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5節


 シエラの武装<ハーピィ>は、とある鳥類をモチーフに生まれた武器だ。腕の形に収束している鱗状の細かい金属片を、自由自在に変形させる。範囲も距離も思うがまま。対応力の高さはカラドリオス内でも随一だ。

 アロイをベースに生み出された同等の硬度。展開の速度は毎秒二万回の振動に匹敵する。

 硬度と速度は力だ。アロイの寄生対象が伝説の幻獣であろうとも、不文律は揺るがない。

 長大な頭部に鎖が巻き付き、ギャインという凄まじい音を上げて千切り飛ばした。



「五つめ!」



 澄んだ声を張り上げたシエラは、背中のジェットエンジンをふかして、横合いから迫る頭部を避ける。

 肘の根元まで展開していた武装に意思を向けると、金属片はまるで生き物のように動き、シエラの腕に収束する。彼女の意思に忠実に従い、思い描いた形を創り出す。

 瞬きの内に、金属片の連なりは、鞭から長大なチェインソーに変形した。高速回転する金属片の連なりが、幻獣の頭部に放たれる。再びの閃光が弾け、筒状の頭部を中程まで切断した。ひらりと身を翻して放たれた二撃目で、確実に切断する。

 時にはしなやかに宙を踊り、敵を薙ぐ。かと思いきや、局所的に集中した一撃によって力任せに千切り飛ばす。状況に応じて自由自在に変質させながら、重力を忘れたように空中を舞う。

 シエラはまさしく、戦場に舞う白鳥のようだ。齢二十に満たない少女ながら、鋭い目は無数の修羅場を経験した自信に満ちている。

 威勢よく<ハーピィ>を繰りながら、シエラは耳に付けた無線機に呼びかける。



「アロイの状況はどう、ゼル?」

『想定通り、地殻を目指して()()中! ガラス状の大地に手こずっているけど、質量に物言わせてガンガン削っている!』



 幻獣は長い紐状の身体を絡ませて、絶えず動き続けている。金属の棘がついた残虐な表皮を回転させ、大地に鑢がけをしているのだ。

 傍目からでは分かりにくいが、放っておけば幻獣は下降を続け、この星のコアに到達する事だろう。そうなれば詰みだ。この星は手の施しようなく破壊される。



『現在、時速二〇〇メートルで緩やかに下降中! 討伐不可深度まで、およそ二時間!』

「時間は余裕ね――っけど、手数が足りない!」



 収まる様子のない猛攻をいなし、チェインソー状に展開した<ハーピィ>で、間合いに入った頭部を片っ端から切り落としていく。鼓膜をつんざくような金切り音に、花火のような閃光。金属製の巨大な頭部が、中程から断ち切れる。



 その切断面が、ぐにゃり――と不可解な動きを見せた。

 引きちぎれた筋繊維が蠢き、幾本もの管が、弾かれたようにシエラに襲いかかる。



「キモッ!?」



 シエラの反応は素早かった。顔をしかめた彼女は、<ハーピィ>を前面に展開。回転する刃で盾を作り、襲いかかる管を摺り下ろしてしまう。

 予想外の動きに周囲を確認すれば、白い大地の上を蠢く影がある。目を凝らせば、それはシエラが切り落とした幻獣の頭部だった。胴体から切り離された頭が、短い身体を芋虫のように這わせて動き回っている。

 その進行方向には、谷を越えた先にある森。早いものでは、もう谷の側面に身体をへばり付けている物もいる。



「<ハーピィ>より<ヴェルダンディ>へ! あいつら、筋繊維一本ずつが独立して動いてる! 切り落とした先端部が南東の森に向かってるわ! 数は十以上!」



 そう報告している間にも、幻獣の猛攻がシエラを襲い続ける。夥しい数の触手をいなすのに精一杯で、とても対応はできない。



『進言――シエラ様、ここは我々にお任せください』



 シエラの無線に、機械的な男性の声が割り込んでくる。同時にエンジン音が唸り、視界の端を黄緑色の光が駆け抜けていく。



「頼まれる? カフカ、ベル」

「……」



 グライダーの上に乗ったベルと視線が交差する。彼女は栗色の髪をはためかせながら、控えめに親指を立ててみせた。

 グライダーは幻獣の頭部の群れをかいくぐると、大地の数メートル上を低空飛行し、自立して動く破片へと向かう。



『確認――用意はいいですね、ベル』



 機体に走る黄緑色の光が動き、カフカが問う。口をマスクで覆ったベルは、小さく頷いてそれに答えた。

 白い大地に、黄緑色の光が走り。小さな頭部の群れが、みるみる大きくなる。

 尺取り虫のように身体を捩らせて動く大口の化け物は、見るに堪えない醜悪さだ。



『冗談――さあ、駆除の時間です。虫ですらない金属には、五分の情けも必要ありません』



 そんな流暢な前置きと共に、グライダーの両翼が持ち上がる。現れた排気口のような突起から、黄緑色の光が放出された。



『処理開始――フォトンエネルギー展開、位置指向性付与。球状展開、規定範囲三百メートル』



 グライダーを包み込む光の粒子が、カフカの意思によって凝固し、半透明に透き通った球状の膜を産み出す。

 地面を這っていた頭部達が接近する飛行体に気がつき、狙いをそちらへと切り替える。蠢く芋虫が、光の膜をすり抜けてグライダーへと飛びかかる。



『補足、補足――規定範囲を五百メートルまで拡張。補足、補足――』



 大地を駆け、光の膜を広げ、大口を開けて迫る頭部の全てを球状の中に閉じ込める。

 ベルが大きく息を吸い込んだ。キィン――という金属的な駆動音が、彼女の喉から鳴る。



『補足完了。今です、ベル――()()()!』



 カフカの声に呼応するように、ベルはぎゅっと目を瞑り、マスクの奥の口を開けた。



「ッァ――――――――!」



 放たれたのは、声と呼ぶには余りに圧倒的な破壊の衝撃。

 音速で大気を伝播する波は、軌道線上に存在するあらゆる物の存在を許さない。

 大口を開けていた無数の頭部も、光の膜がすり抜けていた白い大地も、死神の鎌に触れたかのように、内側から破裂し、即座に塵と化した。

 五百メートル先に音が届くまでの、推定約二秒。膜の内側が完全なるがらんどうになるまでに、それ以上の時間は必要なかった。後には、磨かれたように綺麗な断面を持つ半球状のクレーターがあるばかり。



『殲滅確認――今日も良い旋律です、ベル』



 カフカの賛辞に、ベルは小さく頷いた。グライダーは身を翻し、再び戦場へと舞い戻る。



『鼓舞――この調子で参りましょうベル。我々は優秀なコンビです』

「……」

『ほら、ご覧ください。あの少年も手を振って、我々の勇士を讃えてくれています』



 闘いはまだ終わらない。

 闘志はまだ潰えない。

 幻獣の驚異に立ち向かうため、少女は相棒の機械と共に空を――





『……疑問――なぜ、こんな所に少年が?』

「……」



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