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サポートキャラに悪役令嬢の魅了は効かない  作者: 宇和マチカ
本編

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9.蕩ける氷と花瓶の花

今回ちょっと短いですかね…。

あータイトル思いつかないわ…。


思わず膝から崩れ落ちそうになった私を、誰かが優しく抱き留めてくれた。

誰?

……使用人だろうか。

…小さい頃はよく抱えられて運ばれたな…。荷物のように。


だが、顔を上げると、優しい薄い青の目と視線が重なる。

いつの間に入って来たのだろう。

…義兄だと分かって、更に力が抜け、そのまま体を預けた。

大きくなった義妹は重いだろうに、

楽しそうにそのまま私の体をゆらゆらとあやすように左右に揺すって来た。

何時もなら抵抗するが、私はされるがままになっていた。


「本当に嫌な女だねえ、大丈夫?アローディエンヌ」

「義兄…さま」

「ねえ教えてー」

「…何でしょうか」

「アローディエンヌは、ロージアがきらい?」

「きらい」 


殆どオウム返しのように、私の口から言葉が出た。

聞かれていたことを咎める気も出なかった。

何時もならきっと咎めていたのに。

大分心が弱っているらしい。


「どんなにきらい?酷い目にあってもいーい?」

「…いい」

「そっかそっかあ。うんうん」


義兄は嬉しそうに私の髪を梳いた。

全く抵抗しない私が余程嬉しいのか、鼻歌迄歌っている。

…嬉しいのだろうか。

普段から塩対応だからな。地味に私もブレないな。


「可愛い僕のアローディエンヌ、僕は何時でも君の味方だからねえ」

「…義兄さま」

「ねえ何がしたいかなー」

「平穏に、暮らしたい」

「平穏に?どんな風かなあ?」

「……」


どんな風に。

義兄の問いかけに私の脳裏に浮かんだのは、

何故かバッドエンドスチルの川で足を洗うロージアだった。


あれは本当に美しかった。掛け値なしで美しかったと、鮮明に覚えている。

前世では心は折れたシーンだけど。

今となっては、あれが一番いい。

色を失った思い出のスチルの数々で、あれがきっと一番美しい。


ああ、あのようなのがいい。のどかで、罪がない。

そう思うと、口から出ていた。


「川遊びが、したい」

「川遊び?アローディエンヌの魔法は、水をぐるぐる出来るんだよね」

「…それも、いいわね」


自分でも全く忘れていたが、そんな能力が有るんだったな。

使ってないから渦巻きなんて出来ないかもしれない。

よくこの義兄は覚えているもんだ。


「綺麗な川がいいねえ」


笑う義兄はとてもしまりがない。

でも、綺麗だった。

ゲームでは知らない表情。でも、私の前ではよくする表情…。


しかし、これから義兄は、ロージアとバッドエンドを迎えるのだ。

燃え盛る城をバックにキスをして、多分二人でこの国を逃げるのだろう。


私と川遊びなんて出来る訳が無い。

私は人知れず死ぬか、市井に下るかするのだろう。

ロージアに義兄を取られて。


「義兄さま」

「なあに、アローディエンヌ」

「浮気は嫌いよ」


義兄はぱちくりと薄い青の目を瞬いた。

冷たい氷の色、と言われていたけれど…。

義兄が私を見るときは、蕩ける氷のような色の目をしていると思う。

そう思うのは、昔義兄がよく泣いていたからだろうか。

本当に、目が溶けそうな位、義兄はよく泣いていた。


「アローディエンヌは僕が浮気すると思ってるの?」

「浮気は、浮気でしょう」


実際義兄…義姉だが、王子の婚約者で有りながら、ロージアに言い寄られている。

浮気でなくて何なのか。

何だかちょっと心がチクチクする。


「そっかあ。どこから浮気かなあ」

「どこって言われても…」


…心が弱っているからだろう、変な事を言ってしまう。

だが、そんな戯言に義兄は考え込んだ。


「アローディエンヌの考えでいいよ。手を繋ぐ?キスをする?服を脱がす?」

「ちょ、ちょっと待って義兄さま!!」


いや、流してよ。発展させなくていい!!


「教えて?気を付けるから」

「いや教えてじゃなくて!!」

「まあ僕的にはキスかなあ。手は引くことは有るもんね」

「……っ」


義兄の言葉で、途端に記憶が甦る。


燃え盛る城をバックに、キスをする二人。

前世で見た、あの美しいスチル。

ああ…今は心から見たくない。何故か胸が締め付けられる。

あんなに前世では悶えたのに…。

咄嗟に私は目を瞑った。


「僕と同じかな、アローディエンヌ」

「…そうかも…知れませんわ」


義兄は微笑んで、私の額にキスを落とした。

私はこれからどうなるのだろう。

義兄を奪われると分かっているのに、何も出来ない。

離れるのが悲しいと言う事は、義兄に愛着が湧いてきたのだなあ。

子供の面倒を見るのは大変だったけど。

義兄は本当に大変な子供だった…。


惜しむ心に、愛着に気付くのは、ちょっと遅かったみたい。

私は自分の心を少し恨んだ。



あの日から、ロージアは私に一切近づかなくなった。

当然だ。

こっちだってあそこ迄啖呵を切られて受け入れる気も無い。

まあ、来ないだろうけれど。

私達は、完全に袂を別ってしまったのだ。


アレッキオのルートにサポートキャラの助言は必要ない。

寧ろ助言は障害だ。

それに、ああも塗り潰されたロージアには何も通じるまい。

もう彼女は私の手の届かない存在になってしまった。


そして私は語り部でもなくなる。

バッドエンドはロージアの感想のみで語られるから。

だからもう私を訪ねてくる主人公はいない。

サポートキャラの、私の出番は終わった。



風がどんどん冷たくなっていく。

とある日、暇になった私は窓辺に寄った。

側のサイドテーブルの花瓶に雨の器のドライフラワーが生けてあるのに気づく。

秋に相応しく、その色は炎のように赤かった。



「義兄さまみたいな色ね」



花瓶に生けられた花のように、動かない、動けない私を構う酔狂な人は、もう一人しかいない。

でも、もうまもなくその義兄も、私の元から去っていく。

結局何の役にも立てなかった私は朽ちるのか。


それも分からないまま、愚かに時を待つしかない。

そろそろ『ゲーム』が終わりますね。


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矢鱈多くなって来たので、確認にどうぞ。とてもネタバレ気味です。
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