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殺しの天才  作者: 迫田啓伸
75/134

7-3

 眠りは相当浅かったようだ。俺の耳には金勘定の声が入ってくる。

「約一千万円です」

 俺は目を開けた。

「終わりましたか?」

「ああ」

 俺は立ち上がり、一万円札を数枚抜き取った。

「おい、何やってる?」

「食費を確保しておこうと思って」

 そして、その金をポケットに入れた。

「弾丸をください」

 組長はあごをしゃくった。

 革ジャンを着た若い組員が部屋を出たかと思うと、両手いっぱいの弾丸の箱を抱えて戻ってきた。

 俺の顔は気づかぬうちにほころんでいた。あれだけあれば……。

「おい、多すぎるだろ!」

 組長が若い組員に怒鳴った。

 確かにそうだ。

 あんなにいらない。

 リュックに入らないし、何より重そうだ。第一、あんなに使えない。

 組長は一番上に置かれた箱をひとつ取った。

「後は戻しておけ。ほら」

 その箱を投げてよこされた。

 箱にはちゃんと『9ミリパラベラム』と書かれてあった。俺はその箱を眺めた。

 その間に若い組員は別の部屋に弾丸の箱を運び去ろうとしている。

「ちょっと待ってください。マグナムは?」

「お前の持ってきた金だと、せいぜいそれだけだな」

 組長は飄々として声で返事した。

 俺は一瞬、何と言っていいかわからなかった。

 言葉が思いつかなかった。しばらくの沈黙が漂ったあと、言葉につっかえながらも抗議する。

「ちょっと待ってくださいよ。これが一千万円?」

「わしらの組じゃそうなってるんだ」

「別のところでは」

「他のところなんざ関係ねぇんだよ!」

「そんな、じゃあ。おつりくださいよ」

「なんじゃお前! 組長がそれだけだといっとろうが!」

「ここはお前みたいなのが来るところじゃねんだ!帰りやがれ!」

 弾丸と金は既に別のところに持っていかれてしまった。

 俺に罵声が次々と飛んできた。

「くっせぇな! お前がいるだけで気持ち悪くなる」

「一千万でそれが買えたんだ!上等だろうが!」

「ホームレスのくせに、うぜえんだよ!」

「なんだこらぁ! 文句あんのか!」

 俺を取り囲む凶悪な面々とゆがんだ表情。

 そして、絶え間なく投げつけられる巻き舌や脅し。

 俺は口を挟む隙を見つけられず、ただ唇をかみ、黙り込んでいた。

 以前、俺の周りにもいたな。

 こうして、上の立場で脅しつけるように怒鳴ってくる奴。

 話の内容があるかといえば、そうでもない。

 しまいには、話が長すぎる上に内容が二転三転して、何が言いたいのかわからなくなってくる。

 それでわかったかと聞かれれば、はいと言うしかない。

 話の内容がどうこうではなく、話を打ち切ってもらいたくて仕方がなくなる。

 さらには、なぜか理由を聞き出そうという奴が多いのだ。

 こっちは「なぜだ!」と聞かれて、どうやっていおうか考えているのに、その最中で勝手にキレて……。

 結局どんな理由を挙げても怒鳴りつけてくるんだよな。

 俺はそれを思い出し、ぐっと拳を握り締めた。

 そのときと同じだ。

 何と言い返そうか考えているのに、そのときに言葉が思いつかず、後になって出てくる。

 今までと同じだ。何か強く言われると、黙り込んでしまう。

 こんな癖だけ、いつまでも残って……。

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