番外編そのにの9 奪われて追いかける
タイトルが思いつかないな…。
崖っぷち令嬢、主人公に絡まれています。
物理抜きでは逃げられない!!感じですね。
「ねえねえってば」
付いてくんな!!
やっぱり私か!?私なのか!?
誰がモブゼロだ。誰だそいつは!!ぶっ飛ばすぞ!!
返事をする理由もないから、振り向かなかったわよ!
腹立つ!!どっか行け!!
無視を続けて、歩き始めたらどんっ、と体に衝撃が走った。
思わず蹈鞴を踏む。
何……突き飛ばされた!?
反射的に振り返ると…あの、薄赤毛のチンピラがニコニコしている。
反射的に進行方向を見るともう少しで、階段だった。
どういう気なの?突き落とす気だったのか?このチンピラ…。
お生憎ね!!
この程度の突き飛ばしで私がどうにかなるとでも思ったか!?
くっそおおおお!!馬鹿にしてんじゃないわあああああ!!
「無視しないで?ドリーン・モブゼロさんだよね?」
「……せめて…っ自分から名乗ったらいかがですか」
「あ、えへへ。私、ロージア」
ああ、何なのこのチンピラは!!
知りたくも無かったけど本当に頭がおかしいわ!!
怒りを込めて睨んだけど、全く悪びれもしてないし!!
せめて家名を名乗れこのチンピラ!!
お前の家の方が格下だろうが!!
この国ではそんなに気にしないけど、気にするし腹立たしいわ!!
あの馬鹿王子に気に入られてるからって、調子乗ってんじゃないわ!!
「…私は…ドートリッシュ・ムニエ・モブニカです。
貴女に先程呼ばれたような名前ではありません」
「えへへ、ごめんなさい。ちょっと間違えちゃった」
ちょっとじゃねえし、ふざけんな。
せめて敬語を使え、下級生!!
イライラを隠してもいないのに、
チンピラは私に馴れ馴れしく近寄ってきた。
空気読めや、チンピラ!!
「ねえ、あなた青い髪の騎士さまのお姉さんなんだってね」
はあ!?…青い髪の騎士!?
青い髪……サジュか!?
…………やっぱりか!!
ああ、サジュ!!やっぱり嫌な予感は当たってたわ。
やっぱりチンピラに狙われてたわ!!
しかもこっちも二股目的かよ!!どうしようもないクズさね!
いや、王子は三股以上狙い…!?
いやどうでもいい!!ホントどうでもいい。
よそでやってあっち行って!!
ああ、本当に何て奴らなの!!
他人の事を何だと思っているのよ…!!
絡みに来るなあああっ!!
ああ、もう、嫌な事ばっかり起こる!!
でも、何とか穏便に逃げないと!!
蹴倒して逃げるのは簡単だけど、こいつは木っ端貴族とはいえ、王子のお気に入り。
暴力沙汰でも起こそうものなら、こっちが完全に悪者にされるわ!!
裁判にでも持ち込まれたら、確実に負け決定!!
寧ろ裏から何かされたら、逃げ切れる自信は無い!!八方塞がり!!
考えるのよ、ドリー!
悔しいけど、なるべく穏便にあしらうの!!
「………騎士職の方は何人も在籍しておられます。
何方のことでしょうか」
「もう、誤魔化さないで?姉さんって呼ばれてたの聞いたんだから」
くそっ、誤魔化されない!!馬鹿の癖に!!
あーあ流石チンピラ、立ち聞きとは恐れ入るわ!!
あー、本当にマズった…。
考えなしだったわ。
サジュに頼るべきじゃなかった。
あんな令息から助けて貰うんじゃなかった。
ああ、私の考えなしの行動が…本当に裏目にばっかり出る!!
「騎士さまと全然似てないのね?
あ、ドリーンさんは愛人さんの子?」
「私はそんな名前じゃない。
それに貴女、その質問、どういうつもりで聞いてるの?」
何なのこいつは。下品極まりない。
貴族教育どころじゃないわ。
いや、ある意味人を根ほり葉ほり噂するのは貴族的か?
でも普通、こんなに直接言わないわよ!!
平民の方がこのチンピラより品の良い人はごろごろ居るわね!!
「え?別によくあることだよね?」
「貴女の爛れた倫理観で勝手に人を語らないで」
「もう、難しいこと言わないで!
それより私騎士さまのことが気になるの、教えて?」
……あ、こいつ馬鹿だわ。
勉強面でも馬鹿なんだわ。
と言うかマトモな環境に居なかったわね、絶対に。
知りたくも無いけど。
「貴女に話すことなんて何もないわ」
「え、どうして意地悪するの?騎士さまと全然似てない…
本当にお姉さん?
だから貧乏なおうちに養子にやられたの?」
私とサジュの実家を貧乏なお家呼ばわりかい!!
別に本当だけど、お前に言われたくないわよ!!
凄いわ、際限なく嫌悪感が湧くわ。好感なんてちっとも湧かないわね。
誰が教えるか、チンピラ。
よくもまあそこまで妄想が涌き出るもんね…。
感心するわ。
「ベラベラと勝手なことを…。
貴女に話すことなんて何もないって言ったわ」
「じゃあ、騎士さまの小さい頃の絵姿有持ってる?見せて?」
絵姿?
…コイツ、何なの?
何言ってんの?
まさか喋らないなら見せてくれるって?
どういう思考回路なのかしら。
全然理解できない…理解する必要もないわ。
そうだ、走ろう…振り切らなきゃ。
「話しかけないで」
「あ、これに入ってるの?見せて?」
走ろうとする私の胸元にチンピラの手が伸びて…
触られたくなくて、反射的に身を捩った。
ぶち、と音がする。
ぶちって…。
……まさか!?
「触らないで!!」
「あれ?何だ、ロケットじゃないんだ」
チンピラがしげしげとの手の中を覗きこんでいた。
それは黒い紐が切れた紋章が入ったペンダントで…。
反射的に胸元を探ったが、ペンダントが無い。
取られた!?
毟り取ったの、このチンピラ!!
強盗か!?強盗だな!!
「ねえ、これなあに?」
「…今すぐ返しなさい、ハイトドロー!!」
「え?もう、意地悪しないでよ…えい」
私が掴みかかろうとした手から逃れ、
チンピラはペンダントを振りかざし……ペンダントは宙に浮いた。
投げた!?
投げやがった!?
投げたのあのチンピラ!!
「わあ大袈裟…。
そんなに大事なら、首から提げないでいっそ、飲み込んでおいたら?」
……こいつ、本当にどうにかしている。
「ふっざけんな…チンピラァッ!!」
「えっ、チンピラ?って…誰?」
何かチンピラがまとわりついて来るけど、どうでもいい!!
全力で振り払った。
きゃっとか言ってるけど、知るか!!
顔面ぶん殴って叩きのめしたいけど、ペンダントを追うのが先!!
私は走ってペンダントを追った。
ああふざけんな!!ふざけんなふざけんな!!
あああ気が狂ってるわ、あのチンピラ!!
気がどうにかなりそう!
どうしよう、割れたら壊れたらどうしよう!!
折角ご主人さまから、借りたものなのに!!
かん
こん…から…。
踊り場を越えて、ペンダントが落ちていくのが見える。
血の気が引いた。
壊れる!!
あんな落ち方したら、絶対に割れる!!
考える間もなく気がつくと、私は手すりを乗り越えていた。
手を伸ばし……
紐を掴んだ、と思う。黒い紐の感触が手の中に!!
やった!!
あれ、でも重さがない。
…ペンダント自体は、何処へ!?
もしかして、ちぎられた紐から外れて…割れた!?
…あれ、地面が間近に……。
「……ドリー!?ドリー!!!ドリーーーーー!!」
おお、空耳かしら……ご主人さま…の声がするわ。
私の名前を叫んでくれてるの?
だったら嬉しいなあ…。
ごめんなさい。
あなたから借りたものを、壊してごめんなさい。
…好きです…色々込みで…。
役に立てないしもべで本当にごめんなさい…。
父さま、母さま、サジュ…先立つ不孝をお許しください…。
ああ、何かちょっと頬っぺたが痛い…。
きっと重傷を負ったのね。あのチンピラのせいで…。
私、ドリーはお先に天国へ旅立ちます…。
嗚呼、儚い人生だったわ…。
どうかご主人さま…幸せに…。
ん?
何か冷たい。
…これ、何かしら。
小さい頃に、食べかすを母様に拭ってもらったような…。
濡れた、布?
ああ、そんな感じ…。
「……んあ…う…?」
「ドリー!?…起きた!!起きたな!?」
「…ここは…」
おお、御主人さまの顔が超近くに有るでは無いの。
砂色の髪の毛がおでこに当たりそうな位近い。
…薄い黄色の目が近い…。目が案外大きい…。
ああ、やっぱり結構可愛いわ、御主人さまの顔。
目つき悪いだけで、普通に美少年よ…。
惚れた欲目もあるかもでしょうけど。
何でモテないのかしら…。本当はモテてるわよね、絶対…。
ああ、悲しい…。
だから私に見向きもしてくれなかったのかな…。
それにしてもここは何処かしら。
もしかして天国かしら?
…何か見た事のある裏庭っぽいけど、学園を模しているのかしら。
もっと何かこう、天国って雲が一杯でモクモクフワフワしてるとかだと思っていたわ。
それとも私、臨死体験中?
脳内ご主人さまだから優しいの?
もう何でもいいわ…。
こんな間近にご主人さまを見られるなんて、私の日頃の行いが良かったのね…。
良かったわ、普通に真面目に生きてきた甲斐が有った…。
きっとあのチンピラには地獄が待っているだろうから…忘れよう。
それよりも優しいご主人さまという滅茶苦茶希少価値な幻を見なきゃ…。
「目を閉じるなっ!!」
「ふがっ!!」
苦しい!!
息が!!
鼻摘ままれてるの!?酷い!!
「息が!!何てことすんのよ」
「この、起きろ!!バカ!!この…考えなしっ!!ドリーのバカ!!」
え、何で怒鳴るの!?
耳元で叫ばないでえええ!!
久々にちゃんと聞いたからご主人さまの声に悶えるーーー!!
でも怒らないでえええ!!
何で私の妄想の産物ならもっと優しくしてよ!?
……。ん?
待てよ。
感触が…さっきの濡れたハンカチの感触といい、やけに現実味があるわ。
私は手を動かして、体を触ってみた。
感触が有る。普通に有る。
…あれ!?生きてる!?
と言う事は、この呆れた表情のご主人さまも本物!?
ち、近い!!近いわ!!
超嬉しいけど、本当に近いわ!?
しかもこれ、膝枕されてるの!?
やだ、マジで!?だから近いの!?
わあああああ!!
…いや、滅茶苦茶嬉しいけど、これ男女逆じゃない!?
何か乙女として、ちょっと違う気が…凄くするわ!!
この事件が後に騎士に伝わり、怒りを買い、主人公は14話でフラれたそうな。




