6.一応ウチは魔王城じゃない…筈
お読みいただき有難うございます。
ルディ(ショーン王子)にローディ(アローディエンヌ)にロージア(チンピラヒロイン)。
名前及び渾名が滅茶苦茶似てるなと気付いた今日この頃です。
ややこしすぎてすみません。間違えてた事もありましてすみません。
て言うかルディって……呼び方可愛いな!萌えちゃう!
いやショーン王子様呼びも捨てがたかったけど!
やだあ、どうしよう!!
はっ、いかんいかん。萌えに沈んじゃいかん。
シリアスシリアス……なのよね?
この顔無駄にシリアス向きだから楽っちゃあ楽だけど……ぶすくれてんのかアァ?とも取られかねないし。
顔はどうしようも動かないから、声だけでも優しく!!
穏やかに……出来るだけ和やかな声を出さなきゃ。
「……ご事情がお有りですか」
「詳しくは言えん。すまんな」
「いえ、私如きにお気を使わないで下さいませ」
「……本当にこの地味っちいの、アレキちゃんの妹なのかよ……」
「ええと…見ての通り血は繋がっておりませんわ」
「……まあマシな理由が分かったけどよ」
おお…散々な言われよう……。
地味っちいか……。まあ本当に地味モブだから正当なご評価ね。
寧ろ血縁有るって疑われても…眼科をお勧めしか出来ない。
早く納得して頂けて良かったのか悪かったのか。
それにしても……嫌われてるわね。
よっぽど義兄さまか義姉さまに酷い目か痛い目に遭わされてしまったのかしら。
義兄さま怖いもんね……。ゲームを思い出すだけでビクブルガタガタだもの。
あ、でもチャンスじゃない!?意外とチャンスやってくんの早いな!!心の準備が!!
此処を逃しちゃいけないとサポートキャラとしての予感がする!!
主人公じゃ無いから全く何も芽生えないでしょうけど!!
「……お名前をお伺いしても宜しいでしょうか」
「ハァン?さっきルディが呼んでただろーが。……レルミッド・ルカリウム」
え、マジか浮かれてて聞いてなかった……。超すみません!!
でも、ご、ご本人……。まさかのやっぱりご本人!!
『魔法使い』レルミッド様!!
ど、どうして性格が思いっきり違うのかしら……?敬語ですらないし……大人しくも何ともない…。
一体私の知らない内に何が起こっているのかしら……。
ああ、引き籠るんじゃなかった……。
無理矢理出掛け……た所でどうしようもないか。
いいえ、こういう気性がいけないんだわ!!
もっとガツガツ出かけるべきだったのよ!!
きっとモブには……特に何も起こらないでしょうけどね!!
ん?待てよ……。
何で王子……いえ、ルディ様と苗字一緒なの?
あ、でも聞かないみたいな空気をさっき出してしまった……。
「何で家名一緒なのよ……身内かなんかみたいね」
「まあ身内だからな」
「ルディーーーー!!」
「ルディ様!!」
ドートリッシュ……強いな……。どうしてそう果敢なの。
そして……ペロっとそんな重大な事、喋って宜しいのかしら、ルディ様。
って……ええ!?お二人って血縁関係有ったの!?
設定資料集に書いてなかったけど!!知らない!!知らないわよ!!初耳!
ちょっとおお!!!
私が知らないだけで実は完全版とかディレクターズカット出してるんじゃないでしょうね!?
出てたら無茶苦茶恨むわよ!!色々これ以上恨むわ!!
って……あっ、いけない…またゲーム寄りで考えちゃったわ……。
いけないいけない、現実現実…。
現実よ、此処は現実!!リアル!!リアルな世界なの!!
「……ドートリッシュ、ご事情が有るのだから……」
「私、この2人に興味は有りませんから!!」
私は死ぬほど有るし聞きたさメーター振り切れ中だけどな。
何で義兄さまをアレキちゃん呼びなのかとか超知りたい。
……ああ、しまった。
物分かりの良い風を装うんじゃなかったわ。しかし……今更変えられない。ブレてはいけない。
気を抜くと萌え狂う不審者さが出てしまう!
「サジュ、僕は何かしたか?」
「……忘れてるって辺りが……ホント……」
サジュ様も微妙な顔になってる……。
い、一体何をされたのかしら……ドートリッシュ……。こっちも地味に気になるわ……。
「まあ言いたくねーなら良いけどよ。アレキちゃんの義妹、俺にも聞かせろ」
「……先輩、ウチの姉さんはいいけど、もうちょい優しく喋ってやれよ……。あっちは本物のお嬢だぞ」
「ハァン?」
「いえそんな!私如きにお気を使わないで下さいませ!!」
お嬢だなんて!!其処らのモブです!!たまたま義兄さまが悪役令嬢なだけ!!
状況は特殊だけどモブですから!!
モブに攻略対象が気を遣っていただけるなんて夢のまた夢!!
サジュ様有難うございます!!
弟属性拝めてオイシイです!
「……アレキが僕たちについて何か喋ったか?」
「はい?義兄さまがですか?」
え、此処で何で義兄さま?
寧ろ……知りたいのに何にも義兄さま教えてくれないけど。
一体何が起こっているんだか……サッパリよ。
綺麗な薄茶色の目に見つめられて心臓吐きそうな程嬉しいけど、心当たりが全く無いわ……。
「知らんならいいんだ。すまんなアローディエンヌ」
「……はい」
おおおおおおお!!
……やっべえ、王子様に名前呼ばれちゃったよ!!
うっわ録音出来ないかしら!?録音とか録画魔法とかないの!?習得したーーーい!!
「……思い出した。お前、『ローディ』かよ!!」
「はい?」
ロージア以外に呼ばれた事は無いけど、懐かしい渾名だな……。そう思い出していたら、レルミッド様が眉間に皺を寄せて、私を睨んでいだ。
え、え!?な、何!?
わ、私何か……したの!?
今の所冒険者に襲われた位しか……はっ、まさか馬車がお気に召さないとか!?
「ふざけんなボケ!!お前のせいでルディがえげつない目に遭わされたじゃねえか!!」
「ええ!?」
「ちょ、先輩!!」
「ふむ……」
「ちょ、何なのよこの赤フード!!ふざけんじゃないわよ!!」
気が付くとドートリッシュが私を抱え込み、私に掴みかかろうとするレルミッド様をサジュ様が止めてくれた。
私は訳も分からずに目を回すだけで……や、役立たず!!
でも何で!?どういうことなの!?何がお怒りに触れた!?
「え……」
「よせ、レルミッド」
「ルディ!!コイツが黒幕かもしんねえんだぞ!?」
「ん?何の黒幕だ?」
「お前を殺そうと……!!」
「何言ってんだよ落ち着け先輩!」
「何ですって!?何言ってんのコイツ!!」
「ふむ、滅多なことを言うな、レルミッド」
こ、殺す!?黒幕!?黒幕ぅ!?
わ、私が王子様を……!?
な、何がどうなってそう言う事になるの!?
「……一体、どういう事ですの」
私が王子様を殺すって……滅茶苦茶心当たりが無いわ!!
萌えで溢れて色々愛でさせて頂きたい気分で一杯だけど……まさか妄想が罪には当たらないわよね。
妄想するだけで万死に値するような……そんな迷惑な能力は無い筈よ!
「しらばっくれんなボケ!!」
「物凄い濡れ衣よ馬鹿!!」
おお、……怖いなレルミッド様。こんな怖かったとは。
気圧されてとても言い返せないわ。
ドートリッシュはよく怒鳴り返せるわね……。
「ふむ……アローディエンヌ」
「は、はい」
「僕は誰彼構わず人のパラメータが見えるんだが」
「はい!?」
急に何なんだろう……。でもルディ様凄いな!!
そんな情報、攻略本に無かったわよ?!
私ロージアのしか見れなかった!!流石攻略対象!チート!!
でも……パラメータに一体何の関係が…訳が分からないわ。
まさか知らない間に人に害を成すような能力が私に……!?
「個人情報だから他言はせんが、幾つか除いて面白いくらいに一般人並みかそれ以下だな」
「……は、はあ」
そ、そうなんだ……。
まあそうだろうと思ってたけど…一般人以下か。まあ、レアなのは多分魅了無効だろうな……。
騒がれた割にはあんまり役に立ってない……。
「それで、『恋の相談役』と言うスキルは誰に使った?」
「……え!?」
ルディ様はフードの影で、ニコリと笑った。
キラッキラしたエフェクトが背後に掛かりそうな笑顔で……全く邪気が無い。
王子様オーラが半端無い。溶けそう。
おお、何という拝みたいイケメンだ……。見とれてしまうけど、そういう状況じゃないわね。
恋の相談役!?何それ!初めて聞いたスキルだわ……。
もしかして…それ、ロージアの『サポートキャラ』としてのスキルなのかしら!?
有ったの!?知らなかった!!
「教えてくれ。アローディエンヌ・マイア・ユール。君が僕に危害を加える気でないと言う証拠を」
ルディ様の声はよく澄んで、通る。
ガタッっと馬車が何かを踏んだようで、揺れる。
馬車の中は、しんと静まってしまった。
危害を加える気じゃ無い証拠……どうやったらいいの?
パラメータから何か解るの?
……ええと、パラメータは、個人情報……なのよね。
ルディ様のお気が済むなら出来ることをするけれど……。
多分だけど『恋の相談役』を使ったのはロージアだけど、それを使って私が何をしたか、よね。
まんま普通に……他所から見ても恋愛相談だったんだけど…罪に問われるような事、なのかしら。
……そう言えば私のミドルネーム、初めて知ったわ。そんな名前だったとは……。
いや、親戚だから知ってるだけかもしれないけど…。
それなら殆ど会った事ない私の事を覚える理由が…悲しい事に無い訳だし……。
いや、関係無いな。
「……黙って聞いてれば、ふざけんじゃないわよ!!」
「姉さん!!」
「義妹姫様はお屋敷から殆ど出たことがお有りでないのよ!!
今日は特殊なのよ!!滅茶苦茶稀有なの!」
「マジか、ただの引き籠りじゃねえか」
うっ、耳が痛い!!
すみません!!引き籠りですみません!!今日は特殊ですみません!!
最初は無理矢理でしたけど、自主的に引き籠ってた事もあってすみません!
「まあ、家から出ずとも、誰かが訪ねてくることも有るな」
「……一体、何をお知りになりたいのでしょうか」
風向きが悪いのは百も承知だけど、ゲームがどうたら言う訳にもいかんしな……。
そんな戯言、思いきり病院行きじゃない……。
あ、心を病んだ的な感じで施療院かしら?それは普通に困るな、どうしたもんだ…。
でも相手は王子様。
不敬罪にはなりたくないから嘘を吐く訳にもいかないし。
「ロージア・ハイトドローと言う名前に」
「えっチンピラ!?」
「あのクソボケブス知ってんのか!?」
ルディ様が言い終わり、私が答える前にドートリッシュとレルミッド様が声を上げていた。
テンションが高いわ、お二人共。……仲がいいのか悪いのか。
そう言えば二人共風属性だったかしら。
属性同じってまさか気性が似るのかしら。
いやそれよりも、チンピラって何……?
まさか、ロージアがチンピラ?そう呼ばれてたの?
わ、分からんでも無いけれど……そうか、チンピラか……フォロー出来ないな。
て言うかドートリッシュはロージアの事知ってたの!?
……世間って狭いな。
「……レルミッド、ドートリッシュ夫人、もう少し黙ってて貰えないか。
2人が煩すぎてアローディエンヌと話が出来ないぞ」
「全くだ、もうちょい黙ってようぜ……」
「う……」
「分かったよ……悪ィ」
その時、王都の邸に着いたみたいで、門が開く音がした。
……相変わらず開けにくそうなデカい門だな。門番さんが大変よね。
あっ、此処でこそ貴族らしくしないとな……。ただでさえ貴族オーラが無いのだから。
「……着いたみたいですわね。皆様、我が家へいらっしゃいませ」
ちょっと違う気もするけど、礼を尽くすに越した事は無いわね。
一応そうご挨拶すると、ルディ様以外の顔が引き攣りまくっていたわ。
……そんな見つめるような禍々しい何かが有るのかしら。全く分からないけど。
まさかそんなにウチが絵に描いたような悪魔城か魔王城っぽいのかしら?
一応壁とか屋根は黒くないし、ガーゴイルとかも飾って無いし烏も集ってないんだけど……。
それともこの世界では本当に一般的な魔王城はこんな感じなの?
私の魔王城のイメージが貧困すぎるのかしら。
うーん、世間知らずも有るけど、住んでると判断が付きにくいな……。
「……何だこの家、怖っ!滅茶苦茶キンキラでデケエぞボケ……」
「こ、郊外のお屋敷より滅茶苦茶高そう恐ろしいわ……!!浮きたいわ……」
「……うっお、桁が違うな……!マジか、無料で入れない所だろ……」
「初めて来たな」
ルディ様以外、コメントがビビりまくっているわね……。
……まあ、私も自分ちで無きゃこんな家全く縁が無いけど……。
怖いかなあ。
取り合えず見た目は魔王城らしくは無かったと思うんだけど。
いや、私の常識じゃ分からんな……。
それにご招待はしたけど、この中で尋問が待っているんだけどね。
軽い気持ちで家に招いちゃったけど…思いもよらない展開になったな……。
しっかし、街中でご飯を食べただけなのに、凄く派生してしまったわね。
そっちもちゃんとお話ししないとな。サジュ様にご迷惑が掛かってしまうわ。
……ロージアは一体、皆様に何をしたの?
私のせいで……何が起こってしまったのかしら……。
サポートキャラとして、浮かれた私が余計な事を吹き込んでしまったせい……よね?
あの皆様の表情からして…碌な事はして無いわ。
レルミッド様は激怒されていたし……。
ああ、どうしよう……。
一体何の要らんことをしてしまったのかしら。
刑罰が有るとか言われたら……うーん、どうしようもないわね。
私で責任が取れるなら受けるしかない。
ルディ様をチラッと振り返ると、キラキラしたスマイルを向けられてしまった。
おお、何と神々しい。フードを被っているのに煌めいて見えるわ。浄化されそう。
どう見ても邪気は無いけれど……でも見た目通りじゃ無いわよねえ。
ゲームの……私の知っている『ショーン王子様』の知識も全く役に立たない訳だし。
つまり、何を考えていらっしゃるかは……サッパリ分からん。
私を滅茶苦茶恨んでらっしゃって煮詰まってこの野郎くたばれな考えの上に、このスマイルかもしれない…。
おお、知らない間に不敬罪……。不敬罪!!
見た事ないけど、ギロチンとかで首……ぎゃああ!!な奴でしょ!?
やだ怖いよおおおお!!!メッチャ冷や汗!!胃が痛くなって来た!!
でもなあ……いや、死にたくはないけど……しょうがないのかしら。
王子様が命を狙われたレベルの危害を加えたとなると……それが妥当なの……よね。
抗う術が全く無いわ……。おお、一体私は何をしていたのか……。
のんべんだらりと生きて来たツケが……バンバン伸し掛かってきているでは無いの。
駄目だ、全く何とも出来ない。
諦めも肝心ね……。モブの癖に往生際迄悪いなんて、カッコ悪いわ…。
無駄に足掻いてプラス余罪をされても困る……。
ああ、短い人生だったな……。
でも、1年前に義兄さまが帰ってこなきゃ死んでたかもしれないし、この辺で退場が妥当な線?
やだなああああ。思い返せば全く大した事全くしてない……。
寧ろ何か有益な事してた?って感じか……。
主に義兄さまに振り回された人生だった…後ロージアにも。
何処行ったのかしらね……ホント。
まあ、義兄さまも最近穏やかだし……私が居なくとも何とかなるだろ……。
チート悪役令嬢だし。
無茶苦茶怒るだろうけど、王族には逆らえないだろうし……。
頑張って生きて義兄さま……。先立つ不孝をお許し下さい……。
ああ、出来ればあんまり痛くないといいなあ……。
死を覚悟して家に帰るとか……何だか物語みたいね。
私が短い人生を振り返って若干遠い目になっていると、私の耳に、物凄く聞き覚えのある甘い声が届いた。
……若干、いつもより低い声が。
「……アローディエンヌ、知らない奴を家に入れちゃ、……駄目だよ?」
馬車を降りて、玄関のドアを開けられ、足を踏み入れた先には……。
ズラリと並んで頭を下げる使用人達と……。
奥に背の高い赤い髪の貴公子。
背後の皆様も滅茶苦茶イケメンだけど、やっぱり好み……いや、不謹慎ね。
まあここで見るのは見慣れた光景だ。死ぬ程見てた。
但し、何時もは室内から見送る光景だけど。
……義兄さま、何時の間に来たの。
……しかも、あの目。薄い青の目が……完全に凍って燃えてる。
まさか此処に居るなんて、誤算だった……。
さっきから流れっぱなしの冷や汗が背中を…更にべちゃべちゃにする感触が…。
おおこれ……あかんやつか。
いや、浮かれられたのは途中までで、全然いい展開では無かったのだけれど。
物凄く怒ってるわね……。
魔力が全く無いに等しい私でも分かるな。
炎がね、フワフワ漂って……チカチカしてるもの……。物理的にね。
何で使用人は平気なのかしら……怖くないの?
あ、膝が笑ってる使用人も居る。……怖かったみたいね。
「……あああああ」
「えっ、誰だ……熱ッ!!」
「うお怖ッ!!」
そして、後ろの面子は…ザワついているわ。
お1人を除いて。
私の背後には、多分微笑んでいるであろうルディ様。
目の前には…・…怒りに満ちている義兄さま。
怖あああああ!!!
……今、人生で結構ランキングに入るほど怖っ……!!
穏便に済みそうに……無いわ。
特に王子様と仲が……悪いんだったわよね。
場の雰囲気が悪くなる最中、悪役令嬢義兄さま満を持して登場。
更にモメそうです。




