ!)

と気合を入れた。

「恐れながら、それは契約違反になる可能性があります。まずは二人の意思を確認させてください」

そう言ってサーニャとマイに視線を送ると二人はかなり困ったような顔でうつむいてしまった。

そんな二人に、なるべく優しい声で、

「軍に残りたいか?」

と尋ねる。

するとまずはサーニャが、

「アタシ、楽しい方がいい!」

と言い、マイも続けて、

「私も軍は正直……」

と言ってきた。

「そういうことらしいですよ」

とジャック軍務卿の方に視線を戻しつつ、笑顔でそう答える。

「しかし、これは国家の問題だ。そう軽々に答えを出すものでもなかろう」

と言うジャック軍務卿に私は、

「私の出した条件を覚えておいでですか? この戦いが終わったらまた二人に好きな道を歩ませてやるということ、それが二人の仲間として出す絶対条件だ、と申し上げたはずです」

と言い、その目をしっかりと見据えた。

「その無理を承知で言っている」

ジャック軍務卿も負けじと真剣な目をこちらに向けてきたが、私はそこで表情を和らげ、

「では私をこの場で斬ってください」

と言った。

ややぽかんとするジャック軍務卿に、

「商人にとって契約は命です。その命をないがしろにするということは私を斬り捨てるのと同義ですよ。もし、どうしても二人を軍に入れたいのであれば、この私を斬ってからにしてください。私はそのくらいの覚悟で二人に楽しい未来を見せてやりたいと思っています」

と自分の覚悟を述べる。

するとジャック軍務卿が、「ふっ」と短く笑い、

「アレンは冒険者だったんじゃなかったのか?」

と軽くツッコミを入れてきた。

「それはそれ、これはこれです」

あっさりと誤魔化し、またジャック軍務卿ににこやかな表情を作ってみせる。

そんな私を見てジャック軍務卿は苦笑いを浮かべつつ、

「この勝負、私の負けだな。二人の才能はかなり惜しいが……」

と少し悔しそうに言葉を続けながらも、そう言ってくれた。

最後、部屋を出る際、ジャック軍務卿から、

「二人には辛い思いをさせた。これからは楽しい思いをたくさんさせてやってくれ」

と言われる。

それに続いてエリス様が、

「私たちの二の舞になっちゃだめよ」

とサーニャとマイに声を掛けた。

そのどこまでも切ない言葉が、鋭いとげのようになって私の心に突き刺さる。

私は二人の重たい覚悟をしっかり受け止めると、ただ短く、

「かしこまりました」

と答え、ジャック軍務卿に右手を差し出した。

硬い握手を交わし、夕日に染まった辺境伯屋敷を後にする。

「ねぇねぇ。アタシ、アレンのカレー食べたい! あと、生姜焼きも!」

「私はシチューがいいです。とろっとろのクリームシチュー!」

「あはは! いいね! 今夜はどこかで野営にしちゃう?」

「おいおい。いいのか? 今日は金貨四枚の予定だったんだがな?」

「そんなにいいの!? じゃあ、今日はカレー、我慢する!」

「うふふ。じゃあ私もシチューは今度にしますね」

「ははは! 二人とも現金だなぁ」

「だって、飲み放題って言われたらさぁ……」

「そうよね。きっと今日のお酒は美味しいと思うわよ」

「そうだろうな。きっと人生で一番美味い酒が飲めるぞ」

「よっしゃ! 今日は大宴会だ!」

「「「おう!」」」

明るい声が町の空に響き渡っていく。

以前に比べればこの町も少しは明るさを取り戻してくれた。

それが自分の力だとは思わないが、それなりに寄与できたと思うと、どこか誇らしい気持ちになる。

私の前を行く三人は相変わらず楽しそうにきゃっきゃとはしゃぎ、さっそく今日何を食べるか話し合っているようだ。

「から揚げは絶対ね!」

「私はバーニャカウダがいいな。ワインによく合うし」

「それならチーズはどう? 辺境産のチーズけっこう濃厚で美味しかったよ」

「まぁ。それは素敵ね!」

「じゃあ、チーズカツはあるかな?」

「どうだろう? 金貨四枚の力があれば作ってもらえるかもしれないよ?」

「やった! じゃんじゃん食べて、じゃんじゃん飲むぞ!」

「「おう!」」

そう言って右手を天高く突き上げる三人に追いつき、私は思いっきり腹の底から声を出し、

「今日は俺もしこたま飲んでやるぞ!」

と気勢を上げた。

「えー。アレンまた二日酔いになっちゃうよ?」

「ええ。無理はなさらないでくださいね」

「そうそう。おっさんなんだからさ」

とみんながニコニコしながらツッコミを入れてくるのがまた楽しい。

私はそんなみんなに、

「俺はいざという時はやるおっさんなんだよ!」

と意味の分からない強がりを返す。

「あはは! なにそれ?」

とサーニャが笑い、楽しげに耳をピコピコ動かした。

気が付けば空は半分くらい紺色に染まっている。

そろそろ瞬き始めた星を見て、

(まだ青春は終わってねぇぞ)

と少し強がってそうつぶやいてみた。

楽しい声がどこまでも響き、夜空にそっと溶けていく。

私はこのキラキラと眩しい光景を一生忘れないだろうと思いながら、再び前を行く三人を軽い足取りで追いかけていった。

楽しい未来はまだ続く。

夕暮れの美しさも、この楽しげな声たちも、きっと明日につながっていくのだろう。

私はそのことを単純に「幸せ」だと思った。


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