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星の欠片  作者: こもれびの空


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未来へ

 月夜の求婚から三カ月後、ジークフリート皇帝とセーラ公女の結婚式が華やかに行われた。各国からの王族も祝いに駆け付けてくれたが、ジークフリートにとっては、共に苦労したローラン王との語らいのひと時は、久しぶり肩の力を抜く友との語らいとなった。


 プロイセン王国の若き王となったローランとジークフリート、それにシーフは、あの鉱山の戦いの折に義兄弟の契りを交わした仲だ。あれ以来、およそ二年以上の月日が流れた。


 ジークフリートもローランも即位して三年目を無事に迎えられそうだ。お互いの国もようやく落ち着きを取り戻しつつある。


「それでローラン、プロイセン王国に何か問題は起きていないのか?」

 ジークフリートの問いかけにローラン王はのんびりと返事を返した。


「ああ、ありがたいことに目に見える脅威はないかな。こっちのシオン・フォン・ローゼンベルク伯爵が立ち上げた諜報機関『氷河の牙』も、それなりに形になって来た。立ち上げの時には貴国にも世話になったからな。彼らからも特に問題はあがっていない。ジークは何か気になる事でもあるのか」


「いいや、しかし自分で粛清を行っておきながら、それ自体が敵の思うつぼに嵌ったような後味の悪さがあってな。こんなことは臣下の前では決して口には出来ないが」


「それだが、既に婚姻の慶賀による恩赦で、多くの者が罪を許されている。そこまで気に掛けることはないのではないかな。『漆黒の梟』の長として申し上げれば、現状、目に見える脅威は存在しない。それが不気味ではあるがな」シーフはジークフリートを宥めた。


「ジークの結婚式は、随分変わっているな。結婚式と言うよりも祭りだ。民は喜んでいるだろう。本来は式典に掛ける費用を、随分民に還元したみたいだからな」


 ローランが呆れたような感心したような口ぶりで呟いた。事にノアロー街の発展は目を見張るものがある。魔力が重要視されるここアストラル皇国で、無魔力の民が、ああも生き生きと働いていることは、驚嘆にあたいする。


「それは僕の成果じゃない。レオニス皇帝のおかげだよ。この結婚式の様式はレオニス皇帝の宰相だったソラ公爵の功績だ。彼の系譜は残らなかったがな。女児しか生まれず、しかもその女児に婿を取らせることもしなかったらしい」


「珍しいな。家を残すのは貴族の悲願でもあるだろうに」ローランはあっけに取られている。


「ああ、それならこの本を読むといい。一冊持って帰れ」

 シーフは卓上にあった「異世界人マニュアル」という本をパラパラめくりながらそう言うと、そのままローラン王に手渡した。


「異世界人マニュアルとは、題名だけで面白そうだ。読ませてもらうよ。治世の役に立ちそうだ」


 ローランはそう言って楽し気にジークフリートを見た。どうやらジークフリートの新婚生活に興味があるらしい。ジークは揶揄われる前に、ローランにせっせと酒を勧めている。こうして男たちの酒宴は穏やかに過ぎていった。



 それから更に二年。即位五年目の年、セーラは男の子を出産した。ジークフリートは大いに喜んだが、民は喜びを爆発させた。これでアストラル皇国は安泰だとお祭り騒ぎになっている。


 セーラはまるで陽だまりのような温かい寝室で、息子の寝顔を見ていた。アストラル皇国の直系に相応しい黒髪と黒い瞳。まだ目もそれほどは見えていないだろうに、熱心にセーラの顔を見つめている。


「セーラ。ご苦労様。本当にありがとう。民達の騒ぎを聞かせてやりたいよ。喜び過ぎて大騒ぎになって治安部隊まで出動しているよ」

 ジークフリートはセーラの髪を優しくなでながらそう言った。


「ようやくのお世継ぎですからね。何よりも魔力不足が解決しそうで喜んでいるのでしょう?この子も生まれた瞬間から皇家の者としての役割を期待されているのですね」


「それは仕方が無いことだ。民を守るのが始祖さまからの伝統だからね。どうだい選んで欲しいのだけれど、名前を二つ考えたんだ。偉大な皇帝レオニスの名前を頂く。そうするとこの子は後にレオニス二世と呼ばれるだろう」


「もう一つのお名前は?」セーラが聞いた。


「僕の親友で義弟のローランの名前を貰うのさ。あいつは嫌がるかも知れないけれど。僕は彼の真面目さと公正さ、そして向上心を尊敬しているのだ」


「レオニス皇帝陛下のお名前は重すぎる気がします。私もローラン王は好きですよ。すこしお茶目で羽目を外しすぎるところもありますが、重責を担うこの子には、そんな軽さがかえって生きやすいかもしれませんから」


「それじゃぁ決まりだね。この子はローランだ。皇子ローラン。父上だよ。早く父上と呼んでおくれ」


 そう言ってジークフリートが皇子ローランの頬を突くので、セーラは慌ててそれを止めた。


「止めて下さい。ローランは生まれたばかりですよ。何も分からないのですから。」


 だが、そう言われた皇子ローランは、黙ってジークフリートを見つめていた。まるで何もかも分かっているかのように。


「そう言えば、君を驚かせる話があるのだ。どうせシーフは言わないだろうし、シャルロッテも恥ずかしがるだろうから、僕から教えるね。セーラ、君はお姉さまになるようだよ。シーフとシャルロッテに子供が出来たらしい。出産は来年の二月ごろ。冬に生まれる子供は忍耐強いと言われているね。驚きだろう?シーフも驚いていたよ」


 セーラは驚きすぎて何も言えなくなった。そんな馬鹿な。セーラは十九歳だ。弟妹が生まれるころには二十歳になっている。二十歳も年下の兄弟。自分の息子よりも若いのだ!


「男の子ならきっとローランの良き側近になってくれるだろう。女の子なら将来の皇后候補だ。どちらにしてもおめでたいことだよ」


 ジークの朗らかな言葉に、セーラもようやく声を出せるようになった。


「仰る通りですね。私の弟か妹が出来るのですね。お父さまとお母さまに、お祝いを言わなくてはいけませんね」


 その後ジークは自分の秘書官であるルシアン・フォンヒースクリフ子爵をローランの守役に付けると言ったからセーラは驚いた。ルシアンは自分とそんなに年も変わらない。普通は守役は年配の重臣が就くものだからだ。


「最初はフセイン公爵にお願いしたのだが、公爵は貴族院委員は役職に就かない慣例だと言って断ってね。代わりにルシアンを推薦してきたのだ。自分の持つ子爵位までルシアンの分け与えてね。確かにルシアンは有能だからね。それでルシアンに任せることにしたのさ」


「ねえ、ジークフリート。大精霊様が約束したあの日から五年が過ぎました。十五年後にはローランは成人し、その参謀役はルシアン。そして神龍と若き青龍が人間界に戻ってくるわ。大精霊様が約束した青龍の番には大精霊様の守護が頂ける」


 セーラの言いたいことが分かったのだろう。ジークフリートも頷いた。


「十五年後には、あのヴァレンティア公爵家の麒麟児サイラスも、立派な青年公子になっている。そしてこれはまだ確かではないのだが、ブルーノお祖父さまが、ずっとルーナ皇后の転生者を探していたのは知っているだろう?」


「まさか!見つかったのですか?」セーラが仰天した。


「いいや、第一ルーナ皇后が転生していたら、即座に神龍が動いた筈さ。子供を連れ戻すくらい時間はかからないからね。これは別件だ。転生者の赤ん坊の特徴を覚えているかい?」


「あまり泣かない。聞き分けが良い。言葉を理解しているのではないかと思われる反応、でしたね。そんな赤ん坊が生まれれば報告することになっていますよね」


「親が報告することはあまり無いが、周囲にいるものが情報を寄越す。違っていても謝礼がでるし、罰則もないからな」ジークフリートは頷いた。


「ノアロー街にね。不思議な子がいるらしい。赤ん坊なのにね。人の言葉を理解しているように、視線を動かしたり、手を握り込んでいるそうだ。両親とも無魔力者なのだが、その赤子の潜在魔力は膨大らしい。半年前に生まれたセドリックという男の子だ。しばらくは漆黒の梟の監視下に置いている。会話ができなければ、それこそ話にならないからな」


「では皇室に取り込むのですか?」


「難しいね。金髪に青い目なんだ。その子はね。転生者だから。さすがに皇家に取り込むのは難しいが、皇子ローランの側近になってくれるだろう」


 若き皇帝と皇后は十五年後の未来を想った。十五年後にはかなりの人材が揃うだろう。ずっと守勢に立たされてきたが、十五年後には、反転攻勢のチャンスが訪れるかも知れないのだ。


 外からはまだ皇子誕生の熱気が伝わってくる。私達の皇子ローランは、もしかしたら皇国の救世主になるかも知れなかった。二人はお互いを見つめ合っていたから、生まれたばかりの息子が、じっとそんな両親を見つめているのに気がつかなかった。


 鐘楼の鐘が皇子誕生を知らせている。皇都に鐘の音が響き渡っていた。



       ___________完___________

 アルフェ大陸物語シーズン4「星の欠片」を、お読み頂き,ありがとうございました。長い物語にお付き合いいただき感謝いたしております。


 今回お話はシーズン1「攫われた皇帝の孫娘」から半世紀。アーサー皇帝とリゼ皇后の孫、ジークフリート皇子と,参謀ノアと聖女サトリの孫、セーラ姫との恋物語。


 そして老公ノアと,その友人たちの友情。時の女神という強敵,との戦いの物語でした。そして時の女神との戦いで生き延びる事が出来たのは、シーズン3「皇子さまは今日も最弱娘に振りまわされる」のヒロインであるルーナが残した誓約の掛かった絵でした。


 このように各シーズンに残した小さな欠片が、次のシーズンで大きな意味を持つこともあります。


 シーズン5は「青龍と大精霊の愛し子」では、シーズン2のメインヒーロ神龍ニルヴァとその番リゼリアの息子セレスタイト(通称セレス)と今回お楽しみいただいた大精霊が愛し子として祝福を与えた娘ナナとの恋物語。


 果たして大精霊の愛し子の力とは、どのようなものなのでしょうか?

 皇子ローランの出生の秘密。新たな転生者の役割とは?

 シーズン5も波乱含み。

 新シーズン「青龍と大精霊の愛し子」どうかお楽しみに。

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