23・仲間はずれ
「グループを退会させられている……?」
いつも使っているトークアプリ。
朱里は過去のトーク履歴を見ようかとアプリを開いたら、いつの間にかグループを退会させられていた。
「どうして……? 今までこんなことなかったのに……」
朱里が退会させられたのは学校のクラスで作ったグループである。
他愛もないことを話すグループである。
特段会話にも参加していなかったが、いざ退会させられるとなると、腑に落ちない。
「な、なにかの間違いだ……! すぐに復帰させてもらわないと!」
朱里はすぐに池……ダメだ。あいつはわたしを裏切った。
というわけで、クラスの中でも比較的喋る女子達の何人かにメッセージを送った。
しかし待てども待てども返事が返ってくる気配がない。
おかしい……なにが起こっている?
混乱する朱里。
どうしたものかと思っていると。
ぴろん。
トークアプリの通知音が鳴った。
相手は……朱里がメッセージを送った女子の一人である。
「良かった……! やっぱりきっとなにかの誤作動だったんだ……!」
しかしそのメッセージを見た途端、朱里は言葉を失った。
『あなた、クラスからうざがられているよ』
と。
「え……どういうこと?」
朱里はすぐさまメッセージを送った。
すると今までのことが嘘だったかのように、すぐに返事がきた。
『そのままの意味。私は優しいから言ってあげてるけど、他のみんなはあなたのワガママっぷりに呆れて、ブロックしてると思う』
しかし知らされた情報は最悪のものである。
朱里は無意識に右手の爪を噛んでいた。
「どうして!?」
心当たりは……池丸だ。
あんな男、大したことないと思っていた。だが、彼等と絶縁してからどうも朱里に対するみんなの反応がおかしい。
朱里が話しかけても「ん……ああ……」という曖昧な返事ばかりで、会話が上手く繋がらないのだ。
それだけではない。
何故だかジロジロ見られているような視線も感じ、クラス内での居心地も悪かった。
そのこともあって最近、朱里は昼休みになると一人教室を出て、屋上で暇を潰している。
「池丸達がなにかやったんだ」
と自室で一人呟く。
卑怯なヤツ等だ。
縁を切るだけではなく、こうして裏から糸を引くとは。
きっと池丸達がなにか働きかけ、自分を仲間はずれにしようとしているのだろう。
池丸達はクラスでも影響力が大きい。
一方、朱里は今まで先輩といつも一緒にいたため、クラスではあまり社交的ではなかった。
ゆえにこんな時、簡単に切られてしまう。
「あー……もう面倒臭い」
ベッドで横になる。
そういえば先輩と絶縁してから、踏んだり蹴ったりだ。
なにごとも上手くいかない。
「先輩……今頃、なにしてるんだろ……」
先輩のことを考えると、朱里はきゅっと胸が苦しくなる。
自分は……先輩のことが好きなのだろうか?
分からない。
昔からいつも一緒にいたため、このもやもやの正体が分からないのだ。
しかしこれだけは分かる。
——先輩のことは嫌いではなかった。
少々悪戯が過ぎたかもしれない。
だからこそ、とうとう先輩の堪忍袋の緒が切れ、わたしから離れていったのだ……朱里はそう思った。
「先輩にメッセージ送ってみよっかな」
トークアプリを開く。
こんな時、心のもやもやを打ち明けられる人がいれば、どれだけ気持ちが楽になるだろうか。
『せんぱーい、聞いてください。また可愛いわたしに嫉妬した女子から意地悪されちゃいました。慰めてくださーい』
と言ったら、先輩は優しく頭を撫でてくれた。
またあの頃に戻れるかな?
先輩はまたわたしの頭を撫でてくれるかな?
『せんぱーい、話聞いてください』
そこまで打った。
後は送信ボタンを押すだけだ。
しかし……できない。
送った後どんな反応をされるだろうか? もしかしたら返事すら返ってこないかもしれない。
そう考えたら、どうしても最後の一押しができないのであった。
「わたし……なにか間違えちゃったかな……」
天井をぼーっと眺める。
自分に味方はいない。
そう考えれば、どんどんと心が袋小路に入っていき、どうしようもない閉塞感を感じるのだ。
「……もういいや。寝ちゃお」
結局朱里は先輩にメッセージを送ることができず、瞼を閉じるのであった