表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
213/376

第95話 アブソリュート・ファイト・フォックス -OVER- ①

 二〇二一年六月十二日。日が昇りきった頃。万博記念公園で悪しき熱気と清い冷気が高密度でぶつかり合い、空気が歪んだ。

 二葉亭萌百子のカチコミの情報が流れたのか、もう万博記念公園は完全なる無人だ。ジェイドは思う存分戦える。それでも胸の中に何か異物が埋まった気持ちだった。自分は最強、自分がマインには負けるはずがない……。だがそれは戦いでの話だ。在りし日のマインは狡猾な策とそれが失敗した時の幼稚な負け惜しみ、憎悪と憧憬とコンプレックスという揺るがぬ動機があった。自分には何もない。最強を目指したわけではなかったが、強さを身につけていたらいつの間にか最強になり、責任を帯びてきたので背負った。マインの背景に比べると薄く軽い。

 実際、純粋な戦いではなく騙し討ちではあるが、ジェイドに最も深いダメージを与え最大の危機に陥らせたのはオリジナルのマインである。さらに愛弟子を虐殺したマインに対する憎しみは苦手意識と繋がり、ジェイドを苛む。


「キャハ」


 外気に触れた途端、頭部の骸の眼窩に鬼火の瞳が燈る。そして第三、第四の手が浮遊を再開し、本格的にメタ・マインはアクティブになる。


「ウラオビのゴッデスも機能停止に追い込めたのに」


 むしろサイバーミリオンで機能停止に追い込めなかったからこそ、都合よくジェイドリウム内でメタ・マインが動かず、出した途端にアクティブになったのだと考えてしまう。ジェイドリウムから強制排除されれば寿ユキを除く寿ユキ一派の全戦力をぶつけられる。だが外でイレギュラーを待てばジェイドとのタイマンが実現する。ジェイドにはマインに恨まれている自覚があった。……というのは自意識過剰、考え過ぎだろうか? マインという相手はあまりにも雑念が混ざりすぎる。いわばマインという存在が、例え偽物であろうともジェイドのアキレス腱だった。


「テ」


 ダメだ。考えれば考える程、雑念の有刺鉄線が絡み、食い込む。ジェイドはディスアドバンテージにしかならない感傷をきっぱりと切り離し、数字で構成されるドライな戦いの世界に頭をシフトチェンジした。……。途端に頭がクリアになる。敵の挙動、自分の構え。変化があっても鼓動のリズムは全く変わらない。


「テアーッ!」


「キャハ」


 デタラメすぎる……。関節も距離も腕力も無視するゴッドハンドは生物としての摂理を歪め、無視している。第三の手でジェイドの喉輪を掴み……持ち上げるというのか!?


「キャキャキャハ!」


 反応が遅れた! そしてすかさず、第四の手がジェイドの顔面を滅多打ち! 喉を掴む第三の手に異常な力の緊張が走り、本体から生える短い左腕をぐるぐる回すと第四の手が連動し、強烈なブローでジェイドの視界に銀粉を散らした。それでもまだ第三の手は彼女を離さない。開始数秒で既に一方的なリンチの様をなす!


「ネフェリウム……」


「キャ」


 パンとオーロラが弾け、ジェイドは必殺光線を諦めてポータルで離脱した。直後、オーロラの残渣の向こうを撫でる青紫の火線。そして復活の聖母を要に扇状に炎上するロケーション。


「ッテェ……」


 咄嗟の判断と展開では短距離の移動しか出来なかった。一応狙った場所、即ちメタ・マインの背後に回ったが、見えるはずの敵の背中はなかった。


「キャ……」


 クリアリングは必要なかった。背後からの声にジェイドの背筋に悪寒が走る。戦いで死の予感……。いや、もっと原始的な、嫌悪感を纏った恐怖は数十年ぶりだった。アブソリュートは先天的に好戦性が備わっている戦闘種族。ジェイドも例外ではなく、戦いは好きだ。だがこの相手と戦うことには恐怖しかない。振り返って姿を確認することすら恐ろしい。再びジェイドの意識が雑念の有刺鉄線の中に埋もれていく。


「キャハ!」


 特大の衝撃が叩き込まれる。アストラルビーム着弾エフェクトである青紫の火炎は、ビームを放ったメタ・マインの表皮を撫で、短冊状の頭髪がメドゥーサの髪のように不規則に動き青い炎が空気を焦がす。至近距離から必殺技を受けたジェイドは爆炎の中で……。心音とリンクする胸のランプの点滅、三十五年ぶりの点滅で答え、悲痛なまどろみの中に誘い込まれていった。




 〇




 鼎の心臓は破裂せんばかりの勢いで全身に血を運んでいる。それでも自分の肌は真っ青に冷めている感覚があった。鼎は注意深く、恋人の姉の元カレのアジトを観察した。

 モニターが三つ接続されたパソコン、本棚には昭和、平成、令和の名作小説、随筆、マンガに至るまで様々な本が並んでいる。コルクボードに飾られた写真には大黒顕真、月岡金吾の他に彫りの深い色白の美人、覆面プロレスラー、背の低いゴーグル、ヒゲメガネ。あのヒゲメガネには見覚えがある。研二の下宿がある巣鴨でフジと戦った男だ。

 ……。それ以外には、不自然なスペースがダイナーにはあった。誰かがここを去ったばかりなのだろう。


「木楠に見覚えが?」


「ええ。巣鴨で」


「すまないことをしたな。飲み物を? エスプレッソ、ヒジリココア、プロテイン、竹茗堂の玉露、スポーツドリンク。それともアサヒスーパードライ?」


 かつて寿ユキの家を訪れた時。同じものを勧められた。アサヒスーパードライ。


「アサヒスーパードライでお願いします。ガソリン入れないと」


 ガツンと一気に缶を空けても鼎の顔に火照りはなかった。だが心拍は加速、そしてテンションも上がってきた。頭の回転は鈍くなったのか早まったのかわからないが、言いたいことは変わらない。速度が変わってもここに来た理由と言葉は変わらない。アサヒスーパードライは良く働いた。ぷはっと口から飛び出す微炭酸。弾けるように鼎は言った。


「メタ・マインと戦ってください」


「流れが変わったな。前置き、能書き抜き。ドライ、辛口、生の言葉。まるでアサヒスーパードライ」


「はぐらかさないでください。もう一度言います。聞き入れてくれるまで何度でも言います。メタ・マインと戦ってください」


「OK。じゃあまずは君と戦ってみよう。嫌だ、と言ったら?」


「その理由を聞き、覆します」


「俺の気が変わった。いや、変わっていない。メタ・マインを目覚めさせ、世界を滅ぼす。そのために俺は……。過ごした時間は短いが親友とも、戦友とも、弟子とも呼べる若者を突き放し、絶望させ、決別した。俺の目的はようやく果たされる」


「顕真さんはいい人です」


「何の反論にもなってはいないな」


「顕真さんがいい人じゃないと……。納得出来ないし、夢がない。わたしは戦いに関してはシロートです。それでもフジが……。わたしははじめ、フジが最強だと思っていました。でもお姉さんに負け、お兄さんに負け、いろんな人に負けた。フジは最強じゃなかった。だからフジって弱いのかと思っていた時期もありました。……そんなことはなかった。繰り返しますが、わたしには何が強さなのかもわからない程のシロートです。でもフジと顕真さんの強さを見て、フジが……。あの頃からどれだけ……。お姉さんは言っていました。フジは頑張り、この一年の成長はその結実であると。顕真さんの強さはそれを上回っていました」


「俺がカケルより強いから、俺が戦えばカケルが助かると?」


「話を逸らさないでください。そういうことをされるとわたしは負けます」


「潔い」


「そして、わたしは負けますとまで言ったらそれをやめるどころか褒める。顕真さんのそういう騎士道精神や真面目さ、そして大人びた経験値がフジとの差です。顕真さん、本当のことを話してください。相手の本音を探るくせに自分の本音は徹底的に隠すのは詐欺師の手口です」


「まるで見てきたような言い草だ」


「あやうく片棒を担ぐところでした。異星人ヤクザの経営するパチンコ店で、異星人ヤクザのオレオレ詐欺の女優の代役をやらされそうになったとき、偶然賭場荒らしに来たフジに助けられたのが、フジとの出会いです」


「ロックンロールだ」


「話を戻せば、真面目で誠実、真剣に努力を積んできた人間が弱いなんて夢がない。フジに勝っただけでも強い顕真さんの強さは、その精神……。真面目に頑張ればいつか実を結ぶという摂理が肯定されているようで、夢があったんです。……お姉さんみたいな高嶺の花とも付き合える」


「高所恐怖症でね」


「顕真さん自身が高嶺の花なのに?」


「そういう下手なお世辞はだな、就職活動の前にやっておいてよかったな。これを機にキャリアセンターで正しいおべっかの使い方を教わるといい。社会人になれば今のやり方であっているぞ。お得意のそいつで契約の一つでも取ってみろ」


 顕真の言葉が強くなった。無論、この程度で動揺したりイラつく顕真ではない。これはジャブだ。この程度で鼎が臆するならそれまでだ。


「顕真さん。女子大生がカフェで新作のフラペチーノを注文してるんじゃないんです。一人の人間として真剣に頼んでいます。顕真さん。お願いします。メタ・マインと戦ってください」


「……。君の誠意、君の気持ちは最初から分かっているつもりだった。剥き出しの本音もありがとう。言葉では応える。それでも要求には応えられない。だが聞かせてくれ。君は何度も俺にメタ・マインと戦えと言った。だが一度もカケルを守ってくれとは言っていない。それを、説明してくれ」


「……フジはもう守られるだけじゃないからです」


「それは答えの一つだろう?」


「お姉さんを守ってあげてください。フジがいくら強くなっても、それはフジには出来ないことです」


「ユキは俺のことはもう好きではない。むしろ嫌っているし、死ねばいいと思っている。俺が地獄でカケルを助けた理由は、最初は利害の一致だったが俺は彼に対する愛着を覚えた。ああ。ユキはカイという弟子をとった。同じような気持ちだった。テアトル・Qの面々は弟子のようなものだったが、それは俺の思考や技術の共有だった。伝授や継承をさせたいと思ったのはカケルだ。俺はカケルを見込んだから戦った」


「その節はありがとうございました」


「君とカケルが池袋のサンシャインシティでデートをしている時。ヒジリ製菓の量産型人造人間が襲撃を仕掛けてきた。あの時、俺はユキに転送され、カケルの助太刀に入った」


「その節もありがとうございました」


「だがユキとは一言も言葉を交わしてはいない。それに、あの時の俺は切り札なんかじゃなかった。あの時、量産型人造人間で攻撃を仕掛けてきた人物の息子を、俺は直前に叩きのめしている。いろいろあってな……。あの人にはあんな息子にでも愛着はあったはずなんだ」


「聖透澄と聖佐のことですか?」


「知っていたか」


「フジからよく聞きました」


「まぁ、そういうこと。あの時、俺は切り札ではなく囮だった。直近で聖透澄から恨みを買った人物。聖透澄は優先的に俺を狙う。俺が始末されれば一石二鳥。そういうユキの筋書きだ。まぁ、どうだろうな。君の言う通り、俺の難儀な真面目さならカケルのため、或いは君を含めた無辜の人々を救うために戦うと踏んだか、俺がユキの点数稼ぎのために戦うと考えたか。どっちにしろ都合の良い駒だ。本当に助けが必要なら、あの場面で呼ぶべきだったのは頑馬だ。なのに俺だった。よく言ったものだ。誰よりも優しく、誰よりも酷薄」


「それでも顕真さんは戦った。わたしのこともフジのことも助けてくれたじゃないですか。……聖佐のことは、わたしも聞きました。わたしは誰の親でもないですけれど、わたしが親だったらあんな人間は見捨てる。それでも顕真さんは聖透澄に残った親心、情に想いを巡らし、そう考えてしまったんですね」


「答えは藪の中」


「テオリア。わたしは大学の質的調査による社会調査の授業で『羅生門』を観て、証言というものは必ずしも真実を導き出さないと教わりました」


「証言が真実に辿り着かないなら、質的調査に何の意味がある?」


「テオリア。観察眼と信頼です。わたしのテオリアが顕真さんの優しさを教えてくれた。顕真さん。三つ目の理由です。あなたのために戦ってください。かっこいい顕真さんでいてください。今、ここでお姉さんを助けても復縁は出来ないかもしれない。普通の女性なら押しつけがましいと思うかも。でもよく考えてください顕真さん。そもそも元カノに構ってほしくて世界を滅ぼす怪物の復活を唱え、元カノの弟までボコる。この時点でもうストーカーなんですよ」


「ははは」


「でも、お姉さんはとても優しい人だから……。助けてくれる顕真さんに感謝する。ストーカーになってしまった顕真さんに幻滅したかもしれない。でも、フジが地獄に行き、戻ってきてからのフジと顕真さんの関係と決闘を見て、わたしは何故お姉さんが顕真さんを好きになったのかわかったような気がしました。女の子は! 投げたら戻ってくるブーメランじゃない! お姉さんを迎えに行って。このぉ……」


「エモーションのパッチワーク。ツギハギの言葉だな。だが悪くない。まるでブラック・ジャックだ。ブラック・ジャックのような技巧はないが、ブラック・ジャックのような揺るがぬ熱い思いを感じる。このぉ、の先を言ってみろ」


「根性なし! 意気地なし! 今のフジならこんな人には勝てなくてしょうがないと思わせてください!」


「モテるからやれる子とは全部やった。やれることは全部やったからモテる。言葉を前後させるだけで意味はまるで違う。言葉ってのは上手ければ良いものでもないし、今の君のように一見チグハグなツギハギだからこそ勢いと心が伝わることもある。……言葉って面白いな。だから言葉が好きなんだ」


「ええ、たとえば一文字違いでも就活女子とP活女子じゃ全然違います」


 顕真は深くソファに腰かけ、俯いてギプスをさすった。


「……もし。君が世界の命運をかけた戦いに臨む時。その時はもうカケルとは恋人同士じゃなくて……。それどころかカケルに幻滅した後でも、助けてもらいたいと思うか?」


 顕真の声音が変わった。弱弱しい声。ダイナーにエコー。


「わたしの特技は土下座と命乞いとお世辞です。そのどの特技もいらない。答えは、はい、です。……フジは初恋の人じゃないけど、初めての彼氏だから。特別です」


「ユキは俺にとって初めての彼女、ユキにとって俺は初めての彼氏」


 顕真は次なる燃料を求めた。何も出来ない女子大生に。頭が痛む。気持ちはもう決まっている。だが……。フォックスゲートはフジとの戦いで壊され、左腕の負傷も治ってはいない。全治何か月かもわからない重傷だ。


「顕真さん。さぁ、立って」


 鼎が手を差し出す。


「フジのため、わたしのため、お姉さんのため、世界のため、顕真さんのために」


 そして顕真が顔を上げると、真っ赤になった鼎の掌の上には青。青の錠剤があった。


「これは?」


「お姉さんが作った薬です。飲めばすぐに傷が治ります」


「何故君がそれを持っている?」


「本当はお姉さんからフジに渡されたものです。そしてわたしはフジからもらいました。自分たちには必要ないからと」


 フジ。フジ・カケル。アブソリュート・アッシュ。あの男が鼎にこの薬を渡すはずがない。あの男は鼎に傷一つつけさせないように徹底的に守る。ウラオビが鼎を傷つけた時にそう誓った。だから鼎がこの薬を飲むことはない。でも渡した。フジは鼎に賭けたのだ。その若く青い二人の想いに顕真は少し嫉妬し、かつては自分もそうだったことを思い出した。


「君の勝ちだ。いや、君たちの勝ちだ。望月鼎ちゃん、そしてフジ・カケル。そうだな……。俺、金吾、カケルで三人か。カケルのことだ。当然あれは出来るだろう。クイズだ、鼎ちゃん」


「はい」


「東京からみて、大阪の方角は?」


西(ニシ)です」


「今後君は西(シャー)とも読むようになる。四人で卓を囲もう。君たちは賭けに強いし、心臓も俺より強いみたいだから」


 顕真は錠剤をヒジリココアで飲み込み、カウンターに左腕を振り下ろしてギプスを叩き割った。効きの早い薬だ。やや痛みは感じるもののもう左手の位置は自然で、骨がくっつき始めている。


「顕真さん。最後に訊かせてください」


「ああ」


「何故、お姉さんと……別れてしまったんでしょう」


「実はみんな勘違いしている。俺はユキにフラれていない。俺から別れを切り出した。付き合い始めた当初は俺の方が強かった。……。信じられないかもしれないが、まぁそういうことにしておいてくれ。ユキもそう認めていた。だから俺はユキを守らねばと思っていた。だがユキは急速な勢いで力をつけ、俺を追い抜いた。それでも俺に守られることをどこかで願っていたと思う。俺はそれに応えられなくなったから、別れた。自分が情けなくなったんだな。そんなところだ。フッ、みんなこう思ってるんだろう? うじうじしている情けないキツネが愛想を尽かされたと。じゃあ金吾。行ってくる」


 ニヒルな表情で腕組みをしていた金吾はタバコを咥えていた。鼎がいなくなればもう誰にも気兼ねなく火をつけられる。


「待て」


「なんだ?」


「どう戦うつもりだ? 死ぬぞ」


「ネイチは使えないが、フォックスになら変身出来る」


「こいつを使え。最後の一つだ」


 濃厚エスプレッソのナイスミドルは自らの腰に提げた文庫本大の赤い鳥居を象った枠を差し出した。


「これは」


「これがなくても俺とお前はいつでも話せる。スマホもあるしな。だが、これを俺に分けてくれてありがとう。お前は俺にとって救いの戦士だ。ありがとう。本当に……。さぁ、英雄になってこい。世界の英雄に、お前をリブートさせたフジ・カケルとこの子の英雄に、そして何よりお前の恋人の英雄に。振り払え。立ち向かえ。愛を守るため」


 グータッチ。優しく穏やかだったのに、青春を殴り飛ばすようなグー。

 そして顕真は駆けだした。大阪まで飛ぶには人の往来の多い環七を抜け、どこか人目のないところでフォックスに変身しなければならない。

 短いダッシュで大黒顕真の肉体のスペックでは上がるはずのない息が上がる。はっ、はっと細かく刻んだ呼吸の間隔は徐々に長くなり、足を止めた。


「お前たち」


「顕真さん。話はあとで聞きます。顕真さんにはこれが必要だと思ったので、そして顕真さんはここに来ると思ったので。そして、わたしたちにはもう必要ありません。さぁ、これを持って、万雷の黄色い歓声を」


 凸・楓・リーバイス。出会った頃とは違う、穏やかで怯えていない大人の顔つき。渡すのは白のジェイドとピンクのプラのリーフ。


「赤裸々な想いを」


 烏頭説。出会った頃とは違う、思慮の深さを持った懐の大きな大人の顔つき。託すのは深紅のレイとアイボリーのマインのリーフ。


「もう一度青春を」


 船場吉蝶。出会った頃とは違う、ケダモノのぎらつきではなく平穏のかたちを見つけた大人の顔つき。捧げるのはアクアマリンのアッシュとアメジストのミリオンのリーフ。


「大黒顕真の生き様を」


 木楠士。出会った頃とは違う、愉快なだけではなく寛容と余裕から来る笑みを浮かべた大人の顔つき。献上するのは銀の初代アブソリュートマンと黒のXYZのリーフ。

 顕真は空を見上げ、掌を上に向けた。その掌に八枚のリーフが重なった。


「お前たちを仰ぐ。もし贅沢が許されるならば、今から少しの間だけ俺を仰げ。手本を見せてやる」


「先程も言いました。もうわたしたちにリーフは必要ありません」


「……」


「でも、またいつか大黒顕真は必要になります。そして世界には今すぐ大黒顕真が必要。顕真さん。本当に今までありがとうございました」


「わかった。もう俺はお前たちの視界には入らない。お前たちも俺の視界には入らない。……いつか俺を許してくれるなら、その時は上下でも前後でもなく横並びだ」


 後ろ髪をひかれながら人混みを抜け、誰もいない狭い通学路へ。もう一人客がいる。長身とされる顕真よりさらに長身、体重は倍もありそうなムキムキマッチョマンだ。顕真が虚勢を張り自分が最強などと嘯いても、勝てなかったという事実を叩きつけたあの男。


「頑馬」


「フォックス。お前がやれ」


「ああ、俺が行く」


「お前のそれ。フォックスゲート。つまり門だ。ここはまだ(ロード)。さっさと次のステージの門を開けろ。そんで“兄貴”の顔に泥塗るんじゃねぇぞ」


 背中に熱を感じながら、最高に贅沢な道を一心不乱に駆けた顕真は金吾から預かったフォックスゲートを抜き、顔の横で構えた。


「ッ……アッシュさんッ!」


 疾走しながら右手でゲートにリーフを押し込み、激しい呼吸に敬意と祈りを込める。


「ミリオンさんッ!」


 青と青、二つの青で輝き出したフォックスゲートを斜め上に掲げる。まるで星みたいだった。その星を捕まえるように顕真は跳ね、そして青い電撃が迸り空に広がった。


「トランスフュージョン! アブソリュート・フォックス! “シアンスラッシャー”!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ