25.取り敢えず離した方がいいようで
お読み頂き有難うございます。
ルディ君と踊っていたら(嫌がらせの為)口説かれた挙句、
義兄さまが引き剥がしに来ましたところから始まります。
「うん、台無しだなこりゃ」
「何であの二人を一緒にした、ロン…。破綻しかしないだろうが」
「逆に聞くわ隊長、入り口付近から公爵を退けとくって計画は何処行った?」
「誘導を5回した。陛下まで使った。が、いつの間にか戻ってる」
「……怖い話かよ、それ」
「仕方が無いから、義妹姫に囮役を頼めと言って来た貴族の名前を教えておいた」
「……隊長カッコイー」
「……流石チェネレ隊長、絶妙に微妙な事を」
「俺は所詮姑息な平民だからこれ以上出世が望めないそうで、
陛下のお気に入りと言えど慢心するなよ何時でも足を掬うぞ、
とソイツに言われたからな。」
「隊長、息継ぎ大丈夫ッスか」
「俺は実家のパン屋を嫁と経営と言う退路を選びたいんだが、今からでも帰っていいか」
「頼むから誘惑に負けないで隊長!!貴方が居ないと陛下が死ぬから!!」
「チェネレ隊長の嫁はアローディエンヌ嬢とルディと同い年なのに、1人で店を任せているのか…」
「親父とお袋が流石に一緒に居る」
……そこの駄弁ってる素敵でイケてる大人の騎士様方!!
貴方がたが命じられたんですから、この二人を何とかしてくれよーーーー!!
ハードカバー本五冊迄しか持てない手が限界突破しそう!!
でも滅茶苦茶近衛騎士隊長さんの奥さんの話は気になるけど!!
何それ我々と同い年を奥さんに!?超素敵話な予感!!
でも手が!!手がああああ!!
「どけオッサン共。ルディ、何やってんだ」
「ブギュウググ」
「はわああああアロンさあん!!」
ああ、私の救いのヒーローが集団で降臨なさったああああっ!!
レルミッド様!!フロプシー!!フォーナ!!
ちょっと!!ちょっと色々有るけれど、今の私に必要な人材!!多分!!
「おお、レルミッド」
おおおお!!レルミッド様のお姿を見た途端、頑なな手が直ぐに離れて行ったっ!!
モブに振り切れなかった手が、攻略対象の力って…いや、レルミッド様の存在が凄い!!
そして早すぎるわルディ様!!スッゴイ素直に寄って行かれたわ!!
全く私に興味が無かったのがコレで立証された!!やったね!!思った通り!!
……分かってはいたが、ルディ様って本当に罪な王子様!!
「ああ、困ったー計画が破綻したなー」
……アルヴィエ様の取って付けたような棒読みが聞こえるわ。
……棒読み流行ってるの?
でもああ、手が…右手がやっと下ろせた!!血が通う!!
正常に血が流れる感覚がマジ尊い!!
やったね右手が解放された!!そしてもう片方、左手!!
私は…ぎっともう一人を睨んだ。
こっちは自分で何とかするしか…しないといけない課題だ!!
「義兄さま手を離して下さいなっ!!」
「うんごめんねえ、手は離すけど」
ぼふっ、と言う位音を立てて…私の体は慣れた感触と匂いに包まれる。
……ぎゅう、と背中から羽交い絞めにされる何時もの感触。
……私は義兄さまに捕まってしまった。
「アローディエンヌは離さない」
「……は?」
いや、手を離したら抱き着いていいなんて言ってないんですけど。
「ぎゃああああ!?」
「公爵様ぁうあうあうあ!?」
……何処から出してんのってくらい凄い声が聞こえるな。
因みに義兄さまの背後から聞こえてるから、後ろを向かされている私には全く様子は見えない。
義兄さまに群がってた人なんて別に見たいもんでもないけどね。
「ブギュブブブ」
「フロプシー…」
あ、フロプシーが浮かんで寄ってきた。
手を伸ばすと、そっと私の腕の中に収まって来る。
そしてきゅるんとでも効果音鳴りそうな紫の目が私を映した。
……おお、モフモフが癒える。
ケモナー要素は無かったけど、フロプシー限定で目覚めそう。
可愛い!!可愛いわフロプシー!!
何だあの義妹は、非常識な生き物はって声も聞こえるが無視だ。
私の事はいいが、フロプシーの事は許せんな。
取り敢えず義兄さま越しに睨んでおこう。うん、義兄さまの服しか見えないけど。
…当たり前だが向こうからも見えねえだろうがな。
後今音楽が止んで気づいたけど…シャリンシャリン煩いな、この装飾品。
「大丈夫だよ。アローディエンヌがイラッと来た奴は、落としておくからね」
「……物騒な発言は止めて頂けます?義兄さま」
て言うか目ざといな義兄さま!!よく上からこの無表情で判断出来んな!?
って何で私をガン見してんの!?
それに落とすって何だよ。
まさかマジで燃やして落とすのか?
止めてよね!?お城も人も燃やしちゃいかん!!
「ちゃんと見えないところでやるからね」
「たかが失言にそんな事しなくていいんです」
「違うよアローディエンヌ。
慣れないから知らないかもしれないけれど、此処は陛下の夜会だからね」
「何ですか」
寧ろ陛下の夜会だから気を遣いまくっているんだが。
と言うか、此処にいる人自覚有るの?義兄さま含めて!!
そして陛下のお姿見ないけど、今どちらにお出でなのかしら!?
「正式な作法で、発言はね、いつも以上に責任を持たなきゃいけないんだよ」
「へえ」
「特に人を貶めるような発言は、少なくとも2倍して7乗返し位しないといけないんだよ」
いや、何でそんな面倒くさいのよ。
えーと、×2の7乗?2×2×2×2×2×2×2…で良かったっけ?
軽口が1だと仮定したら…128倍返し?
倍返しですらないのか……。夜会ってマナーに厳しいんだな!?
「この夜会にそんな独自規定が……!?」
「そうだよ、大変なんだよ」
「で、でも結構好き勝手喋ってらっしゃいましたけど!?」
私が視線をうろうろさせると、途端にガサガサガサッって人が減って行った。
え!?何で!?
別に私は何も出来ないわよ!?
と言うか貶めるような発言してる自覚有ったのね!!
「たかが軽口に128倍の報復って…どんな刑罰が…」
「そうだなあ、常に女神像を背負わせようか?」
……普通に大変そうだな。それ。128倍になるかどうかは知らないけど。
あれ、何かヒイイッって絶望に陥ったような悲鳴が聞こえるわ。
そんなに滅茶苦茶重いのかしら…まあ、石だしな。
石抱きの刑って江戸時代に有ったような…いやでもアレは座ってたような。
でも魔法使えば楽勝とかじゃないのかしら?
「何信じてんだ義妹!!そんなの有る訳ねーだろーが!普通に考えろボケ!!」
「はえ!?嘘なんですか!?」
「フォーナも信じているのか……。公爵の口から出まかせの威力は詐欺だな」
「で、ですが滅茶苦茶恐ろしい刑過ぎて有るのかと…」
宗教関係者が恐れおののく位だから、他の天罰でも待っているのかしら。
しかし何故この場で喩えが女神像…。訳が分からないわね。
「それはまあ優先順位じゃないね、………鳥番」
「ハァ?あんだよ?」
あ、そうだ!!救いのヒーローにお礼を申し上げないと!!
本当は駆け寄って両膝でも付きたいところだが、後ろの義兄さまが離さないし!!
「義兄さま離して下さい」
「アローディエンヌは可愛いねえ」
……話にならねえ。
もういいや。
「レルミッド様!!お出で頂き誠に有難うございます!!
貴方への御恩は死んでも忘れませんわ!!」
「お…おう?おう……」
「……何でお礼言ってるのアローディエンヌ」
「ぶぎゅ?」
「義兄さまの無茶振りに付き合って頂いた挙句、今私をお救い頂いたからです」
「……別に義妹なんか助けちゃねーけどな」
「はうう、何だかよく分かりませんが、感謝の心は美しいですね!!」
「ハハハ、面白いな」
ルディ様が快活に笑われるのが…何だか素敵だけどちょっと怖いわ。
素敵な王子様だけど……一筋縄では行かないわねえ…。
まあ、モブの思い通りに動く世界では全く無いけれど。
あ、やっと手が緩んだから、フロプシーごとそろっと横に移動しよう。
「普通に言う事を聞くとは思ってなかったけれど、反故にした場合は考えて無かったの?」
「言っておくが、お前にレルミッドを利用するような権限はない」
「労働に対価は必要でしょ、バーーーカ」
「大したことでもない癖にネチネチと対価対価…ケチめ」
義兄さまとルディ様の言い合いが……子供の喧嘩みたいになって来たわ…。
どうしよう、ちょっと可愛いかもしれない…。
さっきまで私を挟んで大岡裁きやられてて腕が死ぬかと思ったのに、
喉元過ぎれば熱さを忘れるアホ過ぎるわね。
……しかし、美形同士が子供みたいな喧嘩するの野次馬すんの超楽しい…。
……それどころじゃないけどさ。
何か心なしか、壁の燭台の火がよく燃えてる気がするし、若干地面の揺れがあるんだけど。
ま、まさかなあ。
……うん、まさかの事態に備えた方がいい?
「……レルミッド様」
「あ?お前踊りもそうだったけど、よくそんな変な動き出来んな」
義兄さまの傍からレルミッド様のお傍に寄ったらカニ歩きになってしまったけど…。
カニ歩き…。……取り返しがつかないな。最早……。
令嬢っぽくねーなあ、私…。
「ルディ様と義兄さまを引き剥がしたいのですが、ご協力頂けますでしょうか」
「……叔父上様達に任せとけよもう。マジ面倒くせえぜ」
「はうう!?駄目ですよレルミッドさん!!イトコさんなんですし!」
「それによ、あんまり俺がルディの傍にいちゃ駄目だろうが」
「え?どうしてですか?」
「あいつの『仕事』の邪魔んなる」
「?…あ、ルディさんも社交のお仕事が有ったんでしたっけ?
ロナウドさんがおっしゃってましたね!」
……私達と別れている間、レルミッド様にアルヴィエ様が何か言われたんだろうか。
ご事情が細かくも大雑把にもサッパリ分からんが…。
レルミッド様は貴族の血を引いているけれど、貴族になりたくない。
ルディ様は王子だけど、王家の籍からは抜けたい。
これは本人から聞いたことと私に分かる範囲のこと…。
……つまり、お二方『普通の庶民』になりたいってご希望、でいいのかしら。
叶うかどうかは、まあ置いておいて…。
レルミッド様だと…これは仮定だけど…貴族として、『王子』の傍に居るか…。
もしくは、レルミッド様が貴族になりたくない、という意思を明確にして離れるか…とか?
……今のお話からして、レルミッド様は、ルディ様から離れる方向へお考え中とか?
……嫌な事に気づいちゃったな。
何か、モヤっとする。
アルヴィエ様と隊長さんがルディ様と義兄さまを宥めに行ってるのが見えた。
仕事早いな、近衛の方々。
それに引き換え、其処らの着飾った人達は遠巻きにしてるだけだし…。
「はいはいお子様たち、いい加減にしなさい……」
「人の家の円満な家庭を邪魔する手先の近衛が何か用」
「怖っ!!」
「アルヴィエ、伯父上はどうした?」
「オーフェンはアレでも忙しいから、駄弁ったら見回りに行きました」
「そうか、つまらんな。僕とも駄弁って欲しかったぞ」
「……散々退出の邪魔をして下さった陛下はどちらに」
「二階に上がられたが、何か御用で?」
「気持ち悪い人が多いので、義妹と帰りますと言いに行きます。
伝言を頼むと改竄しか起こらないので」
「せめて、人が多くて気持ち悪くなったので、とかにしましょうね、公爵…。
それに1時間半も経っていないんだが」
……さっきまで顔付き合わせていがみ合っていたのに、思いっきり背中向けてるわ。
……仲悪いな。流石に嫌がらせに全力を注ぐだけ有るご関係。
「つーか俺も帰りてーんだけど、叔父上様」
「はうう……」
「取り敢えず小休憩を挟んでくれますか、全員」
取り敢えず残れって事ね…そりゃそうね。
メイン寄りのサブ目玉人物なんだもんね、義兄さまとルディ様とレルミッド様…。
あ、ルディ様は変装中だけどな。
「来たばかりなんですが、宜しいのでしょうか。
義兄を含め、誠にご迷惑をお掛け致しまして申し訳ありませんわ」
無表情の隊長さんがお疲れ気味のご様子だったから、思わず声を掛けてしまったわ。
「……空気の読める珍しい貴族のお嬢さんですね、義妹姫」
「な、欲しいだろうチェネレ」
「……確かに、ディマの傍に置いておいたら楽そうだが…」
ルディ様のご提案に隊長さんはチラッと義兄さまを見て、首を振った。
?ディマって誰だろ?知らない方だけど……。
そして義兄さまの表情が分からんが…超冷たい気配は漂ってくる。
……流石に火花は自重してくれてるみたいね。ああ良かった。
「取り敢えず、どの組み合わせで離れますか?」
「義妹だけでいい、そして俺は帰る」
「分かりました、ロン。ルディ様とレルミッドと其処の水色の服の子を頼む。
公爵と義妹姫は俺と。さあ行きますよ」
「はーい隊長。承りました」
……鮮やかだわ、隊長さん。
テキパキ過ぎる……。何て仕事が出来る方なの。憧れちゃうわ。
「はううううまたアロンさんとお別れですかあ……」
「……何しに来たんだ、俺ら」
「じゃあな、アローディエンヌまた後で踊るぞ」
「もうお前に遭わせることはない、バカじゃないの」
「義兄さままだ帰りませんわよ!!
ルディ様、レルミッド様、フォーナ、また後で!!」
こうして私達は引き離されたのだった……。
いや、正確には義兄さまとルディ様を引き離したと言った方が正しいな。
……まあ、結構な大騒ぎだったものね。
……摘まみだされたと言った方が正しいかしら……。
そんな感じなのに、義兄さまはフロプシーを抱いていない方の私の手を握って嬉しそうだ。
……取り敢えず、義兄さまの機嫌は直ったようだ。
と言うか廊下長いな。迷ったら馬車探してーなんて言ってたけど甘かったわ。
窓の外はすっかり日が落ちているし、この暗さでは駐車場にすら辿り着けないわね。
此処で迷ったら間違いなく死ぬわ。…お城の広さを舐めてたな。
「……騒ぎを起こしてしまって申し訳ありません」
「物も建物も壊れていないだけ大マシですからお気になさらず」
「……夜会ですわよね?どう言う事ですの」
「あの方々が子供の頃はもっと物理的に酷かったと言う意味です」
物理的!?物理的にだと!?
それ、子供の頃にお城壊したって事!?聞いたこと無いんですけど!!
……何してんだ、ルディ様と義兄さま……。恐ろしい子供だな。
「要らない事をアローディエンヌに吹き込まないで」
「……義兄さま、騒ぎと面倒を収めて下さった年長者に向かって、
そんな言い方はいけませんでしょ」
「ええー」
「ええーじゃなくて。……本当に存じ上げず申し訳ありません」
「……親御さんの様ですね、義妹姫」
隊長様の視線が生温い気がするわ。
…精神年齢的には似たようなもんなんだけど。
言えないけどさあ。
「それで?どれだけ謹慎していれば?」
「そうですね…取り敢えず国外の来賓が引き上げそうな時刻まで…」
その時、ごおん、と地鳴りがしたような気がして…お城が揺れた。
え!?まさか地震!?
こ、この世界に来てから本格的な揺れって…無かったのに?
何なの!?
どう言う事なの!?
「!?」
「この魔力…ショーン…ルディ様の仕業か!?」
ええええええ!?
まさかの人為的なの!?
て言うか、ルディ様、地震起こせるの!?
何だそのファンタジー!!嘘だーーー!?
いや、ファンタジーなんだけどさあああ!!
「……いや、ショーンだけじゃ無くて…木属性も感じるけれど」
「木…属性?」
て言うか義兄さま、お城揺れただけで属性分かるの!?すげえな!!
ってイヤイヤ、そうじゃない!!それどころじゃない!!
「何がありましたの!?」
「待ってれば報告が来るでしょう」
「別に行かなくてもいいよ」
「ブブギュ」
うんそう言うだろうなと思ってたけどな!!
心の底から興味が無さそうだし!!
義兄さまって本当に…本当にこういう所が悪役令嬢だよ!!
「良くないでしょう!!
ルディ様とレルミッド様とフォーナに、何か遭ったのかもしれないんですよ!!」
「アローディエンヌは優しいねえ。
鳥番はこの城の中だったら、間違いなく一番強いんだから問題ないと思うけど」
「は?」
一番強い?レルミッド様が?
……珍しいな、義兄さまが他の人の事を強いだなんて言うの。
どう言う事?いや、お強いんだろうけどさ。意外だわ…。
「でも君が気になるなら見に行こうか」
「……お願いしますわ」
「公爵」
「来たくないなら来なくていいよ、デイン・チェネレ」
「俺の部下も居るんです、そう言う訳にはいかない。
それに貴方がた義兄妹はお部屋に居て頂きたいんですが」
「アローディエンヌは俺が守るから部下を守りに行ったら?」
「……貴方に魔力は敵わないが、俺には歳の功が有りますので」
し、しまった。
実力も伴わない非力モブなのに、マジ余計な事を言ったかもしれない。
こういう時は黙ってお部屋で気を揉んでいるのがモブらしいと言うのに…。
でも御三方が気になるし…。どうしよう。
「……隊長様、本当にお手間を取らせて申し訳ありません。
私、義兄さまから離れませんので…。どうか、御三方の無事の確認だけでもさせて下さい」
「……友人を憂う心は貴重です。義兄上から離れませんように」
「はい!!」
「……くっついてくれるのは嬉しいけど、状況が甘くないなあ。
抱っこしようかアローディエンヌう?」
「要 り ま せ ん!!」
この非常時に何言ってんだよ義兄さま!!
それにヒールじゃ走れないけど、思いっきり早足は出来るのよ!!
まあ、義兄さまは全く普通に歩いて横に居るけどな!!くっそう!!
ああ、ルディ様、レルミッド様、フォーナ!!
何が有ったのか分からない。
でも無事でいらして!!!
来て一曲踊っただけなので、未だ一時間半しか経ってない。展開遅くてすみません。
しかし、登場人物がばらけた所に事件が起こる…ようです。
幼少期のルディ君&アレキちゃんコンビは多かれ少なかれお城を壊していたのが、アローディエンヌにバレましたね。




