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機械天使  作者: 音哉
20/25

Act.20 笑顔...



 チハルはカンタスを倒した後、迷路を戻り元のホールまで戻って来ていた。扉を開けると、大柄の男が倒れた黒い兵士達の体をごそごそと探っていた。


「ハルト、ジルマールはいたか?」


「うん、ばらばらにしといた。チハルも手伝ってくれよ。さすがの俺もこの数のロボットは持てないから、エネルギーパックだけでも全部持って帰ろうぜ」


「……そうだな」


 チハルはほっとした顔をしたようにハルトには見えた。チハルの過去にあったことは、絶対に自分からは言うまいとハルトは心に誓った。


「それで……パダットはいたか?」


「……ああっ! 忘れてたっ!」


 急に背筋を伸ばして立ち上がり、キョロキョロと意味も無く周りを見回したハルトはチハルに顔を向ける。


「でも……ジルマールがいた司令室っぽいところにはいなかったぜ?」


「カンタスがいた迷路にもいなかった。……ずる賢い奴だ。状況を察してすでに逃げたのかも知れんな。また追わなければならないかもしれない」


 そこでハルトは何か思いついたような顔をし、チハルにどうだと言わんばかりの表情をして言う。


「ジジィだけに……骨が折れるよなっ! なんちゃって!」


 ドヤ顔をして大声で笑っているハルトを、ポカーンとした顔でチハルは見ていたが、


「ふっ……。つまらん奴だ」


 と、言って口に手を当てながら小さく笑った。


「おっ! わかる? It's 人間ジョーク! 人間の老人は骨が折れやすくて、さらには手間がかかることを骨が折れるって表現する事があり…」


「バカっ! わざわざ説明するな!」


 興奮した顔で解説を始めるハルトを見て、チハルは大きな口を開けて笑うのであった。



 

 その後、一通り建物を調べがてら、動きを停止している兵士達から使えそうなパーツを拾い集めるチハル達。ジルマールが倒れている司令室にももう一度行ってみたりもしたが、やはりパダットの姿はどこにも無かった。


 兵士の服を脱がし、袖を縛って鞄のようにして集めた部品を詰め込み、それを4つほど持ったハルトとチハルは建物の正面入り口から出てきた。


 毎度の事ながらハルトは隙だらけだったが、チハルは建物の外、中庭にいる生き残りの兵士を警戒していた。


しかし、例え損傷が軽微でも、起き上がってくる黒の兵士達は皆無だった。司令官が死亡したため、体が無事でも頭脳が働いていないように見えた。


「人形だな。指令室もハルトが破壊したから、もうコアチップを交換しなければ動く事は無いだろう」


「でも……街の人もそうなんだよな……」


 二人は何事も無く門から要塞の外へ出た。


街にはちらほらと、倒れて動かなくなった人が目に付く。誰一人として動く物が無くなった死の街。そう考えた二人は目を伏せたが、そこにバギーカーが一台エンジン音を響かせて遠くから走って来て、チハル達の前に止まった。


「よっ! お二人さん! 大きな荷物を幾つも持って、夜逃げでもするのかい?」

 

愛想よく話しかけてきたのはリクスだった。リクスはハルトの背負っているおかしな包みを指差して笑っている。


「んだよリクス! こんな乗り物隠していたのかよ!」


「ああ。昔あそこから逃げ出してやろうと思って……何十年も前に作った奴だよ。意外に動いてびっくりだね!」


「とか言って、今日こそ、明日こそ、とか思いながらしょっちゅう整備していたくせに?」


「うっ! そ……そんなわけないでしょ!」


 二人が言い合っていると、チハルはぴょんと扉を乗り越えて、バギーカーの助手席に座った。


「これいいな。私は次からこれに乗りたい!」


 チハルはシートのすわり心地を確かめるように体を揺すって嬉しそうな顔をした。


そして、そうしながらも目の端で後ろのシートを覗く。布がかけられていたが、わずかにその下に巨大な火器の一部が覗いていた。それを確認すると、チハルは優しい目をしてリクスの顔に口を寄せた。


「やはりお前だったか。ありがとうな」

 

頬に唇をつけられたリクスは、よくわからず少し首を捻った。それを見てハルトは、両手でほっぺを押し上げ、ムンクの叫びのような顔で大声を出す。


「あぁぁぁぁ! もったいねぇ! なんでリクスにちゅーするんだよ! そいつはロボットだから絶対意味わかってねーぞ!」


 それを聞くと、リクスは少しむっとした顔をする。


「何言っているんだよ。ハルトも同じだろ? でも……何か……今のいい感じがした……」


 リクスは空を見上げ、チハルにキスされた左の頬をさすった。


「お前はロボット! 俺は人の心を持ったロボット! ぜんぜん違う! ちょっとそれよこせっ!」


「えっ? おいっ! ちょっと! 何するんだよ! うわっ! やめろ!」


 暴れるリクスを押さえつけ、ハルトはチハルが唇をつけた場所と同じところにキスをした。


「何するんだよ! うわっ! なんか……気持ち悪い気がする! おえっ!」


 顔をしかめ、口元に手を当てるリクス。かたやハルトのほうも自分の喉を押さえて地面に向かって舌を出している。


「げぇ! 勢いでやっちまった! チハルとの間接キスに目がくらんで……。おえっ!」


 静かな街で三人が騒いでいるところ、バギーカーに一人の男が近づいて来ていた。


[カチャ]


 その男の鼻先に、チハルのライフルが突きつけられる。その時にはチハルはいつもの油断の無い表情に戻っていた。


「カンタスの生き残りの部下か?」


「違っ…違います!」


 男は両手を挙げ、後ずさった。チハルはバギーカーのシートに座ったまま、男が降伏の様子を見せても視線を緩めない。


「そう言えば、誰かを探しているようなそぶりをしていた悪そうな男達なら……あっちのビルで全員倒れていたよ」


 リクスがややわざとらしく思い出したような様子で言うと、チハルはようやく銃をひざの上に戻した。


「お前は誰だ? どこから来た?」


「どこからって……街の者です」


 みすぼらしい汚いジャケットを羽織っただけの男はそう答えた。


「嘘を付くな。街の者は全て……意思を持たないはずだ」


「いえ、わずかにですが改造から逃れた者が私以外にも少数おりまして……。ジルマール達は街の人数を正確に把握していたわけでなく、片っ端から捕まえては改造するといった事を繰り返していました。難を逃れた人々は、すでに改造されたように振る舞う事で生き延びておりました……」


「なるほど……。その人数は?」


「50人……いないくらいです……。ところで貴方は、昨日ジルマールに捕らえられた方ですよね? どうして……出てこられたんですか?」


 男は開きっぱなしになっているジルマールの要塞の扉をチラチラと見ながらチハルに尋ねた。それに気がついたチハルは、男が最も知りたいだろう事から答える。


「ジルマールなら死んだ。私は……仲間達によって救出されたのだ」


「ジルマールが……死んだっ? く…黒い兵士を操る参謀は?」


「奴らの組織の奴らは残らずスクラップだ」


 一瞬何か重いものから開放されたような顔をした男だったが、すぐに口をぎゅっと閉じ、チハルにこわごわと聞く。


「そ……それで……。あの……ジルマールの代わりにあなた達が……?」


「ああ、街を支配するとかそんな気はさらさらない。だろ?」


 チハルが二人の顔を見ると、ハルトは大きなあくびをし、リクスは首をすくめながら横に振っている。


「と、言うことだ。お前達で街を再興させろ。ジルマールの兵士達の体を売り、コアチップを買ってきて街の者に組み込み人を増やすとか……まあ好きにするがいい」


「ほ…本当ですかっ! や……やった! 耐えたかいが……あった……。数十年ぶりに自由に外を歩き回れ、200年ぶりに支配者がいなくなった……」


 男はほっとしたあまりに気が抜けたのか、地面にへたり込んだ。


そのままの姿勢で、物陰やビルの陰に向かって手招きをすると、更に数人の同じような姿の者達が現れてチハル達を取り囲む。街の者だと思われる人々は、男から話を聞くと一様に微笑んだ。


その力の無い笑顔に、チハルは長い間の辛い生活が影響している事が良くわかっていた。



「じゃあ……そろそろ出発するか。ハルト、バイクを取って来い!」


「えぇ! もう行くのかよ! チハルは疲れてねーのか?」


 ハルトは驚いた顔をする。一昨日ガストタウンを出発してリクスの家に宿泊、昨日にローグタウンに到着してチハルが捕まる。そして今日。ロボットにとってもハードな日々だと言える。


「お前のバイクと違って……この車は眠れそうだからな。お尻も痛くならないだろうし。早くバイクを取って来ないと置いていくぞ。それに、ロボットだから疲れないだろ?」


「え……。ちょっと待てよ。リクスは俺達と一緒に行かないと思うぞ?」


「ん? そうなのか?」


 目を丸くしているチハルに、リクスは言う。


「行くよ。どうせどこへ行っても、のたれ死ぬんだ。なら、数少ない知り合いの君達と同じ方向へ行ってみる。それに、一人で旅するよりは、生きていられる時間が流そうだ」


「……期待すんなよ」


 ハルトは見下すような視線でそう言った後、ニィっとリクスに向かって笑った。


「なら決まりだ。これからリクスは仲間。ハルトは早くバイクを取って来い!」


 チハルに急かされると、ハルトはどたどたと走って東へと向かった。途中、一度振り返ると、


「チハルが目当てじゃねーだろうなぁ! チューされたからって下心だすなよぉ!」


と、大声で言うが、チハルに銃を向けられると、また慌てて走って行った。


二人のその様子を笑ってみていたリクスは、ハルトの姿が小さくなるとチハルに言った。


「ここからだと……取ってくるのに30分はかかるね」


「その間……眠らせてもらう。さすがに……私は疲れた。リクス、助けてくれてありがとうな。お前の力が無ければ……たぶん私達はやられていた」


 リクスは、シートで目をつぶっているチハルに顔を向ける。


「……チハル達が暴れてくれるから、僕はゆっくりと狙いを定められるんだよ。俺だけなら簡単に捕まって終わりさ」


「どうやって見えないところを狙えるんだ?」


「見えてるさ。3台のカメラと自分の目とで4箇所。そのうちの一つに一瞬でも映れば……ズドンさ」


「すばらしい能力だな」


「意味のない能力だよ。なぜか僕は目視だけで距離が正確に分かる特技と、数箇所からの映像を頭の中で合成して立体映像を作り出す力があった。立体映像はその3秒後の未来まで予測して動かす事が出来る。でも、工夫してやっと狙撃に使えるって程度。まだ走るのが速いって技能があったほうが、生活の役に立ったと思うよ……」


「その狙撃の能力なら、ジルマールを一人でもやれたんじゃないか?」


「出来たと思うよ。でも……やったところでその部下達にやられてしまう。僕は接近戦はからっきしだからね。近づかれたら終わりさ。それに、ジルマールがいなくなっても、また同じようなのが現れて何も変わらない。僕は永遠にあそこで見張り。そう思ってた。あっ……」


 リクスはそこで言葉を切り、チハルを見るとそのまま目線を下げて唇を噛んだ。


「謝らないといけないことがある。僕はあそこで、街に向かう奴をジルマール達に連絡するのが仕事で……。つまり、チハル達も…」


「分かっていた。気にするな。結局めでたしめでたし、だ」


 チハルは目をつぶったままだったが、口元を微笑ました。


「気が付いていたのか……。人間は観察力と推理力が、ロボットとは比べ物にならないくらい高いね……」


 二人が話をしていたところ、先ほどとは別の男が近づいてきて、リクスに向かって話しかけてきた。


「あの……あなた達のお仲間は……。3人ですか?」


「えっ? ……まあ、僕を入れてくれるなら……そうだよ」


「そうでしたか……。ジルマールの城から出て行く老人風の男を見たもので……お仲間かと思いまして……」


 それを聞くと、チハルの目がぱっちりと開いた。


「そいつはどこへ行った?」


 目を向けてそう言われた男は答える。


「はい。浮かび上がる板みたいなおかしな物に乗ったその人は、北の方角へ…」


「カーペット型運搬機。間違いなくパダットだな。あいつめ、あれを改造して乗り物としていたのか……」


「話がよくわからないが……。逃げた敵がいたの?」


「そうだ。私とハルトは、元々そいつを追ってきたのだ。パダットという名前の外見は老人型ロボット。東にあるガストタウンを壊滅させて逃げた男だ」


「街を壊滅? すごいねそれは……」 


 そこに爆音を上げながらハルトのバイクが二輪ドリフトをして止まった。


「早いな。リクス、何分だ?」


「10分だね、チハル。しかし、片道3kmほどの距離にあるバイクを10分で取ってくるとは…」


「はぁ……はぁ……。お……置いていかれると思ったからなっ! げ…ゲホッ、ゲホッ……うおっ!」


[ガシャッ]


 青い顔でむせ込んだハルトは、地面についていた片足を滑らせ、バイクごと横に倒れた。


「出発だリクス」


「了解」


「ま……待ってぇなぁ……」


 バイクの下敷きになりながら、鼻水のような物をたらしてハルトはチハル達に向かって手を伸ばす。


すると、リクスのバギーカーは10mほど進んだところで停車した。


「冗談だ。もう少し街でゆっくりしていってもいいな」


 チハルが振り返ってハルトにやさしく言った。




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