番外編そのろくの18 誰も見てなどいない
お読みいただき有難うございます。ご評価、ブクマ共に有難うございます。
諸事情によりレルミッドではなく語り手が叔父上様に変わっています。ご注意を。
タイトルが何だか、よいではないかよいではないかとか言い出しそうですが
普通にシリアスパートです。
拙い事になった。
……よりによって、王弟殿下と俺の上司…近衛騎士団隊長殿のお出ましとは。
あーっ、こんなややこしい時に何で来るんだよ!!
連れてくんなよ隊長も!!
どうすっかね…。
レルミッドは肘掛けで頭打ってぐったりして血塗れなのに
恨みでも有んのかって位玉座から離れねえし。
オーフェンはツラは変わってないが、ショーン様を抱えて微動だにしねえし。
あの野郎、全く何も考えてねえな!!頭動かせ!!
何とかこう、穏便に誤魔化す方法を…。
せめて甥っ子だけでも…。
「その風貌、隠しの継承権保持者レルミッド・ルカリウムで間違いないな」
「……殿下この子は」
「灰色の髪に紫の目。歳は18。相違ないな」
「……そうでございます」
バレてーら。
だよなー、そうだよなー。
俺でも逆の立場だったら尋問決定だわ。
嬉々としてするわ……されたくねえけど。
「ショーンは……手当てをしなければいけないな」
固まってるオーフェンの傍に来た王弟殿下は、こっちもぐったりしたショーンの頭を撫でた。
……ああ、まだこの人マシな部類なんだっけ。
王家は基本殺伐としてっから忘れてたわ。
未だ身内への扱いがマシな部類だって事を。
その時、俺の腕の中の甥っ子が身動ぎしたのが分かった。
あーあ、額の左が切れてら。
「頭は出血が酷いんだから…大人しくしとけレルミッド」
「俺に構うな。それよりもルディに触るな、オッサン」
待てやコラ。言ったらいい事とダメな事と分かるだろ!!
……子供の言った事って…しかも俺の甥っ子の一言って…。
残酷だ。……場が凍ったのが分かる…。
うん、十代のお前には分からんだろうがな、
繊細な問題なんだよ!!
仮に…仮にまあ、俺とオーフェン、隊長はいい。
だが、この方だけはオッサン言ったらダメだろ!!何で言うよ!!
さっきまでは強制的にいい子で囀ってたのに…!!
多分同じ気持ちで俺とオーフェンと隊長はレルミッドと王弟殿下を交互に見ていた。
背中に大量の冷や汗をかきつつ。
隊長、子供の言う事ですんで俺の甥っ子に斬り掛からんで下さいよ!?
……ん?いや待て。
……『従順なる囀り』はどうした!?
何がどうだかよく分からんが、ショーン様以外には賢く囀る筈の…鳥籠の形の徴は!?
…流石にこの場で首元を覗く訳にもいかんが……。
一体何がどうなっている。
この椅子に座ったら本来の口調に戻る仕様でも付いてたのか?
「…ルディをどうする気だ、オッサン」
「……一応俺は前とはいえ王弟なんだがな。後まだ三十代だ」
あ、やっぱ衝撃受けてる。
……すんません王弟殿下!!甥っ子がすんません!!
でも何だこの口を挟めない空気!?
腕の中のレルミッドの目が…濃い紫の目に光が無くなってる。
……正気じゃねえ?
でも……レルミッドだよな?
「いちいちうっせえな。初対面で幾つかとか知らねえよ。
『王族』なのにぶっ飛ばされねえだけ有り難えだろ」
不敬ーーーー!!!
不敬止めろ甥っ子ーーーーー!!!
やだわこの子、まさしく正しいルカリウムじゃねえか!!
「…まあ、それもそうだな。改めて自己紹介をしようか、レルミッド」
と、取り合えず隊長が斬り掛かる事はねえか!?
流石にレルミッド抱えて隊長とドンパチはやれねえわ。
俺が幾ら優秀でも無理。
オマケにオーフェンはショーン様に掛かりっきりだろうから加勢も望めない。
……俺らって本当に身内想い!誰か褒めろ!
……王弟殿下、腹の中はどうだか知らねえが、心広くて良かったわ…。
まあ地味に傷ついてそうだけど。
「この方はウォレム・ディマ・ドゥッカーノ殿下。本人が言った通り『王弟』だ」
そして私は近衛騎士団を預かっているデイン・チェネレ」
あ、隊長が喋り出した。
この人王弟殿下と付き合い長いもんな。
俺らちょい年上だし、王弟殿下の事はあんまり性格とかは知らんのだよな。
「……どーも王弟…。ルディの…一応叔父貴か?」
「こんにちは、ある意味簒奪者の陛下」
「「は!?」」
簒奪者ァ!?
王弟殿下の一言で俺とオーフェンは固まった。
隊長は眉間に皺を寄せて嫌そうな顔だった。
何言ってんの王弟殿下。
……陛下?
陛下って……このアホみたいに偉そうな甥っ子に言ってんの!?
ちょっと待てよ、今日、何でか知らない衝動に駆られて玉座を占拠しちゃっただけだぜ!?
若気の至りで何とかならねえの!?
ちょっと仲良しのイトコ王子様が心配で暴走しちゃったガキンチョなんですよ!!
陛下とか冗談でも止めてやって!!
「…殿下、これは…!!」
「ああ、いい。何となく理由は分かる。鳥籠からの解放だろう?」
「違う」
俺が否定するまでもなく、間髪入れずレルミッドが否定する。
意外だったんだろう、王弟殿下は首を傾げていた。
「それでは玉座を占拠し、得た君は何を望むんだ?」
「ルディ…『ショーン王子』の解放。
奴を歪められ間違った身分から解放する」
その言い方は……控えめに見ても滅茶苦茶迫力があった。
偉そうな、じゃなくて生まれながらの偉い奴の言い方…。
どういう事だ甥っ子。
お前の育ちは草原で、そんな王様っぽい威厳は備わらない筈だろ?
見様見真似も無理だろ?ショーン様か?
いや、ショーン様でもない、何だこの迫力。
言いたかないが俺も偉い。
その俺を含む結構な地位の大人3人が圧倒されてんだけど、何処で覚えた。
暫く圧倒されていた王弟殿下が緑色の目を細めている。
それに対峙するレルミッドの目に映る感情は全く動いていない。
……たった18だぞ。動じなさすぎないか。
お前と同世代のショーン様ならともかく、大人の王族ってまあまあ怯む対象だぞ。
まあ、王も王妃もイマイチ残念過ぎて威厳が無いけどよ…。
王弟殿下はまあまあ威厳ある方なのにな…本人嫌がってるらしいが。
「ショーンを?…ルカリウム一族ではなくか?」
「…それも考えたが、結局今の状況でルカリウム一族を解放すんのは、難しい」
「それはこちらの事情だろう」
「シガラミは死ぬほどあるけど、王都に出稼ぎに来て食い扶持が増えてるのは事実だ。
今時草原で狩りだけじゃ食ってはいけねえ」
……一族の事情分かってんなあ。
普通の子っぽいのに。
ただ、何でか……この子らしくないような気もする。
もしかして…さっきの変な光で…何かがレルミッドに混ざったのか?
マジかよ……。それでこんな喋り方に戻ったりしてるのか?
「…君らの声を遮り鳥籠の中で飼っていてもか?」
「はっ…俺らの声も、力も…遮らねえと、王都は廃墟になるぞ」
……それは想像するだに怖い。
確かに従順なる囀りを解除したら…間違いなく潰しに掛かってくるだろう。
あの一族は……遥か昔に恐ろしい程の血を流して鎮圧されたらしい。
今は隷属の徴なんてもんで押さえつけてはいるが、本質は全く変わらん。
にや、と口の端だけで暗く笑う様は、悪意に満ちていた。
……怖えな。コレ本当に俺の甥っ子?
「それに、俺は…一族の長だの王だの嫌だね。何の力もねえオコサマだからな」
「……その魔力でか。……全く、どうして先祖は君らのような凶暴な鳥を飼う事にしたのか…」
「俺も王家みてーな凶暴なお考えは知らねー」
「君も王族の一員なんだがな、陛下」
「その陛下って何だよ、オッサン」
だからこの方をオッサン呼びは止めろっての!!
「……ウォレムで呼び捨てでいい。オッサンは止めろ」
「確かにオッサン呼びは心に来るな…」
「何だよ隊長まで!!
俺だって嫌だわ!!俺だってまだ普通に青年だし!!若いし!!モテるし!!」
「隊長も殿下もロナウドも心が狭いですね。俺は別にオッサン呼ばわりでも大丈夫ですよ」
「それはお前がショーン殿下の実の伯父だからだろ」
「……バルトロイズは度量が広いな」
「……殿下、俺とロンへの扱いが酷いですよ」
思わず乗っちまったら、レルミッドが頭を振った。
血が灰色の髪から滴り落ちるのが気持ち悪いらしい。
適当に突っ込んであったハンカチで顔を拭ってやる。
回復魔術を掛けてやりたいが…今の状態で術を掛けて何か有っても困る。
と言うかさっさとこの派手な椅子から引きずり降ろして、ウチに連れて帰って治療に掛かりたいんだがな。
一体いつ降りる気なんだこの甥っ子は!!
さっきからさりげなく剥がそうとしているのに、全く離れようとはしない。
この細っこい体に何処にそんな力が有るんだ。
やっぱ何か変な力が働いてたりするんじゃないか!?
「煩えなオッサン共。そんで陛下は止めろ」
「そうはいかん。兄貴の次に玉座に着いたもの、お前が国王陛下になるんだ」
……それを聞いて俺は顎が外れるかと思った。
何で!!
そんな椅子に座ったくらいで何でそんな事になってる!?
て言うかこの子に王位継承者が隠されてるとか、聞き流してたけど冗談だよな!
「……要らん」
「要らんじゃない。なるんだ。玉座は継承権の有る者しか座れない。
権利の無いものが座れば消える」
そうなの!?
只の椅子じゃねえんだな!!
俺近衛だけど初耳だわ。適当な王子が継承できるもんだと思ってた。
……国家機密をヒョイヒョイ喋らんで欲しいぜ、殿下。
思わずオーフェンを見ると、あっちも微妙なツラになってるな。
隊長は無表情だが。
やだわ、後日絶対口止めと言う名の何かが待ってそうだ。
大人の色々に全く動じず、レルミッドは頭を振った。
怖いもの知らずっていいなおい!!
「じゃあウォレムが明日座ればいい。俺はルディの解放さえされればどうでもいい」
……おい。
お前もとんでもねえ事言い放つんじゃない。
王弟殿下も目を剥いてんじゃねえか!!
……しかし、これはいい機会だ。
確かに何だか甥っ子が王位を継ぐとか訳分からん話に流れているが、コレが本来だもんな!
そうそう!ショーン様が退いたら次はティム王子か王弟殿下!
普通にそうだよな!
やべーわ俺、何かよく分からん空気に呑まれてたわ。
甥っ子、よく軌道修正した!!
「俺が!?」
「良かったですね殿下」
「いや良くない。俺は国王になりたくない」
「ルディも俺もなりたくない」
えっ、何言ってんの何で断ってんの王弟殿下。
国王嫌だとかそれも初耳。
アレか?ショーン様とティム王子が居るから安泰だと思ってたのか?
意外。
と言うか今ここに揃ってる王位継承者が、軒並み国王になりたくないってどうなんだよこの国。
権力にギラギラしてたのは死んだ奴らのみってことか…?
ティム王子は知らんが、あの子供も興味無さそうだよな…。
部屋に籠って変なモンばっか作ってるらしいし。
「譲ると言っている。俺の命令だ」
「嫌だ」
「拝命しろや、ウォレム」
ごう、と空気が立つのが分かった。
物凄い魔力の塊が、玉座の間に渦巻いている。
緞帳やら幕がバタバタ揺れて、千切れそうにはためいている。
それはこの場に居る大人たちを優に超える魔力量だった。
その発生源?
勿論俺の腕の中…可愛い甥っ子ですよ……。
マジか。何で微動だにしねえのに、そんな芸当が出来てるんだ?
あれだけの量を放とうと思ったら普通に魔力を腹の中で練るだけじゃなくて、
予備動作要る筈じゃねえか。
魔法陣書くとか、せめて声に出すとか。
……全く無かった。
全く何もせずに、見つめていただけだ。
……こんなの有りなのか?
俺も騎士になって長いが、こんな魔力の塊の傍に居たの初めてだった。
……どうなってんの、レルミッド。
お前に一体……何が起こってるんだ?
「明日よりお前は国王陛下だ。此処に俺が座っていたのを『誰も見てなどいない』
分かるな?」
玉座に座る少年の紫色の目が、鈍く、暗く…僅かに光っていた。
有無を言わせない。そんな威圧感を放ちながら。
……王弟殿下は、頷くしかなかった。
頭の周りに回転する風の刃と、喉元に魔力の塊の刃を押し付けられちゃあ、誰だって頷くよ。
どうなってんのアレ。
魔術式にも結構造詣が深い隊長が全く手出し出来てねえし。
術式は普通なのに、魔力量が多いせいで、刃のデカさが半端じゃねえんだが。
怖すぎる。
王弟殿下が頷いたのを見たレルミッドは
「……んが」
いきなり糸が切れた人形みたいに、玉座からずり落ちた。
俺があんだけ引っ張っても椅子から離れなかったのに!!
『旅人』王弟殿下がやっと喋ってくれたのに…不憫担当で申し訳ない。
『悪役令嬢』と『王子』と『魔法使い』に振り回され、
王家の後始末に駆り出されて実に気の毒です。
次かもう一話くらい辺りで終われるといいなーと思っております。
この回で殺伐は終わります。長かった!




