13、13番目の呪われ姫は"暗殺"されることにした。
月日は巡り、季節は流れる。
今日も変わらず彼女に会うために離宮のドアを開けた伯爵の目に入ったのは部屋中に溢れる色とりどりの風船。
「これは、また」
すごい数だ、と感心するようにつぶやいた伯爵が一歩踏み出せば、足元でこつっと何かが当たる。
それを合図とするかのように、風船が連続的に割れ、パンっという破裂音とともに紙吹雪が部屋中に舞う。
最後の1つ、大きな風船が割れるとともに中からクラッカーを持った彼女が現れて伯爵に向かって、クラッカーを鳴らす。
「伯爵、25歳のお誕生日おめでとうございます!!」
彼女がそういうと同時に、伯爵の頭上でくす玉が割れて、さらに紙吹雪が落ちてくる。
紙吹雪を一身に浴びながら、
「ありがとうございます。今年はまたすごく手が込んでますね、姫」
耳が痛いんですが、と伯爵は苦笑する。
準備も大変だったろうが、これはまた片付けが大変だ。
「でしょう! 紙吹雪の生産、すっごくがんばりました」
得意げにそう言った彼女の名前はベロニカ・スタンフォード。この国の13番目の王女様である。
「で、これ掃除はどうするつもりです?」
「ふふ、面白い事を聞きますね、伯爵。2人で片付けるに決まっているではありませんか?」
ここにいるのは"呪われ姫"とその"専属暗殺者"だけですよと猫のような金色の瞳を楽しそうに瞬かせ、ドヤ顔で伯爵箒を差し出した。
この国の王家は呪われている。
『天寿の命』
寿命以外では死ねなくなる呪い。
13番目に王の子として生まれてきたためにそんな呪いにかかっているベロニカは、呪われ姫を暗殺せよという陛下の命令でずっと命を狙われている。
だが、本日に至るまで"呪われ姫"を暗殺できたものは存在しない。
彼女を殺そうとしても呪いの効果で、弓矢はオモチャのダーツに、爆弾は花吹雪に早変わり。
呪われている彼女は何をやっても死なないのだ。
『伯爵家以上の貴族は最低一回、どんな手段を使っても構わないから、呪われ姫の暗殺を企てろ』
陛下直々にそんな命令も出ていたが、さすがにベロニカが20歳を迎えた今では、この国に存在する伯爵家以上の全ての貴族がその命令の条件を満たしてしまったため、この離宮を訪れる暗殺者も随分少なくなっている。
そんなわけで忘れられたようにひっそりと存在するこのボロボロの離宮で、今日も呪われ姫は元気に楽しく生きていた。
「改めまして、伯爵お誕生日おめでとうございます」
すっかり片付け終わった部屋で、ベロニカ特製のぶどうジュースと柚子ゼリーを出される。
ちなみにどちらも離宮で栽培されている自家製だ。もっとも元の苗自体は随分昔にベロニカが王宮の農場から拝借したものだけれど。
自給自足の生活が続く間は返す予定はないのだが、王女であるのにもかかわらず、本来支払われるべき王族の生活費の支給が一切ないので、そこは目をつぶってもらうことにする。
「今年の伯爵の誕生日、何が欲しいです?」
誕生日にはサプライズと称して毎度ドッキリを仕掛けてくるベロニカだが、欲しいプレゼントだけは聞いてくれる。
冗談で言った禁術書庫の閲覧資格まで与えられた時は正直どうしようかと思ったが、研究を進める上でかなり役に立ったのでそこで得た知識はありがたく使わせていただくことにした。
ベロニカと過ごした日々を振り返り、人間なんでもなれるものだと伯爵は自分順応性の高さに感心する。
「なんでもいいんですか?」
「もちろん! 伯爵のためなら国中敵に回しても手に入れます」
猫のような金色の目を輝かせ、冗談なのだか本気なのだか分からない口調で、ベロニカは楽しげに答える。
彼女はいつだって変わらない。時を経てもただ彼女は自分のことが好きなだけで、いつでもその瞬間を全力で楽しんでいる。一瞬たりとも手のうちからこぼすことがないように、大切に大切に今を生きているのだ。
そんなベロニカだから。
「では、そろそろ俺と結婚しますか?」
これから先の人生も一緒にいたいと伯爵は所望する。
「…………っは、本日はそういう暗殺!? 驚きすぎて、一瞬息をするの忘れましたよ!!」
心臓が止まるかと思ったと、ベロニカは金色の目を瞬かせ驚いた口調でそう述べる。
「ふふ、伯爵がハニートラップを仕掛けてくるだなんてびっくりです。あーでも今までで1番効果のある暗殺方法だったかもしれません」
まぁ、私は呪われてるので死にませんけどと言ったベロニカの手をとって伯爵はそこに口づけを落とす。
驚いて何度も目を瞬かせるベロニカに、
「失礼な。暗殺でもハニートラップでもなく、俺は本気で言っているんですが?」
伯爵はいつもと変わらない口調でそう述べる。
「ずいぶん待たせてしまいましたが、借金を返す目処も立ちましたし、これから本格的に領地を立て直そうと思うので、人手も必要ですし」
何せ現時点では誰も手を差し伸べてくれない借金まみれの貧乏伯爵家ですし、と伯爵を楽しげに笑う。
「これから先俺と一緒にいても、多分苦労することの方が多いと思いますけど。あなたはきっとそんなこと気にも留めずこれから先も変わらずに俺の事を振り回し、楽しげに笑っているのでしょう。そんなベロニカ様を間近で見ている人生は悪くないなぁと思ったんです」
伯爵はまっすぐにベロニカの目を見て、淡々とした口調で言葉を紡ぐ。
「国中を敵に回しても構わないと言うのなら、一緒に秘密を抱えて俺のものになってくれます?」
そう言って伯爵が差し出したのは1冊のノート。そこには出会ってから今日まで記した"呪われ姫"の考察が書かれている。
「あなたが望むなら、俺はこの国から"呪われ姫"を消そうと思います。俺はあなたの暗殺者ですから」
伯爵はそう言って言葉を締めくくる。
そんな伯爵をじっと見つめ返したベロニカは形の良い唇で弧を描くと、
「ふふ、やはり伯爵が変わっていますね」
楽しそうにそう答え、ノートを受け取る。
「答えなんて、最初から決まっているではありませんか?」
何故なら目の前にいるのはベロニカ自身が選んだ、専属暗殺者なのだから。
「どうぞ、私のことを殺してはいただけませんか?」
ベロニカは初めて出逢った日のように淑女らしくカーテシーをして、同じ言葉を口にした。
夏が終わりを告げる頃、国中に鐘が鳴り響いた。
呪われ姫は討ち取られたという新しい陛下の宣言とともに。
「いやぁー思いの外盛大なお葬式ですね! 伯爵」
セレモニーの中心地から少し離れた小高い場所で楽しげに自分の葬儀を眺めるベロニカは、
「何をやったんです? 伯爵」
歌うような口調でそう尋ねる。
「大したことはしていません。強いて言うなら王家の暗殺、といったところでしょうか?」
「暗殺、ですか」
「ええ。新しい時代の幕開けに相応しい民衆が好みそうな筋書きをレグル殿下に献上しました」
いくつかの嘘と本当を織り交ぜてと伯爵は人差し指を唇にあて、内緒ですよと笑う。
「7番目のお兄様がよく取引に応じましたね」
「レグル殿下は元々反逆の準備をしていたようなので、そこに便乗させてもらいました」
伯爵が提供したのは代替わりを成し遂げるために足らなかったパーツ。
「王位を継ぐに相応しい人間がいて、誰の目にも明らかな功績があるのなら"呪われ姫"を正統な継承者として旗印に掲げる必要もないでしょう? だから、呪われ姫には"死んで"もらいました」
呪われ姫の殺害。
誰にも成し遂げる事のできなかったそれは、本人と発言力のある王家の人間の結託で成された自作自演のストーリー。
国に降り注ぐ不幸ごとは全て"魔女の呪い"と嘯いて。
都合の悪い事は全て呪いのせいと蓋をして。
その諸悪の根源である"呪われ姫"を滅することでなかったことにした。
「"仮死状態になる薬"なんて本当に存在するんですね。びっくりです」
そう言ったベロニカは小瓶に入った薄紫のきれいな液体を軽く振る。
「実際には心臓止まらないんですけどね」
それは"呪われ姫"が暗殺されたと見せかけるための小道具。
その小瓶の中身を見つめながら淡々とした口調で伯爵は話す。
「現代において知っている人は、ほとんどいないと思いますよ。俺も初めて作りました」
「ふふ、なかなか貴重な体験でしたよ」
ベロニカは先日からの出来事を楽しげに振り返る。
伯爵に渡されたその薬を打ち合わせ通りレグルに追い詰められてから飲んだベロニカは瞬時に陛下の御前で倒れた。
その後死亡判定を受けたベロニカが数時間後に目を覚まし、底が開くようになっていた棺からこっそり抜け出す。ヒト一人分の重さがある荷物を代わりに詰めて。
呪われ姫が棺から出ることがないようにと派手に鎖を巻かれているその見た目に騙されて誰も疑う事はなく、死亡確認以降はその存在を確かめられずにいくつもの思惑と一緒に全て灰になった。
だから民衆向けに用意された呪われ姫の葬儀には、何も入っていない棺が新たに用意され、本日のセレモニーが行われている。
「それにしても伯爵、どこでこんな薬のレシピを見つけてきたのですか?」
本当に物知りですねとベロニカは楽しそうに笑う。
「禁術書庫です。あそこの文献の中から見つけました」
「ではいずれこの謀は気づかれてしまわないでしょうか?」
禁術書庫は制限がかかっているとはいえ全く閲覧できないわけではない。
「大丈夫ですよ。そもそも王国初期の文面を解読できる人間自体がほぼいないので」
ベロニカの不安を取り除くように伯爵は即座に否定する。
「禁術書庫に収められている建国当初の文献に綴られた特殊文字。その研究をしていた第一人者はもうこの世にいませんから」
その研究結果はもうこの世界のどこを探してもないのです、と伯爵は淡々とした口調でそう述べる。
「その研究者って、もしかしなくても伯爵のお父様ですか?」
ベロニカの問いに伯爵は静かに頷くと、
「"月光草"。万病薬を求める過程で研究された特殊文字の解読。その研究成果が研究機関に登録される前に父は国から切り捨てられました。だから父と共に燃やしました」
全部を暗記して燃やせという遺言だったので、とどこか遠い目をしてそう言った。
「研究成果を渡さない。それが俺の国への報復です」
なので黙っていればバレませんよ。
そう言って伯爵がベロニカに差し出したのは、満月の下で咲く花の雫を使って万病薬が作れるとされる"月光草"という空想上の植物のモデルになった花。
「それに仮に解読できたとしたもこの花には微量の毒があることで植物学者の間では有名です。その一面だけが広く知られるこの花を使って"仮死状態"になる薬を作ってみようだなんて、そんな酔狂な人間もいないでしょうし、いたとしても再現は難しいでしょう」
この花の蜜には、毒がある。だが、それを集め正しい分量で複数の材料と煮詰めて成分を抽出するとその薬が作れるのだ。ただし一緒に使用する他の材料自体が希少なので、簡単に作れるものではないのだが。
「あなたに"毒"は効きません。正確に言うならこの薬の効果は回復薬。仮死になるのは身体の不調を回復させるのに集中する過程で起きる現象に過ぎません。命に関わるものでなければ、ベロニカ様にも有効であるのは、あなたへの"暗殺"を通して実証済みです」
「なるほど! 確かにぐっすり眠れました」
そしてすごく快調ですとベロニカはその薬の効果を評価する。
「答え合わせを一つしてもいいですか?」
「どうぞ」
「伯爵は先程これは"王家の暗殺"と言いましたよね。伯爵は、ご存知だったのですか? 7番目のお兄様がスタンフォード王家の血を引いていない、と言う事を」
ベロニカは金の目を瞬かせ伯爵に不思議そうに尋ねる。
「呪われ姫である私はこの呪いと血の制約で王家に近しいその血を引く人間を見つけることができます。でも、それを口外したことはありません」
伯爵にも言った事のないベロニカの秘密。おそらくこれを知っている人間はいない。先代陛下ですら知らないはずだ。
正統な継承者の血を引く者。それが分かればきっとあの人は呪われ姫以外にも暗殺者を送り込み、粛正しようとしただろう。
そう考えたのはベロニカだけではなかったようで、母方の生家が力ある家系の人間であればその秘密ごと守られているようであったし、そうでなければいつのまにか存在を奪われいなくなっていた。
ベロニカの母は身分のない平民の出で、呪われ姫でなかったなら自分も亡き者にされた側の人間だっただろうとベロニカは思う。
だから、ベロニカは決して口には出さなかった。
見分けられる事も。偽物が誰であるかも。
「本人ですら知り得ないその血の秘密を伯爵はどうやって暴いたのですか?」
「俺にも確信があったわけではありません。憶測の域をでないただの当てずっぽうですよ」
ベロニカが血縁を見分けられるという事も初耳である伯爵は、そう言って肩を竦める。
「ただしレグル殿下に関しては限りなくその可能性が高い、とは思っていましたが」
その話をレグルとした事はない。だがおそらくレグル自身自分は正統な継承者ではないと気づいていたのだろう。でなければ人に慕われ能力のある彼がわざわざ呪われ姫を次代の王に据えようなどと考えるわけがない。
だが、それは確かめようのない話。
これから先もきっと自分達の間でその話題が交わされる事はないのだから。
「どうして、陛下はこんなにも多くの子を望んだのか? 俺にはそこが疑問でした」
13番目に王の子として生まれた子は呪われる。それが分かっているはずなのに、あえてそうした。
そこには陛下なりの理由があったのではないか、と伯爵は思う。
「色欲に負けただけでは?」
しらっとした顔でそう切り捨てるベロニカに苦笑しつつ、
「もしそうだとして"避妊"という方法を陛下が知らないわけがないでしょう」
上流階級の人間であれば当然施される教育について述べる。
現に第3子である王女様から第4子目までの間が異様に空いている。
そして第3子までは正妃との間の子。それ以外は、側妃や愛妾との間の子で歳の差がかなり近い。
継承権を持つ子が多くいれば国を分つ火種になりかねない。
そんなリスクを取ってでも知りたかった何か。
「俺は先王のことを直接知っているわけではないのでこれはあくまで推察です」
伯爵はそう言って話を続ける。
「"果たして本当に自分はスタンフォード王家の血を引いているのか?"先代の陛下が知りたかったのは、それではないかと思うのです」
上手くいかない事が立て続けに起これば、誰かのせいにしたくなるのは人間の性だ。
だから先代陛下は禁忌を犯してでも知りたかったのだろう。
自分は本物か、と。知ったその事実を彼がどう受け止めたのか、知る術はないのだが。
「俺が知っているのは"魔法"にしろ"呪い"にしろ、それはあらゆる理を捻じ曲げる万能なモノではなく、一定の条件を必要とした法則性のある"事象"だという事だけです」
それは呪われ姫を間近で研究した伯爵だから知っている実験に裏付けされた確かな知見。
「王家の呪いと国の歴史について、少々調べさせていただきました」
そう言って伯爵は"祝福"と"呪い"についての考察を述べる。
「この国は過去幾度か他国や天災に見舞われて滅びそうになったことがあります。でも、最後は必ず免れる。壊滅状態にまで追い込まれても何故か"死なないん"です、この国は」
歴史上敗者となった国が滅ぶ事は決して珍しいことではない。
だが、説明のつかない不可解な出来事が重なり、この国はいつもその危機を乗り越える。
「初代スタンフォード王は魔女との契約により国を守る加護として"祝福"を与えられた。その一方でヒトという生き物は、与えられ続けると愚かにもそれが当たり前だと思ってしまう。だから魔女はそれと同時に"呪い"を刻んだ。"私の事を忘れないで"と」
それは語られることのない、確かめようのない物語。
まるで寂しがり屋のあなたみたいですね、とベロニカの金色の目を見て伯爵はクスリと笑うとベロニカの髪を優しく撫でる。
「この国の王家にかけられた"祝福"と"呪い"。その発動条件は、魔女と契約を交わしたスタンフォードの血を継ぐ本家筋の人間が王位を継承する事で発動する。そして呪われた人間を除き、王位を継承しなかった者は全員その加護から外れる」
それが伯爵の導き出した結論だった。
「だからその血を受け継いでいない第7王子であるレグル殿下が王位を継いだ事で、この国は加護を失った。そして、同時に呪いの発動条件もなくなったので次代以降もう呪い子は生まれない」
国の根幹を揺るがすそれは紛れもなく、王家の暗殺。
だが、それでもこの国は続いていく。
真剣に国の行く末を考える王とそれを支える家臣とこの国で生きていく国民達の手によって。
「どうして、その結論に至ったのですか?」
「とある公爵家というか、元宰相殿とちょっとした縁がありまして、妹への接近禁止令を解く代わりに情報の取引をしました」
伯爵が要求したのは王家の家系図。そこから検証しましたと伯爵はいうが、一般に公開されないその情報は本来ならただの伯爵家の人間が見る事など叶わないモノだ。
公爵家という単語に反応し、以前会った事のある伯爵の弟妹の事を思い浮かべたベロニカの中で全部が繋がる。
「それは……ベルさんとハルさんが」
「血縁を見分けられるというのならその先は、どうぞあなたの心に留めておいてください。知る権利があるように、また知らない権利もあるのです」
ベロニカが言いかけた言葉を遮って、伯爵は静かに頭を下げる。
彼らが自分の出自を知りたいと望む日が来るまでは、俺は妹と弟の兄でいたいのでと言った伯爵にベロニカは静かに頷いた。
伯爵が守りたいと背負ったモノはベロニカにとってもまた大事なモノになっていたから。
「これで"暗殺"は終わったんですね」
「ええ、これで俺の"暗殺"はおしまいです」
呪われ姫の死亡とともに呪われ姫に魅せられ囚われ精神を病んだとされた陛下は治療と称して表舞台から引きずり下ろされた。
勿論、裏事情はそうではないし失脚させられるだけの手筈はレグルが用意していたが、そこは伯爵の預かり知らぬ話だ。
陛下の悪政に長く苦しい思いをした民衆は、これから少しでも良い方向に変わればと呪われ姫を生贄にして願うのだ。
これでこの国は救われる、と。
暗殺自体は単純な計画だが全面的にレグルが協力しており、魔法と言う特殊な体質を持っているベロニカが自身の葬儀に乗じて多くの人間に存在に呪われ姫を忘れるように暗示をかけてしまえば、彼女の行方を追えるものなどどこにもいない。
こうして、13番目の王女様であるベロニカ・スタンフォードはようやく自由を手に入れた。
**
「ねぇ、お母様。それで呪われ姫は一体どうやって呪いを解いたの?」
トロンとした金色の目を擦りあくびをした可愛い娘と既に夢の中に落ちた愛息子を寝かしつけながら、ベロニカはクスッと笑う。
「ふふっ、呪いの解き方なんて古今東西"真実の愛"と相場が決まっているのですよ」
そう答えたベロニカは自身の指に留まる17の誕生日に貰った伯爵お手製の銀細工の指輪を幸せそうに撫でる。
『呪いなんて吹き飛ばすくらい、誰よりも幸せになってください』
そう言ってくれた伯爵は呪われていようがいまいが、今も変わらずに自分の事を愛してくれる。
「呪われ姫……幸せ、なれた?」
眠気に抗う娘をベロニカはトントンと慣れた手つきで寝かしつける。
「ええ、勿論」
とベロニカが答えた頃には彼女の金色の目もすっかり閉じられスヤスヤと寝息を立てていた。
そっと部屋を後にして、リビングに降りれば、
「寝かしつけお疲れ様」
ベロニカの大好きな黒曜石の瞳が笑う。
ぱぁーと顔を明るくしたベロニカは伯爵に抱きつくと、
「伯爵もお疲れ様です! 夕食のお片付けありがとうございました」
大好きな人の一番近くにいられることに感謝しつつ、心から幸せそうに笑う。
これはかつて呪われ姫と暗殺者だった2人の、日常を描く物語……なのかもしれない。




