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殺しの天才  作者: 迫田啓伸
55/134

5-10

「ごめん、ごめん……、俺は君を殺したくなんかなかった。もっとほかの奴らを……俺は、なんて謝ればいいんだ。こんなこと、許されることじゃないよ。どうやって責任取れって言うんだよ。もうだめだよな。誰も許しちゃくれないよな」

「先輩、大丈夫ですか?」

「誰だ?」

 いすから立ち上がり、辺りを見回す。

 コインランドリーから俺は一歩も動いていなかった。

 白かった壁はすすけ、埃がたまっていた。

 いつから使っているのかわからない洗濯機と乾燥機。洗濯機は一層式だからそんなに古くはないはずだ。

 そのコインランドリーの中には俺のほかには誰もいない。

 またも幻聴だった。

 俺はいすに座った。

 それにしても、あんなにはっきりと聞こえてくるなんて思っていなかった。今の幻聴は、明らかに彼女の声だった。

「しっかりしてください」

 また……。

 肌寒い。

 彼女は、彼女の魂は俺のすぐ近くにいるのか?

「だって、過ぎたことにとらわれても、つまらないじゃないですか?」

「どこ? どこにいるんだよ?」

 声を出したが返事はない。見回したが、景色は変わらない。

 幽霊は俺の近くにいるのか?

 そんな気配もない。

 いや、彼女の幽霊なら出てきてほしい。姿を見せてほしい。

 そして、謝りたい。

 色々と。付き合っていたはずなのに、何もできずに放っておいたこと、そして、殺してしまったこと。

 でも、その姿は見つけられなかった。

 いるんだろ? でてきてくれ!

 何の反応もなかった。

 これも全て、俺の勘違いなのか?

 でも、彼女はこういうことを俺に言ってくれた。

 たとえ軽口であっても、俺はその言葉でどんなに救われただろう。好きだと気がついたときはもう遅かった。

 それからは後悔しきりだった。

 君みたいな子は、もう俺の前に二度と現れないだろう。

 俺はどんな罰でも受ける。

 現れてくれ。

 一言謝りたいのだ。

 許してくれないならそれでもいい。

 俺に好きなだけ暴言を吐いたらいい。

 君が、俺が殺した人たちの代表として現れるなら、俺はどんな罰でも受けるだろう。

 どうせなら、君が俺を裁け。

 君の処罰なら、俺はどんな裁きでも受ける。

 

 俺は、何をしたかったんだ?

 殺しの天才なんて通り名が欲しかったのか?

 違う、違う!

 俺はどうすればいいんだ。

 それから、俺はただ泣いた。

 人の命はただ、重かった。

 俺なんかが支えきれないほど、重大なものだった。俺は何人も殺してきた。その中のたった一つが、とてつもなく重く感じる。

 いや、どれも同じだ。

 どの人が死んでも悲しい。

 どの人の命が失われても重たい。悲しいと思うだけの人がどれだけ多いことだろう。

 とても支えられない。

 助けてほしい。

 俺だけではつぶされてしまう。

 誰か、来てくれ。

 俺はどうすればいいんだ。こんなにたくさん背負ってはいけない。

 これが、本当に俺が望んだことなのか?

 悲しい。

 悲しい。

 俺は自分自身の恩人をも傷つけ、殺してしまった。

 もう誰もいない。

 誰も許してくれない。

 もう二度と元の暮らしには戻れない。

 絶対に同世代の他の人間が経験している楽しげなことは、決して俺にはできない。

 地獄が、始まる……。


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