プロローグ
1921年のアメリカが舞台です!
目が覚めると、寝室は草でいっぱいだった。
うっそうと生い茂った植物のツタやツルが、部屋全体を覆っている。床も壁も天井もベッドも、毛細血管のように広がった植物が、ほとんど隠してしまっている。
まるで森の中に紛れ込んだみたいだ。
「…………………………」
私は起き上がろうとした。
だが、身体がベッドに縫い付けられたみたいに動かない。
植物が、私の身体に絡みついている。
クモの巣にかかった虫のように、私は動くことができない。
なぜだろう。
何が起こっているのか、どうしてこうなったのか、思い出すことが出来ない。
だが、このままではいけないのは、わかる。
どうにか、しなくては。
私は身を捩った。
身体に巻き付いたツタを、少しずつちぎってやろうと思ったのだ。
すると、首筋にそれはもう凄い違和感があって、私は固まった。
なんというか、動くと首の皮も引っ張られるみたいな。
これ以上動くと、何かが千切れそうな感覚だ。
首を——触ってみる。
ツルツルした、瑞々しい草の触感があった。
「——何か、生えてない?」
私はつぶやく。
壁に刺さった釘みたいに、植物の束が、私の首から生えていた。
大体手首くらいの太さの茎だ。
それが——私の脊髄のあたりで肉に埋もれている。
人間の肉と、植物の茎が、奇妙に融合しているような状態だ。
気持ち悪い。何だこれ?
何かがあって全ての経緯を忘れていた私は、何も考えずに全力で、その植物の束を引っ張った。
すると、思ったよりも呆気なく簡単に、それはブチッ! と音を立てて、私の首から引き抜けた。
痛みは——ない。
私は引き抜いた「それ」をしげしげと眺めた。
それは、一輪の花だった。
雪のように白く、氷のように透き通った、星型の花だ。
その花から幾筋ものツタがあちらこちらに伸び、それで部屋全体の森を作り上げているようだった。
「ふう……何、これ?」
私は花をプラプラとふった。
上手いこと抜けたので、何となく達成感を抱いていた。
しかし——
「う、うえっ」
瞬間体を襲ったのは激しい嘔吐感と、酩酊する感覚だった。
それは酒を飲みすぎて寝落ちする時に近い。
頭がグラグラ揺れて、意識がパチパチとついたり消えたりする。
どうも花を抜いてはいけなかったようだ。
せっかく目が覚めたのに、私はまたもや気絶しそうになっていた。
「……お、お、思い出したわ」
そのショックで、私の記憶は蘇った。
「これは——私が求めた力だったわ」
そうだった。
そうだった。
全てに抗い、気に食わないやつをぶっ飛ばす為に、私はこの花を求めたのだ。
せっかく手に入れたのに、それを手放すのは馬鹿すぎる。
完全に意識を失う直前、私はやるべき事をやる事にした。
ミスの精算だ。
恐怖で手が強ばる。
しかし無理やり、手に持った茎を、再び首にあてがう。
痛みはない。
花は奇妙にズルズルと動き、再び私の体内に寄生していく。
気持ち悪い。だが、それは必要な気持ち悪さなのだ。
とうとう意識が暗転する瞬間、私は固く決意した。
起きたら、今度こそやるべき事をやろう。
次に目が覚めたら——絶対"あいつ”を殺してやる。




