番外編そのさん 『悪役主従』の堂々会談
時系列は14話周辺くらいですかね。
悪役主従の隠れてない密談です。
この二人、一人称が二人とも俺だから
地味に分かり辛いですかね…。
「王権に歯向かった一族」
「飯の種の為に、女神の力を金で売るなんて下賤だ」
大人は毒を吐く。
「お前のようなげせんなものが何故こんなところにいる」
「王にはむかった一族」
そして、その毒を子供が覚え、更に弱いものをいたぶるのに使うのだ。
何が起こったかは幼い彼にも知らされていて、とうに知っていた。
だが、全て彼が生まれる前に起こった事だった。
でも幼い子供は蔑みの目で見られた。
陰口は浴びせられ、罵倒もされた。
何もしていない。
何もしていないのに、どうして?
必死に声をあげても、帰ってくるのは罵倒。
次第に子供は子供らしさを無くし、表情は消え、心はすっかり冷めきっていった。
とある晴れた日。
親が何処かの邸宅に呼ばれ、まだ幼い彼は待っておくように、と庭に出された。
ぼんやりと木の根元に腰かけ、空を眺める。
空の向こうの方に暗い雲が掛かるのをぼんやりと見ていた。
「……ノロットイの一族」
「……誰ですか」
鈴を転がすような声が、自分の一族の名前を呼んだ。
目の覚めるような赤い髪の美しい子供だった。
信じられないくらい高価そうなドレスを着た、10歳くらいの女児が立っていた。
まるでお姫様だ、と子供は思った。
それにしては誰も付き添いの人間が居ないのが珍しい。普通、貴族は使用人に囲まれていると子供でも知っていた。
「りふじんな理由でいじめられる、つみなき一族だろ、お前」
「……」
お姫様の言葉に、一族の子供は目を大きく見開いた。
彼女が口にしたのはとても珍しい評価だったからだ。
格好に似合わない男の子のような喋り方に吃驚したいたのも有るが。
「手をかせよ、ノロットイの一族」
「……誰だよ、あんた」
「知らないのか?」
「……知らないよ」
「ふーん、ぼくは有名じゃないんだな、良かった」
「…ぼく?」
恐ろしいくらい可愛らしい美少女の一人称に違和感を覚えて、一族の子供は首を傾げる。
「ぼくのお姫さまを得るため、あのムカつく王家を燃やして焼き落とすために、手を貸せ、ノロットイの一族のこども」
そのあまりに不敬が過ぎる言動に青くなり、思わず子供は周りを確認した。
周りには幸いながらに誰も居ない。
「……は?」
唖然とする子供に、美少女は吃驚するくらい堂々と、可愛らしく、とても悪い笑顔を向けたのだった。
暑さも収まってきて、葉が色づく初秋。
王都内でも少し離れた、静かな区域に大きな屋敷が有る。
王姉を迎えた公爵家であった。
駅馬車から降り立ったのは、砂色の髪に薄い黄色の目を持った歳の頃15,6歳の少年である。
慣れた様子で門番に紹介状を見せ、門をくぐり、使用人の案内を受けた。
縁取りすらも豪華な長い毛足の絨毯が敷き詰められた長い廊下を歩き、彼は一つの扉の前で立ち止まる。
使用人が下がったのを確認して、その重厚な扉を5度叩いた。
「来たのか、入れば?」
少し高めの甘い男の声が応答したのを確認し、少年は室内に足を踏み入れた。
「失礼します」
少年が扉を開けると、其処には耽美な見た目の赤い髪の貴公子が、黒い机に幾つかの書類や巻き紙を広げていた。
静かに顔が上げられ、入ってきた少年をその薄青い目が射る。
「若様、お呼びでしょうか」
「ああ、うん。おめでとう、ルーロ。いや、モブニカ次期伯爵」
「……有り難うございます、若様」
ほんの少し前に伴侶を得た少年は、少し言葉に詰まりながら返答した。
何時も冷静沈着な性格の彼だったが、珍しく頬が赤い。
「俺、君達がくっつくといいなあって、思ってたんだ」
「……そ、そうですか」
「うん。ずーっと春から夏にかけて、石板でドートリッシュ夫人の居所を追ってたしね。
良かったね、婚前に知られなくて。行き先付け回す奴って下手したら嫌われるからね」
「いや、その、あの」
隠し事などする気はないが、バレていたとは…。
寧ろ今回で報告しようと思っていた少年、ルーロは内心で冷や汗をかく。
「ちゃんと働いてくれてるから、君は幸せになるべきだと思うんだ」
「……あの、若様」
「何」
若様と呼ばれた貴公子の目は、厚い氷の張った氷の様に静かだった。
だが、彼をよく知る者が見れば感情が動いているのが分かる。
しかしそれは厚く氷を張った湖の下で、ひっそりと魚が動くように、分かりにくい。
「ご機嫌が宜しくて、……良くないですね?」
「まあね」
彼の機嫌が悪くなる理由は多岐にわたって多々あるが、彼の機嫌が良くなる理由は悲しい事に一つしかない。
「…義妹姫様関係ですか?アレッキオ様」
「いいよね、君はとっとと既成事実引っ提げて結婚にこじつけられて」
八つ当たりだった。
しかし、既成事実云々はその通りで、反論のしようが無い
ルーロは反射的にあの時の妻の姿を思い出し、真っ赤になって慌てて首を振って邪な考えを打ち消した。
彼の主は色ボケしたままで対峙していい相手ではなかったからである。
「あの…この度は申し訳なく」
「まあ、でもちゃんと準備をした上でないと。焦るとろくなことはないからね…」
「その通りです」
「恋はルーロを変に、愛はルーロを表情豊かにしたね」
「アレッキオ様!!」
ルーロの慌てっぷりを面白そうに見やり、アレッキオは肩をすくめた。
「ドートリッシュ夫人は元気かな?」
「この上なく」
健康優良児ぶりは彼の妻の特徴の一つだった。
「そっか……じゃあ彼女にも頼もうかな」
頭脳労働じゃなければいいんだが…。
ルーロの妻、ドートリッシュは決して頭の回転は悪くは無い。
判断力も悪くは無い。
しかし、荒事向きでからっきし細かい事に向かない。
因みに彼女はれっきとした伯爵令嬢…伯爵夫人である。
「……差し支え無ければ、俺からご指示を伝えますが」
「アローディエンヌの友達になってもらおうと思ってたんだ」
「意外です……」
「何が?」
アレッキオの提案は意外だった。
「あの、大事に大事に守っておられる義妹姫様のお近くにドリーを?
……ドリーを義妹姫様の友達にですか?」
「うん、だって女神の祝福を受けて、この上ない大恋愛の上に結婚した既婚者だろ」
「……」
歌うように言われ、ルーロは気が遠くなった。
……否定したい。凄く否定したい。
だが言えず、顔は真赤になっていた。
何時もとは違う臣下の様子に、アレッキオは目を細める。
「アローディエンヌは、本人は隠してるけど恋物語がとても大好きなんだ」
「こ……あの、それは……若様、その言い方は、ちょっと……」
「女神像の祝福を覆すほどの愛。まさに素敵な恋だね。
愛されて良かったね、ルーロ」
畳みかけるように笑われた精神の滅多打ちに……ルーロは動かなくなった。
「……若様っ!!やっぱり怒ってますね!?俺が先に結婚したから怒ってますね!?」
「祝ってるんだ、臣下の結婚如きで怒らない」
「いえ、失礼ながら腹立たしい位は思ってらっしゃる筈です!!」
「もし俺が15で結婚するとアローディエンヌは14か……。……大丈夫だけど、裏工作時間が足りない」
「若様……!!」
「冗談だよ」
悪い微笑みを浮かべるアレッキオ。しかしルーロの耳には全く冗談に聞こえなかった。
「そんなに君を愛しているドートリッシュ夫人には嫉妬出来ないから、安心だ」
「……成程」
相手がいない人間を絶対に近付けたがらないだろうとは思っていた。
そんな彼が心を傾けるのは義妹姫、アローディエンヌのみ。
そして嫉妬の対象は、男女両方。
アレッキオが男でも女でもある所以だろうか、こればかりは本人の心の問題なので分からない。
「今の君ならアローディエンヌに会ってもいいよ」
「…若様と義妹姫様の語らいのお時間を壊さない時期であれば、
ご挨拶に伺います」
「出来た臣下だね、ルーロ」
少し微笑みから邪気が消える。
ルーロの答えはどうやら彼のお気に召したようだった。
「俺にも大事な人が出来ましたので」
「うん、いいよね」
「はい」
もう少し雰囲気が和らいだ。
……義妹姫のことを考えている時はアレッキオは上機嫌だった。
因みに彼女に会うと更に機嫌が良くなる。
「それと……ご希望の本をお持ちしました」
「ああそうだ、忘れてた」
二人は本題をすっかり忘却していた。
ルーロは青い表紙の古い本をそっと傍の机に置く。
「アローディエンヌの反応が楽しみだな」
「……喜んで頂けるかどうかは、微妙ですが……」
中身を知っているルーロの顔は冴えない。
「アローディエンヌは顰め面も可愛いからいいんだ。所で女神像って増えるのは何故?」
「……分かりません」
何故女神像に質問が行ったのだろう。
ルーロにとっては話が恥ずかしい方向にしか行かないので、この話題を止めて欲しかった。
「燃やしたらどうなるのかな」
「やめましょう、若様……増えますから」
物陰にでも寄せようと動かしただけでも増えるのだから、壊したり燃やしたりしたら……大増殖しかねない。国中の交通網が大打撃を受けそうだ。
試したくも無い。
「ショーンに壊させるよう誘導しようかな。アイツ、直系だからいい呪いがかかると思う」
「増えるだけなのでやめましょう。ただ、殿下に禍事が起こるのは賛成します」
「珍しいね、新しく恨みでも買ったの、アイツ?」
「ドリー……妻を一晩召そうとしました。未遂ですが」
「へえー、それは罰に値するし気持ち悪いね。覚えとくよ」
アレッキオが従弟王子を嫌いなのは十分すぎる程知らされていた。
だからルーロは便乗してあくまで臣下として主に報告する。
容赦がない人なので、臣下の恨みの上乗せくらいはしてくれるだろう。
ある意味有難い主であった。
「増えるのって昔からなの?」
「少なくとも曾祖父の時代は増えてたそうですが」
「呪われてなくても増えるのか…気味悪いね」
「否定はしません」
一族自体が仕えてはいたが、流石に嫌悪感を持つ持たないは自由である。
「三代前の王女、ローリラのせいで呪いが変におかしくなったのは分かるけど、増えるのは元からだよね。何で増えるんだろ」
「目立ちたい為だとしか聞いてません」
「目立っていいことが有ったのかな、女神像」
「分かりません…。人前に出たい性分だとしか。
ある意味目立ってるので目を付けられたってのもあるんでしょうけど」
女神像の不運によりルーロの一族の不運は始まった。
平民に落とされるわ、王族から迫害は受けるわ、生きるために始めた解呪屋では、元神官が呪いを解くのに金銭を要求するなんてと見下されるわ……散々だった。
挙句王族が引っ掻き回した女神像の呪いまで押し付けられる。
ルーロに用意されたのは、そんな運命。
だが、かけがえのない、いい出会いも有った。
1人は、目の前の貴公子。
燃えるような髪に薄青い氷のような目の美しいお姫様。
彼でもあると知ったのは結構直ぐだった上に、国家機密だと知ってぶっ倒れそうになった。
そして、神殿跡に建てられた、あの忌まわしい学園で。
「ルーロさま!!」
薄紫の髪に、青紫の瞳の彼の唯一の女性、ドリー。
若干行動は非常識だが、中身は常識的な普通の女性だった。多少、色々と豪胆ではあるが。
「そう言えば、ドートリッシュ夫人には一目惚れ?」
「そうでもありません……けど」
彼女はアレッキアのような絶世の美女ではない。
一目惚れなんてそんな物語のようなことは起こらなかった。
「じゃあ、刷り込み?」
「……俺を偏見無しで見て好意を示す女性は、中々居なかったので。最初は打算ですが」
「上手く囲い込めて良かったね」
「はあ」
囲いこんだ……ことになるんだろうか、とルーロは渋い顔になる。
自棄になって単純なドリーを丸め込んだ自覚はあった。
「領地はどう?」
「移動魔術を覚えましたので、何の支障もありません」
「便利だろ、あれ」
「はい、ご教授有り難うございます、若様」
「向こうの御両親は何て?」
「……その、拝まれました」
その当時のことを思い出して、ルーロの顔が引き攣った。
いい年の男女に囲まれてわんわん泣いて拝まれたのは初めてだった。
流石ドリーの両親だと納得したのは記憶に新しい。
そしてまだ正式に式も挙げていないのに、娘をよろしく頼むとひれ伏さんばかりに泣かれた。
止めなければひれ伏されていた。
その時に押し付けらた印章指輪は、しっかりと彼の右手親指に嵌まり、鈍い金色の光を放っている。
「拝まれたの……神官らしいね」
「祖父はともかく俺は元、ですらありませんけどね……」
いや、とアレッキオは首を振る。
「君は神官だよ」
「……有り難うございます、若様」
ルーロはにこ、と微笑んだ。
ぼんやりと、主との出会いを思い出す。
「どうしてぼくにそんなことを?」
「りふじんだから」
「?」
「好きで選んだわけでもないのに、りふじんな目に遭うのはくるしい。
助けてもらえるとうれしいの知ってるから」
赤い髪のお姫様は、主は……かつてのルーロにそう言った。
「……理不尽な命も甘んじて受けましょう、我が主」
「理不尽な命令なんて手持ちに無いよ、ルーロ」
にや、と悪い顔でアレッキオは笑いかえすのだった。
異世界なので法律上の結婚年齢は厳密に決めていません。
この二人、結婚式とかしなさそう…。
かたや人前に出したくないのと引き籠り、
かたや銭ゲバと守銭奴…。
地味そう…財力有るのに地味そう…。
…要りますかね?需要有るかしら…無さそう。
そして次は青い目のサポートキャラ令嬢の話の予定。
主役の筈なのに何て影が薄いんでしょう…。




