大国の影 2
それから2日たった日の夜。明日は『サファイア』の王都へ帰る日だ。
あの事件以来、フォースとレアは口を利かなかった。
すれ違いの毎日だった。
そんな二人を心配してかフォースの許に4、5人の従者がやってきた。
「殿下。お願いでございます。」
「イヤダ」
「まだ何も言っておりません。」
従者達はこう言うと、一斉に土下座をした。
「!!?」
「お願いです!レア殿となにとぞ…なにとぞ仲直りなさって下さい!!」
「あのなぁ…(汗)」
頭に手をあて、困る…というか情けなくなるフォース。
幾度戦いを重ねてきた強者が女の為に(多分家来達はフォースの為)頭を下げているのだ。
情けなさすぎるが……嬉しく思った。
「…あ~もう…わかった!なんとかする!」
「殿下!?」
顔を見合わせ、喜び合う家来達。大きい老犬が嬉しがっているようだった。
なるべくそっちを見ないよう、フォースは苦笑いをした。
そして…面白半分で家来達に言った。
「ただし!俺が本気かどうか当てたらな。」
家来達は一瞬にして石化した。…一人を除いて。
その男はやって来た従者の中ではもちろん、きっとこの国へやってきた兵士の中でも一番の老兵だろうと思われる。
「恐れ多くも殿下。貴方様は本気でいらっしゃいます。いずれ「サファイア」の王となられる御方。大国の王妃の条件を満たしすぎているレア殿を放っておくわけありません。」
フォースはそれを聞くと、笑みをこぼしながら歩き出した。
そして部屋を出る際に老兵の方は見ずにこう言うのだ。
「満たしすぎている・・・か。確かにそうだよな。」
大国の王妃の条件―それは強いこと。
その強さの解釈は人それぞれだが、レアにはその強さを感じさせるものがあるのだ。
老兵が感じたレアの強さは、祖国の誇りを捨てず毅然と振舞う姿からだろう。
だが、フォースは違った。
レアのように真っ向から自分にぶつかってくる女など、フォースは出会ったことがなかった。
王都にいる時は黙っていても周りに姫や貴族の娘が集まっている程の強がつく女運の持ち主のフォース。
集まる彼女達の口から出されるのは、偽りの言葉。恋敵への嫌味。
くだらないものばかりだった。
レアのような女性はいなかったのだ。あんなに真っ直ぐに自分とぶつかる…否、向きあう者は。
つまり、レアはフォースにとって、新世界そのものだったのだ。
そしてその未知なる彼女に一言で言い表せない強さを感じた。
部屋を出たフォースは徐に城の中を歩き出す。窓の外はやけに明るい星達が大地を照らしている。
「腹をくくれよ。今から俺だけの光を手に入れに行くんだからな。」
と、意気込みをつけたもののレアの居所がさっぱり分からず、城中を歩き回る羽目になったのだった。