表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/212

8.移ろい変わる心

残酷では有りませんが、気持ち悪い表現の描写が入ります。ご注意を。

『主人公』と『サポートキャラ』の『話し合い』です。

季節は廻り、少し風が冷たくなった秋。

王子の誕生日パーティなどと言うリア充会に出かける資格が無い私は、

当然留守番だった。

勿論、行って婚活に励めと言う指令も無い。

隠れイベントより酷い婚約破棄が有ってからも、

義理の両親から捨て置かれている。

特に上にも下にも置かない。

役に立つ内は置いておいてやるというその姿勢はいっそのこと清々しいわ。



で、因みに主人公であるロージアは、当然ながら紹介状をゲットしている。

やれやれ...。やっと王子を真剣に追いかけ始めて良かったけど...。

そしていつも通り、様々な助言を求められた。

王子の好きな衣装、アクセサリー、会話の持っていき方…。


私はそれらを知っている。

だって私は全てをクリアしていたから。

脳内に焼き付いている。諳んじることも可能だ。

午前様でクリアしたゲームへの執着を舐めないでほしい。

念願の、マトモなサポート業務…。

でも…。


「無償過ぎね…ご飯くらい奢って欲しいものだわ」



応援していた。

話を聞くのはなんだかんだで楽しかった。イラついたけど。

だけど、ロージアは貪欲になって来たのか、この頃全く遠慮がない。

好きな時に来て、聞きたい事だけを聞き、

私の事など見向きもしないで帰っていく。


「サポートキャラって寂しいわね…」


前世で主人公を操っていた身として、ちょっと反省した。

便利な道具扱いをして、友達扱いしていなかったんだ…。

義理の両親と変わらないじゃないか。

身を以てよく分かった。



そして、誕生日会が終わった日。

訪れたロージアはこう言い放った。


「ローディ、素敵な人に会ったの」

「…貴女の素敵な人は王子様でしょ」


何?また目移りしてるの?と一瞬思ったけど、違和感を感じる。

何時もの…無邪気と言うか、空っぽな笑顔じゃない。

…ロージアの様子がおかしい。


今日も一方的に訪れたロージアは、頬を茹でられたように赤して…

目はトロンとしているのに、ギラギラしていた。


何これ、こんな主人公の表情ゲーム上に有った?

いや、勿論ここは現実だから律儀に固定された表情やってるのは

私くらいなんだけど。

別に好きで私もやってないけど…。


初めて見る筈だ。

なのに、私は…この顔を、こういう表情を観たことある。


「違うの、氷のような青い瞳、燃えるような赤毛の男性よ」


そうだ、…幼い頃、義兄…いや、義姉に覆い被さっていた、年嵩の子供。

義姉を見る大人達の顔。

魅了に理性を焼かれて欲望をむき出しにした…あの、顔。


どうしてだ。

義姉は…魅了封じをしてるんじゃないの?

どうして?

どう見ても…魅了を抑えられなかった遠い昔に見た顔そのものじゃない。


「……」


ロージアの目から目を反らした私の目に入ったのは、

いつも通りロージアのパラメータ。

そう。私はこれで状況を判断している…。

何時も見慣れた…筈なのに。


何だこれは。

ロージアのパラメータは、ステータスは…見知らぬもので覆われている。

赤や青や黄色や…数えきれない程の色がまだらに混じり、

歪んだ形のハートマークがびっしりと…。

…スキルも何も塗り替えるかのように…

気持ち悪いくらいに張り付いて、蠢いていた。



……こんな画面は初めて見た。

…何これ。こんなの知らない。



だが、辛うじてハートに塗りつぶされていないスキルが見える。

あの位置は隠れスキル『雨の器』…の筈。

だが、それは…すっかり変形してスキル『移り気』になっていた。


この国で「雨の器」と呼ぶ花があり、アジサイに似ている。

前世でよく見たポピュラーなアジサイのように丸く咲かず、

少し頂点が凹んだように咲くその花は、

雨を沢山受ける器のようだから名付けられたんだそうだ。


その花言葉はアジサイと同じに設定…いや、あって、幾つかの花言葉がある。

その中で、一番目につきやすいのは…『移り気』

一番現れやすい、一番変化しやすいのは、移り気。

これが現れてしまっては、もう取り返しがつかない。

『移り気』がスキルになった時点で、バッドエンドなのだから。


私は肝心なことを忘れていた。

それは…主人公のそもそもの本性が『移り気』であることを。


そもそも何故『移り気』は現れやすいか?

主人公はプレイヤーの分身だ。

選択肢1つで簡単に他の人へ想いを移すことも簡単。

相手の想いなんかも気にせずに。次から次へと好きなように。

でも、それではここでは誰の心も捕らえることは出来ない。


だから、気を移さないで、誠実に、

努力を怠らなければ…一人の相手を得られる。

つまり幸せなエンディングをみられる…。

浮気は厳禁。一途に想い、追い続けろ。ちゃんと周りの人にも気を配って…。

そう言うゲームだ。だからこのゲームは難しい。


折角の王子を得られる直前まで上げたステータスも、

もう少し頑張ったら足りるスキルも、

全てが、数々の色が混じって歪んだハートに塗り潰されている。


もう、ロージアの『名前』と、『移り気』だけしか確認できない。

無邪気に捺しすぎたスタンプのようなハートが…埋め尽くしている。

…色はまだらなのに、燃えるように蠢く歪んだハートが…

主人公そのものであるパラメータを塗り潰している。



「アレッキア様はいらっしゃらなくて、

でも気を付けなきゃって思ってたら、出会ったの」

「……」

「そんな咎める目をしないで、ローディ。私達お友達じゃない」


ロージアのパラメータが恐ろしくて、私は身震いした。

最早、止めるのはもう無理か。

何を言えばいい。

今、私の台詞は何なんだ…。


「友達…ね。手ぶらで毎回来られてそう言われてもね…」

「えっと、だって私の家裕福じゃないから…」

「 攻略相手に貢ぐお金は有っても、友人に渡す手土産は無いのね」

「いいじゃない、ローディはお金持ちなんだから」


あれ、何故だ…今、私の意志で喋れたぞ。

しかも嫌味言っちゃったぞ。

いや、それよりもだ。

今なんて言ったロージア。

このユールの家は確かにロージアの家よりは遥かに裕福だが、

その言い草酷くない?

少なくとも…彼女をもてなす気は失せたわ。


「そんなことよりね」

「そんなこと」

「あの方を知っている?ローディ。

冷たい氷のような目に、燃えるような赤い髪の殿方よ。

背は高いの」

「義姉さまみたいな人ね」


燃えるような赤い髪に、氷の色の目は……義兄以外居ないではないか。

いや、ネタバレになるから思わず義姉って言ったけど。

さっきのでイラッときたから素直に言いたい気分でも無かったし。


「やだ、殿方よ。アレッキアさまじゃあないわ。

あの方より、優しい目をしていたわ」


私の感想に、ロージアは噴出した。

私がテンプレ以外を喋ることは無い。

だから珍しく冗談を言われていると思っているようだ。

…怒ってるんだけど。


「…で、それでどうしたいの」

「どうしたいって?」


怒ってるけど、彼女の方を迂闊に見ると

あの気持ち悪く蠢くパラメータを見る羽目になる。

私はなるべく目を反らして、ロージア本人を見た。

ああ、しまった変わらない…目が気持ち悪い。


「貴女の素敵な人はショーン王子。その赤毛の殿方をどうしたいの?」

「えっと、その…お友達になりたいな、って」


ロージアはもじもじしている。

どう見てもお友達になりたい態度ではないだろう。

王子と、義兄とを天秤に掛けているその心が透けて見える。

絶え間なく、移っているのだろう。


何なんだ。この子は。

思わず私の口からあの言葉が飛び出した。


「あなたは王子様がお好きではないの?」

「……ローディ?」


季節が、タイミングが違う。

この先はバッドエンド。

でも、まだ、救われる方のバッドエンドへ行くことも出来る。

私はまだ導くことが出来る。

行き先は二つ。被害の少ない方へ。


王宮が燃える、あのバッドエンド。

それは何回かアレッキオと会ってから起こる。

アローディエンヌがロージアに問う台詞…。


『あなたは王子様がお好きではないの?』


分かっているのに、思わず言葉が出てしまった。

こんなタイミング、外れているのに、つい出てしまった。

仕様なの?

それとも、私は、自分の意志で喋れているの?


「……答えて、ロージア」

「え、ローディ。なぜ怒ってるの?」


やっと私の怒りに気づいたようだ。

もしかして、私の表情も変わっているのだろうか。

自分では目一杯怒っている顔をしているつもりなのに、

鏡が無いから分からない。


「私は義姉が婚約者である王子に恋をする貴方を応援しているのよ?

何故違う殿方に心を移すの?」

「なんだ、そんなことで」

「そんなことでって…」


私の怒りを宥めるように、ロージアは私の手を取った。

無邪気に微笑みながら。


「しょうがないなあ、無粋なひと。恋は止められないの」

「ロージア・ハイトドロー!!」

「じゃあ、感謝すればいいのね?今までありがとうローディって」

「貴方…」

「だって恋は自由よ。あの方に会うまではショーン様が一番だったの。

でも、あの方の瞳を見た途端、恋に落ちたわ」

「…貴方、最低ね」

「だって、今なら誰も損しないわ。

貴方のお義姉さん、アレッキア様は王子様と結ばれて、幸せ。

私はあの方と結ばれて幸せ。

ね?ちょっと傷付けたのは貴方だけ。

ちょっと情報があるけど、何にもできない貴方が喚いても、王宮には届かない」



私はこんな自分勝手で、

自分本位な女をサポートするだけのキャラクターだと言うの?

…前世の記憶が…かつて見た数々の美しいスチルが、

途端に色を失った気がした。


私は何を楽しみにしていたの?

結局ロージアが見せてくれたのは、

この病的なまでに悪趣味に塗り潰したパラメータ…

気味の悪いものだけではないの。


「じゃあね、ローディ。ああ、喉が渇いたなあ」


言うだけ言って、にこやかに、ロージアは去っていった。

あの歪んだハートで埋め尽くされたパラメータが目に焼き付く。


これが、ゲーム内の出来事?

いや、これは現実だ。

私はロージアの味方の、サポートキャラ。

彼女に都合の悪いことを語ってなかっただけ…?

いや、不気味すぎて語る気も起こらない。


私の手は力を込めて握り過ぎたのか、白くなっている。

でも、手から力が抜けない。

汗が背中を伝い落ちるのもよく分かる。

何かに怯えると背中に大量の汗をかく癖は、小さい頃から…。

そうだ、私はここで生きているのだ。


ここはゲームの中なのかもしれない。

だが、私は今ここで生きていて、主人公の本性を知り…

友人と思っていた彼女に酷い言葉を浴びせられた。

これは紛れもない現実だ。

分かっていた筈だったのに。

…私は心底何も分かっていない。

部外者を気取って…ここはゲームだと、自分の思い通りになるのだと…。

そんな訳ないのに。

傍観者で居続けた私の傲慢さのせい?

ああ、頭がぐちゃぐちゃだ…。




話が暗くなってきたかな…。

うぞうぞ蠢くまだらなハートが画面を覆ってるとか

自分で書いてて怖い(おい)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
登場人物紹介
矢鱈多くなって来たので、確認にどうぞ。とてもネタバレ気味です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ