大国の影 1
女はか弱い。
そんな事はこの大陸、世界では通用しない。
女戦士の人数も多い。王と共に戦う王妃も多い。
大国の王妃の条件。それは強いことである。
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フォースがレアの国「フローライト」に来て2日たったある日のこと。
息を切らして一人のサファイア兵士がフォースの執務室としている部屋へやって来た。
「殿下!!」
「なんだ騒々しい。」
あからさまに嫌そうに返事をするフォース。昼食後の満腹感に浸っている所だったのだ。
「大変!大変です!陛下がお見えです!!」
「なんだと!?…くそっ!またか!!!」
陛下―つまりフォースの父であるサファイア国王だ。
今と比べ小国だった「サファイア」を継いで、たったの数年で近隣諸国を滅ぼし併合せしめ、大国を築いた男だ。
そんな栄華を極めた頃とはうって変わって、現在は息子のフォースに戦をさせ、滅ぼした国全てから王家の姫を嫁がせ、ハーレムを築く中年の男…ただのおっさんに成り下がっていた。
フォースが忌々しく「またか」と言ったのにはこういったわけがある。
例にもれず今回も王家の姫を見繕いにきたのだ。
食後のコーヒーが来るのを待たずして、フォースは急ぎ部屋を後にした。
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「お前がこの国の王だった者か。」
「はい。お会いできて光栄です。サファイア王」
そう言ってレアの父―フローライト王はお辞儀をする。そして隣にいるレアも一緒に頭を下げた。
形式ばった挨拶だが、礼儀を重んじるレアの父に対し、そんなふたりを見るサファイア王の瞳は、完全に見下した瞳だった。
「私がここに来たのは他でもない。王家の姫を一人差し出せ。」
顔をあげたフローライト王に、これまた見下した様にサファイア王は言う。
「差し出せぬなら王子が何と言おうとこの国を焼く。」
フォースは戦はするが、国土もろとも滅ぼすことはしなかった。
形式上は「滅ぼして」いたが、それはその国をサファイアの属国にするといった処置だ。
それを覆すような、サファイア王の発言。
無言でレアが一歩前に出た。
「レア・・・」
「ここを焼かれたくはありません。どうか行かせてください。……それに姫は私しかいないわ。父上。」
「レア…何を言って…」
レアは心配する父に背を向けサファイア王を見た。
今までの言動すべて、許せなかった。こんな王より、ボンクラ王子の方がマシだ。とも思った。
視線の先には顎鬚に手をあて、品定めをするように自分をみてくる中年オヤジ…もといサファイア王。その容姿はフォースとは似ていなかった。遺伝子の神秘かそれともにじみ出る性格のせいなのか。
「レアと言うのか。4、5年したらいい女になるだろう。」
品定めを終えたのかそう言いつつレアの顔に手を伸ばすサファイア王。
それを(超絶に)拒否しようと、レアは言った。
「フォース王子とは似てらっしゃらないのですね。」
「あいつは母親似でな。」
止めた手を再びサファイア王が動かした時、
「レア!!」
レアの名を呼ぶフォースが響いた。ハッとして動きをとめるくらいの大きな声に驚いたレアだが、
それよりも名前で呼ばれたことへの驚きもあった。
サファイア王とレアの許へたどりついたフォースはサファイア王の手を防ぐように、ふたりの間に身体をいれる。
「今いる側室の方々ではご不満なのですか?父上。」
「王子よ…無粋なことを申すな。はべらす女子の数が多いは力ある者の証ぞ。」
「(そんなこと聞いたことねぇよ。)…ですがレアには手を出さないでいただきたい。昨晩、私は彼女と結婚の約束をいたしましたので。」
フォースの言葉にレアの父からフォースの従者、皆が驚いた。
レアに至っては固まってしまっている。
昨日の晩といえば間違えてフォースがレアの部屋に入り、深夜にも拘わらず、大声で喧嘩をしていた。
という出来事があったのだ。
つまりは、結婚など嘘の発言なわけだが、サファイア王はそんな事など微塵のカケラも知る訳がないので……
「な、に?…珍しいではないかフォース!お前の方から女子に手をつけるとは。」
見当違いに喜んだ。
「えぇ。まぁ。」
発言の低レベルさにあきれ、かける言葉もないフォース。
「やはりお前も、わしの子。血は争えんな。」
息子の心中など知る由もなく王は嫌味まじりにそう言いのける。
気分を害すサファイア王の言葉にフォースは言葉を出さないでいた。
今は我慢しなければ、どんな罵声を浴びせてしまうか分からない。
うっすらと笑みを携え耐えるフォース。
「王妃も喜ぼう。戻り次第、急ぎ婚儀の仕度を整えねば!」
満足気にそう言ってサファイア王は馬車にのり帰っていた。
砂煙をあげて走り去る馬車の姿がみえなくなると、携えていた笑みを一気に崩し、
「てめぇと一緒にすんな!!エロジジイがっ!」
我慢していた罵声も一気に吐き出した。
忌々しい気持ちを吐き出すようにふーっと息をついたところで、
「こぉんの!ボンクラの上にバカ乗っけた王子!!」
「何だそら。」
響き渡ったレアの怒号。あまりのいわれように、思わずつっこんでしまった。
「何でアンタなんかと結婚しなきゃならないのよ!」
怒る怒る。レアは大声でフォースに怒鳴なりちらす。
怒りで我を忘れている様子のレアに、正攻法ではなだめられないと思ったのかフォースは
「俺じゃ不服か?」
とすけこました発言をしてみたものの、効果はもちろん逆に働いた。
「ちっがーーーーうっ!!!」
更に響き渡るレアの怒号。
結婚という女の性を持つ者にとって一大事のことを、たったの数秒単位で決められたのだ。
しかも自分の国を滅ぼした男で、なおかつ自分が男して認められない男にだ。
さらに怒鳴ってやろうとした所、フォースが溜息混じりに話だした。
「まったく…世間知らずの血統書付のじゃじゃ馬だな。お前は。」
「何よそれ!」
言い訳かと思いきや、小バカにしたその言い草にすかさず突っ込むレア。
しかしフォースは同じトーンで続けた。
「王の後宮に入ると、もう一生外へは行けないし、王以外の男には会えない。それに他の側室たちにいびられる。陰湿だぞ、あそこは。」
フォースの言葉を聞くたびにレアの顔は暗く、引きつっていった。
小国育ちのレアにとって、大国の後宮は未知であり、恐怖の世界に聞こえたのだ。
自由奔放に動き回っていたレアには信じられなかった。
「まっ、助かったと思えよ。あのエロジジィより俺の方が幾分かはマシだ思うぞ。」
「自分で言わないでよ!それに…マシとかそんな問題じゃないわ…助かる訳ないのよ…」
下を向いたままレアは言った。震える声を絞り出す。
「なんだと?助かる…」
「助かる訳ないじゃない!」
フォースが何か言いかけると、レアは顔を上げ、その言葉に被せるようにフォースに言った。
「助けたつもりなら私たちの国を返して!!今までの生活を返して!!…貴方に国を滅ぼされた…その時から私はもう助からない!」
泣きかけた瞳で叫ぶようにフォースに言葉を投げつけてレアはその場から走り去った。
「んだよ…。助からない訳ないって?そんなことあるかよ。生きてんだから…」
レアの言葉が重くのしかかったのか、それを否定するフォースの言葉に力はなかった。




