7-4
そのとき、俺は殴られた。
左の頬骨がひどく痛んだ。
体が宙に浮いたようだ。俺は天井を見上げ、それ以外何もしなかった。
体勢を立て直そうという考えすらも浮かばなかった。
頭が固い床にぶつかった。倒されたんだ。
「帰れ帰れ。ごみでもあさってな」
「お前が金持ってたって何にもならん。わしらで使ってやるから心配するな」
「おい、そのごみを捨ててこい」
顔を上げると、俺と同じくらいの、スキンヘッドの男が近づいてきた。
体は小さいが、いかつい。
着ているスーツは、結構地味目の紺色。
髪さえ生えていれば普通のサラリーマンに見えるだろう。
「おら、こい」
スキンヘッドに襟首をつかまれて立たされ、事務所の外へとつまみ出された。
スキンヘッドに追い立てられるようにして、俺はビルの入り口まで来た。
「ほ~れ」
スキンヘッドに尻を蹴られ、俺はよろけながら道路に出た。
「じゃあな、ゴミ野郎」
俺はいらだっていた。
言葉にはできないが、胸の中が熱くなっていた。耳の奥ではガラスが砕け散る音が何回も繰り返されていた。
「くそ」
ぼそりとつぶやく。口の中で小さな息と共に舌を打った。
「なぁにぃぃぃぃぃっ!」
呟きがスキンヘッドに聞こえたらしい。
彼はものすごい勢いで俺の肩をつかむ。
俺はその動きに翻弄され、スキンヘッドのほうに体を傾かせた。
スキンヘッドが腕を振った。
俺はただ流されるままになり、ゴミ捨て場に投げ飛ばされた格好になった。既に大きなゴミ袋がなん袋も出されていて、俺はその中に頭から突っ込んでしまった。
ゴミ袋が俺に上に崩れてくる。だが、すぐに引っ張り出され
「なんかいったかぁぁ! こらぁぁぁ!」
スキンヘッドの顔がすぐ近くに見えた。
近すぎて両目しか見えなかった。
大きく見開かれ、充血していた。妙に小さな瞳だった。
俺は何も答えなかった。
「なめてんじゃねえぞぉ! ごらああああ!」
俺の襟首をつかみ、何度も前後に振る。
そのときにスキンヘッドの額が俺の眉間や頬骨に当たる。一撃は痛くないが、何度も繰り返され、しびれて感覚がなくなってきた。
「てめえ、指つめるか! 何なめたこと言ってやがんだ! うめちまうぞ! おおっ!」
「やってみろ」
「この、……がぁ!」
スキンヘッドは頭突きを止め、拳を振り上げた。
俺は右拳でスキンヘッドのこめかみを殴った。
スキンヘッドがよろめいた隙を見て、今度は俺が相手の胸倉をつかむ。そして、スキンヘッドの鼻めがけて俺の額をぶつけた。
「がは」
湿り気のある音が聞こえた。顔に温かいドロッとしたものが付着していた。
俺の胸倉から手が外れた。
俺はさらにわき腹に蹴りを入れた。
それまで鋭い視線を放っていた顔がゆがんでいた。
鼻血を出し、痛みに耐えているのが一目でわかる。少々驚いているようだが、俺をにらむことはやめていない。
「野郎!」
怒鳴られるとうつむき、内にこもってしまう。
相手をまっすぐ見られない。
いつから、こうなった!




