番外編そのにの2 恋の扉が開かれた先
謎の生徒(商人)と崖っぷち令嬢との会話です。
女神像の秘密が明らかに…。
「動揺しすぎて訛ってるよ」
「噛んだのよ!!呪われてるって何よ!?」
「君が女神像に祈ったから呪われたんだ…。まあ、祝福とも言うけど」
「呪いと祝福は天地くらい違うでしょうが!!」
「神からしたら似たようなもんだよ」
そんな精神論はどうでもいいのよ!!
人を呪われてるって言うからには説明が大事でしょ!!
「説明!!説明をして!!」
「いいよ、その為に見張ってたんだし…」
「見張りィ!?」
凄く不穏な展開しか予想できないわ!!
一体私が何をしたって言うの!?
「まあそれは後程。
この女神像の名前ね、素敵な恋を愛する女神像なんだよ」
「知ってるわよ!!でなきゃ祈らないわよ!!」
若干近寄るの怖いんだからねこの女神像!!
今昼間だからマシだけど、夜はあり得ないほど青く光ってるし!
ちょっと居残りしたりすると飛びあがりそうになるのよ。
想像以上に不気味なのよ!?
「『恋』を愛するから、恋は必ず叶うんだ。」
「願ったり叶ったりじゃない!」
「相手の目に君の魅力は30倍に映り、告白でもしたら3秒で了承されるだろう」
「やっほう!今すぐ告白してこようかしら!!」
やだ私の未来明るいじゃない!!家族の未来も明るいわ!!
女神像最高じゃない!!10分前位の私、素晴らしい判断よ!!
「まあ聞けよ。そして順調な交際が続き…君の恋がいい感じに愛に変わった時」
「プロポーズね!?」
今までの苦労が報われ、薔薇色の未来への扉が開かれる瞬間って奴ね!!
「ある日突然呼び出され、上から下まで観察されて、『何かよく見たら君あんまり可愛くない。思ってたのと違う』という感じの台詞と共に振られる」
……何その滅多刺しに刺さる台詞。恋愛経験無い私がそんな事を言われたら血を吐く自信があるわ。
振られてもいないのに、滅茶苦茶傷つくんですけど。
「……はあ!?振られる!?何で!?魅力30倍なのよね!?」
「呪った相手限定でね。
女神像は『恋』を愛しているが、愛は愛していないから」
「……つまり?」
愛は愛してない?何の謎かけかしら…。
嫌な予感しかしないのだけれど…。
「二人の仲が『愛』に発展すると呪いは解ける。
ついでに魅力30倍も無くなる。
消え失せる」
「……」
「ついでに女神像は恋と付いているものなら大概好きだ。『失恋』も」
……その単語は、その単語だけは好きじゃダメだろ!!女神像!!
その単語だけは忌避してよおおお!!!
「呪いじゃあああん!!」
呪い!!呪い!!間違いなく呪い!!私そんなものに呪われてるの!?
何てものに祈ったの15分位前の私!!
どうか目を覚まして!!
あの時の私を誰か連れ去ってえええええ!!
「何処でそんな事になるのよおおおお!?」
「古来から続く統計の元に。因みに」
カイジュが手を翳すと石板がまた光って…文字と棒のようなものが映る。
何なのこの板…ちょっと便利。
でも書いてある文面…目と心がとことん濁るんだけど。
「『彼女は砂金より美しいと思ってたら本当は砂埃だった』
『輝いて見えたけど気のせいだった…』
『熱が急転直下で冷めた』
『高嶺の花だと思ったが、花ですらない』
『騙されたからお金返して』
…これは…」
「相手の感想の多かったものをまとめてみた。学園が出来てからの蓄積した情報だよ」
多いな!!本ッ当に多いな!!いちいちまた刺さる台詞!!
ちょっと感想をくれたあなた達ねえ、恋愛してた相手に失礼だと思わないの!?
騙されてたから!!?
あ、そうだね!容赦したくないよね!わっかるう!
…それにしても最後!!嫌!これが一番嫌!!
お金返してなんて一番聞きたくない!!
恋愛関係にある人に、一度あげたプレゼントを返してっておかしいからね!
私が守銭奴だからじゃなくて一般常識!!
「酷い!!酷いわ酷過ぎるわ!!」
「まあ、中には猛者も居て…魅力30倍になろうと自分磨きをした子もいる」
「えっ、そんな希望の光の勇者が!?」
凄いわ、何処にも勇者さまって存在するのね!!その胆力、見習わなきゃ!!
具体的に何をしたのか実に聞きたいわ!
お金の掛からない範囲で真似をしたい!!
「うん、でも自分磨きした結果を30倍されたから結局振られた」
「其処は倍にするなああああ!!」
女神なのに勇者に厳しくない!?
其処は祝福しろよ!!
「で、君はどうする?」
「どうする!?そんな絶望を聞かせてどうするって!?どうしろって!?」
「うん、とりあえず呪いを利用して相手を口説いて口説かれてチヤホヤされて、暫くいい気分に浸ることも出来るけど」
「そんな被虐趣味な未来は嫌!!」
どう見ても女神の力で惚れられて楽しむって…人間として最低だけど!!
私はこう見えても普通の乙女よ!!
女神像に祈る位心の清い普通の家族思いの乙女!!
付き合ってた人に怒られる未来が確定してるって…!!
しかも無茶苦茶キレられて捨てられるなんて、嫌に決まってるじゃない!!
そしてお金返してって言われるのが確定してるのが嫌!!
「呪いを解く方法が有るんだけど」
「先に言ってくれるぅ!?」
カイジュに食って掛かったの私は悪くないと思うわ。
この人銭ゲバの気配するけど嗜虐趣味も有ると思うわ!!
「あなた他国で震える不安な令嬢に対して狼藉が許されると思ってるの!?
どうかお願いします早く教えてください!!」
私は腰を90度に折り、素早くお辞儀を連続で繰り出した。
え?カーテシー?あれは誠意が感じられないから駄目ね!!
寧ろ身を投げ出してお願いの方が良くない?
カイジュに滅茶苦茶引かれたけど、知らないわ!
此処で彼にご機嫌を損ねたら私は多大な損失を心と懐に負ってしまうわ。
深い深い深い傷を…借金とか背負うのは嫌!!
「国では…け、結構な地位なんでしょ?腰が低いんだね…」
「我が国では無償の親切行為や利益が出ると分かれば、相手に平身低頭するのは当然。国家、国民の義務です」
「恐ろしい国だ…」
「それで呪いを解く方法とは?」
「解呪屋に頼むといいよ」
「何ですそれ」
初めて聞く職業…。
この国ではよく知られた職業なのかしら。
解呪って事は…呪いを解くのよね?
「そのまんま呪いを解く職業。
因みにこの女神像の呪いを解くと…君は未成年だから…当主の年収の3割頂きます」
「……高あああああああいッ!!」
目玉が頭蓋骨から離れるかと思うほどの衝撃を感じたわ!!
3割ィ!?
当主…父様の年収の3割ぃ!?
出せるかあああああ!!
ウチは私の留学費用すら借金で火の車なんだってばああああ!!
「そう言われても国家法で決まってるし。
大体女神像の呪いを解くと、向こう3か月魔力が空っぽになって他の仕事が受けられなくなるんだよ」
「ええええそんな事言われても…3割ぃ!?」
立ち行かないよそんな暴利払ったら!!即座に一家離散!!
え、何で!?何で軽ーい気持ちで女神像に祈っただけなのに、何でそんな大仰なことになるの!?
こんなに沢山女神像有るのに!!
「だから、此処の独り者の生徒は絶対に女神像に祈らない」
「先に誰か教えてええええ!!!」
「あ、因みに腹立つからって、女神像を殴る蹴るしない方がいいよ」
「そんな事する訳ないでしょ!!余計呪われたらどうするんだ!!」
「察しがいいね。
女神像に夜中の学園を追いかけられる夢を連日連夜見る呪いが追加されるよ」
「ヒイイイイ!!!」
「付かず離れずの絶妙なスピードらしい。見た人の7割2分が不眠症に陥って、1割が目を開けたまま寝るらしい。
残りは喋るのすら困難で無回答」
想像しただけで怖い!!
何でそんな情報持ってるの!?この人!!
誰だか知らないけど自業自得とは言え恐ろしい!!酷い!!
「因みに、殴る蹴るで受けた呪いは解呪屋に頼まなくても解けるよ」
「ええ!ずるい!!」
寧ろその罰当たりの方を厳しくしてよ!!
殴る蹴るした人の方が遥かに罰当たりでしょ!!
「4日間ですべての女神像…
70個くらいを綺麗に掃除して、最後の女神像の足元で眠ると解ける」
「…おお、全然ずるくない…」
「完璧にピカピカにするのに一柱1時間くらいかかるらしい」
ワアー…殆ど寝ずの作業で4日間掃除しないと許してくれないんだー。
不眠症にさせた上に4日間の徹夜?
…何なのあの女神像は!!
呪いの像(女)とかに改名すべきじゃないかしら。
そしたら私のような罪の無い乙女が引っかからないのに!!
「はっ、もしかしたら女神像を磨けば呪いがちょっと緩和されたり…」
「魅力は上がると思うよ。
例の呪った相手限定魅力30倍が30.1倍くらいに」
少なっ!!!
しかも必要が全くない!!
「そっちは要らない!!
て言うかそんなの聞いたら彼に怖くて近寄れないわ!!
後々お金請求されるの嫌!!」
「じゃあ解呪したら?」
「そんな莫大な金額払えるか!!
どうでもいいけど何故あなたはそんなに詳しいの!?」
「ああ、申し遅れました。俺、商売で解呪屋やってます。
これ、王の許可証ね」
カイジュが裏返した石板に王の紋章と…許可証!!
許可証!?
だ…だから止めなかったのかあああああ!!
このやろおおおお!!
怒りが私を襲うけれど、此処で手を出すわけにはいかない!!
出したあああい!!家畜の飼料袋投げたああああい!!
「俺含め、家族もやってるから、女性の解呪屋がいいとかなら姉ちゃん呼んでくるけど?」
「そんな気遣いはいらなああああい!!」
「街中にも一杯あるからな、女神像」
「何故撤去しないいいいい!!」
「ああ、動かすと増えるらしいから」
「増えるぅ!?」
「人前に出たい性分みたいだよ、女神像」
……最早女神じゃないわ、そんなの!!
石板はノートパソコンくらいの大きさです。光りますが喋りません。
タブレット端末ではないんです。
あくまで石板ですから。
だから地味に重いので商人くんは持ち運びに苦労しています。




