別離
ーーーー僕の名を継ぐ資格があるなら、この世界を去るときに、紗奈にあげよう。
私の頭をわしゃわしゃしながら、笑う祖父流羽斗の元気な姿。
その後、祖母ゆりあから去ると言う言葉の意味を教わって、わあわあ泣いて嫌がった小さな私。
祖父流羽斗の腕に抱かれ、祖母ゆりあに背中を撫でられて、泣き疲れて眠りに落ちる時……。
ーーーーでも、私達の――を受け継いでいるのは紗奈だけね。だから、きっとこの御守りは紗奈のところにいくわねぇ……。
そう言って優しく、おっとりした祖母ゆりあの声が脳裏に甦った。
ハッとした時には、祖父の手が私から離れていた。
「紗奈、僕からの贈り物を受け取ってくれるよね?」
問い掛けてはいるが拒否権はないとばかりに、祖父は手首からブレスレットを外した。
そして、私の右手首にゆっくりとそれを巻き付けていく。
「いつか、僕の故郷に行くことがあったなら、伝えて欲しい。最愛の人と家族になれて、沢山の家族に見守られて本当に幸せだったと」
ブレスレットと私の手首を握り込むように、祖父は呟く。
「紗奈、僕の可愛い孫姫。君に唯一の名をあげよう……『ルゥシャナ・ウル・ソルフェリノ=カーディナル』その時が来るなら、その名が君を守りますように」
「ルゥトお祖父ちゃん……」
「泣き虫だなぁ……紗奈は」
眦を下げて私を見詰める瞳は、穏やかで優しい。
そして、ゆっくりと視線が外され、母達へと移る。
「皆と家族になれたことを誇りに思う。こんなにも幸せな気持ちで逝けるなんて思わなかった」
「ルゥト……お、じぃちゃん……っ」
晴れ晴れとした美麗な笑顔を浮かべる祖父を見る皆の目も潤んでいた。
私一人がみっともなく、ボロボロと涙を流している。
ぼたぼたと、祖父の皺だらけの手に滴が零れ落ちていく。
「紗奈も、皆も、幸せになりなさい」
祖父の瞼がそーっと閉じていく。私の手首からもその手が抜け落ちていく。
力なくシーツの上に転がる腕。
「やっ……ぃやぁ……っ!!」
ーーーー無機質な電子音が告げる、別離の時だった……。