7-12
ウイスキーのビンはすぐに空になってしまった。
その分アルコールが頭まで回ってくるのも早かった。
空のビンを洗って台所に置く。
まぶたが重くなった。
長い時間立っていられなくなった。
膝が折れ曲がる。
世界が回る。
脚に力を入れていたって入るものの、俺が倒れそうになっているかのようだ。
体が熱い。
頭もちりちりっと痛くなっている。
台所の床にある何かに蹴躓いてしまった。俺は何もできずに派手な音を立てて倒れてしまった。
ベッドに入る。その瞬間意識が遠のいていく。
俺は何か変な夢でも見ていたような気がする。
枕もとの時計は既に九時を過ぎていた。
口の中に砂を入れられたみたいだ。
ひどく口が渇いている。
昨日の酒のせいでまだ頭痛も残っている。
体全体もなんとなくけだるい。
ベッドに倒れこむと、もう一度眠ってしまいそうだ。
目を閉じ、ベッドに倒れこみ、布団をかぶる。
いかん、いかん。
起きそうとしたが、体が少しよじれるだけで終わる。
気分が悪い。
目を閉じていたほうが楽だ。
だが、このままだと何もできない。
水も飲めない。
今、ひどく喉が渇いている。
だが、同時にこのまま眠っていたいとも思っているようだ。自分でもどうしてこんなにはっきりしないのかわからない。
俺は目を覚ました。
一度目に目を覚ましたときから一時間ほど経っていた。
カーテンの隙間から光が差し込んできていた。
真っ暗だった部屋はにわかに明るくなった。
頭痛のせいで我に返る。
今度も何か夢を見たのか?
俺はベッドから下り、荷物を持って部屋を出た。
電気がつきっぱなしのリビングには高山が眠っていた。
毛布がかけられたままだ。どうやら、あのまま眠ってしまったらしい。
高山を起こさないように洗濯物を取り込み、着替えた。
そのあとで、俺はベレッタを取り出し、狙いをつけた。
昨夜、もうやめようと決心し、その舌の根も乾かぬうちに。
また繰り返すのか。
今ではもうフラッシュバックはなくなった。
幻聴も聞こえてこなくなった。
でも、何人もの命を奪ってきても、何もならなかった。
むしろ状況はどんどん悪くなってきている。
わかっている。どうにもならないことも、今の俺がこんななのも全てなるべくしてなったことだと。
だから、もうやめよう。
いや、やる。
どうして?
そうだ……、俺はやらなきゃいけなかったんだ。
今まで、ただ謝ったぐらいで簡単に許し、そのたびにどんな目にあってきたか。
土下座なんて誰だってできる。
羞恥心と意地さえなくせば実に簡単な行為だ。こういうポーズをとれば誰でも許してくれる。
俺を馬鹿にしたあのやくざ連中に思い知らせなければならない。
そのためにはマグナム弾を強奪し、金も払ってもらう必要がある。
ここでやらなければ、俺は今までと同じことを繰り返してしまうことになる。普通に生活する分にはそれでもいいかもしれない。
だが、今の俺ではそれは無理だ。
もうあんな日々には戻りたくないと、昨日言ったばかりじゃないか。
人並みのところで寝ることができたおかげで、もう元の生活に戻ったつもりか?
馬鹿が!
自分のやったことを棚にあげて……。私は不幸な人間ですってか?
俺は引き金を引いた。
高山の体が一瞬跳ねた。頭の中身が飛び散り、生暖かな液体が毛布やフローリングを汚した。
ふと、棚の上にある写真たてが目に入った。
高山のその彼女と思しき女性が楽しげに、笑顔を見せていた。
男は写真の中では私服だった。こうしてみるとやくざには見えない。
俺は写真たてを倒すと、玄関に向かい、靴を履く。
ドアに鍵をかけ、足早に立ち去った。
部屋の鍵はどこかに捨てるつもりだった。
でも、すぐに気づかれるだろう。
彼女が合鍵を持っているかもしれないし、死体が放つ匂いに隣の住民とかが気づくかもしれない。
管理人が合鍵ではいるかもしれない。
だが、開けっ放しで行くよりは時間が稼げるかもしれない。
俺の指紋もべったりとついているし、防犯カメラには高山と並んで歩く俺の顔が映っていることだろう。
色々考えてみたら、俺の命も長くないかもしれない気がしてきた。




