Act.21 奇妙な場所...
チハル達は、ガストタウンからローグタウンへ向かっていた時の様な荒野をまた走っていた。
違いと言えば乗り物。オフロードオープンカーのような車、バギーカーにチハルは乗り換えている。ハルトのバイクとは違い、運転手にしがみつく必要も無く、うとうと眠っても落ちる心配など無い。眠る事が大好きなチハルにとっては至福の乗り物である。
ハルトはハルトで、時折そんなチハルの前でバイクの前輪を浮かしてウィリーをさせたり、地面の起伏でジャンプを決めたりと、隙あればアピールしてチハルにバイクに戻ってきてもらおうとしているが……全く効果は無い様だった。
ローグタウンを夕方に出発し、一晩走り続けてまた日が昇ってきた。チハル以外の二人は眠る必要が無いので(ハルトは何もすることが無ければ眠ったりするが……)ずっと前だけを見て走っていた。車が少し大きめな石を踏んだとき、その揺れでようやくチハルは目を覚ました。
「……どのくらい走った?」
「15時間……くらいかな。距離で言うと、おそらく1000kmくらいだと思うけど……」
「走行距離を示すメーターくらいつけたほうがいいな」
「そんなもの必要あるかい?」
「ローグタウンから北へ何kmと言う様に、簡易的な座標を示す事ができる」
「なるほど! さすが人間は良い所に気がつくよね」
「ロボット達は無関心な事が多すぎるな」
「僕思うんだけどさ、そう言う所は全て人間が段取りしてくれたんだと思う。僕達ロボットは与えられた専門的な仕事をこなすだけ……みたいな?」
「……なるほどな」
運転席と助手席でリクスとチハルが話をしていたところ、ハルトが助手席側からバイクを寄せて並走しながら口を挟んでくる。
「チハルだって……無関心な事多いだろっ! 例えば……裸見られても気にしないとか……触られても気にしないとか?」
ハルトは右腕を伸ばし、人差し指でチハルの胸を突っついた。
[ガンッ]
「おわぁ! あぶっ!」
目の前5cmのところを通過した弾丸に、ハルトのバイクはバランスを崩して蛇行しながら左に逸れていった。チハルは銃を横に戻すと、足をダッシュボードの上に組んで乗せた。
「少し前から言っているが、若干見られたくも、触られたくも無くなった。機嫌がいい時は警告で許すが、悪い時だと足を撃ちぬくぞ」
「機嫌が良い時でよかったぁ。たっぷり寝たからか?」
ハルトは懲りもせず、またバギーの左に寄り添うようにして走りはじめる。そして、よく寝たならちょっと自分のバイクに乗ってみないかとチハルを勧誘し始めた。
冷たくハルトをあしらっているチハルの隣で、リクスは箱型の双眼鏡のような物を取り出して前方を眺め始めた。
「…………おかしいこれは」
その言葉に、チハルとハルトは会話をやめてリクスの顔を見た。
「少し前から景色に違和感があったんだ。僕は目に映るものの距離感や方向には敏感でね、今見えている風景は……ほんの僅かだが……動いている」
「はぁ? そりゃ俺達は動いているんだから、景色も動くだろうよ?」
「いや……。この景色は右へと本当に動いているんだ。自分からね」
「どういうことだ?」
「つまり、ハルトだけなら……真っ直ぐ進んでいると思っていても、右に逸れて走ることになる」
「通らせたくない場所があると言う事か?」
「その通り! さすがチハル」
バギーカーとバイクをその場に止める。チハルは降りて周りを眺めてみるが、景色に変わったところは見つけることが出来なかった。
「……ひょっとして、あの組織の……街か?」
「かもしれない」
「ローグタウンの街の奴が言ってた、ジルマール達と何度かやりあった組織の事か? そのアジト?」
チハル達は北へ逃げて行ったパダットの情報以外に、もう一つ街の者から教えられた事があった。それは、北の方角から現れる軍隊の話だ。
一度ローグタウンを攻めてきて、ジルマールの組織を壊滅させた。その時、カンタス以外の幹部はやられてしまったと言う。しかし、なぜかジルマールの組織を全滅させる事なく去っていった。
ジルマールはそれに対抗するためにより強い組織を目指し、兵士や街の人の自我を奪う事になった。
「じゃあ俺が偵察してきてやろうか? 少し左に進んだらいいんだろ?」
ハルトがバイクに跨ろうとすると、リクスはそれを止めた。
「危険だよ。何か巨大な幻や映像を作り出す装置があったとしたら、いきなり敵のど真ん中に入ってしまうかもしれない」
「じゃあどうすんだよ?」
「ここは僕がやってみるよ」
バギーの後部シートにかかっている布をめくると、銃に似た機械が現れた。
「なんだそりゃ? 銃みたいだけど……、飛行ユニットか?」
「そんなエネルギー効率悪い物作らないよ」
リクスは50cm程のプラズマライフルのような形をした物の後ろに、1mほどの長いメカニカルな装置を装着した。そして、1.5mのロングライフルになったそれの後ろに、更に1.5mほどの装置をまたバギーから取り出して取り付ける。
「な……なんだよそれ? 馬鹿でかい銃に見えるな……?」
「馬鹿でかい銃だよ」
地面に置いた二つの三脚に前と後ろを乗せて、その中心部付近にリクスは座り、先ほど双眼鏡として使っていた箱型の装置を横に取り付けた。いたるところに金属の部品を取り付けたような無骨なその超ロングライフルをリクスは構える。
[バズンッ!]
重い銃声の後、リクスは静かに両眼スコープを覗いていた。そして、銃の向きを10度ほど動かすと、また弾を打ち出した。それを10回ほど続けると、ようやく銃からスコープをはずして立ち上がった。
「ここから先、5.5kmくらいの空中で弾丸が消えた。おそらく映し出されている景色を突き抜けたんだと思う。左に撃った弾丸は少しずつそのスクリーンを貫通する距離が伸びていく。そして左に90度の方向に撃った弾丸は10km飛んでもまだ消えなかった。つまり…」
「ここを直角に曲がって左に行けば、街の先端に着く……可能性が高いと言う事だな」
チハルが言うと、リクスはニコッと笑って銃を分解しバギーの後部シートに仕舞い始めた。それを見ながらハルトが不思議そうに首を捻りながら尋ねる。
「もしかして……。ローグタウンで狙撃をしてたのって……。リクス?」
「バカは放って置いて、行くぞリクス」
チハルはドアを開けることなく飛び越えてシートに座ると、すぐにリクスも運転席に乗り込んだ」
「ちょ……ちょっと待てよ! ならあんときはサンキュ、リクス! んで、待ってくれって!」
土煙を立てて走っていくバギーの後姿を見ながら、ハルトは慌ててバイクで後を追う。
「素直な奴だね。ハルトって」
「ああ。人間のような奴だ。……私よりな」
チハル達の姿は、ある地点へ来るとフッと消えた。
何も無い、ただの荒野だった景色が次の瞬間、灰色の町になる。まるで突然フィルムをカットし、つなぎ合わせた映画を見ているような気分にチハル達は陥った事だろう。
しかし、それを予想していたチハル達はすぐに車から飛び降り、低い姿勢で銃を構える。ハルトもバイクを降り、チハルのすぐ後ろに来ると言った。
「パダットはこの町を見つける事が出来たのかね? 気がつかずに通り過ぎたんじゃないか?」
その問いに対して、チハルは即答せずに街を眺める。
街はチハル達のすぐ先にゲートのような物があり、そこから周囲に高さ5mほどの塀が伸び、街を囲っているようだった。
他の街のように高い建物は一切なく、全て1階立ての軍用倉庫のようなものばかりのようだ。車両や乗り物は全てその中に収容されているのか、鉄格子で出来ているゲートの隙間からは確認が出来ない。
「一見ボケたように装いながら、したたかな奴だったからな……。ローグタウンのジルマールの屋敷にも潜り込んでいたくらいだし……」
チハルはそう言った後、「いるかもしれない」と付け足す。
「あの……僕は直接の戦闘は苦手なんだけど……」
巨大ライフルの3つのパーツの先端部分、50cmほどの長さのライフルを手に持ちながら、リクスは車の影で自信の無さそうな声を出す。
「リクスはここにいろ。敵が来たら、私達に構わずすぐ車で逃げるんだ」
「ごめんね……。それに、この町は外からは見えないから、狙撃で助けてあげる事もできない……」
「仕方ない、気にするな。それにパダットがいるかどうか聞いてくるだけだ。相手が相当の殺戮好きだったとしても、極力戦闘は避ける。ローグタウンの時のように襲われるような因縁もここには無いしな」
チハルは銃を構えながら車の影から出て、背を丸めて用心深くゲートへ向かった。その後を、ハルトはまるでコンビニにでも行くかの様な足取りでついて行く。
チハルはゲートに辿りつくと、壁に背をつけて張り付き、首を伸ばして顔だけで覗き込んだ。
「――――――っ!」
目をくりくりと丸くしたチハルは、すぐに首を縮こまらせて顔を壁の影に戻す。それと同時に中から放たれた数十発のプラズマ弾が、ゲートを蒸発させつつチハルの横を通り過ぎて行った。
「敵かよ! 数はどれくらいだ?」
「バカっ! 頭を出すな!」
中を覗こうとゲートがあった場所に近づこうとしたハルトを、チハルは足を引っ掛けて転ばした。ズデンと万歳してうつ伏せになったハルトの後頭部をかすめて、何十発のプラズマが通り過ぎていく。
「何してるんだよ! ハルト!」
リクスが走ってきて、チハルと一緒にハルトの足を掴んで引きずり、壁に体を隠させる。
「どうしてか分からないが、私達が潜入しようとしている事がばれているようだ」
「一旦逃げようよ」
リクスは走ってバギーの運転席に向かおうとする。しかし、チハルがタックルのようにリクスの腰に抱きついて後ろから押し倒した。
「何をするんだよ、チハル…」
「敵だっ!」
チハルは、街の外のある場所を指差す。しかし、そこだけでは無く、街を囲む門の外、荒野のいたる所から軍服を着た男達が姿を現した。何かエレベーターのような物に乗っているようで、地面の下からせり出してくる。
「地下だ! この街は、低い建物しかないと思ったら……。地下施設があるんだ!」
チハルはそう言いながら、車と街の壁の間に身を隠す。男達との距離は一番近い敵とで50mほど。だが、銃をこちらに向かって構えてはいるが、奴らはなぜかそこから一歩も動かず様子を見ているようだった。
「どうするチハル? やるか?」
ハルトは精悍な顔をしてやる気をみせているが、鼻血を出しているのでかなり間抜けだった。
「ハルトって……鼻から何か出ているけど……。作りが細かいロボットだよね?」
「まあな。高級ロボだからな」
不思議そうにハルトの顔を見ているリクスの前で、ハルトはジャケットの袖で鼻血のような物をふき取った。
そんな様子の三人だったが、敵はそれでも一歩も動かなかった。リクスはそれを車の影から観察し、チハルに言う。
「あれって……街から出て行けって警告してるんじゃないかな?」
「なるほど。門をくぐろうとしようとしなければ、攻撃をしないと言っているのかもしれないな」
「こんな警戒が厳重ならよ、パダットも中に入ってないんじゃねーか?」
「しかし、中に入ったパダットがそそのかしてこの事態だとも考えられるが」
「とりあえず、攻撃してこないんなら……逃げない? 後からまたどうするか考えようよ」
「……そうだな。パダットがいなければ無理に街に入る必要は無いし、いたならここで強引に入って奴の計略にはまる事もない。今は逃げるしかないな」
チハルがそーっと車の影から顔を出すと、手前にいる男のプラズマライフルが動いた。
[バシュッ]
慌てて頭を下げると、チハルの髪がふわりと舞った。男の放ったプラズマ弾は、その髪の毛を飲み込み壁に当たった。髪はまったく変化が無かったが、壁の表面がごっそりと蒸発をした。
「どうやら積極的には攻めて来ないが、やる気のようだ。逃がしてくれる気配が無い。ジルマールの所の黒い兵士達と同じく、個々に動くのではなく誰かが指令をだしているのかもしれない。敵は無闇に攻めるより、出てきたところを撃ち殺す作戦なのか……」
「じゃあ、やるしかねーな。強行突破だ。どっちをやる? 門の中か? 外か?」
ハルトがチハルに向かって指をポキポキと鳴らして見せた。リクスもため息をつき、身をかがめながら、バギーの扉を開けて後部シートから銃のユニットパーツを取り出した。
「リクスもやるのか?」
「だってチハル……。やるしかないじゃない。周りを囲まれているんだし。だから前線はいやなんだよね」
リクスは手に持っていた銃にユニットパーツを取り付けて、1.5mほどとなったライフルを構える。
「それじゃぁ……、リクスは無理するなよっ!」
そう言うと、チハルは低い姿勢でバギーの前側から飛び出した。すぐにプラズマ弾が飛んでくるが、チハルの背中をかすめるだけだった。
[ガガガガガガガガガ]
チハルは真っ直ぐ走りながらアサルトライフルを片手で横に振った。
弾は地上から1。5mの高さで水平にばら撒かれる。
「………?」
確かに敵の男達の体に当たったはずだった。しかし、男達は倒れる様子は微塵も無く、プラズマ銃を撃ち返してくる。
「アーマーだ! プロテクトアーマーを着込んでいるよチハル!」
リクスがチハルに向かってそう叫んだ。チハルが見ると、確かに男達は厚い金属プレートベストの様なものを身に着けているようだった。
「まさか……。プラズマ銃が主流の今の時代、装甲を厚くする事など重さの割に効果が薄い。なぜあんな物を……?」
チハルは地面を転がりながら男達の弾を避ける。
「しかし、私の使う金属の弾には……効果絶大だ」
ジャンプし、チハルは背面飛びをすると、その下をプラズマが通り抜けた。
「だが……ここを狙えば済む」
背面飛びの後、チハルは頭を下にして落下の途中、空中で上下逆さまのまま男の頭部に狙いをつけた。
[ガガガ]
「なにっ?」
数発の弾は全て男の頭に向かったが、顔に当たった瞬間あらぬ方向へ飛んでいった。
「シールドっ! いや、それなら体にアーマーを着る必要はない。おそらく頭部だけ部分的にシールドを張っているのかっ!」
チハルは背面飛びから片手を地面に着き、それだけで跳ね返ると着地をした。しかし、そこへプラズマ弾が襲ってきたため、強制的にもう一回宙返りをさせられてから横に走って逃げる。
「チハルの攻撃が効かない! ハルト出番だよ!」
「分かってるぜ!」
ハルトも車の陰から飛び出す。すぐにプラズマ弾が襲ってくるが、いつものように両の掌から発生する電磁シールドで打ち消す。そちらに敵の意識が集中しているのを確認すると、リクスは長いライフルを車の外に出して狙いを定める。
「この銃はどうかな?」
リクスの銃も金属の弾を発射する。しかし、第二ユニットを取り付けた全長15mのライフルは、チハルのアサルトライフルのように連射性は無いが、威力は数倍にも上る。
[ガオンッ]
[ガキンッ]
敵の一人が吹っ飛んで倒れた。頭を貫通こそはしなかったが、シールドを突き抜けたようで、頭部を一部損傷していた。
ハルトの方はと言うと、左手で敵の銃を握りつぶし、右手で男の顔を掴んでいた。両方同時に破壊したかったのだろうが、敵の頭部はハルトの握力を持ってしても潰しあぐねているようだった。
「確かに……頭は固てぇ。体全体にシールドを張るのは電池的にきついから、大事なところだけは守ってるわけか」
そのまま地面に叩きつけると、敵の首は折れて動かなくなった。すぐにハルトは近くにいる敵に向かう。
「でも、この程度の出力、薄っぺらいぜっ! 殴れば楽勝!」
まるで熊の一撃。アッパー気味にハルトの拳が敵の顔面を捉え、そして突き上げると、シールド空しく頭部を木っ端微塵にされた敵が宙を飛んでいく。
「チハル! 後は俺にまかせ…」
ハルトがチハルの方を見ると、チハルの横で男が崩れ去るところだった。チハルはナイフに持ち替えており、それで敵の体のプレートアーマーの隙間から刃を差し込んで息の根を止めていた。
「鎧を着て動きが遅いこいつらなど敵では無い。私を気にかけることなく戦え!」
また別の敵へと向かうチハル。敵は一瞬でチハルに懐に入られたため、持っているライフルで殴りつけてくる。しかし、その敵の横をすり抜け、チハルはわき腹の辺りからナイフを突き刺した。
「もうちょっと弱い方が……守り甲斐あるんだけどなぁ……」
小さなため息をつきながらハルトは、敵の足を持って振り回し、まるでバットのようにして別の敵を殴りつけた。遠くからハルトとチハルを銃で狙おうとする敵は、全てリクスのロングライフルによって倒される。
あっという間に街の外に現れた敵は消え失せた。




