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7節


「アロイが更に変形! 人型ベルカ反応体に光線を射出……す、凄まじい熱量です!」



 <ヴェルダンディ>管制室の計器が、けたたましい警告を鳴らす。突然に現れた絶大な熱源反応に、艦内の防衛機構が呼び起こされたのだ。

 フロントモニターに映し出された地表で、水晶の大地はたちまち赤熱し、どろりと崩れて溶融する。膨張した空気によって、映像は陽炎に揺らぎノイズを発生させていた。

 騒々しい喧噪の中、スウィニーの口笛が軽やかに響いた。



「削り取った大地を消化し、より単純な熱エネルギーとして放出しているのか。そうなると消化というより、超高圧状態での原子分解が行われていると見るべきかな。いやぁ、体内に陽子炉でも保有しているのかなぁ?」



 目を輝かせて両手を摺り合わせる白衣姿の変人。予想もつかない幻獣の生態を空想するその様子は、まさしく玩具を手に入れた子供のようだ。

 そんな彼の様子を一瞥してから、艦長が静かに声を発した。



「エネルギーシールドを本艦底部に局所展開」

「え?」

「五秒以内だ。来るぞ」



 マスク越しの視線は、真っ直ぐフロントモニターに注がれている。

 ノイズだらけの映像は、今まさに顔を向けた射出口の姿を確かに捉えていた。



「っ――シールド展開! 急げええええ!!」



 たちどころに状況を理解したスタッフが叫ぶ。次の瞬間、蕾状の頭部が輝き、真白の光線が<ヴェルダンディ>に向けて放たれた。

 凄まじい衝撃が艦内を襲う。まるでドラム缶の中に閉じ込められ、力一杯殴られたようだ。

 逆を言えば、それだけの衝撃だけで、攻撃をやり過ごす事ができた。

 感情一つ浮かべずに、艦長が問う。



「状況は?」

「何とか間に合いました! シールドの余剰エネルギー……の、残り四十%です」



 情報を受け取ったスタッフが冷や汗を流す。

 大型揚星艦<ヴェルダンディ>のシールドは、艦隊同士の戦闘まで想定された高性能のものだ。例え隕石が直撃しようとも、微動だにせず航行を続けることができる。

 そのエネルギーを、たった一度の攻撃で六割方消滅させられたのだ。もしまともに喰らったならば、この艦は一瞬で解け消えるに違いない。



「航行用のエネルギーを一時的にシールドに回せ。最低でもあと一回は無傷で受け止めろ。これより本艦を座標二七〇.八五まで移動。そこで救護艇と合流する。奴と同じ地平線に入るなと通電しろ」

「り、了解です」



 艦長の指示に従い、ヴェルダンディは向きを変え、素早く幻獣から遠ざかる。

 ゼルが通信機のスイッチを入れ、幻獣との死闘を繰り広げるシエラ達に繋げる。



「聞こえたな? 打ち落とされないよう、ヴェルダンディは安全な場所に退避する。こちらからの支援は難しくなる!」

『そ。元から期待してないから安心して』



 幻獣の周りを飛行しながら、シエラは素っ気なく応えた。

 八本の射出口が新たに現れて尚、通常の頭による攻撃も続いていた。シエラはジェットパックを唸らせ、幻獣の身体を時計回りに飛翔する。

 光線の熱量のせいで気流が乱れ、姿勢が安定しない。さっきも、あわや頭の一つに捉えられる所だった。

 まともに戦えた物では無い。ましてあの光線が直撃したら、跡形も残りはしまい。

 例え、人を遙かに凌駕した、凄まじい戦闘力の持ち主と言えど――。



「……流石に、生きていないか」



 呟くシエラ。脳裏には、先ほど目撃した光景がフィルムのように焼き付いている。

 大地に槍を突き刺して咆哮する、白い髪の男。巌のような肉体を活力に漲らせ、獣のように髭を生やした無骨な姿。

 次の瞬きの瞬間には、真白の閃光が視界を埋めて、彼の姿は消えていた。

 彼の顔――恍惚に瞳孔を開いた笑顔を思い出し、シエラは頭を振ってそれをかき消した。



 どのみち、自分には関係ないことだ。

 彼が死んだという事は、謎の助太刀はなくなり、幻獣の意識がこちらを向くという事。

 それ以上に、何も思うことは無い。



「いよいよ、悠長に構えてられなくなったわね!」



 鞭状に伸ばした<ハーピィ>を振るい、迫り来る頭を吹き飛ばす。

 質量差は歴然。長引かせるだけこちらが不利だ。

 勝機はある。だが、転機が必要だ。全力の一撃を放てる、最高のタイミングが。しかし無数の頭部に加え超高熱の光線だ。これを切り返しての反撃など、大津波に飛び込み濡れずにいろと言われているような物だ。

 シエラは歯噛みし、嘲笑うように悠々と揺らめく八本の蕾を睨み付ける。



「ともかく、あの蕾を何とかしないと……!」

『進言――ここは私たちにお任せください、シエラ様』



 その時、状況を打破するべく、機械的な男性の声が響いた。



「カフカ?」

『説明――この機体のエネルギーシールドなら、光線も数瞬なら保つでしょう。何より、ベルの歌の威力は絶対です。全て打ち砕いて見せましょう』

「それは頼もしいけれど……どうやって近づくのよ?」

『冗談――私はエースパイロットですよ? 何せ、間違いは決して起こしませんから。隙間さえあればかいくぐって見せます』



 機械音声にどこか気さくな色を乗せて、カフカが応える。要するに、力尽くで突貫しようと言うのだ。



「なるほど……隙間を作るのは私の役目ってことね。勝率は?」

『回答――シエラ様の健闘に期待を込めて、三八%』

「言ってくれるじゃない。いいわ、乗ってあげる!」



 シエラは嗤い、ジェットパックのエンジンを更に吹き上げる。



「できる限り頭の数を減らす! 後はあなた達に任せるわ!」



 <ハーピィ>に命令を下し、両手の金属片を解放する。ほどけた鎖同士が擦れ合う音が、彼女の飛行の軌跡を追いかける。

 長大なチェインソーを両手に、シエラは密林のように生い茂る頭部の群れに突っ込んだ。

 金属の洪水。破壊の坩堝。高速で蠢く棘だらけの身体が四方八方を埋め尽くし、身の毛もよだつ金属音が耳に障る。

 シエラはその金属の壁にチェインソーを突き立て、ジェットパックのエンジンを最大火力で吹き上げた。金属がちぎれる絶叫が耳をつんざく。腕が引っこ抜かれるような抵抗に肩の筋肉が悲鳴を上げる。

 シエラは身体を回す。頭の群れの中にあるほんの小さな隙間を、針穴に糸を通すような精密な動きで駆け抜ける。チェインソーで幾つもの頭を切り飛ばしながら、終わりの見えない死の洞窟を、ただただ猛進し前へ、前へ、前へ。



「ぜ、ええええええええええ!」



 果たしてシエラは、金属の洞窟を抜け出し、両手の<ハーピィ>を振り抜いた。山のように聳えていた頭部の群れ、その一角が、中程を断ち切られてボロボロと崩れていく。

 壁のように聳えていた牙城が崩れ、渦の中央に在った蕾型が露わになる。切り開かれた突破口に、カフカのグライダーが、黄緑色のネオンを描きながら迫る。



『鼓舞――最初から全力で行きますよ、ベル』



 カフカの金属音声に、グライダーに乗ったベルが頷く。

 八本の蕾型が鎌首をもたげ、接近するグライダーに照準を合わせる。

 瞬時に放たれた真白の閃光は、軽やかに動くグライダーを捉える事ができない。空間を切り裂く光線の隙間を抜け、幻獣の中心へと一息に迫る。



『範囲指定――最広域一.五キロ。一気に吹き飛ばし、即座に離脱します』



 カフカの声に併せて、黄緑色のヴェールが展開される。ベルの声だけに反応するよう設計されたエネルギー波は、幻獣の光線の影響を受けずに広がっていく。

 真白の閃光を紙一重で裂け、迫り来る頭の群れを錐揉み回転して躱し――そして、殺意に満ちた金属の蕾を視界に捉える。



『今です!』

「ッ――――――――――ァ!」



 カフカの声と同時、ベルの歌声が放たれる。

 黄緑色のヴェールに踏み込んだ蕾、無数の頭部。金属で構成された全てが、問答無用で崩壊し、塵に崩れていく。

 直径三キロに及ぶ絶対死の空間。それを展開し続けながら、金属の大渦の上を飛ぶ。

ベルがぎゅっと目を瞑る。身体を縮めて、できる限り攻撃を続けようと息を振り絞る。



『懇願――頑張って、ベル。もう少しです』

「ッ―――、―――――!」

『カウント――敵射出口、残り四本! ――三本! 二――一!』



 カフカの声と共に、光の球体が空を泳ぎ、蕾を一つ、一つと消し去っていく。

 その最後の一本を射程に収め、吹き飛ばした――その直後だった。

 突如として、真白の閃光が視界を埋め尽くした。

 超高熱のエネルギー派は、ベル達の真下から。

 大渦の中央に、いつの間にか新たな蕾が発生していた。



『ッ脱しゅ――!』



 ベル達のグライダーは、不意打ち気味の閃光に完全に飲み込まれた。

 数万度に達する高熱がエネルギーシールドを包み、振動になってベルの身体を揺さぶる。機体を制御するカフカに、けたたましい警告が連続し、黄色から赤へと一瞬で変色する。

 エネルギーシールドは一瞬で消失した。辛うじて閃光から抜け出すも、真下からの衝撃でエンジンをやられる。

 生まれたての鳥のように覚束ない飛行。それをみすみす逃す幻獣ではない。再び発生した無数の頭部が彼等に迫る。



『警告――駄目です、避け切れ、ません――ッ!』



 切羽詰まったカフカの声に、ベルが悲痛に目を剥く。

 横合いから頭の一つが振り下ろされ、グライダーをはじき飛ばした。

 一撃で翼が砕け散り、破片が舞う。グライダーは揚力を失い、煙を上げながら落下する。



『――分離――』



 白い大地に激突する直前に、カフカはグライダーからベルを切り離した。小柄な身体が支えを失い、空中を跳ぶ。意識が飛ぶ程の衝撃を受けながら、何度も地面をバウンドする。



「っ――ぅ!」



 ようよう起き上がったベルは、口元を覆い隠していたマスクを取り払う。

 露わになった彼女の口は、シエラの<ハーピィ>と同様の、銀色の金属で覆われていた。首元から耳にかけて銀色に浸食され、本来なら唇があるべき箇所には、両耳と顎の下に通じる裂け目が走っている。

 ベルはその口をしっかりと閉じたまま、必死の形相で視線を動かす。

 大破したグライダーは、ベルの側に無残に転がっていた。破片を撒き散らして転がった機体は、元の形が判別つかない程ぐしゃぐしゃに潰れている。

 ベルはグライダーだったものに抱きついた。崩れた機体に、黄緑色の光が明滅する。



『安堵――無事でしたか、ベル。よかった』

「っ……」

『大丈夫――悲しまないで。すぐに別のデバイスで救助に向かいます』



 悲痛な顔で涙を浮かせるベルを、カフカの機械音声が慰める。

 しかし、彼の優しい声に安堵する余裕はなかった。

 視界で、蕾型の触手が揺れている。新たに誕生した蕾は、意趣返しでも考えているのか、ベルに狙いを定めている。



『指示――逃げてください、ベル。できるだけ遠くに……シエラ様か、私のデバイスが来るまで、どうか』

「っ……ぃ、ゃ……!」



 ベルは首を振り、カフカの側を動こうとしない。小さな声で駄々をこねる度に、大地がひび割れ、小さな破壊の波動が起こる。

 嘲笑うように、蕾型の先端が向けられた。同時に幾本もの頭が津波になって迫り来る。

 彼女は立ち上がり、険しい顔で幻獣を睨み付けた。深く静かな呼吸が、彼女の小さな胸を震わせる。



『警告――いけません、ベル。フォトンエネルギーの展開ができません。制限無しでそれを解放してはいけない……ベル!』

「すぅ……すぅぅ……!」

『――シエラ様、すぐに退避してください! フルハウルです、ベルが制限無しで歌います!』



 カフカは即座に撤退を命じた。既に助けに動いていたシエラが、空中で急ブレーキをかける。



「嘘ッ――でしょお!?」



 疑問を挟む事もせず、とんぼ返りでベルから距離を取る。ベルを助けに向かう速度よりも、遠ざかる方が早い有様だ。

 あらゆるものを消滅させる音が、カフカによる制約なしに放たれようとしている。もしシエラの耳が、微かでも音を捉えることができたなら。その瞬間が彼女の死だ。

 カフカの制止に、ベルが耳を貸す様子はない。呼吸の度に、彼女の金属の口がチリチリと音を立てている。



『設定――エネルギーフィールド……』



 せめて大地の消失による落下死だけは防がなければと、カフカが残されたエネルギーを振り絞り、黄緑色の光を大地に広げる。

 頭の群れが視界を埋め尽くす程になり、地面を走る大轟音が迫る。蕾の先端が光を湛え、放出の時を待ちわびている。

 膝の前で拳をキツく握りしめ、とうとうベルが口を開いた。

 耳まで走っていた裂け目が開かれ、頬骨を構成していた金属が開かれる。四つに裂けた口が拡声器のように広がり、少女の顔をおぞましく歪める。

 人よりも、鋏角を広げた蜘蛛に似たフォルム。口と言うよりは砲台と呼ぶ方が相応しい。

 禍々しく破壊の権化たる口を開き、そこに深く息を吸い込ませる。

破壊の歌声が、解き放たれた。



「――あ、アアアアアアアアアアアアァーーーーーーーーーーーーーーッ!!」



 音の波そのものが、絶対的な破壊として広がる。

 地面をのたうっていた幻獣の頭部はたちまちに崩壊し、塵になって吹き飛んでいく。

 硬質な水晶の大地には立ち所に亀裂が走り、地鳴りと共にあちこちが崩れていく。

 あらゆる物質の存在を許さない破壊の歌。しかしそれでさえ、アロイの閃光を吹き飛ばすには至らなかった。歌によってかき消されながら、熱量に物を言わせて押し通そうとする。



 視界を埋め尽くす超大な怪物と、たった一人の少女。拮抗など数秒も持つ筈がない。

 ベルの表情が苦しげに歪む。身を折り畳んで肺を絞るも、無駄な足掻きにしかならない。

 とうとうベルは、その場に蹲り、音を途絶えさせた。

 肺を絞りきった彼女へ、真白の閃光が一直線に飛来する。



 身を覆い尽くす恐怖に、ベルはぎゅっと目を閉じた。瞼の奥の視界が白く塗り潰される。

 次の瞬間には、ベルの意識は漆黒の無に塗り潰され、そのまま消えてしまう――筈だった。





 閃光。轟音。空気が爆ぜる暴風。

 自分を包む途方もないその猛威を、ベルは感じる事ができる。

 眩い閃光が止んでも尚、ベルの薄い胸は呼吸を続けていた。

 感覚の全てが遠い。しかし、それは決して死ではない。

 ベルはぎゅっと閉じていた目を、恐る恐る開く。



「っ……」



 轟音に耳鳴りがして、閃光に目がかすんでいる。感覚の全てが朧気で、やけに静かだ。

 その静謐な空間に、男が一人佇んでいた。

 巌のように大柄な男だった。さらけ出された腕は丸太のように太く、佇む姿は一つの小山のようだ。短く切りそろえられた髪は、まるで獣の鬣のように見えた。



「……先ほどの攻撃は、君が?」



 男が振り返りながら、見た目とは裏腹の穏やかな声でそう問いかける。

 膝を折ったまま立ち上がれないベルに対し、男は唇の端を持ち上げて笑った。



「助かったよ。お陰で随分、狙いやすくなった」



 そう言う男の背後では、今まさに根元に大穴を穿たれた蕾型が崩れ落ちる所だった。

 男はベルの肩を持ち上げ、立ち上がらせた。無遠慮に身体を触り、怪我がないかを確かめる。



「見たところ、巻き込んではいないようだな……口のそれは、大丈夫なのか?」

「……、……」

「そうか。ともかく、無事でよかった」



 呆けた表情のまま、ベルがようよう頷く。男は獣のような肉体に似つかわしくない、慈しみのある笑顔で頷き返した。



 ――この男は、一体何者なのだろう。

 ベルの思考は完全に止まっていた。目の前の男の存在が理解できず、目が点になったまま元に戻ってくれない。脳内に疑問符がひたすら浮かんで、思考を埋め尽くしていく。

 自分を助けてくれたのだろう。閃光との間に立ちふさがり、蕾を吹き飛ばしたに違いない。僅かに残った閃光も、信じ難いことではあるが、きっと彼が受け止めてくれたのだ。

 けれど……自分の歌声は、周囲数キロを覆い尽くしていた筈なのに。

 この男は――一体いつの間に現れたのだろうか。



 ベルの疑問は、大地の震えによって強制的に中断させられる。

 幻獣は今なお健在だ。直ぐに新しい頭部が産まれ、破壊を再開しようと動き出す。



「全く、キリがないな……お陰で、全く飽きが来ない」



 地面から槍を産み出した男は、どこか楽しげにそう呟いて、幻獣に向かい立つ。

 遠くの大地で、少年が走り回って応戦していた。それに手を貸すべく、男が一歩踏み出す。

 すぐさま走りだそうという背中に、ベルは咄嗟に声をかけた――かけて、しまった。



「っま……まって」



 破壊の声が駆け抜け、大地が砕ける。

 男の大柄な身体が一度大きく揺れた。

 しかし、それだけだった。男は胸元を押さえながらも、苦笑して振り返る。



「ッ君の声は、随分と腹に響くな……どうした?」

「……!? ……っ!」



 ベルは驚愕を堪え、耳に付けていた無線機をひったくると、男に手渡した。男は奇妙な物を見るように眺めていたが、ベルのジェスチャー通りに、それを耳に嵌める。



『チェック――聞こえますか?』

「うおっ……ああ、聞こえる」



 聞こえてきた機械音声に、オルトは声を上げて仰け反った。



「紹介――私はカフカ。そこにいる少女、ベルのパートナーです。どうぞお見知りおきを」

「オルトだ。オルト・ディケンズ……不思議な声だな、何者だ?」

『割愛――説明すると長くなりますので、私個人の自己紹介は後ほど。まずは御礼をさせてください。ベルを救ってくださり、ありがとうございます』



 慇懃ながら、感情の浅い男性の声。奇妙な響きに、オルトは思わず聞き入る。



『懇願――怪物を倒す目的を同じとする同士とお見受けし、頼みがあります。手を貸してください。我々にはとにかく時間が足りない』

「馬鹿を言うな、俺はまだ戦える」

『反論――あなたのフィジカル上はそうでしょうが。あの金属生命体の目的は、この惑星の生物、及び惑星そのものの捕食です。奴は今、星の核に向かってゆっくりと沈下を続けています』

「沈下だと? ……核に到達すれば、どうなる?」

『返答――端的に言えば、この星は死滅します。奴は惑星資源を用いて自身を複製し、再び宇宙へと放流します。あの金属はそうやって自身を増やし、惑星を次々と滅ぼして回っているのです。時間的な猶予は、あと一時間ほどでしょう』

「なるほど、あまり猶予はない訳か」



 小さく舌打ちし、オルトは未だ蠢き続ける幻獣――幻獣を元に構成されたアロイを見る。

 幻獣が復活すれば、この世界は潰えると言い伝えられてきた。

 こんな僻星から崩壊が始まるのかと半信半疑でいたが……なるほど、予想と随分違うシナリオだが、あれを野放しにすれば、確かに世界は終わるだろう。

 少なくとも、このちっぽけな惑星で構成されている、自分の世界は。



「……分かった、共闘だな。こちらとしても望むところだ。だが、どうやる? アロイだか何だか知らないが、金属でできた生命体の倒し方など知らないぞ」

『解説――奴らには必ず、身体のどこかにコアがあります。其所を叩けば、奴の活動は停止します。超硬度の金属でできていますが、貴方の槍ならば問題ないと判断します』



 感情の籠もらない声ながら、オルトに対する期待だけは、不思議と伝わってくる。



『課題――必要な情報はコアの場所です。兎にも角にも相手が大きすぎます。こちらでは未だに、敵の全容すら把握できていません。貴方に情報の提供を希望します』

「……奴の全貌は、いわば巨大な樹木だ。一本の幹から枝葉が広がるように、無数の頭がついている。流石に生身の時は、にょきにょき新しいのを生やしたりはしなかったろうがな」

『補填――つまり、胴体は一つである、と』

「仮にコアが心臓であるとすれば、そこにあるはずだ」



 そうは言うものの……と、オルトはアロイの巨体を眺める。

 胴体があるとすれば、無数の頭部が絡まり合う、あの大渦の中心だろう。しかし回転する渦はミキサーと変わらない。無策に飛び込めば、立ち所にジュースにされるだろう。



『助言――何にせよ、動きを止める必要があります。表面に囚われずに、相手の懐に潜り込めるような』

「懐に、潜り込む……か」



 眉を潜め、髭の浮いた顎をざらりと撫でる。

 反芻したオルトは、傍らに佇んだままのベルに目を向けた。

 沈黙を貫いていた少女は、獣のような大柄な男に見つめられ、びくりと身体を震わせる。



「君の声の力は、さっき十分見させて貰った。まだ出せそうか?」

「……」



 緊張に胸の前で手を組みながらも、ベルはハッキリと頷く。



「よし、それなら、一つ頼まれてくれ」



 オルトはベルと、通信機の向こうのカフカに作戦を伝える。

 通信機の向こうで、カフカが深く唸るような気配を見せた。



『冗談――それを作戦と呼んでしまう、あなたの惑星の文明度を疑ってしまいますね』

「だが間に合いさえすれば、きっと上手くいく。いや、やってみせるさ」

『承諾――賭ける以外にはなさそうです。いいですね、ベル?』

「……」



 ベルが首を縦に振る。

 オルトは掌で槍を回した。ぱしんっと澄んだ響きが、彼の闘志を目覚めさせる。



「名残惜しいが、消えて貰おう――アロイとか言ったか。大物気取りの金属物に、目に物を見せてやるぞ」



 槍の穂先を輝かせながら、オルトは鋭い犬歯を見せて微笑んだ。




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