石神村の姫の“む”
鬼ごっこの簡単なルール説明。
・メンバーから鬼(親)を決め、それ以外のメンバー(子)は決められた時間内を逃げる。今回の場合、鬼(親)は魅空の協力者全員を指す。子はレスト一人だけ。
・鬼(親)が子にタッチした時点でゲームは終了。魅空の勝ち。逆に一時間を逃げ切ればレストの勝ち。
・逃げる範囲は東京都23区とその周辺だけ。
・レストには発信機をつける。
・ゲームスタート10分だけ鬼(親)はその場から動かず待機する。
・発信機を手放すなどの不正は禁止。
「こんな感じで~いいかい?」
午前五時。
魅空がレストの服に発信機をつける。彼女のスマホにはレストの位置を知らせるGPS機能がついたアプリが表示される。発信機をつける理由はかくれんぼにならないようにするため。今回のゲームはあくまで鬼ごっこ。
「俺の位置が割れるなら地図上を平面的に逃げたら不利なわけだ。立体的に逃げるのがゲーム攻略の鍵か?」
レストは高層ビルや東京タワー、東京スカイツリーの中に潜むことを思いつく。発信機は位置は割れても高さはバレない。高い建物を上下したほうが捕まりづらい。
魅空は「ふふ~」と笑う。
「その方法を取った場合~睦月くんはかごの中の鳥になっちゃうから~おすすめはしないけどね」
「そうか。じゃあせめて協力者の数だけでも教えてほしいもんだ。石神村の男たち総出で鬼をするのかをな」
「それを言ったら~つまらないよ」
魅空の準備が完了し、鬼ごっこがスタートする。10分間の猶予。レストはすぐに鬼から離れ、前もって呼んでおいたタクシーに乗る。
「近くの駅まで頼む」
タクシーの運転手に行き先を伝える。レストは、このゲームの攻略法は二種類あると感じていた。一つ目は高い建物を利用した逃走。高層ビルや東京タワー、東京スカイツリーなどは発信機は意味を持たないため、逃げ放題だと思った。しかし、その戦術は魅空に否定された。きっと協力者の数が100人を超えているものと思われる。100人以上いれば、一つの建物にこもるレストをタッチすることは容易い。いくら隠れていても鬼(親)側がしらみつぶしに調べればレストに勝機はない。よって取るべき選択は二つ目の戦術。
レストはタクシーや鉄道などの乗り物を利用することにした。乗り物は移動だけでなく鉄壁の要塞となる。乗っている最中、外から近づかれることはない。また、いくら発信機があったとしても人の足で追いつくことはない。簡単な話、タクシーに乗って高速道路を一時間かけて延々走っていれば勝ちなのだ。まさか、そこまではしないと思うが、魅空が高速道路で車をぶつけるなどの暴力行為に出ることを危惧したレストは、大人しく公共機関を頼ることにした。
5分ほどで指定の場所に着く。運転手にお金を払い、急ぎ足で駅に向かう。切符を買い、トイレを済まして近くのコンビニへ。非常食を買ってそろそろ乗車しようという時だった。レストが違和感に気づく。
「10分たったと思ったら、もうか?」
レスト目がけて走ってくるサラリーマン風の男がいた。その後ろには主婦、小学生、初老の男の三名が付随している。みんな一様に同じ走り方で顔は無表情。まるで機械のよう。彼らは全員、鬼(親)だ。
電車はダメだ。間に合わない。レストは急いで改札口を抜け、駅の外に出る。持ち前の身体能力の高さで鬼(親)を振り払う。
(明らかにおかしい。魅空の協力者が近くにいたとは考えづらい。これは何かの能力か?)
レストが必死に逃げる中、追走者はたちどころに変わっていく。駅で会ったサラリーマン風の男たちはすでに振り払った。だが、新たな追走者が次々とあらわれる。酔っぱらったサラリーマン、ホームレス、新聞配達の青年。他にも続々と10人以上がレストを追い始める。
「ちくしょー!」
レストが雄叫びをあげる。魅空の協力者は有象無象。無表情で機械のように走るやつ全員を、鬼(親)と判断するしかない。
レストが雄叫びをあげたころ。ところ変わって魅空は発信機の位置を確認しながら待機していた。
彼女はゲームがスタートした瞬間、まず背伸びをして体をほぐし、唇を触ってわさわさしながら自動販売機でカルピスを買った。カルピスのキャッチフレーズは初恋の味。初恋の味とは何ぞや? という人のために説明すると、カルピス創業者の三島海雲の後輩が考えたと言われている。
三島は当初、「『カルピス』は子どもも飲む。もし、子どもに『初恋の味』ってなんだと聞かれたらどうする」と後輩に訊いたところ、「『カルピス』の味だと答えればいい。 初恋とは、清純で美しいものだ」と返答され、納得したそうです。
「ま~ったく、とんでもない男だ」
魅空がつぶやく。いきなりキスされるとは思わなかった。ポーカーフェイスを貫いているが内心ずっとドキドキしている。カルピスを口に含み、うがいして地面に吐き出す。
「睦月くん~。君は二つの間違いを犯した。一つはゲーム内容を私に決めさせたこと。もう一つは~、」
石神魅空がにやりと微笑む。彼女の協力者はどんどん増える。GPSは地下鉄に乗ったことを示していた。
「もう一つは~私の能力を知らなかったこと~ふふ~」




