番外編そのにの4 見た目よりも大事な物
タイトルで出張ってる割に
出番少ないように見える『悪役令嬢』が出てきました。
サブタイトルが思いつかない…。
「……姫様」
「姫はいや、止めて」
ん?……おおおお!?
何かすっごい美人が出て来たんですけどーーーー!!
赤いフワフワの長い髪に、澄んだ氷のような瞳!長い睫毛!
そして出るところが出て締まる所は締まった素敵な体!!
そして何よりお高そうな衣装に全く負けていない高貴そうな雰囲気!!
凄い!!チラ見えしてる締まった足首を包む絹の靴下からして高そう!!
また異国風の髪飾りが素敵で可愛くて高そう!!
……ん?この…飾り…。
昔々に連れて行ってもらった割引中の貴族の家宝展で見たような…。
「……王侯…貴族…!?」
「……ふうん?」
「ドリー嬢、失礼が有ってはならない」
「はっ…ご主人さまのご主人さまですか!?」
しまった!上司の上司に当たりそうな方をガン見してしまったわ!!
私は慌てて120度に腰を折った。
えー、低過ぎて困ることは無いからもっと腰低くしようかしら。
それとも平伏がいいかしら。今からだと大胆過ぎかしら…。
悩んでいると、頭上でべらぼうな美人とご主人さまが話し出した。
「…ルーロ、君、上級生にご主人さま呼びさせてるの?
年上が好きなんだ」
「ち、違います!!いや、ちが…わなくもないですが!!」
ん?あれご主人さまって年下なんだ。
へー。
目つき悪いしタメ口だったから知らなかったわ。
そう言えば少し私より背が小さいかしら?
いやいや、それどころじゃないわ。
目の前の高貴そうな人にどうしたものだろう…。
「……」
何か見られているけど、私は顔を上げない。
自動的に、これまた綺麗な青い絹の靴に包まれた爪先が目に入り…
まあ綺麗なおみ足だことと感心する。
これくらいの美貌が有れば玉の輿乗りたい放題…いかんいかん、さっき楽しようとして今とてつもない事態に巻き込まれているんだったわ。
邪な考えは更なる借金!
見た目に惚れる奴・ダメ・絶対!!
「頭上げたら?私が苛めてるみたい」
「とんっでもないことでございます!!」
私は高速で頭を上げた。
呆れたような視線を受けたけど…よし、許容範囲内!
「…変わった人」
「そうなんです、ひ…アレッキア様」
ん?アレッキア…。
アレッキアって…アレッキア・ユール公爵令嬢!?
お母様が王姉でこの国の王子ショーン様が婚約者の…筋金入りのお姫様!?
……うおおおおお!!本物のお偉いさんだああああ!!
綺っ麗ええええ!!
「し、失礼を致しました…。
私、コレッデモン王国モブニカ伯爵が長女
ドートリッシュ・ムニエ・モブニカにごじゃいります!!」
今度こそカ、カーテシーーー!!
くそっ、動じ過ぎて手が震えて滑る!!膝が笑う!!
カーテシーが優雅に出来ない!
やり過ぎて両膝地面に付いちゃった!!痛い!
くっそう!!お辞儀なら得意だと言うのに!!
「…また訛ってる?噛んでる…?」
「どっちでも宜しいですわご主人さま!!」
そんな変な感想はいいから!!
私の失態を返上してご主人さま!!
「…知ってるけど」
「えええ…とえっと、えっとえっと…」
「一応同級生だね、ドートリッシュ嬢」
同級生…恐れ多いわ。
こんな王族関係のべらぼうな美人居たのね…。
全然知らなかったわ。
どうでもいいけど、何で王族が学園に通うのかしら。
おひとりに見えるけど…危なく無いのかしら。
物理的に暗殺とか…転がりまくってるわよね?
庶民も貴族も混ぜこぜだなんて
危険に晒してくれって言ってるようなものよね?
まあ私みたいな普通の貧乏令嬢が過ごせるくらいだから
…安全は保障されているのかしら?いや、でもさっき小突かれたけど…大丈夫なのかしら。
それでも王族はねえ…。
さっきも、見知らぬ罪もない令嬢を小突くわ悪口を言うわのチンピラが居たことだし…。
本当に変な国ね。ウチの国とは全然違うわね。
ウチの国の姫様なんか…いえいえ、なんでもないわ。
「崖っぷちに同級生だなんて恐れ多いですわ、ユール公爵令嬢さま」
「……変な人だけど、普通だね。立って?」
「え!?あ、はい、呪われておりますけど普通ですわよ!!」
呪われてるけど!!
呪われてるけれど、普通!!…普通かしら?
うん、私って呪われてるのと崖っぷちなの以外は
この上なく普通の可憐な令嬢、ドリーだしね。
私はお許しを得たのでそろそろと立ち上がった。
大丈夫かな、平伏しなくていいかしら?
高貴な雰囲気が過ぎて、ウチの姫様の前よりある意味緊張するわ…。
あっちはあっちで…いえいえ命が惜しいわ。
「……その内役に立ってもらおうかな」
「…いいんですか、ひ…アレッキア様」
「うん、君が何とかしてあげなよ、出来るわよね?」
「お…俺が…う、承りました…」
そんな嫌そうに言わなくてもご主人さまったら…。
契約しちゃったんだから衣食住関係で絶対離さないわよフフフ。
借金はちょっと嫌すぎるけど。
何とかチャラに出来ないかなあ。
1000万ゼニゼロってどうやって働いたら返せるのかしら。
ああ、さっきのイケイン伯爵令息の件が有る限り…呪いを最優先で何とかしないとお婿さまも探せない…。
あ、時給と時間配分を聞かないといけなかったわね。
先は長いけど無駄働きはいけないわ。
この辺りの助手…ってのが分からないから…侍従相場でいいのかしら…。
侍従の相場自体を知らないけれど…。
それとも詳細に決められたしもべ相場が有るのかしら?
「じゃあね」
「はっ」
お金に思いを馳せていたらアレッキア嬢が優雅に去っていってしまったわ…。
踵高い靴なのに足音がしない…滑るように優雅ね。
完璧にお姫さまって感じだわ…。
王子様のお従姉妹だからお姫様で有ってるわよね?凄いわー。
…それにしてもお姫様なのに何か時々殿方みたいな喋り方だったわね…。
何で?
「……まさか姫様がお出でになるとは…」
「ちょっと騒ぎ過ぎましたかしら」
「主に君がな!!はーーーっ」
ご主人さまが物凄く大量の息を吐いている。
緊張したのかしら。
偉くて美人の前だものね…。
私もまだ心臓がバクバクしているから分かるわ。
それにしても高価な持ち物に囲まれているのに全然負けて無かったわ…。
「大丈夫ですか、ご主人さま」
思わず背中を撫でるとびくっとされた。
うん?具合悪い?
大丈夫、衣食住を面倒見てもらえるからこれ位無償よ?
「あの…あんまり触らないでくれるかな」
「あら失礼を。おんぶしましょうか?」
「子供扱いもやめろよな」
別におんぶする位どうってことないんだけどなあ。
弟も昔はおんぶして…は無いな、一つしか変わらないし。
あ、もしかしてさっきので手が汚れてたかしら?
後で洗濯代を請求されないかしら…と思ったら何も言われなかったわ。
そうよね、しもべから触ることも多々有るだろうし、
潔癖症じゃダメよね。
そして何日か経った。
私は授業以外は影のようにご主人さまの荷物持ちとなっている。
て言うか、軽いものばっかり寄越すのね。
因みに石板は背負い袋を貰ったから、布に包んだ石板と、他に水とか本とか色々入ってる。
両手は空くから何か作業は無いのかしら。
石板背負って付き従うだけなんて…。
本当に大した仕事をしていないから、借金があんまり減りそうになくて困るわ。
もっとこう、ががっとばさっと稼げる感じの雑用を申し付けてほしいわ。
あ、勿論私の出来る範囲でね。
「もっと何か無いんですか?」
「予想以上に君が逞しくて引いてるんだけど」
令嬢に向かってどういう意味だ。
逞しいなんて初めて言われたわ。国元じゃもっと…なんでもないけどね!!
そして相変わらずイケイン伯爵令息は私に突撃してくる。
来なくていいのにっ…!!
この何日かで分かったけど、学年違うだろ!!
二つ下なのにどうやって嗅ぎつけてくるの!?
呪い怖い!!令息怖い!!
頼むから強い心で抗って!!呪いなんかに負けないで!!
あ、そう言えばご主人さまも二つ年下だった。
伯爵令息と同い年、同じクラス…。
でも!!…だからと言って助けてくれるわけでもない。
酷いわご主人さまの銭ゲバ!!
お金の掛からない範囲で親切を発揮してくれたっていいじゃない!!
「君は薔薇のように美しく、百合のように可憐でガブット熊より力強い…
結婚しよう」
って最後ぉ!!
呪い!!ちゃんと効いてんのか!?女神像の呪いいいい!!
いや効いてもらっちゃ困るんだけど!!せめて薄めて!!お願い!!
でもうら若き令嬢に熊はねーだろ!?
「ガブット熊は国境の山に出る普通の熊の10倍強い変種だな。
体毛は紫。好きな食べ物は雑食動物」
「その石板便利すぎやしませんか!!ご主人さま!!」
私がイケイン伯爵令息に眠って頂いている間、
ご主人さまは手近な木の根元に座って石板を眺めている…。
要らんわその豆知識!!しかもその熊メッチャ怖いな!?
私の髪が薄紫だからか!?
だからそんな豆知識引っ提げて突撃してくるのか!?
ふざけんな令息!!
熊を口説き文句に使うんじゃないわぶっ飛ばすぞ!!
この間の喩えの砂金だか高嶺の花だかぐらい使えよ!!
言われても困るけど!!
「ふう…」
「相変わらず鮮やかだな、ドリー」
「これでも神経遣ってるんですよ。
ちゃんと芝生の上で寝転がして目立つ木の根元に置いてるんですから…」
ご主人さまは私に比べたらからっきしモヤシ…いえ、頭脳労働派なようで
私は一人でずるずると令息を他の木の根元に運んだ。
…いいんですよ、追加借金が発生しないなら何だって。
ちょっと令嬢として泣けるだけで。
ああ、素敵な未来のお婿さまが遠ざかっていく気しかしない。
でもまあ、そうしたらお付きまとい中の令嬢方が担架で引き取って下さると言う訳…。
相変わらず見事なチームワークだわ。
令息は季節の変わり目で体調不良を起こしまくっていると言う噂まで流れて…。
うんうん、いい兆候だわ。
どうかそのまま私のことなど忘れ去って欲しいわ。
私は借金返済がどうやったら効率よく出来るかに思いを馳せるのに忙しいので。
それにしてもはあ、疲れた…。
呪いって諦めない心も育てるのかしら。いい加減にしてほしいわ。
人間、諦めって大事よ、お金以外には。
投げ飛ばすのはいいんだけど、精神的に殿方を投げるとか心が痛いわ、乙女として。
「確かに親切な通り魔具合だ」
「違うっつってんでしょ!!狙われてるの私!!」
誰が通り魔だよ!!
襲われてるのに無傷で帰すなんてこんな親切な令嬢いないでしょ!?
現金の力で褒めてほしいくらいだわ!!
「呪った…祈ったのは君だろ」
「くっそう…」
先日の私のばっかやろう…。
ああ、此処でも女神像が目につくな…。
と言うか、ご主人さまに用意してもらった家なんだけど、
そこの窓を開けた途端女神像が見えて気分がげんなりしたわ。
学園から駅馬車5停留所くらいの激近で、
五階建ての建物の一番上で、
見晴らしは最高なんだけど…あれさえ見えなければ。
本当に何処でも有るんだな…。
増えた奴なのか元々の設置してある奴なのかは知りたくもないけれど。
知らないとはいえ、一瞬でも信仰してしまったこの間の私に小一時間説教したいわ。
ああ、そうそう。
新しい私の拠点なんだけど、何かの職員宿舎跡らしいのよ。
ちょっと壁に大きな熊みたいな形の赤黒いシミが有るわね。何でかしら。
掃除したんだけど、いまいち取れないね…まあいいか。
下手に削り取ったりしたら後で請求されても困るし。
ああ、家具もカーテンもキッチンも有って素敵だわ。
お部屋でお湯が沸かせるって素敵すぎるわ!!
…うん、まあ…。
今朝みたいに爽やかな朝の風に誘われてカーテンを開けたら…
女神像さえ見えなければ…
平気平気…。
……あんまり平気じゃないけど、平気平気…。
気を取り直さなきゃ…。女神像を憎んでも借金は減らないわ。
腹立つわあ。
「…そう言えば、ご主人さま。お願いが有るんですが」
「何?」
「帰りに生活用品を買って帰りたいのですが、宜しいでしょうか?」
色々物要るのよね。女の一人暮らしって…。
案外一人暮らしを甘く見てたわ。
「…じゃあ、これ首にかけて」
ん?何か真っ黒い紐の付いた紋章ペンダントを手渡されたわ。
凝った紋章ねえ。見たこと無いわ。
…いえ、何か…どこかで見たのに似てる…?
うーん、どっかの神殿で…まさかねえ。商人の家の紋章なんだもんねー。
…て言うか、商人って紋章使うの?他国の事は分からないわねー。
「…助手用に貸すよ。これを見せれば現金支払いはしなくていいから」
「何という魔法のアイテム…」
凄い、私…宝の山を手に入れてしまったんじゃない!?
人のお金でお買い物なんてこの生涯無かった事よね!!
すごーい、走って逃げたーい!
「それ持って走って逃げても居場所が分かるからね」
ご主人さまは私を睨んで石板を叩いた…。
…あ、そうですよね。その家宝石板って便利ですもんね。
……チッ。
でも信用第一だからなあ。
雇って頂いている以上ちゃんとしなきゃ。
真摯に働いたら割引が待っているかもしれないわ。
待ってて!!借金返済後の明るい未来!!
「変なものは買わないように。買ったものもこれで分かるから」
「買いませんわよ…生きるのに最低限の必要経費しか買わないですって…」
「そこまで節約しろとは言ってない…」
「え、じゃあ何を買ったら許されますの?」
「君は本当に伯爵令嬢なのか…あるだろ、何かこう…ええと…茶葉とか?」
「えええ!?そんな勿体無いものを買っていんですか!?」
お茶の葉っぱですって!?
そんな贅沢品買っていいの!?
やったあああああ!!茶葉なんて買うの初めてえええ!!
「ええ…何かこう、貴族って茶会とかするじゃないか」
「貰い物か御呼ばれでしか飲みませんので、自分で用意したことが無くて…」
「……何か、君を見ていると、貴族と言うか君の国への認識がどんどん変わっていく…」
「そうですかしら?
因みに今日私が買おうと思っているのは、サイズが変わったので下着類と、少し歩いたら穴が空いてしまったので靴と、生地が劣化し過ぎて引きちぎれたのでハンカチ用の布を少々だったんですけど、更に贅沢品は…」
あれ、何でそんな引き攣った顔で私を見るの、ご主人さま?
ちょっと買いたい品物多かった?
「……」
「あ、ごめんなさい駄目ですわよね?調子に乗りました。
流石に駄目かあ。えーと、じゃあ下着類は」
考え直そうとすると、真っ赤になったご主人さまに怒鳴られた。
ええ、何で?
何かよく分からないけど気が短いなあ。
「…もういいから!!それ位買ってこいよ、ドリー…。何にも文句は無いから」
「え、マジですの!?やったあ!ご主人さま太っ腹あ!!」
「後、男の前で下着云々連呼すんな!!」
「え?でも石板で買った詳細が分かるんですよね?」
言おうが言うまいが結局知れるんだし関係なくない?
と言う意味を込めて見ると、そっぽを向かれてしまったわ。
「……もういい。茶でも菓子でも買っていいから」
「そんな贅沢な。でもお茶は嬉しいですわ、ふふっ」
「……」
そんな目で見られても…。
いいじゃない、久々に贅沢出来るなんてこの頃無かったんだから。
「…もういいよ、買い物に行けば?
取り合えずちゃんとした食料も買えよ?」
「まあ!!嬉しいわご主人さま、御機嫌よう」
平伏しようとしたら止められたのでお辞儀を10回しておいたらまた顔が引き攣っていた。
何か気に入らないのかしら?次は15回にしとこうかしら。
そして私は意気揚々と市場に繰り出すのだった…。
やったあ!今日の晩御飯は豪勢に激安鶏の胸肉とか買っちゃおうかな!!
わあ楽しい!本当に素敵だわ!
お徳用で下着も買えたし、布も買えたし靴もお得だったし…あとはー。
「あれ……ちょっと、まさか!?」
「まあ!」
学園に来て暫く経つけど初めて知り合いに会えたわね!!
それにしても案外会えないものなのね…。
次々と登場人物が増えそうですね。
そんなに増やす予定無いんだけど。




