7節
――惑星イル=グゥ――
遙か遠くで、くぐもった爆発音がした。
ぴりぴりと肌を震わせる振動に、カインは眠りから覚醒に導かれた。
ズゥゥ――ン――という低い響き。それは途方もなく遠くで起こった、凄まじい衝撃によるものだった。
次いで起こった衝撃に、カインは跳ね起きた。瞬時に覚醒した意識で周囲を伺う。
音は上空から聞こえていた。抜けるような青空に、凄まじい勢いで燃える焔が在る。
大気摩擦による高熱で真っ赤に燃え上がりながら、巨大な物体が落ちてくる。燃焼した空気が、青い空に黒々とした飛行機雲を描く。
先ほどの衝撃が、大気圏突入により発生した空気との接触爆発であることを、カインは知らない。ただ、今までにない異常事態に、日常が破壊された事を確信する。
瞳が見開かれ、瞳孔がすぼむ。空を飛翔する巨大な物質に釘付けになる。魅了された、と言ってもいい。戦士として産まれたカインの魂は、空を飛翔するものに、物体として在るはずの無い敵意を、確かに感じていた。
「……父さん」
「ああ」
父は既に立ち上がり、カインと同様に物体の行方を追っている。
物体はみるみる内に高度を下げ、狂っていた縮尺を取り戻させる。銀色に輝く金属で構成された菱形の隕石は、轟音と暴風を撒き散らして、カイン達の頭上を一瞬で抜ける。
物体は森を抜け、白い台地を越え――そこに鎮座していたウィルムの巨体に激突した。
衝撃が津波のように襲いかかる。破壊の突風に、森の木々が吹き晒され、慌てて飛び立った鳥が錐揉み状態で飛ばされていく。
台地を裂く程の暴風に晒にも、親子は動じない。瞬き一つせず、隕石の直撃した幻獣の遺骸に目を凝らす。
空気の摩擦によって生じた火焔が広がり、黒雲がもうもうと立ちこめている。
ズズ――という地鳴りの音が世界を戦慄させた。
山の様だった身体が解け、恐ろしく長大な身体を伸ばす。
往年の眠りから、最悪が解き放たれる。
「っ――」
ぞわり、と全身の毛が逆立った。眼球がこれ以上ない程に見開かれ、煙の奥に見える、その挙動の一瞬たりとも逃すまいと網膜に焼き付ける。
巨体に纏わり付いていた石膏が割れていく。破片の砕ける音が豪雨のように響く。
目の前で繰り広げられた光景は、彼の理解の欄外の現象だった。
白磁の殻が割れ、本来の灰色の外皮が露わになっていき……どういう訳か、その身体が銀色の金属に覆われていく。
巨体の脇腹を穿った金属が、目覚めたばかりの生物の巨体を、銀色に食い潰していく。
黒煙を払い、無数の口にて天を煽ぎ、獣は吼えた。
銀河の支配者たる咆哮。世界全てを混沌に叩き込む、最悪の産声。
一体何が起きたのか、分からない。
ただ、彼等は魂で理解した。
今日、この日、この瞬間。
今目の前で引き起こされたそれが、運命と呼ばれるものであろう事を。
「――俺たちだ」
肌をビリビリと震わせる怪物のを受けて、オルトは笑った。
これ以上ない程に唇を吊り上げ、見開かれた目に感激の涙すら浮かべて。
己の天運を理解し、戦士は歓喜に打ち震えた。
「――俺たちだった……っ!!」




