Act.22 管理センター...
「おい、パダットと言うロボットが来たか? 私達はそいつを探しているだけなんだ。お前達と戦う気は無い。話は出来るか?」
チハルは最後の一人となった男の胸倉を掴んで尋問していた。ゲートはハルトとリクスが見ているが、中から出てくる敵はなぜかいなかった。
「この基地へは誰も入っていない。それに、敵に見つかった事も無い。お前らが初めてだ」
ハルトに手ひどくやられたため、男は乱れた合成音のような声でチハルに答える。
「ジルマールの所の兵士達と違って、こいつらは調整を受けてないようだ。自分で考え…」
チハルの言葉を遮って、突然兵士が話し出した。
「パダットとは、ガストタウンを破壊しようとした奴だな。そいつについての情報を知りたいなら教えてやるから中に入って来なさい」
チハルは兵士の口調が少し変わったことに違和感を持った。いや、それより、中身が入れ替わったような気さえした。
「お前は誰だ?」
「……鋭いな。私はこの施設の責任者だ。もちろん、司令官も兼任している。知りたい情報をやるから、早く来てくれ」
「……今ここで教えろ」
「駄目だ。私はお前達を直接見てみたい。交換条件だ」
「お前が本当に情報を持っているのか確証は無い。不利な条件を飲む気はない」
「なるほど。では先に教えよう。パダットとお前が呼んでいるロボットは、ここから南、ローグタウンと丁度中間地点から西に50kmほど行った場所に留まっているようだ」
「西に……50kmだと?」
チハルは、この目の前の兵士の口を借りているどこかに隠れているロボットが、50kmと正確に距離を伝えてきた事に驚いた。リクスやハルトなら「西にちょっと」と言う様に、曖昧に表現するのがこの世界のロボットの特徴だからだ。
「どうだ、来てくれるか?」
「偽の情報かもしれない。証拠はあるのか?」
「ふむ。証拠と言われると……私の場所に来てもらうしかない。ここにはこの地方にある全ての街を観察するモニターと、主要なロボットについては居場所が分かるシステムがあるのだ」
「馬鹿を言え」
「それゆえ、私は気になっている。お前、そして仲間の一人の大きい方のロボット。その二人はこのシステムで追尾できないのだ。それを知りたいので私の所へ来てもらいたい」
「……私とハルトだけか? リクスは?」
「もう一体のロボットだな。そいつはシステムに反応がある。だからお前達を歓迎できたのだよ」
「それについても聞きたい事がある。どうしてあれだけしか敵をよこさなかった? まだ中には数倍の兵士達がいるだろ?」
「それは本気でお前達を壊す気が無いからだ。間近で戦う所を見、データを取りたかった。これでも、私がお前達を罠にはめようとしていると思うのか?」
「…………一つ聞きたい。お前のシステムで追尾できるのはロボットだけか?」
「どう言う事だ? この世界にロボット以外いないだろう。もちろんそれだけだ」
「人間の反応はわからないのか?」
「人間? ……人間の体は追尾できない。ここのシステムは生命反応を追うものではないし、そう言った物は地球上に存在しない。数百年前からな」
「数百年? 時間変動より前から? それほど昔に人間は絶滅してしまったと言う事か?」
「なぜ人間の事を知りたい? それに人間は絶滅などしておらんぞ」
「なにっ? 人間が……まだ生きているだと? お前は何か知っているのかっ?」
「厳密に言うと……生きてはいない。だが存在はしている。そんな事に興味を持ってどうする? 変わったロボットだな、お前は」
「私はロボットではないっ! 人間だ!」
「何? ……人間? …………管理者の一人か? ならシステムがお前の機械の体に反応しない訳も分かるが……。しかし……」
「私は機械の体ではない! 生身だっ! お前は何を言っている? 管理者とは何だ?」
「生身? 時間変動の後、逆に時間が流れていくこの世界で、生物が存在できるわけがないだろう。……待てよ。記憶障害か? 時間変動後、記憶障害がロボットだけでなく、管理者にも多発している」
「記憶障害……?」
チハルはカンタスの言葉を思い出した。チハルはロボットで、人間と思い込んでいる……と。その時から自分に持った疑いが段々と膨れ上がってきている。
今話しているこの男は、それに付いて何か知っているかもしれない。知っていそうだ。チハルはそう思った。
「分かった。私もお前と直接話したくなった。どこへ行けばいい?」
「……それは助かる。私は外に出てはいけない決まりになっていてな。兵士の一人に案内をさせる。中に入れ」
チハルが目の前の兵士から手を離すと、その男は地面にへたり込んだ。
「ハルト、リクス、中に入るぞ」
「えっ?」
「ええっ?」
門のそばで様子を伺っていた二人の横を通り過ぎ、チハルはゲートのあった場所に堂々と立った。
「チ……チハル! あぶな…。……あれ?」
ハルト達は心配したが、先ほどのように中からの砲撃は無かった。
「大丈夫だ。ついて来い」
チハルが堂々と歩いて中に進むと、ハルトは「男らしいなぁ」と言いながら続いた。
中に入って50mほどの所に、一人の男が立っていた。武器は持っているが銃口は下に下ろしている。
チハル達が自分の目の前にまで来ると、無言で背を向けて歩き出した。チハル達がその男の行く方向へ着いて行くと、両側にきちんと整列をした男達がいた。全て同じ体格、同じ身長で、街の外で襲ってきた兵士達とも同じようであった。
戦闘中は気がつかなかったが、顔も全員同じである。中にいる兵士達は、金属プレートをつなげたジャケットは着ていなかった。
「片側……200体くらいいるぞ。全員で500近いかも。すげーな。これなら街一つを破壊するのもたやすいな」
「ハルト、あそこを見てよ。兵器だ。あれを作るのに相当な材料がいるよ」
何列にも並んだ兵士達の後ろには、1本の直径が20cmほどの大きな砲を何本も取り付けてある戦車のような機動兵器が幾つか置いてある。
案内の男が広場中央で止まった。チハル達も足を止めると、とたんに10m四方の部分に渡って下がり始めた。
30m程下ろされ、先ほどの機動兵器でも走行できるような幅の広い空間に出た。天井までは5mくらい、長さは100mほどあり、向こうにドアが小さく見えた。
「……えっ! うそぉ! ち……チハル! 横見てみろよ!」
ハルトは遠くのドアに向かって歩きながら、何気なく右を見ると、そこには石像のように立っている人型のロボットがいた。
それはハルトと同じく大柄であり、筋肉質。歳は40代半ばを想定して作ってある。
「っ! ……ジルマール……か?」
チハルも思わず足を止め、銃口を向けそうになったが、ジルマールとそっくりのロボットは目の光も消え、動き出す気配は無かった。
「3体いるぞっ! ……どうなってんだ?」
ジルマールタイプのロボットは、その後ろにまだ2体もいた。3体縦に並ばされて陳列されているようである。
顔を見合わせるチハルとハルトだったが、案内役の男との距離がかなり開いてしまい、慌てて追いかけた。その途中、ハルトがチハルの肩を叩いて横を指差す。
「チハル……あいつ……」
「ああ。ジルマールの所で、あの黒い兵士達を指揮していた男だな」
次にハルトは、もっと大きな声でチハルを呼ぶ。
「チハルっ! こっちこっち! これって……」
「……まさか……のパダットも……か? 似ているな」
本物のパダットは顔の表皮が半分程しか残っていなかったので確信は出来なかったが、チハル達の前にはそれに良く似たロボットが4体ほど並んで立っていた。
チハル達は案内役の男と突き当たりのドアをくぐった。幾つかの扉を通り過ぎ、一番奥の扉の横に案内の兵士は歩哨のように銃口を天井に上げて立った。
チハルがその扉の前に立つと、それは自動で両側に分かれて開いた。
中は暗いが、右の壁一面が大きなモニターのようで、分割していろいろな映像が映し出されていた。地図のような物の上に光る点が幾つもある画面、何かを示す数字、他にはどこかの街の映像もあり、ロボット達の生活している様子もあった。
「ようこそ。管理センターへ」
モニターに気を取られてチハル達はすぐに気がつかなかったが、そのモニターの真正面に座っていた男が、椅子をチハル達の方へ向けて言った。歳は50くらいに見え、真っ白いシャツと同じ色のズボンを履いている。シャツの胸元から見えるのは、やはり機械の体、ロボットのようだった。
「管理……センター? 何の管理だ?」
チハルがいぶかしげな顔で言うと、男は笑顔で椅子から立ち上がり、握手をするかのように手を差し伸べてきた。
[バシュッ]
男は手の中に隠し持っていた何かから、青い光をチハルに向かって放った。それはチハルの胸の中央、首のすぐ下付近に当たり、ツナギの一部を吹き飛ばして白い肌を覗かせた。
「てめぇ!」
ハルトが一歩踏み出した時には、男の喉仏にチハルの持つナイフが垂直に当てられていた。
「何のつもりだ?」
チハルは僅かにナイフを動かし、先を数ミリ男の喉に食い込ませながら言った。
「ああ悪い、悪い。プラズマを跳ね返すと言う体を実際に見たかったんだ。それに、たとえ君が……チハル君か。チハル君が普通のロボットだったとしても、今のプラズマの量は致命傷にならないほど微量だった。分かっているだろ?」
「………」
チハルは男に視線を向けたまま、ナイフを腰に戻した。
「そのモニターで見ていたのか? ローグタウンの事や……、もしかしてガストタウンの事も?」
「その通り。この、昔には東アジアと呼ばれた地域を管理するのが私の役目だからね」
男は椅子に座り、操作パネルのような物の上に左手を置いてチハル達を見る。
「ああ、私の名前はミハイルだ。よろしくね、みなさん」
そう言いながら、左手でミハイルはパネルを操作する。すると、モニターが全て茶色になった。
「わかるかな。これはこの辺りの地図、衛星写真だ。右下の赤い点はガストタウン。左下はローグタウン。上の青い点はここ。今表示している画面を一つの地域とするなら、私の管理している領域はこれの6倍、6画面分となる。
この広大な地域を管理してデータを集めるのが……管理者としての私の仕事だ。君達の探しているパダットと言う名前の男。私はET‐B6型と呼んでいるが、それがここ。今、ここの管理センターとローグタウンの間で光りだした点、そこに間違い無くいるはずだ」
「なんでおっさんはそんな事分かるんだよ? あとよ、この部屋に来るまでにパダットにそっくりの人形や、ジルマールみたいなのもいたけど、あれなんだ? おっさんはカメラで見たロボットのそっくりなのを作るのが趣味なのか?」
ハルトがチハルの前に出て、頭を掻きながらミハイルに問う。
「質問が二つか。これは後者から答えると手間が省けるな。まず、外に並んでいる物は人形では無くロボットだ。そして、その君達が今まで見た中に、それらと同じような物があったとしたら、それは同じ型のロボットだ。君達はロボットだろ? 同型が無いとでも思ったか? 一台一台全て異なる方がおかしいだろ?」
「そ……そうか」
ゆっくり首を縦に振って納得しているハルトに、ミハイルはその先の話を聞かせる。
「そして、ロボットの中には位置発信ユニットが取り付けてある。これで、君達が探しているパダットの居場所がわかるわけだ。もちろん、管理者だけにね」
「ちょっと待て。ガストタウンに住んでいた時、すべての住民はどこからとも無く現れて、いつの間にか住み着いた者達ばかりだったが、それはお前達管理者が遣していたと言う事か?」
「違うね、チハル君」
ミハイルはそう言うと、ぐっと背もたれに体をあずけた。
「それだけの数を管理するのは大変だし、意味の無い事だ。私達は個々のロボットを大切に管理するわけではなく、ロボット社会の様子を観察する事が仕事なんだよ」
「…………どう言う事だ?」
「ロボット達を地球に送り込んでいるのはまた別のシステム。私達管理者は、試作ロボットの性能テストをやっている。わかるかな?」
ミハイルは、自分の顔の前で人差し指をぐりぐりと合わせてそれを嬉しそうに見ている。
「外に並んでいるロボット達は、種類によって様々な用途、役割をさせるために作られた物だ。ロボットの社会を作った場合、その役割を持ったロボット達を要所要所に置き、円滑な社会が形成されるか……と言うテスト。私が発信機により位置を掴む事が出来るのは、そんなロボット達なんだ。
それ以外の殆どのロボット達は、早い話が廃棄されたロボットだ。もう使われなくなったゴミのようなロボット達を地球に放り込み、そこに試作ロボットを入れてテストをする。簡単な話がリサイクル。って事かな?」
「地球を使ってテスト?」
「と言うより、地球はゴミ箱。ゴミを捨てていたんだけど、いつの間にかそのゴミ達は社会を形成して生きていた。それなら、新開発したロボットを投入して性能を確かめてみようって思ったみたいなんだよ」
「人間がそれを始めたのか? それはおかしい。人間がいなくなった今、どうしてまだそんなテストをやり続けているのだ?」
「人と言う生命体は消えたが、人間がいなくなったわけじゃない。人間は今でも存在し、ここ地球では変わりなくテストを続ける」
「それならば、その人間はどこにいるのだ?」
「君の目の前にいるじゃないか。私だよ。私が人間だ」




