佐倉サクラは、今から告白します!
恋は盲目、なんて話は良く聞くのです、私の観た映画にも本にも、必ず一度はそんな感じの言葉が挟まれていたのですから。
「だけど、信じてる」
恋なんてのは、とてもあやふやなものであり、例えば吊り橋効果なんて言葉もありますが、それは危機的状況だと恋愛感情が生まれやすいとかいう意味でした……確かに分かる話でしょう、かくいう私もピンチの連続でした、そしてその度に、彼に……ロボ君に助けられていたのですから。
「だけど、終わりです」
精神的にとても不安な状況では、そばに居る男性がとても頼もしく見えるでしょう、危機を救ってくれたなら尚更なのです、そして、そんな女性に頼られれば、男の子だってきっと、その子を守ってあげたいと頑張るはずなのです、そこから恋愛に発展するのは当然なのです、恋が生まれるのです。
「終わらない、私は信じてる」
だけど、そういった特殊な状況で結ばれた二人は、別れも早いのだとか。ですが、それもまた当然かもしれませんね、妙なハイテンションの勢いで結ばれたは良いけれど、落ち着いた生活に戻ってみれば『あれ? なんか違うな』ってなる事も多いでしょう、やはり信頼関係とは、長い時間を一緒に過ごして、少しづつ積み上げていくものなのかも知れません。
「サクラは現実を見てください、ほら、最初から勝負にもなってませんよ」
だけど、それは人によるものだよ、私だってロボ君と出逢ったのは、つい最近なんだもん、だけど私は信じてる! 想いの強さは時間で決まるもんじゃないでしょ、そんなこと言ったら熟年離婚なんてゼロ件数だよ! だから私は信じてる! ロボ君だって私を信じてくれてるんだ、そう言ってくれたんだ、だから、この想いはきっと届いてる、彼は絶対に負けたりしない!
「負けたり、しない! 私も! 」
強く声に出したのは、油断すれば、また泣き出してしまいそうだったから。
目の前には、剣姫に刻まれ続けるロボ君の後ろ姿があるのです、彼はすでに満身創痍であり、ろくな反撃もできていません、全身から血が吹き出し、肉が弾けて骨が飛び出し、片腕が落ちても、それでも頑張ってくれているのです。
「天領での戦いで、辛島ジュートは一度敗れています、アルタソマイダスに心臓を吹き飛ばされて、既に死んでいるとも言えるでしょう、今も活動できているのは、彼の刀を心臓がわりに埋め込んでいるからなのです、なのでエネルギーには限度がありました……そしてそれも、もうすぐ尽きるでしょう」
「まだ、ロボ君は諦めてないよ! 私達と一緒にしないで、ロボ君は強いんだ、絶対に最後まで投げ出したりしない、折れたりしない、だから私は信じてる! 」
カツン、と意外に軽い音が聞こえる、シャーリーくんから借りていた『同だぬき』の折れた音。
「折れました、よ」
「ひぎっ」
無理に悲鳴を噛み殺したせいで、喉の奥からおかしな音が漏れてしまう、まるで電池の切れた人形のように、ストンと膝をついたロボ君は、ついに、そのまま前のめりに倒れてしまったのです。
「信じてる、私は信じてる、ロボ君はいつも助けてくれたもの、信じてくれたもの、だから、私だって……」
「何か返してあげたのですか? 」
サーラの言葉は、何気ないものだったのでしょう、単なる疑問だったのでしょう、だけど私の心臓は、ドキンと大きく跳ねたのです、何か頭の中が、真っ白になってしまったような気がしたのです。
「私は……信じてた……ロボ君のことを……強いところを……」
でも、そうだ、何かおかしいよ……確かにロボ君はとっても強いけど、とんでもなく強い人だけど、だけど、そうだよ、前に言ってたじゃないか『怖かった』って……普段表に出さないだけで、彼にだって感情はあるんだ、そりゃそうだよ、当たり前じゃん、ロボ君は人間なんだから、私となんの違いもないよ……嬉しい時は笑うし、悲しい時は落ち込んだりするんだ、そんなの、そんなの当然だよ……こんな当たり前のこと、今まで気付いてなかったんだ、いや、気付かないフリをしてたんだ……あぁ、自分でも、馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、まさかここまでだなんて……こんなの、シャーリーくんが呆れるはずだよ。
「サクラ……終わりですよ、今度こそ、本当に」
ガツガツと剣姫の銀剣が、何度も何度も背中からロボ君の心臓に突き立てられている、完全に彼を破壊するつもりなのだ。
「ロボ君! 」
私は、ロボ君を信じてた……でも、それは間違ってたの? ……いや、そうじゃない、そうじゃないよ、うん、だって私が信じてたのは、彼の強さだけじゃないんだもの、そうだよ、私が信じてるのはロボ君の全部だよ、弱いとこも強いとこも、ぜんぶぜーんぶ合わせてロボ君なんだから、私自身が弱いから、彼の弱さから目を逸らしてただけで……まぁ、私みたいなちんちくりんには弱いとこしか無いんだけどね、だからそんなのは些細な問題……あれ? ちょっとまって……なら、ロボ君は私の何を信じてるの?
自慢じゃないけど、私に強いとこなんてない、今だってロボ君が倒れてるのに、見てるだけしかできないのだ、何もしてあげられない、何も返してあげられない、彼はあんなに頑張ってくれてるのに……きっと怖いと感じてるはずなのに……なにか私にできること、ロボ君の魔法に、信じてるの魔法に、力をあげられる、応えてあげられる、なにかを。
「……あっ」
最後の一撃を加えんと、剣姫が銀剣を振り上げたその刹那、私のちっちゃな脳みそに電流が走ったのです。
「あああああああああああッ!!」
自分でも、びっくりする程の大声でした、そのあまりの音量に、剣姫までもが動きを止めて……いや、そんなの今は関係ないよ! 馬鹿だ、私は大馬鹿だ! なんにも分かってないじゃない! 分かってなかったよ、なにが花の女子高生だよ、乙女力ゼロじゃん、今まで散々ロボ君にデリカシーが無いだのムードが無いだの文句を言ってたのに……うわぁー、ごめんなさい! ごめんねロボ君! ……あ、こら、ちょっと何してんの! また剣を振り上げて……えぇい!
「邪魔を! しないでェーッ!!」
思わず叫んだ、もうなんも考えてないよ、ただ私は、力の限りに叫んだんだ、これでもかってくらいに。
「ど、どうして……なぜですか、なぜアルタソマイダスが止まるのです、こんなの、おかしいでしょう! 」
分かんないよ、私には分かんない、なんか天井にヒビが入ってる気がするけど、天井というか空間に亀裂が入ったような気がするけど、そんなの今は関係ありません!
「なぜですか! 」
「しらないよ! あと少し黙ってて! 」
とにかく誰も、私の邪魔をしないでください。
「佐倉サクラは、今から告白します! 」
なにしろ、一世一代の大舞台なのですから。




