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殺しの天才  作者: 迫田啓伸
84/134

7-12

 ウイスキーのビンはすぐに空になってしまった。

 その分アルコールが頭まで回ってくるのも早かった。

 空のビンを洗って台所に置く。

 まぶたが重くなった。

 長い時間立っていられなくなった。

 膝が折れ曲がる。

 世界が回る。

 脚に力を入れていたって入るものの、俺が倒れそうになっているかのようだ。

 体が熱い。

 頭もちりちりっと痛くなっている。

 台所の床にある何かに蹴躓いてしまった。俺は何もできずに派手な音を立てて倒れてしまった。

 ベッドに入る。その瞬間意識が遠のいていく。


 俺は何か変な夢でも見ていたような気がする。

 枕もとの時計は既に九時を過ぎていた。

 口の中に砂を入れられたみたいだ。

 ひどく口が渇いている。

 昨日の酒のせいでまだ頭痛も残っている。

 体全体もなんとなくけだるい。

 ベッドに倒れこむと、もう一度眠ってしまいそうだ。

 目を閉じ、ベッドに倒れこみ、布団をかぶる。

 いかん、いかん。

 起きそうとしたが、体が少しよじれるだけで終わる。

 気分が悪い。

 目を閉じていたほうが楽だ。

 だが、このままだと何もできない。

 水も飲めない。

 今、ひどく喉が渇いている。

 だが、同時にこのまま眠っていたいとも思っているようだ。自分でもどうしてこんなにはっきりしないのかわからない。


 俺は目を覚ました。

 一度目に目を覚ましたときから一時間ほど経っていた。

 カーテンの隙間から光が差し込んできていた。

 真っ暗だった部屋はにわかに明るくなった。

 頭痛のせいで我に返る。

 今度も何か夢を見たのか?

 俺はベッドから下り、荷物を持って部屋を出た。

 電気がつきっぱなしのリビングには高山が眠っていた。

 毛布がかけられたままだ。どうやら、あのまま眠ってしまったらしい。

 高山を起こさないように洗濯物を取り込み、着替えた。

 そのあとで、俺はベレッタを取り出し、狙いをつけた。

 昨夜、もうやめようと決心し、その舌の根も乾かぬうちに。

 また繰り返すのか。

 今ではもうフラッシュバックはなくなった。

 幻聴も聞こえてこなくなった。

 でも、何人もの命を奪ってきても、何もならなかった。

 むしろ状況はどんどん悪くなってきている。

 わかっている。どうにもならないことも、今の俺がこんななのも全てなるべくしてなったことだと。

 だから、もうやめよう。

 いや、やる。

 どうして?

 そうだ……、俺はやらなきゃいけなかったんだ。

 今まで、ただ謝ったぐらいで簡単に許し、そのたびにどんな目にあってきたか。

 土下座なんて誰だってできる。

 羞恥心と意地さえなくせば実に簡単な行為だ。こういうポーズをとれば誰でも許してくれる。

 俺を馬鹿にしたあのやくざ連中に思い知らせなければならない。

 そのためにはマグナム弾を強奪し、金も払ってもらう必要がある。

 ここでやらなければ、俺は今までと同じことを繰り返してしまうことになる。普通に生活する分にはそれでもいいかもしれない。

 だが、今の俺ではそれは無理だ。

 もうあんな日々には戻りたくないと、昨日言ったばかりじゃないか。

 人並みのところで寝ることができたおかげで、もう元の生活に戻ったつもりか?

 馬鹿が!

 自分のやったことを棚にあげて……。私は不幸な人間ですってか?

 俺は引き金を引いた。

 高山の体が一瞬跳ねた。頭の中身が飛び散り、生暖かな液体が毛布やフローリングを汚した。

 ふと、棚の上にある写真たてが目に入った。

 高山のその彼女と思しき女性が楽しげに、笑顔を見せていた。

 男は写真の中では私服だった。こうしてみるとやくざには見えない。

 俺は写真たてを倒すと、玄関に向かい、靴を履く。

 ドアに鍵をかけ、足早に立ち去った。

 部屋の鍵はどこかに捨てるつもりだった。

 でも、すぐに気づかれるだろう。

 彼女が合鍵を持っているかもしれないし、死体が放つ匂いに隣の住民とかが気づくかもしれない。

 管理人が合鍵ではいるかもしれない。

 だが、開けっ放しで行くよりは時間が稼げるかもしれない。

 俺の指紋もべったりとついているし、防犯カメラには高山と並んで歩く俺の顔が映っていることだろう。

 色々考えてみたら、俺の命も長くないかもしれない気がしてきた。

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