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種なる正義が咲かせるもの  作者: 記野 真佳(きの まよい)
泰然自若のリリカルキャッツ
25/53

恩情:マッスルがブートキャンプしはじめた件について

 そして次の日、定時報告の時間になり町へ行く。するとギルドマスターに広い部屋に案内された。


「彼らとは面識があったらしいな。ぜひとも連携をとって打倒ダンジョンを目指して欲しい」


 そこには2人の人間がいた。そのうちの少年が俺を見てニタリと笑った。


「おまえがダンジョンマスターだったのか。妖精の姿は仮初かりそめだったとは、恐れ入ったぞ」

「はあ? おまえ、誰だよ?」

「俺の名はガジュツ。世界の加護を受けし者、勇者と言われている。コウカと共におまえのダンジョンに攻めたこともあったが、おまえの部下の珍妙な銃撃にしてやられたよ。敵ながら見事だった」


 わるいがたくさんの敵と戦ってきたから本気で覚えていない。ホミカとか、ミーヌっぽいことを言っているから、あいつらなら分かるかもしれない。


 そして、銀色の鎧の聖騎士が丁寧におじぎをしてきた。


「思えば、正式に名乗るのは初めてだな。銀翼ぎんよくの聖騎士と呼ばれている。ビスマスだ」


 こちらは覚えている。ミーヌの件で戦った聖騎士だ。

 誰かが入室してくる。セリ村の村長もやって来ていた。


「ワシらが他の冒険者達を呼ばせてもらった。彼らは孤高でもあるゆえに、君たちとの連携は不可能だろう」

「はっはっは。だが、この村長が呼んだ連中は頼もしいぞ。間に合わせではあるが、Aランクパーティが1組、個人でAランクが2人来ている。さらに大量の冒険者が攻めてくるのだ。敵のダンジョンがいくら難攻不落とは言え、これだけの戦力があれば万全でしょうな」


 ちなみにコウカ1人ではBランク相当だったと聞いている。このことを考えれば、かなりの戦力が加わっているようだと分かった。

 ガジュツが不敵に笑う。


「正面からの戦いでなら、まずは負けないだろうよ」


 そう正面からの戦いではなのだ。俺達が戦うのはダンジョン同士の戦いで、いわばダンジョン戦争である。

 マッスル神によると、お互いのダンジョンにワープエリアがランダムに生まれ、そこからダンジョン同士が戦力を送りあって戦いあうものらしい。ワープエリアが自分の陣地にできてしまうため、いわばノーガードで殴り合いをするようなものだ。だからこそ、拠点の防御も重要になってくる。


「指導している立場で言うのも贔屓ひいきかもしれんが、町人の士気も高く、一般的なモンスターに対する防衛戦でしたなら戦力として数えても充分でしょうな。それ以上を求めるとなれば体力は保障できかねますが、これで充分でしょう」


 町陣営は充分に戦力が整ってきたようだ。



◇◇◇



「すぅ……シャァ――ッッ!」


 戦闘モードになったイチイが高速で迫る。彼女が敵対するのは――。


「ほう、見事な脚力だ。気合いが感じられて素晴らしい」


 それは俺のダンジョンの信仰となっているマッスルしんだ。腕組みをしたまま、イチイの動作を眺めている。


「わたくしも行きますわっ! ヤァッッ――!」


 炎槍の魔法で迫るコウカ。2人の攻撃は絶妙なタイミングでマッスル神に命中する。


「しかし、弱いか……。獣耳けものみみの娘、周りを見ていろ。おまえは素早いが連携と合わせてこその真価を発揮するものだ。そして魔法戦士、なかなかの錬度であるが威力がいまひとつ。力を出し惜しみしているな」


 片手にミーヌの手を、もう片手にはコウカの炎槍を平然と握って微笑していた。強烈な一撃に対して力を込めるでもなく自然な動作で、踏ん張ることもなく受けきっていた。


「そして、攻撃するなら敵をつ覚悟を示すがよい」

「ひぇっ、わわぁ――っっ!」

「くぅ、きゃぁ――っっ!」


 マッスル神が2人を突き飛ばした。2人は地面を5メートルほどすべるように着地する。


「堅いなら、崩すまで。当たれっ!」


 ミーヌの弾丸が飛ぶ。おそらく貫通属性が付加された一撃がマッスル神に迫る。


「フウゥゥんっっ!」


 振り上げられた拳は前へ突くように出され握られた。手を広げると、魔弾が光の粒となって消えていった。


「そんな……!」


 白刃取りならぬ、弾丸取りである。弾丸ほどの速度になれば飛んでくると分かっていても掴めなんて出来ないはず。ありえないほどの身体能力を見せていた。


「いかんぞぉ。穴を埋めることだけが連携ではないのだ。貴様は連携に、いいや他人にだな。気を使いすぎている。積極的に攻めなければ勝利は取れんぞ」


 何事も無かったかのように、堂々と立っているマッスル神。俺が見始めてからでも、あの場から一歩も動いていない。技術だけではなく、力量差もかなりあるということだろう。


「それなら、わたくしも本気で行きますわっ!」


 風の弓を形成し、一瞬で矢を放つコウカ。豪風の矢が一瞬のうちに10本が乱れ撃たれる。コウカが容赦なしの風弓。マシンガンもかくやという連射で、風の魔力がこもった矢がマッスル神に殺到する。


「量は申し分ないが、それだけでは避けられてしまうぞ」

「わたしも行くよ。シャァ――ッッ!」


 イチイが状況を読んでコウカの攻撃と連携した。風の矢とイチイの連続攻撃がマッスル神にヒットする。


「一斉攻撃!? 今度こそ、チャンスは逃がさないっっ!」


 駄目押しとばかりにミーヌがチャンスをつかむために積極的な攻撃へ参加する。20発の連射に爆発の属性が込められた銃弾が炸裂し、土煙が舞い上がる。強烈な攻撃たちは衝撃波となってクレーターを作った。その威力は語るまでもなく、それになぶられ続けたマッスル神にも相応のダメージが入っているはず。

 土煙の中をイチイが飛び引いて様子を見る。コウカとミーヌは距離を取って土煙の向こう側を凝視する。


「これで、倒せたの……?」

「判別できないですわね。でも、あれを受けたなら……!」

「じゃあ、やりすぎちゃったのかな……?」


 3人が静かに構えている中、やつが現れた。


「ぬぅぅ、はああぁぁ――!」


 煙の中を高速で突っ走ってきて、その姿を確認したときにはすでにミーヌの眼前まで来ていた。


「……え?」

「おまえは度胸が足りん。バンジージャンプして、気合いを身に付けてこい。俺の手動だがなァッッ!」

「きゃぁ――っっ!」


 ミーヌをブォン!と投げ飛ばした。ミーヌの姿が遠くなり森の奥へ消えていく。


「戦いに大切なものは何か。策略? 違う、最後まで戦おうとする気合いだ! いかんなぁ。自慢の攻撃が出来たからといってそれが勝利に直結するかどうかは別の話だろう。いいか、敵の死を確認するまでが戦いなのだぞ?」


 涼しげな声で言い放つマッスル神。


「あの攻撃を!? ミーヌちゃん、そ、そんな……?」

「おまえは冷静になって戦況を眺めることを学んで来い。空でも飛んで世界を眺めてみろ。ふぅぅぅぅ、ぬんっ!」

「え? あわァ――ッッ!」


 イチイの片手を掴み、ブンと空へ投げ飛ばした。これでイチイも戦闘から復帰不可能な状況になってしまった。


「次はおまえだ。人と戦うことに慣れろ。相手が人の形をしていても手加減するな。モンスターは野生ゆえに感情的に攻撃してくるが、人は冷酷に攻めてきてタチが悪い存在だ。人と戦うときのほうがより殺すことを意識しろ。青空を眺めて頭を冷やして来い!」

「ひゃぁ――っ!」


 マッスル神はスッキリした顔で全員を撃破した。

 1対3のバトルで余裕を見せているとか。さすがマッスル神だ。めっちゃ強いな。俺はステータスをのぞいて見る。


マッスル神

lv99

体力(HP)9999(※限界突破しています)

魔力(MP)9999(※限界突破しています)

打撃攻撃999(※限界突破しています)

打撃防御999(※限界突破しています)

魔法攻撃500(※限界突破しています)

魔法防御500(※限界突破しています)

素早さ999(※限界突破しています)

幸運30(※限界値です)


固有スキル

神の寵愛ちょうあい

対象のキャラクターに神の祝福を与えることができる。祝福の内容は気まぐれである。


剛筋ごうきん超動ちょうどう

筋肉という概念に愛された存在だけが感受できる固有スキル。戦闘開始時に体中の筋肉がキモイほど膨れ上がり戦闘態勢となる。打撃攻撃、打撃防御が5倍になる。


スキル

強者の打撃

こちらの打撃攻撃力が、相手の魔法攻撃力よりも大きければ、相手の魔法攻撃を筋肉的に無効化できる。


威圧感

あなたの打撃攻撃よりも値が低い敵は、あなたの隣接の場は立ちすくんで移動ができない(あなたの隣接エリアが移動停止エリアとなる)。


逆境根性

あなたが異常状態になっている限り、全てのステータスが1.5倍になる。


気合い療法りょうほう

あなたが受けた異常状態を気合いで回復する。この効果は異常状態になったときに誘発し、回復しないことを選んでも良い。


癒しの蹴り

MP80消費。味方を蹴ると、蹴られた味方の体力(HP)と魔力(MP)が、あなたの打撃攻撃の値だけ回復する。蹴られたときの衝撃が大きすぎて、回復した気分になれないのがたまにキズ。


無垢むくの衝撃

あなたからクリティカルヒット(会心の一撃)ダメージを受けた敵は、全ての装備品が破壊される。


猛神もうじんの風格

あなたのレベルよりも、レベルが低い全ての敵は移動距離が-3される。


光撃こうげきハンドクラッシュ

MP25消費。相手のHPに60%ダメージ。この攻撃は『ダメージ軽減』、『妨害インタラプト』、『無効化』をされない。光る拳(ゴッドハンド)で相手をわしづかみして握りつぶす。


空宙くうちゅうパイルドライバー

MP30消費。相手の打撃防御を無視したダメージを与える。相手をつかんで高く跳躍し、脳天から叩き落とす。空を飛び越えて宇宙が見えるくらい高く跳ぶ。


響乱きょうらんマッスルフェスティバル

MP200消費。フィールドにいる全てのキャラクターは狂乱バーサク状態となり打撃攻撃しか使えなくなる。狂乱バーサク状態のあなたを含めた味方キャラクターの全てのステータスは99倍になる。


轟腕ごうわんリファインメント・ダウンプーア

MP50消費。狂乱バーサク状態のときにプレイできる。殴られると心が浄化される効果がある聖なる拳で1秒間に200発くらい敵を殴る。1発ごとのダメージは、あなたの打撃攻撃の値に等しい。



 えっ? 限界突破してるって何? ステータスがイロイロとおかしいし、スキルもツッコッミどころが満載だ。

 あと、響乱きょうらんマッスルフェスティバルなるものがヤバイ。味方が鬼のように暴れて、敵が阿鼻叫喚あびきょうかんしてる姿しか思い浮かばねぇ。

 つーか、幸運が少ないのはおまえのせいだったのかよ! レベル99になっても30までしか上がらない低さに全米が泣いた。もちろん全俺も泣いた。


「今さらだけど、おまえは帰ってなかったんだな」


 厳密には夜になると帰っていたが、あの日から何度も足を運んできている。マッスル神がいるときはマッスル神に指導をもらい、それ以外のときはコウカが中心となって指導をしている形態だ。


「今回のダンジョンバトルで負けたなら、俺が関わっていることがバレてしまう。内密でダンジョンにみしているのだからな」

「それは分かったが、わざわざ組み手までしているのは過干渉じゃないのか。こういったものってあまり関わってはいけないものだろ?」

「筋肉の神だから、トレーニングもつかさどっている。トレーニングを手助けするだけなら、俺の権限に納まっているというわけだ。実際に本番の戦闘には参加できないがな」

「あれでトレーニングになっているのか。秒殺だったじゃないかよ」

「気合いが鍛えられる」


 うわっ、暑苦しい回答がきた。


「正確に言えば何度もトレーニングで完封されることにより、負けてもめげない心を鍛えているのだ。それを鍛えておけば劣勢れっせいに傾いても戦況はとどまり続けられる。完全に押されずにとどまり続けていれば、相手に勝てるチャンスがいつかは訪れる。実力が自身よりもひとまわりか、ふたまわり程度だけ強い相手ならこれで勝てる」

「そういうもんか?」

「攻めるときにこそ隙が出来る。多少の劣勢ならむしろチャンスなのだよ。敵は攻撃しようとしてくるからな。これは、そのチャンスをものにする胆力を鍛える特訓というわけだ」

「言いたいことは分かった。それで、芽が出そうなのはいるのか?」

「だいたい同じくらいだ。あえて言うとしたら、銃の子供はおびえすぎて気合いが足りんが、思いっきりがある。克服して一番強くなるかもしれないし、おびえに潰されて一番弱くなるかもしれん」


 そう言いながらマッスル神が目配せすると、その先にはテディベアのぬいぐるみ人形がいた。

 どうやら見張りをしているようだ。日の丸マントをカッコよくなびかせて、精神統一しているかのように静かに木の上に立っていた。堂に入っていて、威厳すら感じられる。


心意気こころいきだけならアレが一番強いぞ。魂の錬度で測るなら、一人前どころか百人分くらいの魂が入っていても不思議ではない程度かもしれん」

「マジかよ!?」


 ぬいぐるみ最強説が浮上した。



◇◇◇



 俺は小屋に帰ると、となりに大きなプレハブ小屋が建っていた。

 実はポンコツ丸を迎えた日、その体の大きさでは小屋に入れなかった。寝なくても稼動はできるらしいので、夜の見張り番と兼用ということになったのだ。


「入るぞポンコツ丸」


 見張り小屋のドアを開ける。熱心に武器を打っているポンコツ丸がいた。


「丹精込めろォ――! 熱狂じゃァ――ッッ! 叩き込め熱血パワーァァ! え、え、ギュ――ンッッ!」


 叫びながら、ギューンとドリルを回転させてた。


「う、うるせぇ……」

「おぉ! 来ちょったか。ええよ。ちィと散らかっとるが気にしよぅるなよ」


 小屋の中にはまき置き場に大釜おおがま、タタラまでもあり、たった一晩で本格的な鍛冶場になっていた。


「マジですげーな。見張りの小屋かつ、鍛冶場ってか。一晩で作るとは」

「工作が得意じゃからのぅ。わりゃァ、帝国の融合人をなんじゃと思うちょるんなら。おっと、そっちの棚のは壊れるけん、いろうちゃァいけんよ」


 頑丈そうな鉄製の棚の上には、武器がいくつも乗っていた。一晩だけの突貫作業だったので凝ったものは作れなかったらしいが、間に合わせにしては上等だろう。


「あんなに叫んでいるのに、ドアを開けるまで気付かなかったな。防音してるのか?」

「気合いぶち込んで、丹精込めりゃァ声は自然と出るけェの。あとは、半分は趣味じゃ」


 俺は10割が趣味だと思った。

 ポンコツ丸の視線の先には、ピカピカ光る大きな箱の機械があった。その箱の前にあるテーブルの上にはマイクが2つ。ソファーみたいな椅子もある。なんか、どこかで見たことがある気がする……。


「そいつァ、ワシに内臓されちょるICプレイヤーで録音した音楽を、歌声無し風味にアレンジ変換できる再生装置。いわば歌うためのバック演奏マシーンじゃ」


 こいつ、いつの間にかカラオケ施設を作りやがってた……!


「使われるのが機械の冥利みょうりじゃけェ、気が向いたときにでも使ってくれェ。ワイワイ歌って遊ぼうで」

「それも面白そうだが、肝心の武器はどうだ?」

ワシを誰だと思っちょるんなら」


 そう言ってポンコツ丸がギュイーンと腕を伸ばして手に取ったのは、鋭い鉤爪かぎづめの武器だった。指貫グローブのように手を覆い、その甲には爪を連想させる刃が取り付けられてある。


「ワンコ族のお嬢ちゃんがおったろう。こいつは爪を意識した、パニャニャンダーグローブじゃ。ちなみに、その棚に並んでおるのが基本骨格となる武器じゃけェの。材料がそろい次第に改良していけばええじゃろぅ。魔法戦士のお嬢ちゃんは材料がややこしいけェ、順番はぶちあとになるじゃろうがな。まったく凄いところじゃのぅここは。ミスリルが使い放題なのはぶちたまげたわ」


 そういえばとコイツにアルミホイルもといミスリルを渡した次の日、小屋の棚を見たらアルミホイルが補給されていたのだ。誰が買ってきたんだよとマジでビビッた。そういえば誰もトイレットペーパーを代えたことが無いと言われ、もっとビビッた。マッスル神に聞くと、どうやらスマホと同じ理屈で魔界から使用者に合った日用品を合成して、支給してくるらしい。今さらこんな基本的なチート機能が大発見である。


「1日に1巻き分しかミスリルを渡せないけどな」

「ええよ。それ以上を求めるのは贅沢じゃ。ええ材料にワシ冥利みょうりが尽きるのぅ」


 もう少しで武器できるようだ。



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