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殺しの天才  作者: 迫田啓伸
25/134

3-7

 投げ捨てたペットボトルに日が当たる。

 木の葉の隙間から伸びてきた木漏れ日だった。

 ここがどこの山の中なのか、俺にはわからない。

 場所も、宗像市内なのかわからない。

 もちろん、日付もわからない。

 意外と長い時間繰り返して思い出していたのかもしれない。

 腕を動かすと、筋肉が張り痛みを感じる。

 ここに来てから、ペットボトルの水しか飲まなかったような気がする。

 腹が重い割には、口の中は乾いている。何かが物足りない。

 前髪も、こんなに長かったか?

 指であごを触ればひげが伸びているのがわかる。

 顔は、ベタベタしている。汗? 涙?

 憎しみ全開で殺した両親に対して、涙?

「うそだ」

 俺は立ち上がった。体が重かった。手のひらに何かが触れる感触がずいぶんと久しぶりのような気がした。

「俺の親は……。俺は、どうして」

 別の方法があったのかもしれない。

 今頃になって、おかしくなっていたはずの俺の頭は、正常に戻ってしまったのだろうか。

 俺は、もう引き返せなくなってしまった。

 貯金を下ろして銃を買ったときから、俺は人ではなくなってしまっていたのか?

 いや、それともその前。

 殺そうと考えたときから俺は既に人外のものになっていたのか?

 サブマシンガンの弾丸は使いきり、そのものもどこかに捨ててきた。

 ダイナマイトも全部使った。

 一回につき一本ずつしか使わなかった気がするのに。

 何人死んだんだろう。

 既に俺の顔は、全国ネットで指名手配されたんだろうか。

 いまさら遅いだろうが、この他に方法はなかったんだろうか。

 俺は何がしたかったんだろうか?

 大量殺戮?

 そもそも、俺にやりたいことなんかなかったんじゃないか

 日々平凡に過ごしたかったんじゃないか?

 他の奴らが日常を過ごすように、俺もその中に入りたかったのか?

 何が悪かったんだ?

 どうして俺はあんなことをしてしまったんだ?

 中には、何も知らなかった人間もいただろうに。

 今までのことも、俺一人が我慢すれば、すべて丸く収まっていたのか?

 俺はそういう人間なのか?

 周りが平和になるように、ただ我慢するだけの存在。誰も自分に感謝しない。俺の存在なんか忘れられがちになるのに、周囲の平和のために自分が犠牲になる星の下に生まれたのか?

 そう考えるのは大げさか?

 やってしまったのは仕方がない。

 実家の周辺がどうなっているか、気になるが見に行くわけにはいかない。

 そういえば、殺戮の最中はずっと頭痛がしていた。

 時々、自分が何をしているかわからなくなることがあった。夢か現実かさえあいまいになっていた。

 すべて現実であるはずなのに。

 俺は笑った。声は出さず、表情だけ緩めた。

 俺は、今の現実がすべて夢であればいいと思っている。

 本当にそうなればいいのに。

 夢の中ならどれだけ人を殺しても罪には問われない。

 すべては、俺が吃音だから。だから馬鹿にされ、それが常に日常になっていた。

 俺は何か望んでもいけなかったらしい。

 たとえば、野球したいなんて思わず、ただ親の言うことを聞いて何も考えずに過ごせば、たとえニートになっても親殺しをしなくてすんだ。

 誰も死ななくてすんだ。俺一人が我慢すれば。

 ちょっとしたことで欲望がわいたせいで、周りを不幸にしてしまったのか?

 でも、俺のせいか?

 俺が義務だけを背負い、権利をすべて放棄したら、こんな事件を起こさずにすんだのではないか?

 全て俺の責任なのか?

 じゃあ、どうして俺は生きているんだ。

 どうして生まれてきた?

 何も知らずに死んだままのほうがわかったんじゃないか?

 世間では生きていてほしい奴らばかりが死んでいるというのに。

 不要だ。不要な人間だ。

 こんな人間なんか最初から産まれなきゃいいんだ。人間も感情があるからいけないんだ。

 動物のように感情がなく、生存するための本能だけでいられたら、俺みたいな人間を生み出さずにすむ。

 俺は正しい。

 悪いのは俺を笑い、馬鹿にする奴らだ。

 そのはずだ。

 そう言い切れるはずだ。

 暴力を行使すべきだった。

 馬鹿にする奴らを力でねじ伏せるべきだった。

 俺がまともに生きるにはそれしかなかったはずだ。

 なのに、なぜ死んだものにすまないと思う気持ちが残っている?

 正常に戻った?

 こんなときに……。

 俺は悔しくなった。

 全て終わってから、元に戻るなよ……。

 どうせならあのまま頭がおかしいままでいさせてほしかった。

 それならばなんのためらいもなく、人が殺せる。

 自分だって笑いながら殺せるかもしれない。

 そのほうがずっと楽だ。


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