~天使の血~ー総集版
『いや~。ここのパンは本当に美味しいよ。エミリーちゃん』
『いつもありがとうございます。レナおばあちゃん。あら、今日はいつもより多いですね。お孫さんですか?』
『そうなのよ。久しぶりに孫が遊びに来るもんだからね』
『あら、それは楽しみですね』
『ほんとにね』
何も変哲の無い平凡な日だった。
『エミリー、国王からの通告だよ。悪魔がこの街を攻めてくるんだったって、鐘が鳴ったら王城の裏の地下に避難しないといけないらしい』男の人が慌ててパン屋に入ってきた。
『悪魔なんて物騒だわ』おばあちゃんはそれを聞きことの重要性を理解できていないようだった。
『ほんとに……』エミリーはつぶらな瞳でつぶやいた。
その日の夜、エミリーは子供を寝かしつけた後、夫の待つ寝室に入ると扉の前で立ち止まった。
『あなたに話しておかなければいけないことがあるの……』
『私は天使の血を引く者なの。いきなり驚くわよね。なぜ私が天使の血を引いているか順を追って説明するわね。私がちょうどまだあの子ぐらいの年齢だった時、母から聞いた。私の曾祖母と曾祖父の話。そう、ローレンとベラの愛の物語…………』
始まりは、一つの命が失われた夜のこと……。
ベラは妊娠中でいつ子供が産まれてもおかしくないそんな時だった。
急にお腹に激痛が走り、ローレンと共に急いで診療所へ行った。
『本当に子供が産まれる』ローレンはそうつぶやいた。
『女の子なら名前はローズがいいわ。薔薇のように綺麗な心を持ってほしい。そんな想いよ』
『それならオリヴィアの方がいいよ』ローレンはベラとは違う意見のようだ。
そんなことを言い合いながら二人は心を躍らせていた。
だが、現実はいつも上手くいかない。二人の間に命は授からず、流産だった。
病院でベラは流産により体力を失い、ショックで少し眠ってしまった。何時間後ベラが起き、ローレンと二人で家に帰った。家に着くとベラをベットに寝かせた。ベットで横になるベラにローレンはうつむきながらドクターから聞いたことを伝えた。
『君はもう子供を作るのは難しい身体だそうだ……』
ベラはそれを聞くと泪があふれ出し、数時間泣き続けた。そして、その日はそのまま寝てしまった。
次の日の朝ベラが起きると上半身を起こしそう言った。
『ごめんね、ごめんね、この身体のせいで……』
そう言うと自分のお腹を殴り始めた。
『やめろ』ローレンはそういうとベラの手をつかんだ。
彼女がどれほど辛いのか俺にはわからなかった。ただ、俺の辛さよりかは遥かに辛いことは容易に想像できた。
そして、ローレンはベッドの上で強く妻を抱きしめた。
それから数日が経ち、急に妻は心神喪失状態になってしまった。前日までは少し元気がないだけだったが、子供を失ったショック・もう子供を授かれないショックに耐えきれなくなったのだろう。ベラはよく耐えてくれた。あとは俺が支えてやろう。ゆっくりでいい、少しずつ乗り越えていこう。
それから数日が立った——————
ローレンは起きると朝と昼のご飯を作り、仕事に出かけた。
1人家に残ったベラはほとんどの時間を2階の寝室 窓際で過ごす。何もせず外の景色ずっと眺めている。そんな毎日を繰り返していた。今日も何事もなくローレンが帰ってきた。
『今日もあんまり食べてないな』
ローレンは口数が減ったベラに根気強く付き合っていた。仕事の後も妻のためにご飯を作り、妻を一緒にお風呂に入れ、一緒のベッドで寝ていた。ローレンはそれでもとても幸せだった。なぜなら、最近ベラは少しずつ元気を取り戻している。食事の量も以前に比べれば増えたし、口数もまだまだ少ないがかなり増えた。ベラの泪も減ったし、お腹を殴る癖だけは止めないが、希望は薄っすらとだが確かに見えていた。
その時までは……。
あの日、ローレンはいつものように仕事が終わり家に帰ると、何か家の様子が違うことに気がついた。明らかに誰かが入ったような形跡があった。2階にいる妻が心配になり、すぐさま階段を駆け上がった。部屋に入ると、そこには見るに堪えない姿のベラがあった。私はすぐにベラに駆け寄り、抱きかかえ、毛布を着せ何があったのか聞いた。
だが、昨日までとは違い、また昔のように言葉に耳を傾けず、焦点の合わない目をしていた。そして、床には見たことのない空の小瓶が落ちていた。それが何かは知らなかったが、状況が物語っていった。
俺は怒りに魂を燃やしていた。あれほど心の底から怒りを感じたのは初めてだった。
ローレンはすぐに妻を抱きかかえ、村長の下へ行った。
『村長、夜遅くにすまない。少し、妻を預かってもらえないか。この小瓶のことを調べたいんだ』
村長は抱きかかえられたベラを見ると、少し驚いた顔をしたが、すぐに状況を理解したのか真剣な顔つきになった。
『ローレン、何があったかあとで詳しく話してくれ。ベラのことは任せてくれ』そう村長は言っていくれた。
村長の家に妻を預け、俺は薬屋へ向かった。こんな時間だ。薬屋は閉まっていが、扉を叩き店主を呼んだ。
『ローレンじゃないか、どうしたこんな時間に』店主が出てきてくれた。
扉の隙間から奥の部屋で食事している子供たちの姿が見えた。
『食事中だったのか、すまない』そう言うとローレンは事の経緯を説明した。
『この小瓶に少量残った液体について調べてほしい』最後にそう伝え店主に小瓶を渡した。
店主はその小瓶を見ると言った。
『わかった。だが、解析には2日ほどかかる』唾を飲み込むと続けてこう言った。
『もしかするとその瓶の形から毒の可能性が高い』
俺はそれに対する返答はできなかった。
村長の家に戻り、毒のことを伝えた。話を聞き村長の奥さんがベラを後ろから抱えるように持ち上げ、ベラの腹にグッっとこぶしを当てた。
『ゔぇぇぇっ』ベラはすぐに吐き。ベラの口からは青い液体が流れ出てきた。
俺の怒りはとうに沸点を超えていた。
その後、村長が自警団に連絡をしてくれていた。
それから村の自警団の調査が進み、すぐに犯人はわかった。犯人はこの村を統治する国の貴族の息子2人だった。捜査によるとあの日の夜、彼ら2人を見た者が多くいたそうだ。おかしいのは護衛もつけずに村に2人だけ来ていたこと。国の貴族の息子が護衛をつけづに出歩くのはおかしい。一番の決め手となったのはローレンとベラの家から出てくるところを見た者がいたことだった。
相手が相手なので村には迷惑をかけないように、村を出てでも一人で戦おうそうローレンは思っていた。だが心優しくも村のみんなは一緒に戦ってくれると言ってくれた。ローレンは涙で前が見えないほど泣いた。嬉しかったのだ。
それから間もなく、今回の事件を国の裁判所に伝えるために、村長とローレンは二人で国を目指し馬を走らせた。裁判は以外にもすんなり申告が通り、次回また招集がかかるとのことだった。村に戻り、村長の家に入ると玄関に薬屋の店主の靴があった。部屋に入ると机の前に座ったまま店主は言った。
『小瓶の薬が何かわかった。落ち着いて聞いてくれ、ガイアの毒だった』
『ガイアとはどういう毒なんだ!』ローレンは慌てていた。
『落ち着いてくれ、死にはしない。ただ……かなり協力は神経毒だ』
『神経毒?』村長は驚きながら質問した。
『直す方法はある。安心してくれ簡単だ』店主はまっすぐな目で言った。
その頼もしい言葉をローレンは今でも覚えている。
数日後、国から馬に乗った者が現れ裁判の日程を伝えに来た。そして裁判は3日後に決まった。
ついに裁判の日が来た。村長とローレンは国へと馬を走らせた。小瓶の液体のこと、村のみんなの証言を署名した紙を持って、準備は万端だった。
—————はずだった——————————
裁判はすぐに終わり貴族の息子たちに与えられた刑は1週間の社会貢献活動だった。それが意味することは、刑罰は無いということだ。無罪で無いということから、彼らが犯人であることは認めている。だが、無罪なのだ。貴族が裏から裁判に圧力をかけたに違いない。相手はそういう人間だということを忘れていた。ローレンは憤り言葉も無かった。二人は裁判が終わりやるせない気持ちのまま控室に戻った。
『ローレン、申し訳ない。私が居ながらなんの役にも立てなかった。』
『いや、いいんだ。俺、再審を申し込んでくるよ』
『ローレン、私も行くよ』
『村長、ありがとう。また貴族が裏から手を回しているだろう。だがそれでも戦わなくてはならない! ベラのために……』そう言うと、ローレンは控室の扉を押し開け廊下に出た。
そして二人は裁判長の部屋へ向かい廊下を歩き始めた。
2人が廊下を歩いていると前から見たことのある少年2人が歩いてきた。豪華な衣服に身を包んだ異端児だ。
『ローレン、絶対に何もするな。裁判で不利になる』そう小声で村長がローレンに伝える。
ローレンからは溢れんばかりの怒りがにじみ出ていた。
ちょうどすれ違う時、人間という皮をかぶった狼が聞こえるようにつぶやいた。
『お前にあんな美女はもったいなんだよ』
ローレンは振り返ると『おいっ!』そう言った。
少年はローレンの声に反応し振り返った。ローレンは振り返った狼に殴りかかった。しかし幸いにもあと少しで拳が当たるところで村長が何とかローレの腕を抱え止めた。
『ローレン、抑えるんだ』そう村長が言う。
狼少年はローレンの気迫に押され腰を抜かし倒れていた。狼少年は立ち上がると村長が止めていることに安心して言った。
『あの女、夫が人質になっている。と嘘つくと、喜んで自分からケツ振って近づいてきたぜ』
そして心を失った少年たちはゲラゲラと笑いながら、去って行った。ようやくローレンの手を離した村長はローレンの顔を見て言った。
『お前の気持ちはよくわかる』
そしてローレンと村長は裁判長室まで訪れた。再審を請求したが、案の定認めてはもらえなかった。二人は認めてもらうまでずっと抗議をしたが警備に追い出されてしまった。
『ローレン、私はあきらめんぞ。国王に直訴しに行く』
『村長、もういいんだ。帰ろう』ローレンの目に光は無かった。
村に戻るとローレンはすぐに古い友人のヘルメスティスのところに行った。ローレンは旧友に会って早々に要件を伝えた
『貴族の息子2人を苦しめたい』
ヘルメスティスはすべて知っているような表情のままこう答えた。
『それは魔法を使えないお前には無理だ。俺にだってそんな魔法は扱えない』そして続けた。
『だが、1つだけ方法が無いわけでもない。ミュルザルの森へ行け。森の真ん中に小さな祠がある。その祠の中にある石を壊せ。そうすれば死神が現れる。死神がお前に力を貸してくれるかはわからない。何も聞かずにお前を殺すかもしれない。これはあくまで噂なのだが、死神は解放者の願いを1つ叶えないと完全に封印を解くことは出来ないらしい。だから、もしかしたら力を貸してくれるかもしれない』
『そうか、ありがとう』ローレンは表情ひとつ変えずにそう言うと友の下を去った。
ローレンは次の日起きるとすぐに何も持たずに昨日教えてもらったミュルザルの森へ向かった。村を出る時、村の人達とすれ違うが挨拶を交わさないどころか目も合わせなかった。
村のみんなはローレンの様子を不振がり、何かおかしいと話していた。その話は村長にまで伝わった。
『あの裁判の日からなんだ。ローレンの目に光が無くなったのは…………』村長は集まった村人に裁判のこと、裁判の後のことを話していた。
一方、ローレンはミュルザルの森へたどり着いていた。村からはそれほど離れては無く、歩いて来れない距離ではない。人里に近い森だが死神が眠っていることを知っている者は少ない。
ローレンは森に入るとすぐに祠を見つけた。
『これか』そうつぶやくと、祠の扉を容赦なく開け、中にある石を取り出した。
そして、その石を思いっ切り地面に叩き付け粉々にした。すると、朝の澄み渡った空は一気に暗闇に包まれた。そして霧が出てきた。霧はどんどん濃くなっていく。ローレンは周りの変化に驚きもしなかった。
そしていきなり、大きな鎌がローレンの首元に突きあたる。
『ほぉ、驚かないとは勇敢だな。』その声とともに霧の中から死神が現れた。
『それとも、感情を失っているのか』笑いながら、死神はローレンの首元から鎌をずらし、鎌を肩に担いだ。
『なんの用だ』そう死神が言うとローレンはやっと口を開いた。
『俺は殺したい奴がいる。力を貸してくれ』死神は怒った顔をしローレンの顔に近づけると言った。
『俺がお前の手伝いをしてなんの得がある』
『ない。だが、私の命をやる』ローレンは言った。死神はまた鎌をローレンの首元に当てると
『お前の命など欲しくもない。欲しければいつでも手に入るわ』そして、高笑いこう続けた。
『だが、お前に覚悟があるのなら俺の力を分けてやろう。500年の束縛から解放してくれた礼だ』
『死神に情などあるのか』ローレンの質問に死神は笑みを浮かべてこう返した。
『俺だってもともとは人間だったのだ。お前と同じな』死神は意味深な笑みを浮かべたまま言った。
『どうする。やめておくか』
『それでいい。頼む』ローレンに躊躇はなかった。
『いいだろう』そう言うと死神は鎌で自身の腕を切った。
死神は出血した腕を出し言った。
『飲めっ。これを飲めば一時的にお前に死神の力が手に入る。しかし、死神の力を失う時、お前は先ほどまでの俺と同様に石になる。お前の場合は小石だろうな。そしてすべての人間からお前の記憶は消え、忘れ去られる』
『戻る方法はあるのか』そうローレンは聞いた。
『無くなはい。お前がやったようにお前も壊してもらえばいい。それだけだ』
『そうか』そういうとローレンは死神の血を1口飲んだ。
ローレンはが血を飲むと死神の傷はすぐに癒えた。
『これが死神の力だ。あとはお前の好きにすると良い。明日になればお前は小石になる。さぁ楽しんで来い』そう言うと死神は消えていた。
力を得たローレンは貴族の息子たちの下を訪れた。死神の力によって国まで一瞬で移動した。
そして、少年たちは都合のいいことに同じ宮殿の同じ部屋で食事をしていた。急に少年達の前にローレン死神が現れる。いきなりのことで少年2人とメイドたちが驚き部屋から逃げようとする。だが、少年たちは死神の力によって宙に浮き、勢いよく壁に打ち付けられ貼り付けにられた。メイドたちは悲鳴を上げ部屋から逃げて行った。
それから少年たちは手足を先端から切り刻まれ、切った自身の肉を食べさせられた。ローレンは今は死神なのだ、死をつかさどる神である。つまり死んだ人間を生き返られることもできる。その力を死神の本能で知っていたローレンは少年たちを何度も殺した。生き返るたび肉体は癒えるが、体験や痛み、感情といったものは癒えることはない。ローレンは二人の意識が壊れるまで殺し続けた。少年達の意識が壊れた時すでに真夜中だった。
メイドたちの知らせを聞き武装した護衛が扉の前まで来ていたが、部屋の中には入れなかった。死神の力で他の者はこの部屋に入れないようにしている。少年たちの意識が壊れたところでローレンお互いに犯し合わせた。そして、ローレンの死神としての時間が迫ってきたので殺した。原型が無くなるまでつぶして殺した。少年達は肉片すら残っておらず、全てが液体になっていた。ローレンが死神の力を解き、ようやく部屋の外にいた護衛が中に入って来た。部屋は死神が現れる前の豪華な部屋の面影は無く、部屋は少年らの液体で真っ赤に染まっていた。
そしてすでに、その部屋にメイド達が見たという者の姿はなかった。
そのころ村人達は帰りの遅いローレンのことが心配になり、彼の家で待つことにした。
一仕事終えたローレンは家に帰ろうとしていた。家なら石になってもベラに見つけて貰えると考えたのだ。家の上空まで来たが、家には村の人達がローレンを心配して集まって来てくれていた。こんな姿をした者が空から降りてきては村の人はパニックになる。とローレンは思い、家に帰るのを諦めた。
他にいい場所は無いか考えたが、思いつかない。そうしている間に時間になった。間に合わなかった。ローレンは小さな石ころに変わってしまった。その石は村のはずれの方に落ち、他の石と区別がつかないありさまだ。
その瞬間に人々の記憶からローレンは消えた。
『あれ、ベラの家で俺たち何してるんだ』
『ほんとね、変ね』村人たちはそう言い帰って行った。
ローレンがいなくなって1か月
村長の家でお世話になっていたベラは、薬屋の店主が持ってきてくれた解毒剤が聞き、徐々に正気を取り戻していた。その後、ベラは完全に回復し、日常生活を送れるようになっていた。
『村長、ありがとうございます。私、もう大丈夫だわ』
『もういいのかい。ベラちゃんが居たいだけ居てくれていいんだよ』
『ううん、ずっとお世話になるわけにはいかないわ』
そういうとベラは最後に夜ご飯をごちそうになり家に帰って行った。彼女は家に入ると部屋が綺麗なことに驚きつぶやいた。
『あれ、部屋が綺麗に整頓されてるわ。きっと村長が片付けてくれたのね。明日お礼を言わなくちゃ』
そしてその日はお風呂に入りすぐに寝た。
次の日ベラは起きるとすぐにキッチンに立った。
『村長のところに差し入れを持っていこう』そうつぶやいた。
料理をしていると突然デジャヴのような感覚に襲われた。何か・昔に・誰かとここで一緒に料理を作った気がする。だけど思い出せない。思い出そうとすると頭が痛くなる……。そして、なんとか料理を作り終えると村長の家に持って行った。
『村長、これお世話になったお礼です。奥さんこれ好きでしたよね』
『おぉ、ベラ。ありがとうな。よく覚えていたな、ベラはいいお嫁さんになるよ』
その言葉を聞いた時だった。まただ、何かがフラッシュバックした。何かはわからない。まるで記憶に霧がかかっているようだ。頭が痛い。村長はそんな痛がるベラに気づき声をかけた。
『どうしんだ。大丈夫か』
良くしてくれた村長を困らせたくない思いで、ベラは思い出したように言った。
『あ!そういえば、家綺麗にしてくれてたんですよね?』とベラが聞く。
『いや、わしは何もしとらんぞ』不思議そうな顔をする村長。
『え⁉』驚きのあまり頭の痛みを忘れていた。
その後、村長と少し話してベラは家に帰った。ご飯を食べながら村長との会話を思い出す。
『おかしいな……。村長じゃなきゃ誰が掃除や片付けをしてくれたんだろう』
ベラは時々変な感覚に陥る。食事をするとき・お風呂に入る時・寝る時、そこには誰か一緒にいたような気がする。そして、最近ではその気配は徐々に強くなり、男の人の顔がうっすらと頭の中に浮かぶようになった。そのたびに頭痛がする。そして泪も出る。頭が痛くて泪がでるのでは無い。そう、何か別の要因があるように感じる。
その状況に怖くなったベラはついに村長に相談した。だが、あまりいい答えは返って来なかった。
『わしじゃ、よくわからん。もしかすると神のお告げかもしれんな。教会に行ってみてはどうだ』村長も原因はわからないようだった。
それを聞き、ベラは教会に行くことを決めた。
ベラが教会へ着くと神父さんが居た。神父さんにも話をしてみるが、やはりわからないらしい。
『確かに、村長の言う通り神からのお告げかもしれませんね』
神父さんがそう言うので、椅子に座り手を組みながら祈る
『あの男の人は誰なのでしょう?』がやはり返事は返って来ない。
長いこと教会に居た。ついにベラは諦めて帰ろうと席を立つ。すると神父さんがこう言ってくれた。
『1日ではわからないこともあります。また来てください』
ベラはそれから毎日のように教会に通い神に問うた。
そして、ある日のこと——————————
『今日も来ましたね。ベラ』
『神父さん、おはよう』
ベラはいつものように椅子に座り手を握った。
『何か大切な人のような気がするのです』そうベラはつぶやいた。
すると、頭上からとても綺麗な女の人が舞い降りてきた。ベラは一瞬で彼女が誰か悟った。間違いなく彼女は天使だ。教会のステンドグラスを生き写ししたような姿をしている。天使はベラの目の前に降り立つとこう言った。
『貴方にかかった。呪いを解いてあげましょう』そう言うとベラの頭の前に手のひらを向けた。
するとベラの頭から黒い靄のようなものが出現し、天使の手の中に入っていった。そして、ベラは一瞬驚いたような顔をするとすぐに泣き出してしまった。
『私、ローレンのこと忘れていたんだわ』ベラはハッとした表情を浮かべると何かに気づいた。
『ローレンは、ローレンはどこにいるの?』そう天使に聞いた。
天使はにっこりと笑うと言った。
『君たちの愛に免じて教えてあげよう。特別だよ』
そして天使はローレンが小石に変わった経緯を話し始めた――。
天使から死神になったローレンの呪いを解く方法を教えてもらったベラはローレンが行きそうなところに行き、石を拾っては壊してを繰り返していた。だが、どの石を壊しても壊してもローレンは出てこなかった。ベラは1か月以上これを続けていた。村の人たちからは変人扱いし始めていた。
『村の誰もローレンのことを知らない。私一人だけがあの人のことを知っているのよ。ああ、早くあなたの会いたいわ』そういうと毎晩毎晩、泣き嘆くようになった。
今日も1人ベッドに顔を埋め泣いていると……。ベラは天使に好かれたのか、またあの時の天使が現れた。ベラの横に立つとこう言った。
『1つだけ、1つだけ。彼を見つける方法があるよ』いつものように天使は笑顔だった。
ベラは少し怖いように思えたが質問した。
『その、方法って?』
『君の天使になればいいのさ!』天使は大きく両手を広げて答えた。
『天使になれば、彼の霊魂を察知することができる。そうすればどの石かわかるよ。ただし、天使になったら天界で暮らさなければならない』
『わかったわ。私、天使になる。彼のために』そういうとベラは立ち上がった。
『そう言うと、思ってたよ。じゃあ私の手を握って』
両手を天使と繋ぐとベラの身体の中に温かいエネルギーのようなものが流れ込んでくるのを感じた。それは数秒間続いた。
『これで天使になったの⁉』
『そうよ、じゃあ私は天界に戻るわ。それとあなたが地上に居られるのはおそらく明日までね。その力が完全にあなたの物になった時あなたは天界に召喚されるの
『ありがとう』そういうとベラは力を使いローレンの霊魂を察知した。
『すぐそこにいたわ!』そう言い天使のほうを見ると、もうそこに天使の姿は無かった。
『早くローレンを助けなきゃ』ベラは音速で家を飛び出した。
そしてローレンの石の下へ飛んで行った。ベラはローレンの石の近くに着陸すると、すぐに石を持ち上げ投げおろした。
『ローレン!』
『ベラっ』
石から解放させたローレンとベラは強く抱き合った。
『さぁ、家に帰ろう』そうローレンが言う。
『任せて!』とベラは笑顔でローレンの腰に手をまわし飛んだ。
『見て、飛んでるのよ。私たち飛んでるのよ』興奮し無駄に回転するベラ。
ローレンはビックリして聞いた。
『ベラ、今のは……』
『今まであったことを話すね、空を飛びながら』ベラは今までの出来事をローレンに伝えた。
少し二人で空を飛びまわり家に帰った。ベラが明日までしか地上に入れないことを聞いたローレンは笑顔で言った。
『残られた時間を二人だけで過ごそう』
ローレンの笑顔の置くにある悲しい気持ちをベラは察しながら聞いた。
『あなたも何があったのか教えて』
『あぁ、だけどその前に食事にしよう』そう言うとローレンはキッチンに立った。
食事が終わり、ローレンは今まであったことをベラに伝えた。
そして、その日は寝た。
次の日二人は家から一歩も出ずに二人だけの大切な時間を過ごした。ベラは時間が過ぎていくたびに悲しくなっていた。(もうローレンといれる時間も少ない) そう思えてならないのだ。口には出さないが、それを分かった上でローレンは明るくベラに接していた。
そして時間は来た。二人で食事をしている時だった。ベラの身体から光の泡のようなものが出はじめた。
『ローレン、時間だわ。今までありがとう。本当にありがとう。大好きよ』
『あぁ、俺も好きだ。ずっとずっと』ローレンの目は今にも泪が流れでそうになっていた。だが泪を押し殺して続けてこう言った。
『ずっと上で俺のことを見ていてくれ』
『もちろんよ、あなたのことは忘れない。絶対に……』そう言うとベラの持っていたスプーンは落ち、ベラは消えてしまった。
ローレンは今までベラに見せないようにと我慢していた泪が一気にあふれ出た。声を上げ泣いた。大きな声で泣いた。
ベラが天界に行き1年が立とうとしていた。村の人たちの俺の記憶は元に戻り、いつも通りに接してくれる。ベラが居なくなり一番大変だったのは街の人たちへの説明だった。どうせなら僕の時みたいに記憶を消してくれた方が簡単だったのにと思う時もある。村の人たちにはベラが故郷に帰ったと伝えてある。そして俺は1人で平凡な日々を過ごしている。
ある日、ローレンは起きて仕事に行こうと1階に降りると驚いた。机の上にゆりかごが置いてあったのだ。
『誰かが寝ている間に入ったのか』そうつぶやき、警戒しながらゆりかごの中を見た。
そして目から泪があふれ出た。子供だ。赤ちゃんがそこにはいた。その赤ちゃんは俺とベラの子供だと確信した。ローレンは頭で理解したのではない。赤ちゃんを見た瞬間に心でそう感じたのだ。
『ベラ。君の子なんだね。俺、育てるよ。立派な子に育てる。見ていてくれ』
ゆりかごにはほかに一枚の紙切れが入っていた。そこにはこう書いてあった。彼女の名前は■■。と—————————————————。
『そう、その赤ちゃんが私の叔母よ。そして私は天使の力を生まれながらにして持っているの』そうエミリーが言った。
『もし悪魔が来るならこの力を使わなければいけないかもしれない』エミリーは上を見ながらそう言うと、ネックレスを触りながら話し続けた。
『もし、私に何かあった時は、あの子ことよろしくね』夫の手を取るとそう言った。
『あの子が大きくなったらこの話を聞かせてあげて、あの子もいつかこの力をコントロールしなければいけない時が来るはずだから』
『あの子に力の使い方を教えられなかったことはとても心残りだけど……』エミリーは自分が死ぬことがわかっているような遠くを見つめた目をしてそっとつぶやいた。
これは私しか知らない後日談。エミリーもローレンも知らない話。ベラの天界でのちょっとした話。
ここは天界。ベラとあの時の天使が雲の下を見つめている。
『ありがとうね。子供のこと。半分人間の血だと天界には入れないと聞いた時は、どうしようかと途方に暮れたものだわ』見た目も一人前の天使になったベラが言った。
『君の働きがいいおかげだよ。だからセラフィム様も許してくれたのさ』そうあの時の天使が答えた。
『でも、私は子供が産めないって言われたのよ』ベラの疑問にとても単純な答えが返って来た。
『天使になったのにかい?』そう言うとあの時の天使は笑っていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
ブクマ、評価など頂けると嬉しいです。
章ごとに違うお話なので気になった章だけでも、どうぞ見て言ってください。
同じ世界戦の話なので繋がりはあったりなかったりしますが……。
個人的に好きなのは5章です。
よろしくお願いします。




