12:癒しの副神官長
「アメリア聖女、よろしいですか?」
「はい、もちろん」
メリトゥス副神官長の美しい声にも癒される。
ゆったりと始まったワルツを、メリトゥス副神官長は、司祭服のまま器用に踊りだす。
「クリスタル・パレスに入ってから、ちゃんと体を休めることはできましたか?」
「はい。儀式が終わった後、想像以上にすべきことが多かったので、くたくたでしたから……。ベッドにはいると、気絶するように眠ってしまいました」
「そうなのですね。それなのにいきなり舞踏会。今日はくれぐれもご無理をなさらないでくださいね」
メリトゥス副神官長……!
ゲーム通りの癒しの存在だ。
本当に良かった。
ホッとした瞬間、君ヒロをプレイしている時から気になっていた疑問を、メリトゥス副神官長本人に聞いてみたくなっていた。ゲームでは語られない内容だから、答えてくれないかもしれないけど……。
思いっ切って、聞いてみることにした。
「あの、メリトゥス副神官長様、お聞きしたいことがあるのですが」
「何でしょうか、アメリア聖女」
メリトゥス副神官長は限りなく優しい顔で微笑む。
「その、メリトゥス副神官長様は神に仕える身なのに、なぜこのクリスタル・パレスに来ることにされたのですか?」
そう。
聖女は聖なる力を目覚めさせるために、愛する人と結ばれる必要がある。でも副神官長という立場の彼は、主に仕える立場。本来なら一生独身を通すのが恒例なのだ。それなのにメリトゥス副神官長は、クリスタル・パレスにいるのだ。一体なぜなのか。
これは君ヒロファンの間でも長年の謎だった。
「その疑問をお持ちになるのは尤もですね。でもそこまで難しいことではありません。僕はただ、聖女様の、アメリア聖女の力になりたい、助けたいと思っただけです」
「力になる……。助ける……」
メリトゥス副神官長は、静かに頷いた。
「真の聖女となるためには、聖なる力が必要です。聖なる力はこの国の人々を助ける大切な力。そしてこの力を手に入れるためには、真実の愛を知る必要があります。その真実の愛を知るお手伝いをしたいと思ったのです。そしてその愛を知った後も、あなたを支え続けたい。アメリア聖女と生きていきたいと思ったのです」
「なるほど……!」
メリトゥス副神官長は……なんて立派な人なのだろう。
この国の人々を助けるために必要なのは、聖なる力。この聖なる力を私が手に入れられるよう、自身の信仰を犠牲にすることを、厭わないと言うのだから。
この話を聞いて、メリトゥス副神官長に対する見方が、癒しの存在から尊敬できる存在に変わった気がする。
「メリトゥス副神官長様のその考え方に、深い感銘を受けました。とても尊敬します」
「そう言っていただけると、嬉しく思いますよ、アメリア聖女」
穏やかに微笑んだメリトゥス副神官長を見ていると。
このままもし、この落ち着いた関係でいけるなら。
メリトゥス副神官長のことを、恋愛対象として見ることも、ないのではないか。尊敬する相手として結ばれれば、私は聖なる力に目覚めることはない……!
そう思ったものの。
メリトゥス副神官長を選べば、それは多大な迷惑を、彼にかけることになるのではないか? 聖女は青い百合の聖痕がある時点で、純潔であることが確認されている。
一方のクリスタル・パレスにいる男性もまた、女性経験を持たない男性が集められているはずだ。なにせ国王陛下直々に選ばれた男性なのだから。それなのに聖女が聖なる力に目覚めないとなると……。
原因の矛先は、男性に向けられる。メリトゥスは副神官長という立場。それであっても、本当は女性経験があったのではないか?と疑われる可能性がある。さらに本心から聖女のことを好きではなかったのではないか?と批判される可能性だって考えられた。
尊敬すべきメリトゥス副神官長が、この国のすべての人から疑われ、私がのうのうと生きるのは……。
無理だ。そんなことはできない。
「もうすぐ終わりですね。アメリア聖女、僕と踊ってくださり、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」
曲が終わり、優美にお辞儀をするメリトゥスを見るにつけ、実感する。
この人を傷つけるわけにはいかないと。
おはようございますっ!
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次回はお昼に11時後半~12時前半で更新しますー。
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