5-10
「ごめん、ごめん……、俺は君を殺したくなんかなかった。もっとほかの奴らを……俺は、なんて謝ればいいんだ。こんなこと、許されることじゃないよ。どうやって責任取れって言うんだよ。もうだめだよな。誰も許しちゃくれないよな」
「先輩、大丈夫ですか?」
「誰だ?」
いすから立ち上がり、辺りを見回す。
コインランドリーから俺は一歩も動いていなかった。
白かった壁はすすけ、埃がたまっていた。
いつから使っているのかわからない洗濯機と乾燥機。洗濯機は一層式だからそんなに古くはないはずだ。
そのコインランドリーの中には俺のほかには誰もいない。
またも幻聴だった。
俺はいすに座った。
それにしても、あんなにはっきりと聞こえてくるなんて思っていなかった。今の幻聴は、明らかに彼女の声だった。
「しっかりしてください」
また……。
肌寒い。
彼女は、彼女の魂は俺のすぐ近くにいるのか?
「だって、過ぎたことにとらわれても、つまらないじゃないですか?」
「どこ? どこにいるんだよ?」
声を出したが返事はない。見回したが、景色は変わらない。
幽霊は俺の近くにいるのか?
そんな気配もない。
いや、彼女の幽霊なら出てきてほしい。姿を見せてほしい。
そして、謝りたい。
色々と。付き合っていたはずなのに、何もできずに放っておいたこと、そして、殺してしまったこと。
でも、その姿は見つけられなかった。
いるんだろ? でてきてくれ!
何の反応もなかった。
これも全て、俺の勘違いなのか?
でも、彼女はこういうことを俺に言ってくれた。
たとえ軽口であっても、俺はその言葉でどんなに救われただろう。好きだと気がついたときはもう遅かった。
それからは後悔しきりだった。
君みたいな子は、もう俺の前に二度と現れないだろう。
俺はどんな罰でも受ける。
現れてくれ。
一言謝りたいのだ。
許してくれないならそれでもいい。
俺に好きなだけ暴言を吐いたらいい。
君が、俺が殺した人たちの代表として現れるなら、俺はどんな罰でも受けるだろう。
どうせなら、君が俺を裁け。
君の処罰なら、俺はどんな裁きでも受ける。
俺は、何をしたかったんだ?
殺しの天才なんて通り名が欲しかったのか?
違う、違う!
俺はどうすればいいんだ。
それから、俺はただ泣いた。
人の命はただ、重かった。
俺なんかが支えきれないほど、重大なものだった。俺は何人も殺してきた。その中のたった一つが、とてつもなく重く感じる。
いや、どれも同じだ。
どの人が死んでも悲しい。
どの人の命が失われても重たい。悲しいと思うだけの人がどれだけ多いことだろう。
とても支えられない。
助けてほしい。
俺だけではつぶされてしまう。
誰か、来てくれ。
俺はどうすればいいんだ。こんなにたくさん背負ってはいけない。
これが、本当に俺が望んだことなのか?
悲しい。
悲しい。
俺は自分自身の恩人をも傷つけ、殺してしまった。
もう誰もいない。
誰も許してくれない。
もう二度と元の暮らしには戻れない。
絶対に同世代の他の人間が経験している楽しげなことは、決して俺にはできない。
地獄が、始まる……。




