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殺しの天才  作者: 迫田啓伸
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5-11

 何人かの人間がコインランドリーに入り、洗濯機を動かしては帰っていった。

 俺は相変わらず椅子に座ったままだった。

 その間、俺はずっと泣いていた。

 その俺の姿が異様なので、係わり合いになりたくないのだろう。黙ったまま、やることをやって、すぐにその場から離れていく奴らばかりだった。

 そんな連中のことなんかどうでも良かった。

 俺のほかにも、こんなに悲しい思いをする奴らはいるんだろうな。

 そいつらも、今俺と同じようなことを考えているんだろうか。

 同じような気持ちでいるんだろうか。

 俺は何人殺してしまったんだろうか。

 つらい、つらい。

 自分が内側から溶けていく感じ。自分がなくなっていく……。

 大きな空白が自分の中にできあがった。

「この、大馬鹿野郎」

 俺はつぶやいた。

 誰にも聞こえないように、とても小さな声で。

 それから何度も繰り返した。今ほど自分を嫌ったことはなかった。

 はじめは、ほんの思い付きだったと思う。

 だが、それが日を追って大きくなっていった。それが現実になるとは、思いついた当時には思いもしなかった。

 今でも、犯行の直接的な原因はわからない。

 しかし、俺がやってしまったことは事実だ。

 被害者の誰かの遺族が俺とであったら、そいつは俺に何と言うだろう。激しい罵声を叩きつけ、怒りの視線を俺に向けるだろうか。

 わからない。

 でも、俺は絶対に許されないということはわかる。

 そりゃそうだろう。

 裁判なんてすぐに終わらせて、すぐに死刑執行したほうがいい。生かしておいたら、俺はまた発作的に誰かを殺してしまうかもしれない。そうならないように。

 でも、日本の裁判って時間ばかりかけて『?』の出るような判決ばかり出すようになった。

 薬物や酒によって人を殺したら無罪。馬鹿か。誰かを殺しても無罪になるように、わざと薬をやったらどうなる?

 俺も同じだ。

 なぜが知らないが、急に殺したくなってしまうかもしれない。そして、俺みたいに誰かの死を悲しむ人も出てくるかもしれない。

 重い、重すぎる。頭に黒い影がさす。

 命を奪われたのが俺なら、俺はそのとき何と考える。そのような想像すら浮かんでこない。


 いつの間にか、俺は眠ってしまったらしい。

 いすの上に座ったまま、腕を組んでいた。リュックは背負ったままだ。

 見回すとドアの向こうは明るくなっていた。

 動いてなかったはずの洗濯機が動いている。そして、足元にはカップ酒。

 そういえば、買った分全部一気飲みしてしまった覚えがある。

 そのせいか頭が重く、ピリッと痛む。

 まぶたが厚くなったみたいに重く感じる。

 寝てしまえば、案外忘れるものだな。昨日、あれだけ俺の心をかき乱してくれたのに、もういつもどおりに戻っている。

 それにしても、舌に昨日飲んだ酒の味が残っているのはどういうことだろう。

 俺は、それからはあまり考えなかった。すぐに荷物をまとめ、コインランドリーを出た。

「うっ」

 寒い。

 出た途端に風が吹き、俺は身をちぢ込ませた。

 もうそんな季節なのか。

 背を丸めて、歩みを進める。この町にはもう用はない。

 俺はすぐに街から出ることにした。コンビニの防犯カメラにも映っているだろうし。


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