7-3
眠りは相当浅かったようだ。俺の耳には金勘定の声が入ってくる。
「約一千万円です」
俺は目を開けた。
「終わりましたか?」
「ああ」
俺は立ち上がり、一万円札を数枚抜き取った。
「おい、何やってる?」
「食費を確保しておこうと思って」
そして、その金をポケットに入れた。
「弾丸をください」
組長はあごをしゃくった。
革ジャンを着た若い組員が部屋を出たかと思うと、両手いっぱいの弾丸の箱を抱えて戻ってきた。
俺の顔は気づかぬうちにほころんでいた。あれだけあれば……。
「おい、多すぎるだろ!」
組長が若い組員に怒鳴った。
確かにそうだ。
あんなにいらない。
リュックに入らないし、何より重そうだ。第一、あんなに使えない。
組長は一番上に置かれた箱をひとつ取った。
「後は戻しておけ。ほら」
その箱を投げてよこされた。
箱にはちゃんと『9ミリパラベラム』と書かれてあった。俺はその箱を眺めた。
その間に若い組員は別の部屋に弾丸の箱を運び去ろうとしている。
「ちょっと待ってください。マグナムは?」
「お前の持ってきた金だと、せいぜいそれだけだな」
組長は飄々として声で返事した。
俺は一瞬、何と言っていいかわからなかった。
言葉が思いつかなかった。しばらくの沈黙が漂ったあと、言葉につっかえながらも抗議する。
「ちょっと待ってくださいよ。これが一千万円?」
「わしらの組じゃそうなってるんだ」
「別のところでは」
「他のところなんざ関係ねぇんだよ!」
「そんな、じゃあ。おつりくださいよ」
「なんじゃお前! 組長がそれだけだといっとろうが!」
「ここはお前みたいなのが来るところじゃねんだ!帰りやがれ!」
弾丸と金は既に別のところに持っていかれてしまった。
俺に罵声が次々と飛んできた。
「くっせぇな! お前がいるだけで気持ち悪くなる」
「一千万でそれが買えたんだ!上等だろうが!」
「ホームレスのくせに、うぜえんだよ!」
「なんだこらぁ! 文句あんのか!」
俺を取り囲む凶悪な面々とゆがんだ表情。
そして、絶え間なく投げつけられる巻き舌や脅し。
俺は口を挟む隙を見つけられず、ただ唇をかみ、黙り込んでいた。
以前、俺の周りにもいたな。
こうして、上の立場で脅しつけるように怒鳴ってくる奴。
話の内容があるかといえば、そうでもない。
しまいには、話が長すぎる上に内容が二転三転して、何が言いたいのかわからなくなってくる。
それでわかったかと聞かれれば、はいと言うしかない。
話の内容がどうこうではなく、話を打ち切ってもらいたくて仕方がなくなる。
さらには、なぜか理由を聞き出そうという奴が多いのだ。
こっちは「なぜだ!」と聞かれて、どうやっていおうか考えているのに、その最中で勝手にキレて……。
結局どんな理由を挙げても怒鳴りつけてくるんだよな。
俺はそれを思い出し、ぐっと拳を握り締めた。
そのときと同じだ。
何と言い返そうか考えているのに、そのときに言葉が思いつかず、後になって出てくる。
今までと同じだ。何か強く言われると、黙り込んでしまう。
こんな癖だけ、いつまでも残って……。




