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殺しの天才  作者: 迫田啓伸
76/134

7-4

 そのとき、俺は殴られた。

 左の頬骨がひどく痛んだ。

 体が宙に浮いたようだ。俺は天井を見上げ、それ以外何もしなかった。

 体勢を立て直そうという考えすらも浮かばなかった。

 頭が固い床にぶつかった。倒されたんだ。

「帰れ帰れ。ごみでもあさってな」

「お前が金持ってたって何にもならん。わしらで使ってやるから心配するな」

「おい、そのごみを捨ててこい」

 顔を上げると、俺と同じくらいの、スキンヘッドの男が近づいてきた。

 体は小さいが、いかつい。

 着ているスーツは、結構地味目の紺色。

 髪さえ生えていれば普通のサラリーマンに見えるだろう。

「おら、こい」

 スキンヘッドに襟首をつかまれて立たされ、事務所の外へとつまみ出された。


 スキンヘッドに追い立てられるようにして、俺はビルの入り口まで来た。

「ほ~れ」

 スキンヘッドに尻を蹴られ、俺はよろけながら道路に出た。

「じゃあな、ゴミ野郎」

 俺はいらだっていた。

 言葉にはできないが、胸の中が熱くなっていた。耳の奥ではガラスが砕け散る音が何回も繰り返されていた。

「くそ」

 ぼそりとつぶやく。口の中で小さな息と共に舌を打った。

「なぁにぃぃぃぃぃっ!」

 呟きがスキンヘッドに聞こえたらしい。

 彼はものすごい勢いで俺の肩をつかむ。

 俺はその動きに翻弄され、スキンヘッドのほうに体を傾かせた。

 スキンヘッドが腕を振った。

 俺はただ流されるままになり、ゴミ捨て場に投げ飛ばされた格好になった。既に大きなゴミ袋がなん袋も出されていて、俺はその中に頭から突っ込んでしまった。

 ゴミ袋が俺に上に崩れてくる。だが、すぐに引っ張り出され

「なんかいったかぁぁ! こらぁぁぁ!」

 スキンヘッドの顔がすぐ近くに見えた。

 近すぎて両目しか見えなかった。

 大きく見開かれ、充血していた。妙に小さな瞳だった。

 俺は何も答えなかった。

「なめてんじゃねえぞぉ! ごらああああ!」

 俺の襟首をつかみ、何度も前後に振る。

 そのときにスキンヘッドの額が俺の眉間や頬骨に当たる。一撃は痛くないが、何度も繰り返され、しびれて感覚がなくなってきた。

「てめえ、指つめるか! 何なめたこと言ってやがんだ! うめちまうぞ! おおっ!」

「やってみろ」

「この、……がぁ!」

 スキンヘッドは頭突きを止め、拳を振り上げた。

 俺は右拳でスキンヘッドのこめかみを殴った。

 スキンヘッドがよろめいた隙を見て、今度は俺が相手の胸倉をつかむ。そして、スキンヘッドの鼻めがけて俺の額をぶつけた。

「がは」

 湿り気のある音が聞こえた。顔に温かいドロッとしたものが付着していた。

 俺の胸倉から手が外れた。

 俺はさらにわき腹に蹴りを入れた。

 それまで鋭い視線を放っていた顔がゆがんでいた。

 鼻血を出し、痛みに耐えているのが一目でわかる。少々驚いているようだが、俺をにらむことはやめていない。

「野郎!」

 怒鳴られるとうつむき、内にこもってしまう。

 相手をまっすぐ見られない。

 いつから、こうなった!


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