5.ゲーム開始と誤算だらけの主人公
お読みいただき有難うございます。
ゲームが開始して、『主人公』との出会いですね。
義姉及び義兄は出てきません。
そして、何年か経ち…ゲームの始まるときが来た。
乙女ゲームのタイトル通り貴族子弟が通う学園ものだ。
あ、因みに私は通っていないよ。
何故かと言うと義両親は生活の面倒は見てくれるが、他に無駄なお金をかける気はないらしいからね。
おお…義両親からの放置っぷりが際立っているね。
本当に清々しいよ。
まあ衣食住足りてるし愛着も無いからいいけど。
最近何時あの人達見たかな…。
まあ、私の存在はゲーム的に必要だからね。
ずっと家に居ないといけないのは仕様なんだろう。
因みに舞台は女神が守護してるらしい学園なんだけど、別に女神は出て来ない。
昔に作られた『素敵な恋を愛する女神像』って代物が、至る所かつそこら中に設置されているんだよね。
恋する若者を見守っているって言う設定…いや、伝説が有る。
まあ、其処ら辺は前作と設定一緒なんだよね。舞台を異世界に移しただけ。
しかもこの異世界ではこの女神像はそこまで気にされていないと来ている。
3作目ともなると其処まで派生させるの難しいのかな。
タイトルにもなっているのに…。
えーっと、あ、そうそう。
『チラ見は結構、ガン見は厳禁。それが合言葉だ…覚えておきな…』
あのハードボイルドなキャッチフレーズを攻略本とか公式サイトとか取説で女神像が喋ってたな。
と言うか書いてあったな。
……真剣にどうでもいい事を思い出してしまったわ。
私ってどんだけあのゲームに記憶力を捧げているの。
本望だけど。
…しかし、真面目に思い返しても女神像に関する知識はそれだけだわ。
まあ、そんな訳で、この異世界ではそんなにこの女神像は話に絡んでこない。
イベントも無いから私もそんなに興味は無い。
散々前世でプレイ中に見たので、わざわざ本物を見に行く気も無い。
学園をうろうろしていたら、必ず背景に女神像が有ったからね。
夜とかぼやっと光ってたりしたし…其処まで主張しなくても良くないか?
スタッフ、間違った方向へ情熱を注いでんじゃね?と話題になったもんだ……。
そんな割に何故か女神像の設定は雑だったよな。
まあ古参ユーザーには分かりやすくっていいけどね。マスコットキャラみたいな…?
いや、結構顔濃いし、リアルめ怖めなんだけどね。あの女神像。
で、そんなに役に立たない……いや、素敵な女神像がそこかしこに飾られている学園が舞台ね。
勿論義姉もその学園に通っているひとりだ。
私と違って悪役令嬢だからね。主人公と接触してナンボの立場だからね。
寮を利用するまでもない近さなので、義兄……義姉は家から通っている。
寮生活やってるのを傍から見るのも、面白そうだけどな…。行けないから見れない。くっ誤算!!
そんな若干引きこもりの私は滅多にしない外出をして、主人公のヒロインとお菓子屋で出会う。
因みにチュートリアル中のイベントなので、絶対に遭遇する。
まあ、ゲーム知識のある私は確実に出会うってことは知っているからね。
で、とある春の日。
私はお菓子屋で、私は並べられた一つの、金平糖みたいな謎のお菓子を眺めていた。
仕様のチュートリアルとはいえ、外出は楽しい。
ああ、こっちにも有るんだね。
青や白の粒のお菓子が少し荒い目の絹の袋に入れられて、まるでアジサイの花の様なお菓子だった。
前世でも見たわ、この手のお菓子。
お土産物屋とかに売ってる奴。
まあ、あっちだとビニール袋だろうけど、
此処にはそんなもの無いからな。
上手く作ってるわ。
ええと、でもこの花は…この世界ではアジサイじゃなかったんだったかな…。
確か名前は……?
「綺麗なお菓子だよね」
私はゲーム通りに誰かに話しかけられた。
おお、この何処でも見かけないピンクのグラデーション頭は…間違いなく主人公だ。
近くで見ると可愛いなー。
サラサラの髪に、綺麗なオレンジピンクの大きい目。
小さい顔に、華奢な体…。
服装はまあ、普通の村娘服だけど、その内着る制服も可愛いんだよね。
家に籠りっきりだった為、こんなカラーリングの人を三次元で見たのは初めてだが…。
とても可愛いわね。
そして、全くの初対面の私に話しかけるコミュ力凄いよな。
主人公力って奴?
まあイベントの一環なので、私は愛想良く向き直った。
「……今日は。甘いものがお好きなの?」
「うん、大好き!ねえ、私此処に来たばっかりなの」
「そう」
「良ければお友達になって欲しいな」
「……そうね、私でよければ….。貴方の名前を教えてくれる?」
ゲームならここで名前入力になる。
貴方の名前は○○でいいのね?って言う役だ。
因みにさすがに其処までは忠実では無かった…。
良かった….危うくお菓子屋で不審者になる所だった。
「そう、分かったわ。私はアローディエンヌ・ユール」
「今日は………アローディ?……アロ……ローディって呼んでいい?」
まあ、言いにくよな、私の名前……。
早速主人公によって縮められたのだった……。
まあ別にいいけどね。友達っぽいし。
今は慣れたけど、子供の時は自分でもカミカミだったからな、この名前。
で、彼女の名前はロージア・ハイトドローと分かった。
ご身分は若干没落貴族のお嬢さん。
かつての私……4歳くらいの時と似たような境遇だ。
この変なファミリーネームなのは多分タイトルから来ているのだろう。
何てったって前作のデフォルトネームは轟メアミだからな。
……あ、名付けのコンセプト…『女神轟』らしい。
……うん、例によって例の如く、説明するのも恥ずかしいね。
どうでもいいが、この3作目の主人公の名前は今の私の名前と若干似ているな…。
剛の者になりたいのか乙女らしくなりたいのか、どっちかに寄れよと思う。
天真爛漫で、明るくて可愛い子。
初期~中期の口説き文句はスルーする……そんな小悪魔さも併せ持つ。
自主性はそんなに無い……と見せかけて頑固。
それぞれコンプレックスを持つ攻略対象にカウンセリングを施すタイプ。
まあ、勉強してスキルを得ないと……好感度が上がる会話の選択肢が現れないと言うか…。
カウンセリングに至れないんだけどね。
そこはシビア…。だから難しい…。
まあ、基本は普通の分かりやすい乙女ゲームの主人公。
今の彼女自身に対して特に可愛い以外の感想は無い。
扱いやすそう……操りやすそう?だとは思う。
で、出会って間もなく…主人公は二日と置かずに私への相談に通ってきた。
私は真摯に相談に乗ったよ。待ちに待ってたからね!
サポートキャラとして頑張らないとね!!
一杯知識は詰め込んであるからね!!君のサポート頑張るよ!!
しかし…そんな、私の助言を……聞いてるのか聞いてないのか、守る気が無いのか……。
今の所進捗は…何と…攻略キャラ紹介の紆余曲折有って…攻略失敗の数々……。
……おいおい、まだ季節を1/3も越してないぞ…。
「ねえ、ローディ。この間魔法使い様に「君のふしだらさにはうんざりだ」って言われたの」
……それは魔法使いルート失敗した後に聞く発言ですね。
結構ひねくれ者の面倒なキャラだけど、こんな序盤で其処まで罵られるって何をしたんだ。
他のキャラとのデート見られても此処まで言われないぞ。
まさか服でも剥いだの?それか着替えでも覗きに行ったの?
「ねえ、ローディ。この間騎士様に「どうせ俺だけじゃないんだろう」って言われたの」
それも騎士ルート失敗の際に聞く発言ですね。
確か彼は初心者向きのキャラでは無かったでしょうかね。
同じくこんな序盤で聞くのは相当難しいぞ。
他のキャラに大声で愛でも叫んだの?彼の馬とか身内でも苛めたの?
前世の私の認識違いかな?
悪条件での攻略成功を狙う縛りプレイかなんかかな?
どう見ても、普通の感性では選ばない選択肢が選ばれているとしか思えない。
「……次の素敵な方を探しましょう」
そして、私は、攻略失敗を告げるサポートキャラの台詞を、この短期間で2回も述べる事となった……。
……おお主人公よ、しかもそなた相当余所見しておるのじゃな?
私は頭を抱えた……。
この主人公……私の認識以上に……手強いぞ。
私はサポートキャラだ。
基本モブのサポートキャラの立ち絵のバリエーションは、そんなに用意されて無い。
だから、私は一喜一憂をそんなにしない。
まあ、心は結構ハイテンションなんだけど、顔に出ないんだよな。
其処は仕様なんだね。
だが……その少ないバリエーションが、この頃固定されている気がする……。
いや、気のせいじゃない。
眉間に皺をわずかに寄せて、目を反らす、その表情に固定をされている……。
流石にこんなにバリエーションが少ないと、鏡見なくても分かるわ。
『嫌悪』の表情だ。
……そして、結局のところ紹介文の最初の人こと王子ショーン様を狙うらしい。
一応そう誘導せざるを得なかった。と言うかそれしかもう道は無い。
今までの積み重ねのせいも有るのと……道は険しいが、頑張ってほしい。今の状況では本当に険しいけど……。
どう考えても勉強で得られるスキル足りてないぞ。
せめて『脱兎』とか必要だぞ…。
下手を打って悪役令嬢から逃げるに辺り、必須だぞ。
『奪取』とか『夜遊び』とか『道草』とか要らんスキルばっか持ってるし…。
それ遊び歩いてる(つまりサボり)時に得るスキルじゃないか。
しかも勉強系のスキル欄、スッカスカじゃないか。何しとんだ。
辛うじて使えるのって
初期から持ってる隠しスキル『雨の器』くらいじゃないか?
まあ…悪役令嬢…つまり義姉に罠に嵌められた際の火消しに使うんだけど…。
でもこれも…結構使えるように解放するのも難しい上に、仮に開放できても使いどころが超難しいんだよな…。
義姉は……、そんな直ぐに消せるボヤ程度で罠に掛けてくる人じゃないからさ。
あ、因みに私はサポートキャラなので、主人公の持っているスキルのみ分かる。主人公のパラメータのみが見える。それで大体イベントの流れが分かるんだよな…。
ゲーム知識も有るだろうけど、これサポートキャラの仕様かな?
だって他の人は全く見えないんだからな。
自分のパラメータすらも分からない。
…まあ、モブだからね。どうせろくなものはあるまいな…。
そして義姉はゲーム通り完璧な悪役令嬢として振舞っていた…と聞いた。
ハイスペックなステータスを誇り、
鮮やかで完璧な美貌を以って、ヒロインを完膚なきまでに叩き潰す。
ロージアが幾つか叩きのめされイベントに遭遇したらしく、愚痴を溢していた。
うん、間違いなくゲームと性格もやり口も一緒だな。
「この間、転んだらアレッキア様に馬で轢かれそうになったの」
ああ、あの結構カッコいいスチルか。ちょっと見たかったな。
あれは確か騎士のイベントで、騎士の馬に餌をやろうとしたら邪魔されるイベントだったかな。
ってまだ騎士にちょっかいかけとんのかい!!
止めろや!!
失敗しとるんだよ、騎士は!!分かってんの!?
「……騎士様よりも、素敵な人を見つけて」
おお、それなのに私はテンプレな台詞を吐くことしかできない…。
何かもっとこの燃え滾るパッションをぶつけたいのだけれど…主人公へ何故かぶつけられない。
何で普通に喋れないのよ!?
仕様なのか!?もっと怒鳴りたい!!
ああ、歯痒いわあああ!!
あ、特に義姉に関しては感想は無いよ。
だってゲームそのまんまだったからね。
…もしかしてこの私の態度が義姉との不和だと思われていたのかな?
……あれ。それって何かおかしくない?
だって『私』はゲームをしていた知識を持って、転生…した筈だよね。
何故『乱入した筈の私』が組み込まれるの?
単なる予定調和?どういうことなんだろう。
……まあ、…考えても仕方ないか。
折角いい立場に生まれたんだから、楽しまないと…。
ちょっと思ってたのと大分違うけど…。
思っていたより遥かに主人公がポンコツなのが気になるけど…。
此処が私の現実なんだから…。
そう、現実なんだ…。
『主人公』は結構問題のある子のようです。