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Imagedia  作者: SaikoroX
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18/19

【第十七章:止まった引き金(The Trigger Unpulled)】

焦げ付いた大気と、肌に重くまとわりつく機械油の匂いが

ようやく鼻に馴染み始めた頃だった。


到着から数時間に及んだ搬入作業は終盤に差し掛かり

ドックを埋め尽くしていた資材も、この地の過酷な『現実』を繋ぎ止めるための糧として

次々と運び去られていく。

カイルが応急処置を施した旧式ギアが、だましだまし動く特有の軋み音を響かせ

最後のコンテナをゆっくりと地面に降ろした。

泥と煤にまみれた作業員たちの肩に、束の間の


しかし確かな安堵が見え始めていた――その時


――空気が、ふと重く沈んだ。


直後。


施設全体に、耳を刺すような警報ブザーが響き渡った。


「……っ、なんだ!?」


カイルがペットボトルを取り落とし、あたりを見回す。

「また事故かよ……?」

不安と苛立ちが混じった声。


しかし、次に流れたアナウンスが、

その場の全員の表情を凍りつかせた。


『警戒警報、警戒警報!

スカーヴァンセル多数接近! 距離3000!

全作業員は即時退避、全戦力は臨戦態勢――!』


言葉が終わる前に、空気が張り詰めた。


リアナがすぐ無線を開き、叫ぶ。

『シオン少尉、ダリオ中尉! 応答して!』


「聞こえてる!」

シオンは工具を放り捨て、ダリオとともに走り出していた。


同時に、グラン大尉の低く鋭い声が全回線に響く。


『Dev-3、接近方向へ展開!

ヴァルゲイン隊、カルナ=ゼルヴァ防衛隊と連携しろ!

搬入作業はすべて中断、周辺施設の防衛を最優先する!』


「了解!」

シオンが叫び、ダリオも無言で頷く。


イマジディアが作業台から離れ、

静かに、しかし確かな推力を纏って起動する。


カイルも走り出しながら吐き捨てるように言った。


「ちっ……!

やっぱ、こうなるんだよな……いつもよ!」


その目は、すでに戦場の先を見据えていた。


遠くの宙域――

点のようだった光が、じわりと膨らむ。


それは、


かつてこの地で共に苦しみ、

今は“見捨てられた”と感じた者たちが、


牙を剥いて迫ってくる現実。


カルナ=ゼルヴァの空は、

再び、戦いの色に染まり始めていた。




――警戒ライン


カルナ=ゼルヴァの宙域には、無数のスカーヴァンが漂っていた。


それは統制を欠いた無法者の群れであり、アグノテウムが掲げる「光の時代」の恩恵から見捨てられ

光と闇の淵に吹き溜まった時代の残滓だ。


法を持たぬ者たちは、ただ何かを待っていたかのように

凍りついた静寂を保っている。


その沈黙を破ったのは、一発の銃声だった。


それはまるで、膨らみすぎた風船が限界を迎えて破裂するような

唐突で、そして必然の合図。


言葉では伝わらない何かが、無数の実弾となってこの瞬間、解き放たれる。


行き場を失った者たちの積年の思いが物理的な衝撃となって、降り注いだ。



「来るぞッ!!」



ガイルの叫びが、無線を突き破った。


バズーカ弾が爆ぜ、

散弾が空間を引き裂き、

サブマシンガン型火器の弾幕が、

雨のような軌跡を描く。


だが――

それは、前座に過ぎなかった。


火線の隙間を縫うように、

重い金属の鉈を構えたギアたちが迫る。

推進を抑え、地を這うような軌道で、

一直線に距離を詰めてくる。


「くそっ、接近も速ぇ!」


ダリオが悪態をつきつつ、

迎撃態勢を取ろうとする――が。


「……ッ、デブリが多すぎる……!」


視界を横切る、無数の宇宙瓦礫。

センサーも照準も、

この宙域そのものに妨害されているかのようだった。


初めて踏み込む、荒れ果てた空間。

その過酷さが、

ダリオの動きに、ほんの僅かな乱れを生む。


その隙を埋めるように、

ガイルが前へ出た。


「――俺が抑えるッ!」


巨体のパイロンギアNRXX-12Hx2

その背面に強引に繋ぎ合わされた二基の旧式核融合炉N.R.F.C.が

過負荷に近い重低音を響かせ

限界を超えた廃熱が各部の放熱フィンから陽炎となって立ち昇る。


バズーカの直撃を、分厚い重装甲で正面から受け止め

凄まじい衝撃が機体を揺らすが

二基の心臓を唸らせ、重力をねじ伏せるような圧倒的な出力でその場に踏み止まった。


ソリオもまた、獲物を見つけた獣のような

しなやかで危うい挙動で最前線へと踏み込んだ。


刃のように鋭利に尖った関節部を軋ませ、無駄に分厚い装甲で火線を弾き飛ばしながら

彼は最短距離で敵へと肉薄する。


振り下ろされた鉈を、無骨なマニピュレーターで火花と共に受け流すと

その勢いを利用して機体をさらに深く、敵の懐へとねじり込んだ。

センサーの警告音をノイズとして切り捨て、「敵の気配」だけを頼りに

鋼鉄の腕を間髪入れずに叩きつける。



その背後。

クァルナは狙撃位置を取るが、

デブリの乱流に歯噛みする。


『……っ、邪魔なんだよ。クズ鉄が……!』


吐き捨てるように言いながらも、

引き金には指をかけない。

射線が通る“一瞬”を、

辛抱強く待ち続けていた。


そんな戦場の只中で――


シオンは、

イマジディアの操縦席で静かに息を吸う。


(間に合え――)


新設計、連射対応の新型ライフル。

そして、

マルキと作り上げた虚構シールドの試作版。


スロットを解放し、

ライフルを構える。


背部ブースターから、

微かな虚構エネルギーの脈動が走った。


警報灯が赤く脈動する中、

シオンは、静かにトリガーへ指をかける。


(俺たちが――止めるんだ)


イマジディアの銃口が、

宇宙の闇を、真っ直ぐに捉えた。


火線の奔流が、空間を切り裂いた。

スカーヴァンセルたちの実弾兵器が乱れ飛び、

その弾幕を潜り抜けるように、

鉈を構えた突撃ギアたちが次々と押し寄せる。


「シオン、前出るぞ!」


ソリオの低い声が無線に乗った。


「了解――!」


シオンは即座に応え、

イマジディアの新型ライフルを構え直す。

同時に、背部スロットを開放。


虚構エネルギーが迸り、

透明な歪みが機体を包み込んだ。


マルキが提案した試作の虚構シールド

それは物理的な壁ではなく

空間そのものが波打つ透明な膜となって機体を覆っていた。

膜の境界面に触れた微小なデブリは

空間の捩れに耐えきれず瞬時に粉砕され

行き場を失った質量が淡く青白い光の塵へと変わる


今この瞬間、この理不尽な現実を凌ぐには、十分すぎるほどの力だった。


「行くッ!」


シオンが踏み込み、

ソリオもその背を追う。


ソリオの近接機が前に出て、

敵の鉈を正面から受け止め、押し返す。

そこへ、シオンが連射型ライフルを叩き込んだ。


虚構エネルギーをまとった弾丸が、

敵機の装甲をかすめ、姿勢を崩させる。


「今だ、ソリオさん!」


呼応するように、

ソリオが一閃。


敵ギアの肩を薙ぎ、

火花が宙を舞った。


それは、

わずかだが――確かに、

敵陣へ楔を打ち込む一撃だった。


――一方。


後方では、

ダリオが苦戦を強いられていた。


デブリの嵐がロックオンを阻み、

敵影を捉えることさえ容易ではない。


「チィ……!

やりにくい宙域だな!」


吐き捨てながらも、

ダリオは経験と勘で、わずかな隙を見逃さない。


敵機の挙動を読み、

動線をずらし、位置を誘導する。


『――クァルナ、今だ!』


『任せな!!』


クァルナの狙撃ライフルが火を噴いた。

わずかな射線を縫い、

弾丸が敵ギアの脚部を撃ち抜く。


デブリを利用した奇襲。

完璧ではない。


だが、

互いの腕と信頼が噛み合って生まれた、

確かな連携だった。


そして――

前線の、さらに奥。


ガイルは、

ただ一人、

沈黙のまま、そこに立っていた。



巨体パイロンギアNRXX-12Hx2。

その肩に、腹に、

次々と敵の弾丸が叩きつけられる。


だが、ガイルは動かない。

鉈も、腕も振るわず。

ただ――

耐え、受け止める。


「……っ……!」


無線から、わずかに漏れるうめき声。

それでも彼は、

一歩も引かなかった。


(……俺たちは……)

ガイルは心の中で、静かに叫んでいた。

(……ここで、同じやり方を選んだら、何も変わらない)

(……あいつらの怒りも、俺たちが生んだものだ)


彼のパイロンギアは、

なおも炎と煙を浴びながら、

その場に立ち続けた。


交錯する火線の中。

それでもなお、

彼らは確かに“意志”を交わしていた。


――何かが、おかしい。


ダリオは直感した。

目の前で、

ガイルの巨大なパイロンギアは、

敵弾を受け続けながらも、

ただ――立っているだけだった。


防御姿勢を取るでもなく、

反撃するでもなく。


「……ガイル!」


ダリオはギアを操り、彼に近づいた。

宙域の爆風が吹き荒れる中、

無線を開く。


『おい! どうした!?

ギアの不調か!?』


しばしの沈黙。

やがて、

苦しげな、しかし静かな声が返ってきた。


『……すまない。

できれば、あいつらは――

殺してやりたくないんだ』


その声に、

ダリオは言葉を失った。


「そんなこと言ったって……!」


現実は、

すぐそこまで迫る死と破壊。

甘い理想が通る戦場ではない。


だが――

ダリオは、引き金にかけていた指を、

ほんのわずかに緩めた。


『了解。』


無線に乗った、クァルナの短い声。

続いて、ソリオも。


『……了解。』


それは、

かつてスカーヴァンだった彼らが、

とうに覚悟していた答えだった。


ダリオは、

喉元まで込み上げた反論を、

ぎゅっと飲み込んだ。


「……チッ、仕方ねぇな」


無線を切り替え、

すぐさまシオンに繋ぐ。


『シオン、聞こえるか!』


『聞こえてる!』


迷いのない即答。

イマジディアの姿が、

こちらに振り向く。


ダリオは、

ライフルを構え直しながら叫んだ。


『俺のライフルで行動不能にする!

お前のイマジディアで、射線を開けてくれ!!』


『――了解!!』


シオンの声は、

力強く、真っ直ぐだった。


破壊でも、殺戮でもない。

戦う理由は、未来のために。


ダリオのライフルが、

静かに狙いを定める。

イマジディアが、

閃光のように走り出す。


そして、

この混沌に、

意志の刃が切り込まれようとしていた。


――その時だった。


ガイルの無線が、

ついに途絶えた。


彼のギアは、

火を吹き、

各部から黒煙を上げ、

今にも爆発しそうなほど軋んでいた。


「ガイルさん――!」


ソリオが吼えるように駆けた。

エネルギーサーベルを引き抜き、

その刃で、

火を吹くエンジン基部を一閃。


機体が悲鳴を上げたが、

直後、

暴走しかけていたエネルギー反応が収束する。


ソリオは、躊躇わなかった。

即座にコックピット周囲をこじ開け、

意識を失ったガイルの身体を、無骨な腕で抱え上げる。


その背中は、

敵にも、味方にも――

完全に晒されていた。


だが。


――撃たれなかった。


一発、また一発と、

宙域を満たしていた銃声が、確実に減っていく。


スカーヴァンの一機が、

引き金にかけていた指を、そっと離した。


誰かが命じたわけではない。

だが、それを合図にするかのように、

他の機体もまた、攻撃姿勢を解いていく。


撃てば、まだ戦えた。

今なら、勝てたかもしれない。


それでも――

彼らは、撃たなかった。


同じように仲間を背負い、

同じように仲間を守ろうとする姿が、

否応なく、胸に突き刺さったからだ。


静まり返った宙域。

火線の代わりに、

ただ、推進音だけが微かに残る。


その時――

空間を裂くように、巨大な影が現れた。


漆黒に塗られた艦影。

カルナ=ゼルヴァ域、要人専用艦。


艦首から、拡声通信が開かれる。


『――この場にいる、すべての者へ』


艦橋に立つ男。

ダルガン。


その声は、

これまでの彼の印象を覆すほどに、

静かで、揺るぎなかった。


『……私は、ダルガン・ヴァルゼス。

カルナ=ゼルヴァ域を代表し、ここに声明する』


一瞬の沈黙。


『今日、私は知った』


『支援してくれる手があり――』

『新たな技術が、希望の光を示し――』

『結束する仲間たちがいて――』

『夢を抱いた者たちの痛みが、確かにここにあることを』


その言葉の最中、

スカーヴァンの一機が、完全に銃口を下ろした。


『私たちは、過ちを犯した』


『争いではなく』

『壊すのでもなく』

『憎しみを繰り返すのでもなく』


『今ここから、手を取り合い、

新たな未来を築き直さなければならない』


宙域に、誰一人、動く者はいなかった。


『かつて、アグノテウムが

Lucis Era――光の時代を築いたように』


『我々もまた』

『このゴミ溜めの宙域から』

『この血と怒りに満ちた空から』


『もう一度、光となる』


『そう、誓う』


通信が切れる。


だが――

その場にいたすべての者の胸に、

確かに、何かが残っていた。


それは命令ではない。

強制でもない。


ただ、

「ここで終わらせていい」という、

選択肢だった。


カルナ=ゼルヴァの空に、

乾いた風が吹き抜ける。


戦いは、終わっていた。


そして――

この宙域の“次の物語”が、

静かに、動き始めていた。

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