↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/42

22・ほっぺに柔らかな感触

 ひったくり犯を警察に引き渡して一件落着……だったらよかったが、どうやらそうでもないようだ。

 事情聴取のために、俺も交番に行くことになった。


「ごめんねっ! すぐに終わるから!」


 とあれだけ警察官の人に頼まれれば仕方がない。


 というわけで小鳥遊と一緒にショッピングモール近くの交番まで出向くことになった。


「君若いね〜。高校生?」


 婦警の人がペンを片手にぐいぐいと質問してくる。


「はい」

「なにかスポーツやってんの? 陸上? あっ、もしかしたらサッカー」

「いえ……帰宅部です」

「えー、もったいないよー」


 ……これって事情聴取なのか?

 さっきからこの婦警の人と喋っているだけのように思えるが?


「スポーツやりなよ。周りの人から聞いてるよ。犯人を追いかけていく時の君はまるで忍者だったって」

「どうも」

「それだけの足と体力があれば、どんなスポーツをやっても天下を取れる。悪いことは言わない。今から君は……カバディをやりなさい!」

「どうしてカバディ!?」


 いや……カバディをバカにするわけではないが、カバディ部なんてうちにはないし。

 というかカバディ部なんてあるのか?

 あんまルールも知らないけど、要は『激しい鬼ごっこ』だということだけは知っている。


「あのー、事情聴取は……」

「ああ、ごめんね。本題に戻るね」


 よかった……これからやっと本格的な事情聴取が……。


「一緒に来てた子。彼女かな?」


 ……始まらなかったようだ。


「いえ違います。高校の友達ですよ」

「なんですとー!?」

「いや……なんでそんなに驚くんですか」

「あんなに可愛い子、放っておいたらすぐに彼氏ができちゃうぞ。今のうちから早く捕まえとかないと」


 余計なお世話だ。


 ん……待てよ。

 小鳥遊に彼氏っているんだろうか?

 今日のお出かけに浮かれていて、そこんとこを聞くことを忘れていたな。


 彼氏がいたら大変なことだ。小鳥遊を巡って彼氏と修羅場……になるかもしれない。

 いかんいかん。俺の平和な日常を崩される。

 後でしっかり確認しておかなければ。


「あのー……これ以上なにもなかったら、そろそろ帰りたいんですが……」

「あっ、いけない! もうこんな時間! ごめんごめん! もう書類はまとめ終わっちゃったからさ。帰っていいよ」

「いつ書類まとめてたんですか!?」

「お姉さん、仕事早いからね。ありがと。時間取らせてしまって」

「まあ……そんなに時間はかからなかったらいいんですけど……」


 席を立つ。

 その場を去ろうとした時に。


「少年ー。高校卒業したら警察官になりなよー。私がビシバシ鍛えてあげるよー!」

「考えときます」


 婦警の人が手を振って俺を見送った。

 警察官か……それはともかく、将来の夢なんて考えたことないな。みんなはもう方向を定めているんだろうか。


「あっ、優! やっと終わったんだね!」


 そんなことを考えていると、一足早く事情聴取が終わっていたのか、椅子でまったりお茶を飲んでいる小鳥遊に呼びかけられた。


「悪いな」

「優は全然悪くないよ! 仕方ないことなんだしね。もう外も暗くなっちゃったし……帰ろっか」

「だな」


 警察官の人に一応挨拶をしてから、交番を後にした。

 なにやら後日、今回の件を讃えて表彰状が貰えるらしいんだが……正直そんなものは欲しくなかった。


「優」

「なんだ?」

「どんなことをお喋りしてたの? ボクは大したこと聞かれなかったし、すぐに終わったんだけど……なんか優の方は長かったなって」

「俺の方も大したことはない。ちょっとした世間話をしてたくらいだ」

「世間話?」

「なんか部活に入ってるのか、みたいなことを聞かれた」

「なにそれ。関係ないじゃん」


 おかしかったのか、小鳥遊がくすくす笑った。


「……夜になると、街の雰囲気も一変するな」

「だねー」


 ビルから漏れる蛍光灯の光。お店は賑わい、学校帰りの学生らしき姿や、仕事終わりのサラリーマンの姿も見える。

 その中でも一際目立ったのはカップルの存在だ。


 幸せそうに二人は手を繋いで歩いている。

 今からどこかに食べに行くのだろうか?

 カップルの二人は楽しそうに会話をしながら、俺達の横を通り過ぎた。


 ……そうだ。


「小鳥遊。今から変なことを聞くぞ」

「ふぇ? 変なことを?」

「小鳥遊には……彼氏がいるのか?」


 小鳥遊がきょとんとした表情になる。

 しまった……いくらなんでも急すぎたか? なにか前置きが必要だったかもしれない。


 聞いたのを後悔していると、


「い、いないよ!」


 と小鳥遊は顔を真っ赤にして答えてくれた。


「い、いないのか。小鳥遊くらいだったら、すぐにでも彼氏を作れそうなんだけどな」

「いないってば! ほんとだよ? ボク、彼氏なんていないんだから! 信じて!」


 必死に否定を続ける小鳥遊。

 どうしてそこまで必死なんだろうか……分からなかった。


「……まあいっか」

「ねえ、優」


 小鳥遊が俺の顔をジッと見てこう尋ねる。


「どうしてこんなこと、聞いてきたの?」

「ん? 単純に気になったからだが?」

「どうして気になったのかー、っていうことを聞きたいんだよ」

「んー……そうだな。小鳥遊に彼氏がいたら、こうやって男二人と出かけるのは不味いだろ? それを確認するのを忘れてたなーって。急に不安になっただけだ」

「そう……」


 一瞬小鳥遊の顔が暗く沈んだ。


 しかしすぐに持ち直し。


「……彼氏がいるのに、こうやって男の子二人で出掛けたりしないよ。ボク、そんな足軽女じゃないんだから!」

「足軽……武家かな」


 正しくは『尻軽女』だ。


 やがて近くの駅まで辿り着いた。


「じゃあ俺はこっちだ」


 小鳥遊とは反対方向の駅なので、ここでお別れだ。


「うん……」


 まだ小鳥遊はなにかを言い足りなさそう。


「なんだ? なにか言いたいなら、今のうちだぞ。まあまた学校で会えるから、無理して言わなくてもいいかもしれないが」

「…………」


 こんなしおらしくしているのは小鳥遊らしくない。


 小鳥遊はしばらくもじもじしていた。


 電車が来る。

 ……そろそろ行かねばならない。


「……まあいっか。またトークアプリかなんかで言ってくれれば……」

「……いやここで言うよ」


 小鳥遊が首を横に振る。


「優。ちょっと目、瞑っててくれる?」

「目?」


 まあ別に逆らう理由もない。


 小鳥遊の指示に従って、おとなしく目を閉じた。


「優……」


 次の瞬間。




 ほっぺに柔らかい感触が当たった。




 ビックリしてすぐに目を開ける。


 すると小鳥遊が恥ずかしそうにして、顔を離した。



「今日はありがとう。これがお礼! また遊んでね!」



 彼女はくるっと振り返って、ダッシュで反対側のホームまで走り去っていった。


 一方の俺。

 頬に当たった柔らかい感触を確かめながら、しばらくそこで立ちすくんでいた。


「……さっきのって、なんだったんだ?」


 もしかして……キスされたのか?

 ほっぺにちゅっレベルではあるが……。


 頭がぼーっとする。


 そのせいで、次に来た電車に乗ることができず、帰る時間が遅れてしまうのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ストーリー的には北沢が正妻ポジなんだろうけど、個人的には小鳥遊がツボだった。 まだまだ他にもヒロイン候補は登場するのかな…? と。 [一言] なんかもう個人的には「朱里ざまァが見たい」…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。