王国への道
目を覚ますとグラスティアに居て、あの日からもう三日も経っていたと聞かされた。
夜の国の生き残りは廃人と化したジアと、ネロだけだった。
それ以外の民は全て、暮明の騎士団の虐殺の獲物になった。まあ暮明の騎士団もデバルによって傀儡にされた上にセロハによって全滅したのだが。
しかしデバルの次の言葉が引っ掛かっている。
「次は王国で」
これによって、セロハと俺達は急遽、禁域転移魔法を使用し、王国を目指すことになった。
禁域転移魔法はグラスティアのみに存在する別の大陸に数名の人物を送ることが出来る、唯一無二の魔法であるらしい。だが、デメリットも存在する。ここ数十年発動すらしていないため、座標がズレているようで、王国のある大陸には行けるらしいが、そこからは徒歩で行くしかない。
セロハはちょっとした観光だと思えばいいと言ったが、内心は不安しかない。
大体、暮明の騎士団を送り付けたのは王国の筈だし、セロハだってそこらへんは分かっているはずだ。
それでも勇者としての誓約と呪いがある限り、逆らえないのも勇者のどうしようもないところだ。
グラスティアにはネロとガロだけが残り、セロハと俺とハルカ、ラキの四人で、王国に向かうことになった。
グラスティアの大聖堂に集まった俺たちはそのまま幾重にも書き込まれた魔法陣の上に立つ。
妙な浮遊感が体を支配した。少しだけ体が浮いている。
魔法陣が起動し、魂が引っ張られるような感覚が体中に走った次の瞬間には、鬱蒼とした森の中にいた。
セロハによると、ここは王国から三つぐらい町をすっ飛ばした場所にある、『魔光の森』という場所の様だ。数十年前はここも魔人の住処だったらしい。
バイクは持ってこれなかったから、ここからは徒歩だ。次の町で馬が買えればいいが。
セロハが先頭。ハルカを真ん中に俺は後ろで、ラキは影の中だ。
ずんずん森の中を進んでいくセロハの後ろで、ハルカが妙なことを言った。
「ねぇ、音聞こえない?」
「音?」
俺の耳には何も聞こえない。ラキが何かを察して逆立つ。
「良く気付いたね。これは戦場の音だ」
セロハの一言に体が硬くなる。咄嗟に駆動剣に手を伸ばしかけセロハに止められた。
「余計な殺気を出すんじゃない。厄介な相手の様だし、何より王国民じゃないからね。助ける必要も、本来はないんだが…寝覚めが悪くなりそうだからちょっくら行ってくるとするか…」
「セロハ?」
「クラウス、お前はここに……。いや一緒に行くか。ハルカを抱えてついて来な」
言われるがまま、ハルカを御姫様抱っこし一瞬でその場から消えたセロハを追う。
セロハの微かな香だけを追ってついて行った先に、光が見えた。
正確には光を放つ何かだ。人型ではあるが、背に光の翼のようなモノが見える。翼と言ってもふわふわなイメージではなく、もっと幾何学的な模様というか、鋭い形の翼だった。それは、多分腕だろう部分を伸ばして、どこかしらの兵士を光の粒子のようなモノで攻撃している。
「見な。あれが本来の魔人だ。人類種が、いや、人が現在、魔人と呼ぶ存在は血が薄くなり過ぎた、ほぼほぼ人と変わらないものだ」
「魔人?アレが…?」
「神が創り上げた、人類種の救済装置だったはずのな…。気付かれた、来るよ!皆、構えな!」
光の魔人は腕のような部分だけをこちらに向けた。光の粒子が集まる。
「ハルカ、防御結界!」
「了解っ!」
緋術によって即時展開された結界にビームのような攻撃が当たる。バチバチという音をあげながらビームを弾く結界に徐々に罅が入る。
「駄目、耐え切れない!」
「一撃受ければそれでいい、耐えてな、ハルカッ!」
結界の端から消えたセロハは光の魔人の腕を一瞬で斬り落としていた。ビームが止まる。光の魔人は痛みを感じないのか、鈍いのか分からないが、もう一本の腕を振るって羽虫でも払うかのようにセロハに一撃を浴びせようとした。セロハはバックステップすれすれでソレを躱し、心臓の位置に聖剣を突き立て叫ぶ。
「『聖剣解放』!!」
聖剣技の光が光の魔人の胸を穿つ。魔人は何とも言えない奇声をあげつつ、ゆっくりと倒れた。一気に石化が始まり、地面に着くときには砕け散っていた。
「低級で助かったよ…。全くなんでこんな場所に魔人が…」
セロハが剣を振るって血を払う動作をして鞘に納めた瞬間、今まで一方的に攻撃されていた側である筈の兵士達が、セロハを囲った。セロハだけではない。俺達も兵士に囲まれている。
「貴様ら!どこの所属だ!冒険者か?」
「この剣を見ても分からんのかい?勇者だよ…。あんたらこそどこの兵士だい?」
「勇者など存在しない!我々王国騎士団が魔人を討伐しているのだからな!」
「はぁ?」
「怪しい剣技と法術を使う貴様らは拘束対象だ!大人しく縛につけ!」
「助けてやったのにこの始末かい?だから嫌だったんだが…」
「大人しろ!」
じりじりとにじり寄ってくる兵士たちに、俺は何もできないでいた。
するとセロハが俺にサインを送った。
『王国で会おう』
これ一つである。俺はハルカの手を取り、ラキの影を纏った。
地面を思いっきり蹴って跳躍し、大口を開ける兵士たちを尻目に崖下へと降下していく。
落下し続ける体を、ラキが壁に影を突き刺してブレーキを掛けた。俺の体は下の地面スレスレで止まった。
一安心、だと思った。すぐにそれは打ち破られることになる。
崖下にも兵士が居たのだ。それも上にいた比ではない。重装備の兵士が何十人も。
兵士達もまさか上から人、それも魔族を伴った少年が落ちてくるとは考えていなかったのだろう固まっている。
「退いてください。顔が見えない」
透き通る声がして、兵士たちが両脇に分かれた。
奥から黒鉄の鎧に身を包んだ、黒髪の女性が現れた。他の兵士に比べて装備が軽い。刀のような武器を帯刀している。ユノに似ている気がした。
「あなた方は何者です?なぜ魔族と?」
「魔族は俺の奴隷で、こっちの女の子は護衛対象だ」
正直に話すしかない。それにここで抵抗しても、恐らくだが、この女性には勝てない。刀の間合いに入ってしまっている。ユノに教わってきた気配がそう告げていた。
「それで?ほかに言うことは?」
「俺達をどうする?」
「反抗しないのですね。良いでしょう。丁重に、拘束なさい!」
結局捕まるのか。俺はこっそり駆動剣だけはラキの影の中に隠していた。
兵士達は俺達を乱暴には扱わず、丁寧に拘束した。
そのまま目隠しされて、恐らく荷馬車に乗せられてどこかへと連れられて行くことになった。




