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Imagedia  作者: SaikoroX
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【第十八章:継がれる意志(Inherited Will)】

数日が経った。

カルナ=ゼルヴァの宙域は、

あの日の激戦が嘘のように、

穏やかな静けさを取り戻していた。

とはいえ。

まだ完全な復興には程遠い。

壊れた建材、

焦げ付いた支柱、

歪んだ機械の数々。

それでも、

人々は黙々と作業を続けていた。

「よっと……これで一応、動くようにはなったぜ!」

カイルが、

手を真っ黒にしながら

大型コンベアの端末を叩く。

横で見ていた作業員たちが、

「おぉー!」と歓声を上げた。

「やっぱ軍の技術屋さんはすげぇな!」

「今度コーヒーでも奢らせてくれよ!」

「ははっ、じゃあ期待してるわ!」

カイルは悪戯っぽく笑い、

現場の空気に、さりげない明るさを運んでいた。

その少し離れた場所では、

リアナが破損した通信端末の再調整をしており、

ダリオは資材搬入の管理を手伝っていた。

声。

工具の音。

稼働を再開した機械の低い唸り。

それらが重なり合い、

この宙域に、確かな「日常」を形作っていた。

そして。

その輪の中には、

元スカーヴァンだった者たちの姿もあった。

ジャンクを運び、

資材を積み上げ、

黙々と働く彼らに、

もはや敵意はなかった。

あの日、

交わされた意志は、

ゆっくりとだが確実に、

この場所に浸透し始めていた。

作業の合間。

ふと。

「……そういえばさ」

カイルが、

レンチを肩にかけながら言った。

その瞬間。

誰かの工具が止まり、

誰かの足取りが鈍り、

機械の駆動音だけが、

わずかに宙に残った。

「……ガイルさんは、どうしてるんだろうな」

その言葉に、

誰もが手を止めた。

一瞬だけ、

この宙域から音が消える。

微かな風が、

破損した構造材の隙間を

静かに吹き抜けた。

シオンは、

ゆっくりと顔を上げた。

そして、

遠くの医療区画を見つめながら、

何も言わず、

静かに歩き出した。

病室の空気は、静かだった。

窓から差し込む光だけが、

無言の時間を、そっと包み込んでいる。

ベッドには、

バルゲイン隊の隊長――ガイルが横たわっていた。

両脚には、

重い装具が取り付けられている。

もう、

彼が再びギアを駆ることはない。

「……ガイルさん……」

ソリオが、

視線を落としたまま、

かすれる声で呼びかけた。

隣でクァルナは、

何も言わず、

拳を強く握りしめている。

言葉にしなくても、

皆、わかっていた。

もう、

あの背中を追って駆けることは、

叶わないのだと。

だが。

ガイルは、

穏やかな表情のまま、

ゆっくりと息を吸い、

静かに口を開いた。

「……たとえ、この足が動かなくなってもな」

一拍、

言葉を置いてから、

続ける。

「歩みを止める気は、ないんだ」

ソリオも、

クァルナも、

思わず顔を上げた。

ガイルの目は、

曇りひとつなく、

まっすぐ前を見ていた。

「これからは――」

「ギアには、もう乗れねぇ」

「だが、バルゲイン隊の隊長として」

「……お前たちと、一緒に歩く」

それは、

誰かを鼓舞するための言葉ではなく、

彼自身が選び取った、生き方だった。

「……知ってた」

ぽつりと、

マルキが呟く。

工具を握る指先は、

わずかに震えていたが、

声は不思議と、落ち着いていた。

「この人は……

そんな簡単に、立ち止まる人じゃねぇよな」

ガイルは、

ほんの少しだけ、

困ったように笑った。

そして、

ベッドの脇に置かれた

小さな端末へと、手を伸ばす。

これから先は――

指揮データの整理、

作戦の立案。

ギアの代わりに、

言葉と判断で立つ、

新たな戦場へ。

外は、

まだ荒れたままだった。

瓦礫に覆われた広場。

色を失った植物群。

それでも――

ガイルは、

窓の外を見つめたまま、

ぽつりと呟いた。

「……やっとだな」

少し間を置いて、

続ける。

「この土地も……変われる」

誰も、言葉を返さなかった。

だが、

その場にいた全員が、

胸の奥で、静かに頷いていた。

ダルガンは、

一歩前に出ると、

ゆっくりと、深く頭を下げた。

「――まずは、改めて感謝を」

その声は穏やかで、

しかし揺らぎはなかった。

「政府本部より、正式に技術支援の認可が下りた」

「ネルヴェリアからの支援ルートも、確保できている」

視線が向けられる。

グランへ。

ダリオへ。

「特に、グラン大尉」

「あなたが軍部との間にパイプを繋ぎ、

我々の立場を後押ししてくれた」

「そして、ダリオ中尉」

「戦場での冷静な支援と、

仲間たちへの働きかけ……

あなたの存在が、現場を支えていた」

短く、息を整える。

「……忘れることはない」

そして、

ダルガンはシオンとカイルへと視線を移した。

「そして――若い君たちにも、心からの敬意を」

少しだけ、

言葉を選ぶように間が空く。

「……本国は、確かに固い」

「目線が高すぎて、

地べたを歩く者たちを見ていないことも多い」

「現場の声を知らないまま、

上で叫んでいる者もいる」

だが、と。

「君たちは、違った」

「手を差し伸べ、

共に歩こうとした」

「古い思想でも、

意地でもなく――」

「……ただ、

未来を見ていた」

ダルガンは、

ほんのわずかに笑った。

「技術も、同じだと思っていたよ」

「技術は、我々を進歩させた」

「だが同時に、

多くの者を苦しめてもきた」

「だから私は、

必要以上の進歩は要らないと……

そう信じていた」

その視線が、

ゆっくりとシオンに向く。

「……イマジディアも、そうだ」

「あれは、力が大きすぎる」

「国家どころか、

この銀河そのものを壊しかねない」

「最初は……

不安しかなかった」

だが。

「君たちは、

その力で戦争を止めた」

「このゴミ溜めのような宙域を、

たった一つの“選択”で、

変えてみせた」

「……守るために、

立ち止まることも必要だ」

「だが――」

「進むことも、

同じくらい大切なのだと」

「君たちに、教えられたよ」

ダルガンは、

再び深く、頭を下げた。

そこに、

虚飾はなかった。

あるのはただ、

未来へ手を伸ばそうとする、

一人の人間の誠意だけだった。

沈黙が、

数秒だけ場を包んだ。

誰もが、

ダルガンの言葉の重みを、

まっすぐに受け止めていた。

グランが、一歩前に出る。

「……本部からの技術支援は、まだ始まったばかりです」

「ですが、このカルナ=ゼルヴァ域の現場に、

これほど多くの人の意志が集ったこと――

それ自体が、すでに希望だ」

静かに、

だが揺るぎのない声だった。

「我々Dev-3も、引き続き協力しましょう」

「必要とされるならば、何度でも」

その言葉に、

ダルガンはわずかに目を細め、

静かに頷いた。

「……ま、俺は正式なやつじゃねぇがな」

ダリオが、

照れ隠しのように首をかきながら続ける。

「仲間としてさ。

あんたらの覚悟――

ちゃんと、届いてる」

カイルも、

腕を組んだまま小さく唸った。

「戦争は終わったけど……

ここからが本番だな」

「まぁ、せっかく繋がった縁だ」

「技術屋として役に立てるなら、悪くない」

そして――

自然と、

全員の視線がシオンに集まった。

彼は、

ほんの少しだけ宙を見上げる。

あの時、

虚構の光が宙域を照らした瞬間。

敵も味方も、

同じ空を見ていた、あの一瞬を。

ゆっくりと、

言葉を選ぶように口を開く。

「……戦場であっても」

「必ず、誰かが血を流さなきゃいけないとは、思わない」

「分かり合えるかどうかは、分からない」

「でも――」

「繋ぐために出来ることが、

“技術”なんだとしたら」

一拍。

「この光の先を、

俺は……進みたい」

誰も、

その言葉に返さなかった。

それは主張ではなく、

誓いでもなく――

ただ、前を向いた選択だった。

ダルガンは、

静かに目を閉じる。

そして、

息を吐くように一言だけ告げた。

「――信じている」

場の空気が、

わずかに緩む。

張り詰めていた緊張が、

静かに溶けていった。

外では、

かすかな風が吹いている。

次の舞台が、

音もなく、

ゆっくりと姿を現し始めていた。

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