序章 その6
私はため息をつくと立ち上がった。
そして、薬だなの前まで来るとおもむろに調合を始める。
調合と言ってもリラックス効果のある薬草とハーブをブレンドしてハーブティーを作っているだけだが…。
それをティーポットに入れてお湯を入れる。
ほどなくして、爽やかで優しい香りが漂ってきた。
私はそれをティーカップ入れ、クロード様へ差し出す。
「気持ちを落ち着かせるハーブとリラックス効果のある薬草をブレンドしたハーブティです。大丈夫ですよ、変なものは入れていません。」
クロード様は一応ティーカップを受け取るがカップの中を見るだけで口をつけようとはしない。
まぁ、それも仕方ないことなのかもしれない。
この国で憧れの存在である騎士団。
その中でも容姿端麗、実力は折り紙付き麗しの君と世の中の女子たちが噂しているその人なのだ。
しかも、実家は伯爵家という身分。
年頃の娘を持つ高貴な方々は何とかしてクロード様を手に入れようと画策しているに違いない。
そこまで考えると、なんだか気の毒になってきた。
そう思いつつも自分もハーブティをカップに入れると一口飲んだ。
うん、爽やかな風味が口の中に広がり、後味に軽い甘さが残る。
我ながらよくできた。
それを見たクロード様もようやくハーブティーを口にした。
「うまい…。」
クロード様は思わずといった感じでつぶやく。
そうでしょう、そうでしょう。
私としても渾身の1杯なのでそう言ってもらえると鼻が高い。
「ふふ。そうでしょう?うちのハーブティーは好評なんですよ。」
私が嬉しそうにそういうと、クロード様もかすかに笑み浮かべた。
うわっ、クロード様の微笑みの破壊力!
恐ろしや…。
その微笑みで何人の人が気絶するだろう…。
思わずそんな馬鹿なことを考えてしまった。
クロード様はハーブティを飲み干すと静かに息をつく。
「久しぶりにゆったりとした気持ちになった。ありがとう。」
クロード様はそういうと飲み終えたカップを私に差し出す。
私はそれを受け取り、笑みを浮かべた。
「どういたしまして。気持ちが楽になったようでよかったです。ですが、守りの護符はちゃんとしたものを身に付けてくださいね。」
私がそういうと、クロード様はぴたりと動きを止めた。
ギギギギと音がしそうなほどのぎこちない動きで私の方を見る。
ん?
何か私よくないこと言ったかな?
私は首を傾げた。
「そのことなんだが…。」
クロード様は若干気まずそうに言葉を濁した。
私は今度は反対側に首を傾げる。
「ここは守りの護符も取り扱っているだろうか…。」
ああ、なるほど納得。
もう家令すら信用できないということか…。
私はニコリと営業スマイルを浮かべ頷いた。
「もちろん、魔祓い師ですのでお取り扱いございます。」
これはチャンス!
いい金づる…もとい大口取引の予感に私はにんまりとした笑いが止まらなくなりそうだ。
私は立ち上がるとそそくさと戸棚の方へと行く。
あ、やばい足取りが軽くてスキップしそうだ…。
なるべく相手に悟られないようにいそいそと戸棚にたどりつくと、私が毎日端正込めて作っている護符たちを取り出した。
言っておくがこれは店に出している商品の中でかなりの力作。
ばっちり効果がある護符たちだ。
そんな護符たちをトレイに並べ、クロード様の前に差し出した。
「うちで取り扱っている守りの護符です。用途によってそれぞれ持つものがちがいます。」
クロード様はトレイを受け取り並んでいる護符たちをまじまじと見つめた。
この様子だと庶民的な護符を持ったことがないのか?
クロード様は戸惑った様子で私を見る。
「そうですね…今回の呪いはかなり強力な呪いだったので何を持っても気休めなのかもしれませんが…。」
私はそういいながら一番強力な護符を手に取る。
「ちょっと値は張りますが、これなんかどんな呪いもある程度防いでくれると思います。」
私は1つの護符を指さした。
それは先ほどクロード様が持っていた華美な装飾など一切ないシンプルな護符。
木片にびっしりと魔除け、呪い除けの魔方陣が書かれている。
まぁ、同じく魔方陣が書かれた白い布で巻かれているので木片自体が見えないのだが…。
クロード様はの護符を見て眉を寄せた。
あー。その顔は本当にこんなんで効果があるのかって顔だ…。
私はそんなクロード様を横目に営業スマイル続行で続けた。
「先ほど見せていただいたものより華やかさには欠けますが、私の持てるすべてを集結させてかなりの時間をかけて作成したんですよ?もちろん、効果がなければ返却いただいてもかまいません。」
最後の言葉に驚いたような顔でこちらを見たクロード様。
これはもう一押し!
「ちなみに、呪いや、魔除けの効果が発動するとその白い布が黒く染まっていきます。真っ黒になったり、護符自体が壊れたら新しいものと交換してくださいね。」
笑顔で言い切った。
「そんな機能があるのか?」
クロード様は驚いたようにつぶやく。
それもそのはず。
その機能は私のオリジナル。
普通の護符にはそんな機能付いていない。
だが、私はあえてそこまで言わなかった。
別にそんなことを自慢しても仕方ない。
私の作った護符が少しでも役に立ってくれればいいのだ。
そして、この護符が売れれば私は当面何もしなくて暮らしていける。
遊びはしないけどね…。
「わかった。これを貰おう。」
クロード様の言葉に私は目を見開く。
わお。値段も聞かずに太っ腹!
さすが、高貴なお家柄の騎士様!!!
「かしこまりました。このまま持っていかれますか?」
私は嬉しさでにやけるのを何とか取り繕う。
「ああ、頼む。」
「はい。」
私はあえて何もせずに護符をクロード様に渡した。
「あと、先ほどのハーブティーの効果も出てきたと思うので動いてもかまいませんよ?」
そう、先ほどのハーブティにこっそり疲労回復の薬も混ぜておいたのだ。
恐らく、体も軽くなっているだろう。
私の言葉に驚きを隠せないクロード様。
まぁ、変な薬なんて入れてないから怒らないでほしい。
クロード様はゆっくりと寝台から出て立ち上がった。
そして、手を握って開いてを繰り返したり、肩を軽く回したりする。
「ああ、先ほどより体が軽くなったみたいだ。」
クロード様は驚いたように私を見た。
私はそれを見て笑みを浮かべる。
「はい。そのようでよかったです。」
「君、名前は?」
そんな私にクロード様は声をかけた。
「私は魔祓い師のナディアです。そう言えば紹介が遅れましたね。」
そう言えば名乗ってなかった。
今更に思い出す。
そんなことを思いながら名乗ると、クロード様はきらめくほどの笑みを浮かべた。
うお、まぶしい。目がつぶれてしまいそうだ…。
「ナディアか。世話になった。」
そう言い残すとクロード様は颯爽と去っていった。
もう会うこともない、雲の上の人に会った今日は特別な日だ!
と、その時の私はそう思っていた。
これがほんの始まりにすぎなかったのだが…。
やっと序章が終わりました…。
これから本編です。
ここまでお付き合いありがとうございました。
これからもお付き合いお願いします!




