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雨の中の出会い

初めまして。本作を開いていただき、誠にありがとうございます。

最強の暗殺者が普通の学園生活を送ろうとする、少しドタバタな物語です。

少しでも楽しんでいただければ幸いです!

廃墟となった倉庫には、立ち込める灰の匂いと、それに抗うような生臭い血の匂いが充満していた。

山田リオ、十八歳。彼は数百もの死体の真ん中で、静かに佇んでいた。その瞳は空虚だ。喜びも、怒りも、憎しみすらない。それは、ただ与えられた任務を遂行し終えた直後の「機械」の瞳だった。

「最後の任務」は完了した。三十分前まではそう思っていた。しかし、物心ついた時から組織に人生を捧げてきた彼への報酬は、金でも自由でもなかった。それは、使い古された『兵器』を処分するための、数百発もの銃弾の雨だった。

彼らは彼のことを『コード000(トリプルゼロ)』と呼んだ。完璧な暗殺者として洗脳され、育て上げられた孤児。だが、組織は決定的な計算違いをしていた。この肉体のポテンシャルを、あまりにも過小評価していたのだ。

リオの身体は異常だった。筋肉、骨、そして神経系。すべてが常人の数十倍の速度で反応する。一発目の弾丸が空気を切り裂いた瞬間、彼の体は野生の生存本能に従い、勝手に動き出していた。

そして始まったのは、一方的な虐殺。狩られるのは彼ではなく、粉砕されるのは奴らの方だった。

リオは血に染まった自分の手を見つめた。激戦で黒いジャケットはボロボロになっていたが、その下の傷跡は気味が悪いほどの速さで塞がっていく。帰るべき家族も、次の目的も、明日何をすべきかという思考さえも、今の彼には何一つ残っていなかった。

青年は燃え盛る炎の中から歩み出た。降り出した雨に顔の血を洗わせながら、当てもなく歩き続ける。幾つもの通りを過ぎ、どこへ向かうかも分からぬまま。魔物のような強靭な肉体は、戦闘による負傷には決して屈しなかった。しかし、十八年間積み重ねてきた『虚無』と、蓄積された疲労には抗えなかったのだ。

次第に足は鉛のように重くなり、視界が滲み始める。郊外の闇の中、一軒の家の窓から漏れる微かな灯りが、彼の瞳に映り込んだ。

それは、冷酷な暗殺者がつい油断してしまうほど、奇妙に温かい光。

――ドサッ!

コード000の体は、その家の門扉の前で力なく崩れ落ちた。地面を叩く雨音と共に、最後の一筋の意識が闇に消える。

殺戮兵器としての人生が幕を閉じ、彼が一度も知ることのなかった「新しい人生」の夜明けが、今まさに始まろうとしていた。

「ちょっと出かけてくるね、お母さん!」

少女――ユミは、玄関で靴を履きながら母親に向かって叫んだ。

「ユミ、どこへ行くの? 外はひどい雨よ」

キッチンから驚いたような母親の声が返ってくる。

「学校に忘れ物しちゃって!」

「こんな遅くに? 明日でもいいじゃない。明日はお休みでしょう?」

「すっごく大事なものなの! すぐ戻ってくるから!」

少女は頑なに言い張り、傘を掴んだ。

「もう、この子は……」

母親は呆れたようにため息をつき、顔を出した。

「早く帰ってくるのよ。気をつけてね」

「はーい!」

ユミは重い扉を押し開けた。しかし、家の前の鉄柵越しに視線を向けた瞬間――激しい雨のカーテンの向こう、地面に倒れ伏している『何か』を見て、彼女の手から傘が滑り落ちた。

「きゃああああああっ!」

娘の悲鳴が雨音を切り裂いて響き渡る。家の中にいた両親は飛び上がり、血相を変えて玄関へ駆けつけた。

そして二人もまた、驚きに目を限界まで見開いた。そこには、ボロボロになった黒いジャケットを着た見知らぬ青年が、ピクリとも動かずうつ伏せに倒れていたからだ。

咄嗟の心配から、三人は立ち止まってはいられなかった。ユミの父親は急いで、氷のように冷たく濡れそぼった青年の体を抱え起こし、どうにか家の中へと運び入れた。

リビングのソファに彼を寝かせる。明るい照明の下で、衣服にこびりついた生々しい血痕が露わになった。不思議なことに、あれだけの血の量にもかかわらず、その体には致命傷らしき傷跡は見当たらなかったが。

「お父さんとお母さん、救急箱とタオルを持ってくる! ユミは少し彼を見ていなさい!」

両親は慌ただしく別の部屋へと駆けていった。

リビングには、ソファの横で膝をつくユミだけが残された。彼女は、静かに目を閉じている謎の青年の顔をまじまじと見つめた。

端正な顔立ちだが、どこか奇妙なほど冷たい雰囲気を纏っている。好奇心と心配が入り混じり、少女は思わず手を伸ばした。顔に張り付いた濡れた前髪を払い、熱がないか確かめようとしたのだ。

だが、彼女の指先がその頬に触れるほんの一瞬前――。

ガシッ!

先ほどまで全く力の入っていなかった手が跳ね上がり、まるで鋼鉄の万力のようにユミの手首をきつく掴んだ!

少女はビクッと体を震わせ、心臓が冷たくなるのを感じた。手首を握る力は暴力的で、痛みが走る。気を失っているはずの身体が、殺戮兵器としての野生の生存本能だけで反応したのだ。

青年の暗い瞳がゆっくりと開かれた。そこには混乱や寝ぼけた様子など微塵もない。

あるのはただ、心臓が凍りつくほど冷酷な警戒心と防衛本能だけ。彼は少女を真っ直ぐに見据えた。コード000の瞳が『標的』をロックオンする。そして、ひび割れた唇が微かに動き、氷のような声が紡ぎ出された。

「……お前は、誰だ」

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

ここからリオの新しい生活が始まります。

もし「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、

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