番外編そのにの3 どうぞあなたの心のままに
ちょっと今回長いですね。人口密度が高まってます。
ジャンルはホラーだろうと言われましたが、
恋愛です。
主役は女神像では有りません。
恐怖体験はありましたが恋愛です。
「な、何て恐ろしい呪われた国に来てしまったの私…」
私は膝を付いた…。
生まれたときから崖っぷち人生なのに更なる崖が加わってしまったなんて…。
ああ。一刻も早くこの国を出たい…。
だが、お婿さまを…得るまでは…お婿さまを得ないと血反吐吐いても帰れない…。
だって帰ったところで借金は減らない。
領地没収の上御取り潰しになって一族没落してしまう!!
心情的には一時的にでも帰って家畜にブラシでも掛けたいけどそんな旅費も無い!!
ああウシーヌ(乳牛)に会いたい気持ちで胸が張り裂けそう!!
「ねえ…カイジュさま?」
「え、急に何?何でさま付け?」
「私、これから…どうなるのかしら?」
「えーと、統計だと…何にもしないと相手の方から寄って来て3~5秒で告白される」
「相手から惚れられた場合も結末は一緒なの?」
「9割の確率で一緒だよ。残りは燃え尽きて無回答」
回答しなかった人の心神喪失っぷりが気の毒すぎるんだけど、さっきから。
ああ、悪徳商人に騙されて心が底辺を這う私の横を通った女生徒が祈っているのが見えるわ。
えっ、…女神像に!?祈る!?
ダメじゃないの!!
犠牲者が増えてしまう!!
「女神様、いつも見守って下さってありがとうございます」
「あれ!?あの人女神像に祈ってるわ!!何で!?」
この国の人間は女神像に近寄らないんじゃなかったの!?
止めなよ呪われるよ!!
呪われている私が保証するわよ!?
思わず駆け寄ろうとした私をカイジュが止めてきた。
ちょっとこれ以上まだ稼ぎたいの!?酷すぎじゃない!?払いたくないけど!!
「ちょっと!銭ゲバ!!犠牲者が!!」
「ああ、大丈夫。相思相愛の相手が居る人間が祈っても何も起こらない。女神は愛が好きじゃないから何もしない」
「女神、ブレないな!!恋人持ちか既婚者ならいいの!?」
何処までも私の未来を邪魔する女神像だわ!!
一体私が何をしたって言うの。
私だって相思相愛の相手が居てほしかった!!好きで独り者なんじゃないのよ!!
「所で銭ゲバって聞こえたけど」
「いえいえいえいえ空耳ですわ」
しまったわ、つい本音が。心の中がつい出てしまったわ。
でもしょうがないわよね、銭ゲバなんだし。
でも絶対に次は言わないようにしよう。
私の運命は奴に握られている…。
「……まあ、いいけど。で、どうする?解呪する?」
「ええと出世払いでは…」
「1年で利子5分。因みに逃げ得にはさせないよ。
ちゃんと君の国まで取り立てに行くよ?
ああ、出張費も日にち×5万ゼニゼロで載せるから」
うわああ、容赦全く無いんですけどお…。
銭ゲバの目は伊達じゃないわね。
だが私も引くに引けない。常に崖っぷち人生しか歩いてないんだからね!
「……あの、お金以外で何とかなりません?お仕事お手伝いするとか…」
「…助手って事?」
「はい、使用人扱いでも結構です。
重いものでも何でもお持ちしますので…。馬車馬のように働きますので」
「使用人って…伯爵令嬢なのに?」
怪訝な顔をされたがどうでもいい。何とかしてお金がかからない方法で交渉しなければ!
「この学園では単なる一生徒ですしそれはどうでもいいんです。国では自活しておりました。お世話に困らないかと…」
「此処までプライドが無い貴族とは…」
「勿論、解呪して頂いた後逃げることは致しません。
何でしたら労働でのお支払いが終わるまで、首に縄でも呪いでもどうぞ掛けて頂いて…」
「…怖いな、君」
「どうぞ私めを雇って下さいご主人さま!!」
「うわ止めろ!!人が見てる!!貴族令嬢が平民の足に縋らないでくれよ!!!」
わあわあやっていると、渡り廊下を他の生徒達が通った。
野次馬が集まってる!?
構っていられるか!!
御家取り潰しの危機が掛かっとるんだ!!
「あ。あの子女神さまに祈っちゃったんだねー」
「……ちょっと、ロージア」
誰だよ!!聞こえてるんだけど!?
野次馬はいいけど黙ってやってよね!口を閉じて!!
全くなってないわー。腹立つなあ!!
「私、怖くてとても出来ないなあ。
あのお金大好きなカイジュくんに縋りつくなんて、何されるか分かんないのにね?」
「ロージア!」
「見られちゃった。あはっ、行かなきゃ」
あ!さっきの薄赤い髪の女子生徒!!
さっきの笑いはこれか!知ってて!?性格悪すぎじゃない!!
……此処まで分かりやすい陰口を叩かれたことが無いわ。指まで差すか!?
「……」
「……あの不愉快極まりない女生徒は誰かしら、カイジュさま」
こめかみの血管が切れそう。
…治療費掛かるから切れないようにしなきゃ。おまけにさっき小突かれた脇腹が痛んできてむかつくわ。
「ロージア・ハイトドロー…。一応男爵令嬢、家は潰れ掛けだけどね」
「そう…チンピラみたいな女ね」
一応私の方が家格が上だと言うのに…。
まあ、他国だから舐められてるんでしょうけど…。知りもしないんでしょうね!!
「実際チンピラみたいなスキルしか持っていないよ」
カイジュが石板を見せてくれた。
……奪取、夜遊び、道草…挑発…。水属性レベル1…。うん?雨の器って何かしら?水魔術?
本当にチンピラみたいなスキルの羅列ね。
それより…許せないわ。
「本当ね…」
「取り合えずアレが何に呪われても絶対に解呪しないと決めてるんだ…」
「分かるわ。
もしあなたが操られたりして、あの子の呪いを解こうとしたら、私が殴ってでも止めるわ」
「…意外と話が合うね、ドリー嬢」
「ええ、お金が大好きで何が悪いのかしら。
例え王が許しても私が許さないわ」
「其処!?」
「ええ、其処よ…。私は侮られ慣れているから別にいいの。お金をバカにすることだけは許されないわ」
「……君、女神像に祈る位だから、よっぽど乙女チックな思考をしているのかと思っていたけど」
「何を言っているのかしら。
私が恋愛成就を祈っているのは、御家取り潰しを止める為よ」
はっきり言い放った私をカイジュは気の毒そうに見た。
あ、私に同情してるわね!?
これってもしかして、いい感じじゃない!?
値切りの切っ掛け到来じゃない!?
「…そりゃ、金蔓にはなりそうにないね…」
「そうでしょう可哀想でしょう!?割引して!?」
「しないけど…まあ、助手の件なら欲しかったし…石板が重いし」
…いい方向に転がってるわね!
割り引いては貰えなかったけど…チッ!
まあとりあえずはその石板を持って背後に控えればいいのね。
楽勝ね。
無くさないようにと壊さないようにとしなきゃねえ…。
「本当ですかご主人さま!!」
「だからそれは止めろよ」
「ええご主人さま!!契約は如何いたしましょう!?首に縄でも掛けますか!?」
「え、本当にやるのか!?」
え?やらないの?
意外と遠慮がちなのね?
「どうぞどうぞ!!縄が宜しい?」
「…そんな趣味があるように見えるか?…石板に手を載せて」
ああそうなの…。
従者っていたことも無いし、どういうものなのかさっぱり分からないから…。
首輪に縄及び鎖とか、裏切ったらバチバチする呪いがかかるとかと思ったけれど違うのね。
案外甘いのねえ。私が逆で出来たらそっちにするのに。お金が掛かってることだし。
私は石板に躊躇なく両手を載せた。
そうしたら両手は要らないと言われたので左手を降ろす。
「復唱して。私はカイジュ・ルーロ・ノロットイの従者となり、
彼に利益をもたらすものとなることを宣誓します」
「あれ、セカンドネームが有るの?」
もしかして隠れ貴族なのかしら。
こう、どっかのご落胤的な…。
「…言わないのか?」
「私はカイジュ・ルーロ・ノロットイの従者となり、彼に利益をもたらすものとなると宣誓しまーっす!!」
睨まんでも!!はいはい!やりますよー!
ここで機嫌を損ねてはならないので私は即座に復唱した。
「私、カイジュ・ルーロ・ノロットイは、その利益が1000万ゼニゼロに辿り着いた暁のみ、ドートリッシュ・ムニエ・モブニカの呪いを解くと宣誓します」
「え!?聞いてない!!たかあああああ!!」
私が目を剥くと同時に石板がぴかーっと光った。
まぶしっ!!
「はい、契約完了」
「ちょっとお!!ウチの年収1000万ゼニゼロも無いわよ!!」
寧ろそんなに有ったら借金3/5は消えてるっての!!
「君の家の領地の規模からしたら普通に4倍くらい税収で取れるよ。
余りも出る」
「取れないからこんな所で婿探しをしてるんですけどおおおお!!」
「よっぽど経営がド下手くそなんだな…」
分かってるわぁあああ!!!
でなきゃ没落しそうになる訳ないだろおお!!
こちとら生まれた時から崖っぷち令嬢なんだぞ!!
あ、ダメ…涙が出そう。水分が無駄になるから泣かないけど。
暑い時期はともかく、こんな気候の良い時期に無駄な出費は出来ないわ。
全く此処ときたら令嬢が屋外の水栓の水を飲んじゃいけないなんて…有り得ないわね。
優雅にお茶会出来る懐具合ばっかりじゃないのよ!!
「それに何なの!?
1000万ゼニゼロ利益を上げないと呪い解いてくれないの!?」
「基本先払いだから」
「うおおおおおあん!!騙されたあああああ!!」
「高額だから衣食住くらいはこっちで面倒見るぞ」
「然様でございますか!!宜しくお願いしますご主人さま!」
わあい!衣食住が保証されたわあ!最高の環境ね!!
ちょっとカイジュが引いてるけど喜びが止まらないわ!
「変わり身が早すぎる、ドリー嬢」
「そんな丁寧な呼称はいけませんわ。『おい』とか『しもべドリー』で結構ですわ」
「そんな特殊な呼び方はしないよ!!」
「そうそうぞんざいにお扱くださいませ!」
「とりあえず明日から全力で…呪った相手から求愛されるとは思うが、自力で何とか頑張ってくれ」
「うおおおおお!!」
しまったああああ!!
結局何も…何にも解決してないわああああ!!
「君の生活基盤は寮だよな?」
うう、冷静だわ、流石商人ね…。
しもべを慰めるなんて1ゼニゼロにもならないことはしない主義なのね。
ええ…気を取り直しましょう。
嘆いてたって呪いは解けないしお金も湧かないわ。
「はい、一番安い1年24万ゼニゼロを22万ゼニゼロにオマケしてもらった、素敵な屋根付きのお部屋999号室です」
「え、どう見ても低層建築のあの寮に9階なんかあるの…」
勿論ここのお厭いのないセレブ貴族が住んでいる瀟洒な建物ではないわ。
あそこ1ヶ月30万ゼニゼロ掛かるんですもの。無理よ。
ここの国の方って低層階に住みたがるのね…足が弱いのかしら。
まあウチの実家は3階建てだけど…。
普通に野菜とか飼料の積み下ろしとかで、階段やら悪路やら坂道やらで歩くからなあ。
「ええ、魔術師科の爆発物実験室の上になりますわ」
「それ、寮ですらない…」
「9階は眺めが良くて素敵ですよご主人さま。1日に10回くらい轟音が響きますけど」
あら、何だかカイジュ…ご主人さまが頭を抱えているわ。
揺れはするけど雨漏りもしないし家具は有るし窓は有るしカーテンもあるし、素晴らしい所だと思うわ。
「……あのさ、外で良ければ部屋用意するけど」
「ああっ!衣食住の住環境の保障の件ですわね!!
素敵!これで節約できる!!
それで場所はどちらに?」
「ちょっと遠くなるけど…」
「駅馬車35停留所くらいなら歩けますけど、それ以上は交通費を頂きたいですわ」
「そんな遠い訳有るか!!町から出て国境越えする気か!!」
怒鳴らなくてもいいじゃないの。
そんなに交通費支払いが嫌なのかしら…。まあ嫌よね。私が彼の立場に立ったら嫌だわ。
「まあそれならお近くですわね」
「君は本当に伯爵令嬢なのか…」
「ええ、現金収入が少ない伯爵令嬢ですわ。家紋書きましょうか?印章なんて高価なものは持ってないので手書きできますわよ?ペンを貸していただければ」
手書きなら伯爵家レターセットなんて暴利な代物発注しないでいいしね!
難点はインク代が掛かってしまう事ね…。
印章が無いときは垂らした封蝋の上に素早くサインをして閉じるといいわよ!
「君の国はやっぱりおかしい…。何処の国に家紋を手書きできる伯爵令嬢がいるんだ」
「此方に控えておりますわ、ご主人さま」
「…何か君、役に立つんだか立たないんだか…」
「他所の家紋も書けますわよ?地面に棒きれで良ければ」
「見逃してたけど君、スキルに模写能力が有るし…凄いね…」
そんなもの有ったのね。
全然気にしてなかったわ。
「私が手を翳さずにパラメータが見れるんですか?」
「従者契約結ぶと細かい所まで見れるんだ」
「あ、すみません、乙女として体重と服の寸法の公開はちょっと」
「ない!!有っても見ない!!」
真赤になって怒られた。
…冗談だと言うのに…。
ああ、でも服の寸法は必要なのかな。
何たって衣食住の衣は必要だもんなあ。
「とりあえず」
「モブニカ伯爵令嬢ドリー嬢ううううう!!」
「ぎゃあああ!?」
背中に思いっきりタックルされて私は吹っ飛びそうになったが、耐えた。
飼ってる羊にタックルされても踏ん張ってる成果が出たわ!!
じゃないよ!!
誰だよ!!
またさっきの薄赤毛チンピラか!?
もうかすり傷でも怪我したら慰謝料請求すんぞ!!
私には訴訟費用をお出し頂けて訴えてくれるご主人さまが出来たんだからな!!
「貴女を一目見た途端、私は恋に落ちた!!結婚を前提とした付き合いを!!」
……ぎゃああああ!!
この顔を真っ赤にしたチャラ男…じゃない、イケイン伯爵令息じゃあああんん!!
何時の間に現れたのおおお!?さっきから20分位しか経ってないわよ!?
どうして来たの!?令嬢に囲まれときなよ!!
「な?女神像の呪いは効き目充分だろ?」
充分すぎやしない!?何であっちから近寄ってくるの!?
あ、それが呪いかあ!いっけねえ…じゃなくて!!
ぎゃあ!!何でこの人すり寄ってくるの!!
あ、呪いのせいですね、すみません!!
でもいやああ!!何かいやああ!!思ってたのと違ーう!!いやあ全然嬉しくなーーーーい!!
「助けてご主人さまあああああ!!」
「ここで君を助けると借金に上乗せするけど、いいかな」
「どっせええい!!」
ご主人さまのお言葉を聞いて心が沈んだ私は、腰を落としてイケイン伯爵令息を投げた。
…意外と人って投げられるものなのね。
うん、芝生の上に落ちたわね。
……ふっ、他愛ない。
小屋に入りたがらないウシーヌ(飼ってる牛)を押すより力が要らなかったわ。
「……凄い、俺より強い…」
「え、きゃ…きゃあやだあ、重かったあ」
「怖い従者を拾ってしまった…」
其処で引かないで!!あ、そんな事よりどうしよう!
ついお金が掛かるって聞いた途端投げてしまった!!
「はっ、しまった!イケイン伯爵令息さま、大丈夫ですか!?
掛かってこられたのはあなた様!正当防衛ですよ!!正当防衛!!
金銭の要求はしないでくださいね?!」
私は気絶したイケイン公爵令息の肩を揺らした。
ああ、どうしよう反応が無い。口元に手を当ててみる…息は有る!!
…うん、生きてるな!出血もしていない!
多分内臓に損傷はない!多分骨に異常はない!!多分無傷!!
生きてるって素晴らしいわね!!
「きゃあ!何してるの貴方!!」
「イケイン伯爵令息さまあ!」
あっ、さっきこのイケイン伯爵令息に集まってた人だかりの人達だわ!!
どうして貴方達止めてくれないの!?
ちゃんと令嬢が一丸となって、閉じ込めといてくれないと私が滅茶苦茶困るじゃない!!
…よし!押し付けよう!!
私は出来るだけ腹筋に力を入れて可愛い声を作って、オロオロする態度を作った。
ちょっとご主人さま、化け物見るみたいな目で見ない!!
「あっ、みなさまちょうどいい所に!!」
「な、何!?」
「どうやら具合がお悪いようなんです!!でも私はこの方と親しくないし…。
優しいおともだちのみなさまがお助けいただけません!?」
「……何と言う変わり身だ…」
しっ!!要らん事言わないご主人さま!!気付かれたらどうするの!!
「ま。まあ!そういう事なら仕方ないわね!!」
「そうね!医務室へ運んで差し上げましょう」
「皆さまー、担架を持って参りましたわー」
おお、チョロい…いえ、素晴らしい愛の所業だわ。
そして、彼は担架の担ぎ手で揉める令嬢の手により、医務室へ運ばれて行った。
そこは従者とかに任せないの?
人が集り過ぎて最早お祭りの輿みたいになってるわ…。
「……え、この国令嬢が令息を担架で運ぶの?非常識だわ」
「さっきの君の行いの方が非常識だ」
「所でご主人さま、私の衣食住について詰めたお話を」
「……ちょっと君の能力の非常識さについて、俺には荷が勝ちすぎる…」
「じゃあ解いてあげれば?」
ん?
色っぽいのに可愛い声がするわ…。誰?
次に『かの令嬢』が出てきますね。




