至情:姫さまが華麗なる生活をしている件について
町へ行き、町長に報告という名の話し合いをする。コウカの報告と同じく町ぐるみで訓練をしているらしい。また俺達の小屋のまわりに柵を作ることが決定された。城壁になるとさすがに一週間では難しいらしい。
「以上が町の現状だ」
「なるほど。引き続き頼むぞ」
「できればでいいが、帰りは町に顔を出して欲しい。ダンジョンマスターが視察に来ている姿を見せると、士気が高まるはずだ」
「少しだけ寄っていこう」
こうして、俺は帰りに町を散策していると声をかけられた。
「久しぶりだな。どうだ、手配は順調か?」
「アマチャか。キキョウとは一緒にいないのか?」
「姫さまはさっき出張しに行ったのだ」
「出張って、どこに行ったんだ?」
「うむぅぅ、まだ町の地理にうといから説明が難しいな。ついて来い、そうすれば一目瞭然だからな。案内してやる」
そう言ったアマチャのあとをついていく。町の中心から外れていき、だんだんと町の活気から離れていく道だ。徐々に静けさが気になりはじめてくる。
「ヤクショウ国から逃げてきたやつとかは把握しているのか?」
先ほどまで活気にあてられていたせいか、音が欲しくてアマチャに会話の水を向ける。
「確認してみたが、10人いたぞ。すっかり馴染んでいて、わたしとしてはなんとも言えない気持ちになった」
「たとえばどんな感じに?」
「祭りで屋台をやっていたらしい。名前はたしか、プリズムモフモフ……みたいな名前だったと思う」
「それ、プリズムモフリスだ。たしか祭りのときに食ったぞ」
みたらし団子みたいな味で和風だったが、なるほどあのおっちゃんはヤクショウ国の人だったのか。
こうしてアマチャと話しながら十分ほど歩く。今度は徐々に活気がある方へ近づいていっているのが分かった。着いたのは町外れの飲み屋街だった。
「おそらく今日もここにいらっしゃるはずだ」
「まさか飲んだくれているんじゃないだろうな?」
「そんなわけあるか! むむ? いま、音が聞こえたぞ。もうすぐだ」
「もうすぐ?」
「いいから。早く来るんだ。そっと入るんだぞ」
アマチャにぐいぐいと袖を引っぱられながら店に近づいていくと、店の中で言い合いをしている声が聞こえてきた。
すすめられるように店に入る。困った顔をしている店主と、罵声を言っている冒険者らしき客がいた。
「料理に虫が入ってるじゃねぇか! ナメてんのかよォ!?」
「さすがに全部の料理に虫が入っているのはありえません。あなたが入れたんじゃないですか?」
「自分の仕事のミスを人のせいにすんなよ。ふざけてんじゃねぇぞ!? 金、返さねェと痛い目みるぞ、コラァ! 」
完璧にクレーマーである。メニュー表を見ると、注文と同時に料金を払うシステムのようだ。だから金を返せと言われているらしい。
「すごいヤツがいるもんだな。全部に異物混入とか、バレバレだろう……」
「本人はあれで理屈的のつもりなのだろう。だから一般的な理屈で説得しても聞く耳なんて持たない。現実的な事実と本人の想像力の間に矛盾があることすら、気づいていないのかもしれないな」
「活動的なバカってタチが悪いんだな。こう言うのもどうかと思うが、別の方法だってあるだろうに」
「今まではああいったやからに手を焼いていたそうだ。基本的に冒険者は一期一会だからな。自分がすぐ去るならワガママ放題できると思っているらしい」
今までという言い回しの意味をきく前に、入店のベルが鳴って誰かが入ってきた。振り向くとそこにいたのはキキョウだった。パンダ姿の。
「コイツ、着る毛布を私服にしてるのか!? なんて素晴らしい素質のあるやつだ!」
「うぅ……。姫さま、どうして……。おいたわしいです」
衝撃的だった。俺もアマチャも。
「店主。いつものやつ。たのむ」
店主はキキョウを見つけるとほっとしたように厨房へ戻っていった。
「なんだテメェは!? 邪魔してんじゃねぇよ、ちびガキが!」
「ち、ちび……っ!」
キキョウの背後で、ピキリと空気が凍りつく音がした。あと、子供じゃないもんって小さなひとり言が聞こえた気がした。
「まあ、よい。ここで何をしている。そちらこそ邪魔」
「俺は正当な権利で訴えているんだよ!」
「金のことか? くだらない」
「なんだァ? ……って?」
キキョウが見えないほどの速度で抜刀をし、すでにカチャリと刀を鞘に収めていた。
「わたしが払う。散髪代で」
はらりと男の髪が舞い、河童みたいに頭のてっぺんだけ切られていた。
男は声を失い頭に手をやる。
「なっ、なんじゃこりゃァ――!?」
「うるさい、動かないで。耳も切れるから。気分で」
「テメェ、ふざけんなァ!」
腰に提げた剣に手をやろうとするが、再び風を切る音が聞こえた。男が剣を手に取る前にショルダーが切り刻まれて、ストンと剣が落ちる。
「剣が!?」
「あっ、そっちもやっちゃった。まあいっか。変態さんだし」
そう言うと、男のズボンがバサリと切られて落ちた。一瞬で変化した光景に唖然としてしまう。
「強さが冒険者の身分。わたしの方が偉い。ここ、お気に入りだから出て行け」
さもなければと、ゆっくりと刀を抜いてその刃先が股間に向けられた。
「店の真ん中で、すっぽんぽんに変身できる。髪の毛も込みで」
「クソがァ! こんな店、二度と来ねぇよ!」
男は泣きながら出て行った。
キキョウは、はふぅ、と息をついて何事も無かったかのようにカウンター席に座った。ものすごく慣れている感じだ。
店主がさっと出てきた。
「キキョウさん、いつもの報酬。パンケーキです」
「おぉ……わほ~!」
抑揚がない声で、静かに喜んでいるキキョウのもとへふっくらとしたパンケーキがやってきた。
ちょこんとのせられたバターに、トロリとはちみつがかけられたシンプルなパンケーキだ。
パンケーキにはデコレーションした種類もあるが、これはシンプルだからこそ奥が深い味わいが堪能できるだろう。
「いつものって、本当に常連なんだな」
「むぐんぐ。ダンジョンマスター。来てたの?」
「定時報告して町に寄ったらアマチャに会ってな。あれは用心棒のつもりなのか?」
コクリとキキョウがうなずいた。
「キキョウさんには良くしてもらっていますよ。とてもお強いですし。もはや街のアイドルみたいなものですね」
「そう、姫さまは世界一なのだ! 小さくて、とってもかわいくて、町中の人気ものなんだぞ!」
「…………アマチャの方が、ちいさいもん。ほんのちょっとだけ」
ボソリと誰にも聞こえなさそうなほどの震えた小声でキキョウが言い、悲しげな目になりはじめた。
アマチャ、これ以上言うな。お前が尊敬している姫さまが泣きそうだぞ。
「…………別のところ。行く」
「おお! さすが姫さまです! 次の仕事ですね。あっ、店主殿、わたしもパンケーキをお願いします」
いや、違ぇよ。おまえのせいだよ。能天気すぎるだろ、コイツ。
キキョウはさっと席を立ち、追い出した男が落とした剣に目をやった。
「店主。その剣は、男の迷惑代。売ればいい。わたしは次のパンケーキに会いに行く。さらば」
ゆらりふわりと去っていった。深い悲しみを背負って……。
「うむぅ、姫さまが悲しげだったぞ。誉めたつもりなのに、思春期という年齢は複雑なのだな」
「おまえが複雑にしてるだけだと思う」
「パンケーキが焼けましたよ。はい、こちらがアマチャさん専用のスペシャルセットです」
「おお! それだ! いいぞ! 素晴らしいぞ、店主!」
こちらはデコレーションされたパンケーキだった。綺麗に飾られたフルーツに、中央には生クリームがのっている。軽くふりかけられたココアパウダーが上品さを引き立てており、小洒落たカフェで出てきそうなパンケーキだった。そして一緒にホットミルクも出してくる。
「キキョウみたいなのじゃないんだな。あいつは甘いのは駄目なのか?」
「姫さまも甘いものは好きだぞ。ただ、パンケーキに関しては、あれが好みなんだ。では、さっそくいただくとしよう」
心のそこからの喜びを隠し切れないかのように、嬉しそうにパンケーキにかぶりつくアマチャ。
「ふにゅ~~。最っ高に幸せだぞ!」
そして、んぐんぐとホットミルクに口をつける。
「うむ、素晴らしい。それにしても、ここのホットミルクは最高だな。姫さま仕様だから特に美味いぞ」
「姫さま仕様? 店主のやつ、アマチャセットとか言ってなかったか?」
「ええ、言いましたよ。このホットミルクは、元々はキキョウさん向けに出したものなんです。アマチャさんにも付けているのですよ」
「なにか特別な材料でも入っているのか?」
姫さま専用と聞くと、とんでもないものが入っていそうだ。もしかして目が飛び出るほど高級なのかもしれない。
「キキョウさん専用ホットミルクは、甘汁無しで、ぬるめの温度です」
「うむ。姫さまは熱いのが苦手なのだ。わたしもこれがちょうどいいぞ」
そういえばコイツらはネコだった。猫舌なのか。
「それにしても人助けか。アマチャも何かやっているのか?」
「ふふっ! 忍びの5行、その2! 礼を尊しとして、友愛を敬意せよ。 わたしも一緒に頑張っているのだぞ」
「アマチャさんはキキョウさんの伝令として動いてくれています。また、それなりに腕も立ちますので、いてくれるだけで心強くて助かっていますよ」
「そもそもこの報酬もそうだぞ。姫さまは、最初は報酬を断っていたんだ。でも、どうしてもと言われて、店が料理を一品ごちそうしてくれたのだ。そして寛大な姫さまの心により、いつの間にか街中の用心棒になっていたというわけだ」
でも、次のパンケーキに会いに行くみたいなことを言って去ったよな。用心棒と言うよりも、もはや餌付けの間違いじゃないだろうか。こいつらは野良ネコ娘と化しているようだ。
思っていたことが顔に出ていたのか、俺は店主に苦笑された。
「そういえば、アマチャ。ロボットっているんだな。初めて見た」
「ロボット? ああ、融合人の話か。知っているぞ。なにせ、わたしは姫さまと一緒に勉強していたからな。わたしは、すごい勉強できるんだぞ」
「融合人とは知りませんねえ。ぜひ、後学のために教えていただけませんか? ウチは飲み屋ですから話のタネは大歓迎ですよ」
「ふふんっ! いいぞ! 店主とダンジョンマスターよ、心して聞くがよい!」
アマチャから話を聞いていく。話しているとかなり深い知識を持っていた。良いところの出身だからか思っていたよりも博学だった。
融合人とは、シンプルに言えばアンドロイドのような人間である。たとえば地球の医療では義足や人工血液しかり、科学の力によって生命の神秘は代替が可能になってきている。
科学技術というものは発展し続けるものであり、たとえば手縫いよりも工場の機械の方が人間よりも早く仕事ができるのと同じように、発展する時間さえかければ科学技術の方が人間を上回ることができる。
そして融合人というのは科学が人体組織を完全に上回った者達らしい。便利なものならば代えてしまえと手作業の技術が機械に代えられたのと同様に、臓器も含めた人体構造を変えてしまい、体を代えていくことで進化した種族が融合人らしい。
「独立している種族であるが、人里で見かけるとしたらだいたい鍛冶師として働いていることが多いな。自分の体を補修できるから、その延長で得意らしいぞ」
思い返せばポンコツ丸は、体の修復もそうだが武器の修復も手馴れていた。鍛冶師が欲しいと言っていたが、アイツは意外と優良なのかもしれない。帝国から逃げ出した理由はきかなかったが、おそらく古くからの帝国の鍛冶師だったために技術流出を恐れて処分されかけていたのだろう。帰り道にでも、また会おうと思った。
◇◇◇
夕暮れの空。森の来たときと同じ道を歩いていると、まだポンコツ丸がいた。
「よう。さっきぶりだな」
「ヒャッホゥ! フィーバータイムじゃァ――ッッ! イェ――イィィッッ!」
「うわっ! な、なんだよ? どうしたんだ、おまえ?」
「うおぅッッ! こがぁな時間なんに!?」
なんかポンコツ丸にもすごく驚かれた。
「おまえの方こそどうしたんだよ。目の前で声をかけたのに、目が見えていなかったのか?」
「音楽にリソースを割いとったんじゃ。音を聞いておると視界反応が弱くなるけェのぅ。ぼーっとしとったわ」
だからフィーバーがナントカだったらしい。熱血のせいかノリノリ系の音楽が好きなのかもしれない。
そういえばと、ポンコツ丸のステータスを確認してみる。
ポンコツ丸
lv20
体力(HP)100(※限界値)
魔力(MP)100(※限界値)
打撃攻撃190
打撃防御150
魔法攻撃0
魔法防御140
素早さ50
幸運30
装備品
メタリックランス
打撃攻撃+10。腕に仕込まれた槍を射出し、敵の打撃防御を無視したダメージを与える。融合人専用の武器。
抗魔合金板ver.Ⅲ
打撃防御+40、魔法防御+35、素早さ-5。魔鉱石を使った鉄板。融合人専用で重たい防具。
ICプレイヤー(録音機能付き)
敵によるステータス(打撃攻撃など)の低下補正を受けない。テンションが下がらないようノリノリ気分で戦える。
固有スキル
ソーラーシステム
戦場の天気が晴れならば発動する。毎ターン、体力(HP)と魔力(MP)が5ずつ回復する。
スキル
ヘヴィボディ
あなたの打撃防御が少し上昇するが、最大移動距離が-1される。
熱血応援!!
魔力(MP)を5消費する。1ターンのみ、対象のキャラクターは、スキル『ド根性(体力が50パーセント以上あったなら、敵の攻撃を一度だけ体力が1で耐える)』を得る。
情熱・メガドリルディストラクション!!
魔力(MP)を20消費する。腕をドリルへ変形させ、威力260の打撃攻撃ダメージ。
激情・メガデッドマシンガン!!
魔力(MP)を20消費する。腕をマシンガンへ変形させ、敵の打撃防御を無視した威力50の打撃攻撃を3~6回のランダムな回数で攻撃する。(射程距離:5)
気合いのアイテムシュート!!
魔力(MP)を5消費する。腕のシャトルを打ち上げて、アイテムの射程距離を+6まで伸ばして味方へ与えることができる。
ド根性マイティシールド!!
魔力(MP)を10消費する。1ターンのみ、あなたはスキル『ド根性(体力が50パーセント以上あったなら、敵の攻撃を一度だけ体力が1で耐える)』を得て、受けるダメージを60パーセントカットする。
レッツ、熱狂ミュージック!!
魔力(MP)を10消費する。熱血的な音楽を流して、隣接エリアの味方の打撃攻撃、打撃防御を上昇させるが、魔法攻撃、魔法防御をダウンさせる。魔法関係はうるさくて集中力が乱されるらしい。
燃えあがれ、土壇場ロマンス!!
クリティカルヒット(会心の一撃)ダメージを受けたとき発動する。3ターンの間だけ打撃攻撃が4倍になる。
ふむ。癖はあるが、なかなか強そうではある。
かさかさと背後で音がした。帝国兵の残党がいたのかとすぐに振り向いたが、そこにいたのは、くぁ~とあくびをしたナイトウルフだった。
「おっ、昼間に見ると大型犬みたいでかわいかったんだな」
「おォォ、野生動物じゃァァッッ! こっち来んなボケがァ――ッ!」
ポンコツ丸の腕が変形してマシンガンが出てきて乱射しまくった。ドドドッという音が木々を蜂の巣状に穴を開けていく。ナイトウルフは必死に逃げ出した。
「うわ……。マジでどうしたんだよ?」
「昔、熱血ミュージックでノリノリしとったとき、新品ボディをかぐられたんじゃ」
「かぐられる?」
「あー、もう。こうじゃ、こうっ!」
ロボが腕をブンブンと上下に動かしている。
「ダンスのことか?」
「よいよどこを見ちょったんなら! 音楽に気をとられとったら、爪でガリガリされたんじゃ!」
こいつ、たまに何を言っているか分からなくなる。訛りもそうだが、機械としても。
「しかし、黄昏の黒騎士が出陣しちょるとなると、何処へ逃げればいいんじゃろなァ」
「じゃあちょうどいいかもしれない。俺はダンジョンを運営していて、いまは鍛冶師を探しているんだ。お前になってもらえないか?」
「まさか、あんたァダンジョンマスターじゃったか! こいつはァ、ええでよ! 我の腕を求められるなら、熱血パワー満タンで気張っちゃるでェ!」
こうして変なロボットが仲間になった。




