第92話 どこかに君を隠しているから
ペリ、ペキペキと薄いプラスチックが裏返るような音でポータルが開く。現れたのは二人の女性だ。
「狐燐さんとメッセか」
「迎えに来た。ナイスファイトだったわ」
「すまねぇな、メッセ。練習相手になってもらったのに負けちまった」
「気にする必要はないわ。よくやった」
ようやく上体を起こせるようになったフジのもとに東京からの使者がやってきた。血で固まった髪、爛れた左手、最後のレックジウム光線で大きく焦げた衣服、汗と唾液と泥で濁ったメガネ。メッセと狐燐はメロンの目を通して戦いを見てきたが、実に、実に、実に見事な戦いっぷりだった。フジの勇姿を見られただけでメッセはスパーリング代を倍をもらったようなものだ。
「フォックス」
「いつでもお前たちは手出し出来た、ということか。それでも介入せず、ここまでカケルと戦わせてくれたこと、感謝する」
「……。お前に対して言いたいことは山程あるわ。まずはわたしの感情は抜きで決まったこと、起きていることを伝える。まぁお前程ならわかるだろうけど……。メタ・マインは目覚めた」
「そうなのか? 気付かない程目の前の敵に集中していた」
「大根役者ってのはマジのようね。メタ・マインとはジェイドが戦う。頑馬、フジはこの混乱に乗じて暴れようとする輩に対処するための待機してもらう。……わたしが感謝するのも罵倒するのもお門違いだからフジとお前の戦いに関して、お前には何も言わない。だがお前は何をするの? 次は頑馬と戦う?」
「その気はない」
「あとはメタ・マインに任せるってこと? 言っとくけど、わたしはお前の口からお前の真意や事情を知った訳じゃないから酌量しない。だからわたしは自分の直感、つまり人情による推測でものを言う。戦え、フォックス。メタ・マインと。ジェイドを助けなさい。それがお前にとっても救いになるはず」
「金吾。電車の手配だ」
「フヌケ。だからフラれるのよ」
「フッ……」
戦いが終わり、アドレナリンによる痛みのごまかしが弱くなってきた。左手の激痛は放っておいておけない。当然、この状態でメタ・マインと戦うなんて無理、無茶、無謀だ。
「お待ちなさいな! フォックス、月岡金吾」
「なんだ? 虎威狐燐。ああ、会えたら言おうと思っていた。『東の宝島』は本当に名作だ。ありがとう」
「ああぁんもう新作やろうかな。会う人会う人にそれ言われるの、飽きたよ。過去の人扱いはやめてくれ。まあいい。わたしもあなたには言いたいことがある。だけどこれも何かの縁だ。東京まで送るよ。拠点は東京でしょう?」
「ならば千歳船橋の駅まで」
「オッケ。じゃあ全員送ろう」
狐燐は鼎の顔を覗き込んだ。……。事情を知らない人間から見たら情けない表情かもしれない。だが狐燐は大人で常識人で、人生経験豊富だ。この表情の優しさや悲しさも読み取れるし、自分がこの顔になったことがあるのもわかっている。立派だ、望月鼎。褒めてやりたいが場違いだし、今の鼎には気休めに聞こえてしまうだろう。それでも狐燐は少しでも自分の体で鼎を隠してやりたいと思った。
「東京に帰ろう」
「……はい」
フジ、メッセ、鼎は頑馬の待つ新宿へと向かうことになった。ペリペリと翻る薄いプラスチックのポータルで大一番を終えたばかりの末っ子とその立会人とスパーリングパートナーを事務所に送り、最後に白狐の戦士とその相棒を千歳船橋……。いや、ここで狐燐はサービスした。二人を無人のアジトまで送ったのだ。誰もいない。かつてここにいた若者たちは自分たちの荷物を何一つ残さず持ち去り、顕真と金吾の持ち物しか残っていない。楓のレコードとブルーレイ、烏頭の木人、船場の現代のマナーや常識に関する本、木楠のサッカーノート。全てない。ただの古びた50`sダイナー。消え去り、忘れ去られ、住む人も使う人も去るのは秒読みの場所。
「やはりこの場所を知っていたか」
「ええ、でもここに送ったのは挑発じゃない」
狐燐は時代劇じみた大仰な仕草で半纏の裾を広げ、顕真の前で正座した。
「頼む、アブソリュート・フォックス。いえ、大黒顕真。メタ・マインと戦ってほしい」
「……」
「頼む……」
座礼。土下座の一歩手前だ。
「このままじゃフジはきっとメタ・マインと戦いに行く。あなたに負けた悔しさを、メタ・マインからの勝利で上書きするか、やけっぱちになって自らを捨て石にユキさん、頑馬隊長に繋ごうとするか。理由はどうあれ戦いに行ってしまう。現時点でメタ・マインの戦力は未知数だけど、ジェイドとレイが敗れればいずれフジの番が来る。わかるでしょう? それじゃあフジは死ぬ。若いってのはいいことだ。勢いがある。でもそれで死んだ子をわたしはよく知っている。……。もう若い力が命を散らし、何も出来ずに見殺しにした後悔ばかり大きくなっていくのはもうまっぴらごめんだ。フジの走馬燈にまだ生きているわたしはいらない。わたしの走馬燈にはまだ生きいてるフジがいてほしい。ユキさんのためじゃない。フジのために。フジに勝った大黒顕真が、カッコよくて強い男で、こんな男に負けたのなら今はまだ仕方ないと思えるような雄姿を……。わたしに出来ることは、あなたに頼むことだけ。それがわたしなりに、次の時代に託す人間なりに出来る唯一のこと」
顕真には言い訳も戦わない理由もたくさんある。それでも顕真には狐燐にそれを明かす義務はないし明かそうとも思わなかった。
少しは揺れ動いていた。怪獣、アブソリュート人、悪の組織、正義の使者、バケモノ。そんな連中に囲まれながら、虎威狐燐は珍しい一般的な常識と感覚を持つ、いい意味で普通の人だ。狐燐の言葉こそ一般人の言葉に最も近い。その狐燐が誠意を見せて言うのだから何故戦わないのか話してもいいのではと思いはしたが、顕真は動かしかけた舌を鎮め、金吾にアイコンタクトを試みた。そして金吾が汲み、代わりに答えた。
「誠意を見せてくれたのにすまない。俺たちは応えられない」
「……。じゃあ一方的に言わせてもらう。メッセ所長はああいう人だからフジの手前言わなかったしね。まず、フジと戦ってくれてありがとう。フジは大きくアップデートされた。フジは……。今までに何度も負けてきたけど、きっとあなたから学んだことは今後大きな宝になる。技術もそうだし、常にフェアプレイを心掛ける騎士道精神もそうだ。フジには残酷だけど、あなたが言った通りフジとあなたは同類だ。ジェイドやレイのようなとてつもない才能を持たない。でもフジもいつかなれるといいね、あなたやミリオンのような実力者に。あなたとミリオンも同類だよ。……それを見てあなたの本質を理解しただけに、ユキさん絡みとなるととことん幼稚になるあなたの一面もわかった。その感情、戦いたくない理由にも一定の理解は示す。座礼したことは何も戦ってほしいからじゃない。戦ってほしい気持ちとフジへの授業料、その合算が座礼。つまるところ、全てはフジのために集約されるのがこの一連のわたしのムーブ」
「大人だな」
「幼稚なことを言ってほしい?」
「興味はある」
「碧沈花が相手だったらあなたは負けてた。碧沈花が生きてたら、フォックスなんかに頼まずにジェイド&ヒール・ジェイドのドリームタッグをビールとチェダーチーズでよろしくやりながら高みの見物と決め込んでたよ、バーカ。碧沈花さえいればお呼びじゃねーんだよ、フォックスなんて」
「ははっ。こいつはいい。模範解答だ。本心や弱みを晒す誠意、確かに受け取った。だが俺は動かせない」
「言いたいことは言えた。聞きたい回答も聞けた。気は済んだ。それではわたしはドロンします」
〇
寿ユキは目を閉じ、第六感を研ぎ澄ます。周囲に感じる生物の気配を少しずつ分類していく。人間は避難してほとんどいないが、野次馬がいくらか残っている。鳥や猫や犬といった小動物も離れていく。そして、人間や小動物、植物などに擬態した怪獣や宇宙人もかなりいるようだ。しかしそういった超常も寿ユキが意図的に放出する存在感を察知し、ひとまずはアブソリュート・ジェイドvsメタ・マインを静観するようで非常に落ち着いている。
「テアーッ!」
右手で赤いアンダーリムのメガネを外し、左掌を左目にあてる。
“淑”!
無人の観覧車の窓が太陽、太陽の塔だったもの、地を這う吹雪とそれが固まった氷の宝玉、そこから羽化する純白の巨人を映し出す。
そして、かつては太陽の塔だった黄金の繭にひびが入り、周囲を漂う鬼火が誘爆して羽化するものを覆い、黄金の繭糸が燃え上がって“それ”が姿を現した。
「……ウフフ」
ずんぐりむっくり……。脱ぎ掛けの紺Tシャツを頭で止めたように頭と両肩が一体化し、足の存在しない下半身は布のように揺れ、脱ぎ掛けのTシャツを被った頭部だけが存在する幽霊のような出で立ちだ。顔面は息子を彷彿とさせる白骨を象った記号的なもので、駿河燈、アブソリュート・マインのどちらの面影も見られず乳房のような突起と正三角形に位置する。しかし、その嘲笑するような妖艶な声だけは忘れるはずもない。ジェイドは自らが動揺、高揚し始めていることを感じ、殺意は全て刃に込めて己を律しつつ、様子を探った。
メタ・マインは何もしない。ただふわふわと漂うだけだ。だがジェイドも存在だけは知っているカテゴリ……“怪獣ではないが便宜上怪獣に分類される存在”に近しいものを感じる。一切の意思疎通が不可能であり、この世界には存在していない生命体……。今のメタ・マインはまさにそうだ。意思疎通も図れず、行動らしい行動もせず、嘲笑するような声は録音を再生したように一本調子。つまり感情なき鳴き声だ。
「メロン。行ける?」
「ここにいるわ。いよいよね」
「サーチ出来る?」
「もうやってる。今のメタ・マインは、太陽の塔のコンクリートと導架のタンパク質が混ざり合っている状態のようだけど、表皮はおそらく太陽の塔由来の無機物で構成されているわ。硬いはず」
「マインは機械の生命体だった。……サイバーミリオンは効くかしら?」
「試す価値は十二分にあるわ。やりましょう」
メロンの念力でサイバーミリオンウイルスがジェイドセイバーにダウンロードされる。武器を構えたのならばさすがのジェイドもクールじゃいられない。そして亡霊はその僅かな揺れを感じ取った。
「キャハ」
メタ・マインの周囲に浮かぶ篝のような鬼火がいくつかジェイドに向かって飛来する。そして記号的な白骨の目が光ると鬼火は小気味よい音を立てて爆発し、万博記念公園に黒煙が上がる。
「……」
ジェイドの対応は完璧だった。アブソリュートの神器のスペック……強度と宿る力を信用して鬼火の弾を弾き、敵の攻撃の質や強度、性能を確かめてみた。
オリジナルのマインが持つ豊かな情緒。性悪、怨嗟、コンプレックス、サディズム、歪んだ憧憬。鬼火はそういったものは感じられないただのジュールと温度だ。マインが好んだ派手な花火ではなく、非常に味気ない。そして攻撃自体も危険を察知した機械的な牽制に見えた。そのためにこれ以上の刺激を躊躇った。
「キャハハ……」
ぼうぼうぼぼうとメタ・マインの周囲の篝の数が増える。意図した行動かは不明だが、ジェイドがメタ・マインから感じるのは威嚇。やはり感情なきものにはウソは通じないようだ。その篝は重力を無視した流星群のようにショッピングモール、観覧車、公園、モノレールに襲い掛かる!
「マズい」
人の気配はまだ消えていない。避難指示を無視した野次馬が残っているのだ。ジェイドは全ての攻撃オプションを停止し、可能な限りバリアーを展開して鬼火の流星群の範囲攻撃を防いだ。しかし高熱と低温の相性の差か、咄嗟に展開したが故の強度不足か、或いはメタ・マインの特性か、バリアーを貫通してジェイドに当たるものもあった。そして純白の戦士はポータルを複数展開し、逃げ遅れた人々をジェイドリウムへ送る。バリアーの展開、火事場泥棒や漁夫の利狙いの超常を除いた対象を送るポータルの複雑なオペレーション。ジェイドのパフォーマンスは著しく低下し、激しい消耗により非常に強い倦怠感を覚えた。だが想定内だ。切り札はある。
「犬養さん!」
「アシャッ!」
素早い動きでオオカミの仮面を被った黒衣の巫女のハイキック……ハイキック? 上半身しか存在しない相手なのでほとんどがハイキックになるが、とりあえず生身と思われる顔面に蹴りを叩き込んだ! 敵は顔面を中心にぽよんと波打ち、すぐに元の場所に戻ってきて動きを止めた。
「……」
「キャ……」
イツキの中に躊躇いはない。これは駿河燈ではなく、マインの名を冠する別の存在だ。
トーチランドの思い出に執着する因幡飛兎身との決闘が犬養樹の迷いを終着させた。駿河燈は二度と目覚めない。だから自分は全てを与えられ、こんなに深く悲しみ、フジとミリオンと龍之介に救われた。駿河燈は過去だ。偽物の過去が現在を生きるイツキの大切なものを攻撃するなら倒す。そしてもう二度と蘇らないマインの人生と記憶を、マインを騙るものが上書きしようとするならこの世から消す。それが駿河燈への愛だ。同時にイツキは、碧沈花がヒール・ジェイドを名乗った時にどれだけフジの癇に障ったかを少し理解した。
「ユキさん、攻撃は通るみたいです」
「思った以上に敵の攻撃範囲が広いわ。あの手で行きましょう」
「わかりました」
メタ・マインの周囲を黒い障壁が覆い、黒の円筒に蘇った聖母が閉じ込められた。イツキのバリアーだ。篝火たちが一斉に壁にぶつかって炸裂する。それでも障壁は破れず、円筒は煙突になって頂点から黒煙が上がる。その黒煙を切り裂き、純白の戦士が急降下する!
「テアーッ!」
SLASH!
神器ジェイドセイバーが眉間に突き刺さる! 刃を中心にヒビが入っているが、やはり頭部は相当固いようだ。しかし刺さってしまえば問題ナシ! サイバーミリオンが侵入し、メタ・マインは物理法則を無視してバグったゲームキャラじみて像がブレたりラグが生じたりおかしな挙動を取る。効果は認められた。ジェイドは即座に円筒から離脱し、念力でジェイドセイバーをピックアップしてイツキの横に戻った。
「嫌な予感が消えない」
戦いのロケーションは事前に把握済み。万博記念公園には池がある。その水を利用すればいつでもウルティメイトネフェリウムは使用可能だが……。使わないに越したことはない。
ぱき、と軽快な音がした。目の前の黒い円筒にヒビが入り、白く細くつやのある四本の指が壁に食い込んでヒビの枝葉を広げていた。
「キャハハ……」
先程よりも声に抑揚があり、情緒が感じられる。ぱきぱきぱきとさらにヒビは広がり、さらに四本の爪が食い込んで強引にバリアーを引き裂いている。純白のジェイドと漆黒のベローチェは、その裂け目から新たな姿になったメタ・マインの様子を窺った。
「キャハハ……」
先程まではなかった手と指。覚醒直後のメタ・マインを頭部に青白い裸体が発現する。手足は異常に短く、その頭部の大きさと釣り合わない小さな体躯と背中を丸めて浮かぶ体勢からどこか胎児を思わせる姿だ。バリアーに食い込ませ、引き裂いたのは手首より先が浮遊する第三、第四の手。こちらは大人の手で細く長く艶めいているが、第三、第四の手はどちらも左手だった。こちらはオリジナルのマインが開発したゲーム用チートキャラ“サイバーマイン”の必殺技“マインゴッドハンド”を想起させる。
「第二形態ということかしら」
「何がきっかけでしょう?」
「“あれ”が機械なのなら、サイバーミリオンの影響かもしれないわね。“あれ”が本当にマインなら、あなたの存在が刺激になったのかも」
「なら壊すことが孝行です」
「倒す、ではなく壊す、ね。あなたにはもう何も心配はいらない」
胎児ながらヒト型になったことでより聖母らしくなったメタ・マイン。本体から生える短い手の指でジェイドを指さし、その瞬間!
「テエエエエ!?」
メタ・マインの指先から発射された青紫の細い光がジェイドに向かって一直線! そしてメタ・マインの指とジェイドの直線距離上にあった木々や道、建物が砕かれて噴水のように白く吹き上がり、直後に激しい青紫の火炎の炸裂によって天高くまで打ち上げられ、灰になった。直撃を受けたジェイドは大きく吹き飛ばされ、仰向けに倒れて手から離れたジェイドセイバーが遠くに突き刺さった。
「アストラルビーム!?」
数拍遅れてイツキを衝撃波が襲い、髪の毛や衣服が後方に大きくなびいた。メタ・マインの頭部を覆う黒Tシャツはこの衝撃で短冊状に分解され、メタ・マインの背後に伸びる影の頭部のシルエットがさらに大きくなった。イツキはアストラルビームを使うマインを見たことがなかった。駿河燈曰く、アブソリュート・マインは史上最弱のアブソリュート人。特にフィジカルは貧弱そのもので子供同然だという。しかし冷静に顧みれば、常軌を逸した速度、練度、範囲に展開されるポータル、治癒能力、超常の爆弾の作成、そして鬼火の力とそれを必殺に昇華したアストラルシリーズ。超能力に関して言えばジェイドに並ぶか、凌駕するスペックだ。マインは自分の戦力を、自分の理想である初代アブソリュートマンとは程遠いから自分が最弱などと言ったが、いざ敵に回せば厄介極まりない。
「ユキさん!」
「キャハハ!」
第三の手がイツキの喉輪を掴み、強力な念力で頭部に引き寄せ無機質な白骨の面に接吻するように顔を近づけた。何もない眼窩は洞穴の如く不気味な闇を湛え、計り知れない深さからイツキの顔を覗き込んでいた。
「アブソリュートミリオンの力! “鏖”の弾!」
BLAM!
至近距離から顔面目掛けて放たれた散弾でびっと血が飛び、イツキのオオカミの面が染め上げられる。……ゴア族特有のドス黒い血に!
「アシェエ……」
やはりメタ・マインの頭部は相当固い! “鏖”の散弾は全て火花と共に弾かれ、跳弾となってほとんどがイツキにヒットした。予想外の激痛と絶望にイツキの世界が焦げ付いた。
「キャハ!」
「アシェエエエエエエエ!?」
凝縮された鬼火の弾は真球の形で爆ぜ、衝撃波とジュールでイツキはワイヤーアクションめいて後方へ飛び、ショッピングセンターに墜落してバチバチと施設の配電がスパークした。既に戦意は失われていた。
「キャハ……ハ」
メタ・マインの挙動にバグが増えてきた。ようやくサイバーミリオンが効いて来たようだ。メタ・マインがイツキにとどめを刺すならチャンスはあった。それでも動きに混ざるノイズでマトモに身動き取れなくなったメタ・マインは凍結されたように停止した。
「やっと効いた……」
「でもまだ終わりではないわ。念力由来の浮遊は持続している。完全に無力化したりダメージを与えたのではなく、一時的に停止させたに過ぎない。犬養さん、撤退!」
「そうしたいです」
「メタ・マインは必ずリブートする。それまでジェイドリウムに閉じ込め、アッシュ、レイ、メッセ、ベローチェ、わたしのメンバーで同時に戦うしかないわ」
「ジェイドリウムが持ちますか?」
「メタ・マインが動かないなら一か月は持つわ」
「動き始めたら?」
「お慰みね。安心して。ジェイドリウムの中は地獄のスイートルームよりは快適よ」
ジェイドらしくない虚勢を張った冗談。まるでフジだ。
「準備を進めましょう」




