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申し訳ございません 【11】
「タツロー様__」
父の物言いに我慢しかねたチェレミーが、本人からすれば助け船のつもりで声を掛けた。
「御冷の方はよろしう御座いますか?」
「ええ__はい、お願いします」
言われるがままに、タツローは答えるだけであった。
「なんとまあ__」
その様子を見て、伯爵がこれ見よがしにため息をついた。
「会話の腰を折るとは、気の利かぬ女中もあったものだな」
伯爵の皮肉にむっとなったチェレミーだったが、ぐっと口をつぐんで気持ちを抑える様に身構えた。
その一触即発を絵に描いたような光景に、その場に控えるメイドたちが、そして何より渦中に巻き込まれたような形のタツローが息を殺して成り行きを見守っている。
「いやあ、タツロー君、済まんなあ」
伯爵がチェレミーを挑発するように言った。
「折角逗留してくれた客人を、愚かな娘のつまらぬ遊びにつき合わせてしまって、実に申し訳ない」
そう言われても、タツローには答えようがない。