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モブ顔勇者は世界を救わない  作者:
過去世界編
14/20

守り切るもの



 魔王の襲撃から、三日ほどたった。


 負った傷は全て、ハルカの法術で完治している。



 グラスティアに被害はなかった。


 俺はどうやらセロハのせいで、グラスティアからこの時代の勇者として認定されたようだ。


 これで勇者は三人になった。セロハ、ネロ、俺ことクラウス。



 グラスティアにおける聖剣使いはセロハとネロだけだ。俺は聖剣に選ばれていないからという理由もあるし、何より俺には駆動剣がある。


 今更、神の洗礼など受けて聖剣を頂戴するのはいささか面倒であったし、なにより俺はこの時代の人間ではない。この時代の神と契約するという事はこの時代で生きるという事に繋がりかねないし、面倒なことになることは分かり切っている。



 セロハの勧めで俺達はグラスティア遊撃部隊に配置されることになった。


 隊員はセロハと、魔剣士ガロという四六時中黒い鎧を身にまとった性別不明の二人だけである。


 このガロとかいうのはセロハによると、セロハやネロには及ばないが、相当な剣の使い手らしい。


 挨拶はしたが実に無口だった。少しだけ頷き、それ以降は悉く無視だ。聞こえてはいるんだろうが、反応が全くなかった。


 セロハはこのガロの事を気難しい奴と評していた。それだけだといいんだが。



 セロハによると、今この神大陸にいる魔王の数は十三人らしい。本来なら数十人いたらしいのだが、セロハが一人でコツコツと間引いていたようだ。


 そのうちの一人が、本来の魔王とされるガストリアの魔王。名は、フレーメン。魔族でも人間でもないらしい、不思議な存在だと聞いた。


 魔王フレーメンはある魔法が使えると聞いた。それが『増殖』である。


 この増殖を使用し、自分の分身である魔王たちを創り出せるようだ。だが意識は別人のものになるらしく、残虐な性格をした魔王や、誠実で優しい魔王も生み出してしまうらしい。


 現在の魔王たちの半数はこの中では優しい魔王に含まれるらしいのだが、残りが厄介なようだ。


 暴虐の限りを尽くし、人類種を殺したり仲間であるはずの魔族を奴隷にしたりやりたい放題である。三日前の魔王もこちら側だろう。



 セロハの勇者としての誓約は『魔王を皆殺しにする』である。


 ネロの方は『大陸を平定させる』らしい。


 どちらも身勝手にある神がつけたモノだ。実に神らしい。


 俺には『諦められない』呪いが掛かっている。これを見るに人型の靄も神だろう。


 そういえば、この時代に跳んできてから、人型の靄の干渉がない。


 という事は、あの靄は新しく生まれたモノかもしれない。この時代には存在していない可能性もある。


 今はどうでもいい事だ。それよりも大変なことが起こっている。



 魔王軍侵攻によって夜の国は陥落し、二代目勇者ネロの行方は不明、ジアの研究結果も奪われた可能性が高いという報告が上がってきたのだ。


 これにより、グラスティア遊撃部隊は夜の国奪還作戦を開始することになった。


 選ばれた面子はセロハ、ガロ、クラウスこと俺、ハルカ、ラキの五人だ。


 もっと言えば、ラキは俺の装備品扱いなので四人だが。



「ネロがやられた可能性は?」


「ないね。アイツがこの程度で死ぬわけないから」


「通信が来ないのは?」


「インフラ関係をぶっ壊されてるからかもね」



 バイクに乗って夜の国を目指す。


 今回は大きく遠回りして、魔王領付近から急襲を仕掛ける。



「クラウスとハルカは裏から攻めな。私とガロは真正面から敵を潰していく」


「了解」


「分かったわ。でももし魔族達が投降したらどうするの?」


「事が事だからね。今回は一人も逃がすんじゃない」


「…分かったわ」


「じゃあこの道でお別れだ。しっかり頼むよ」


「分かっている」



 セロハとガロと別れて、夜の国の裏手に回り込む。



「クラウス、マナ反応!」


「なに!?」



 夜の国の入り口のところに一人の少年が立っている。見た事のある顔だ。



「ネロ?…ッ…回避しろ!ハルカ!」



 少年は剣を抜いている。放たれた斬撃がバイクを真っ二つにした。


 斬撃がバイクに当たる瞬間、俺はハルカを掴んで、バイクから転がり降りた。



「何をする!ネロ!」


「お前がこっち側か、クラウス!」



 意味が分からなかった。なぜネロはこちらを攻撃する?ジアはどうなった?


 ネロの全身からは殺意の気配がする。完全に殺す気でいる。



「僕はお前たちが憎い。憎くて憎くて憎くて…仕方ないんだ!」



 瞬間、ネロは俺の真正面に跳んでいた。


 ハルカの防御緋術がネロの斬撃を防いでいなければ、俺は真っ二つだっただろう。



「ネロ!どうして…」


「よくもジアを殺したな…!人類種!!」


「えっ?」


「ジアを殺せば、事象基臓が手に入ると思ったのか?そこまでして、戦争を続けたいのか?」


「何を言っている?」


「聖剣など要らない、『絶剣、不変起動』」



 ネロが空間の歪みから引き抜いたのは二本の絶剣だった。中心部に事象基臓のような何かが、はまっている。



「『駆動剣、起動』『影纏外装!』ハルカ、俺に全力で強化緋術を掛けろ!」


「…分かったわ。『限界強化』」



 体に力がみなぎるのが分かる。ラキを身にまとい、ネロの前に立つ。


 これだけやっても、勝てるかどうかは怪しいところだ。相手は勇者だ。俺だけの力では勝てない。


 それよりもどうにかして、ネロを止めなければ。



 ハルカを後方に下がらせ、駆動剣を構える。


 ネロは明らかに平常ではない。殺気に満ちているのがその証拠だ。


 ジアは死んだのか?それでここまでの怒りに満ちているのか?



「僕に勝てると思っているのか?クラウス…」


「勝てるかどうかなんて考えてない、ただ、君を止めたいだけだ!」


「フハハ、考えが甘いんだよ!これから君を、君達を本気で殺す…そうしたら次はセロハだ…。壁が無くなればグラスティアも何もできなくなって、魔王にすり潰されて終わりだ!」


「落ち着けとか言うつもりもないし、君を無傷で助ける自信なんてこれっぽっちもない。だけど君が、俺の大切なものに手を出すのなら、その時は…!」


「ならば、僕を殺すか?クラウスゥゥ!!」



 速い。一瞬で接近されて、絶剣が振り下ろされる。受ければ死ぬが、退けばハルカが死ぬ。


 受けるしかない。



「『二重動機、第一法、永続起動。第四法、瞬間起動!』」



 攻撃機構、そして第四法、奇跡機構を解除する。


 これは特殊な機構であり、名の通り、奇跡に近い御業を刀身に宿すものだ。ただし回数制限があって、肉体にも負荷がかかる。


 奇跡が付与された駆動剣は絶剣の鋭く重い一撃を真横にずらした。


 だがこれだけではだめだ。ずらしたはずの衝撃波は執拗に人間を狙って追尾する。



「『二重動機、第二法、第三法、起動…!剣よ、絶対の盾となりかの者を守護せよ!』」



 防御機構と自在機構を解放した。剣に宿るマナが集まり、ハルカを守る様に薄く硬い壁が形成される。


 真横に逸らしたはずの衝撃波が、形を変えてハルカを襲う。


 障壁はそう簡単には破れないはずだ。


 だがこれでもだめだ。ネロの殺意が消えない限り、この攻撃は消えない。


 第五法を駆動させれば、打ち消せるだろうが、隙が無い。


 第五法は切り札だ。使うには影纏外装を解除する必要があるし溜めもいる。


 ネロにその隙など無いし隙なんて作っちゃくれないだろう。


 だから。


 次の段階を使う。第五法より上は肉体と精神に著しく負荷がかかる。


 これは事象基臓の特異性らしい。もとより事象基臓なぞ、人間が使っていい代物ではないのかもしれない。


 駆動剣を逆手に持ち、地面に突き刺す。二重動機中だから、普通ならどちらかの動機を解除するしかないが、これは次の段階だ。ジアからの制約は無視するしかない。



「『三重動機、真核解放、駆動しろ!事象基臓!』」



 地面が波打つように呼応する。周りを白い霧が包み、殺意の波動を打ち消す。


 例え欠片と言ってもプロトタイプだとしても、俺が持つ駆動剣には事象基臓が搭載されている。


 事象基臓は奇跡を起こし、世界を再生する力だ。ここで使わずしていつ使う。


 ラキの影纏外装が影としての機能を変質させ白く染まっていく。駆動剣も姿を変えていき、聖剣とほぼ同じような姿に変わる。


 俺はここで人間をやめる。人間をやめ、勇者となる。


 あの靄の神の思い通りかもしれない。それでも、目の前の命を軽んじることは許されないのだ。


 仲間だった存在を斬ることは、殺すことは出来ない。


 彼は守れるものだ。それを捨ててはいけない。



 俺の守れる範囲は狭い。だからこそ、守り切らなければならないのだ。



「クラウス…、その姿は…!」


「『転換完了。勇者形態、全兵装ロック解除』」



 白き勇者が大地に立つ。


 これが俺の憧れた姿。夢見た姿。この異世界で、守るために選んだ姿。



 剣を持ち替え、ネロに向ける。



「今こそ、その怨恨を断ち切って、君を救う、行くよ、ネロ!」


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