……僕も……大好きですよ
「……華村先輩、まだ喋れますか」
「ごぶっ……生きているのか、とは、聞かないのですね」
「ここまで歩けたんですから、そう簡単に死ぬ訳がありませんよ、それは、聞かなくても分かってますから」
「んぅ……そこは、信頼してくださいますのね……ですが、残念ながら、これ以上進むことは無理そうです……あとどれほど、こうしてお話しできるのかも……心外にも『怪獣王女』だなんて呼ばれては、いますけれど、わたくしだって……うふふ、か弱い、乙女ですもの」
「心臓がまるごと無くなっても生きている怪獣は、か弱いとも、乙女とも主張できませんよ」
「ふふっ……心臓の代わりに、全身の筋肉を使って、血液を送っているだけ……なにも、特別なことは、しておりません……それこそ『心外』ですわ」
「あれ、珍しいですね、いまのは冗談ですか? 」
「うふふ、わたくしも、最後まで笑ってみようかと……サクラさんのように……あぁ、サクラさん……泣かないでくださいまし、わたくしは、大丈夫です……なんの心残りも、ありません……後のことは、辛島さまに、すべて、お任せしているのです……安心して、おりますわ……わたくしは、サクラさんに、出逢えたことが、お友達になれたことが……しあわせ、でした……大好き、です」
「……相変わらず、サクラ先輩のことが好きなんですね、まぁ、僕も嫌いではありませんが……でも、底無しの馬鹿には、違いありませんよ」
「うふふ……びゅう、ごぼっ、ぞ、そこも、サクラさんの、可愛らしいところ、ですわ」
「僕は、せんぱい一筋なので、理解できませんね」
「……なんだか、わたくし達は、似た者どうし、だったの、かしら」
「フラれた者どうしですか? まさか、傷の舐め合いをしたいだなんて言い出さないでしょうね……こんな所で転がったまま、死にかけの二人がですよ? ムードもへったくれも無いでしょう」
「あら、意外に、ロマンチスト、だったのですね……ですが、ご安心ください、わたくしも、サクラさん一筋、なのですから……ぶびゅっ……ですが、そうですね……そうですわね、もしも……もしも生まれ変わって、また、シャーリーさんと、お逢いする機会が、あったなら……」
「……あったなら、なんですか」
「うーん……その時は、殿方の、お姿で、ね、お願いいたしますわ」
「ぷっ、何ですかそれ……まぁ、構いませんけれど」
「あら、傷の、舐め合いは、お嫌なのでは、なくて? 」
「別に嫌とは言ってません……華村先輩のことは、割と好きですよ、僕は」
「あら……うふふ……嬉しい、また、楽しみが、増えました……」
「……あ、触らないでください……いえ、華村先輩が嫌だと言う訳では無いのですが……随分と無理に混ぜ合わせましたから、もう中身が溶け始めてしまっているのです、昆虫のような状態だと言えば分かりやすいですかね、あ……もう、触らないでと、言ったのに……」
「あら、ごめんあそばせ……ですが、もう、わたくし、眼が見えないのです、仕方ないでしょう? ……うふ、温かい……そうか、これは念話ですのね、手を繋いだら、声が強く……あたたかい……」
「……そうですね、温かいです……ひとりは……寂しいですから……それに、サクラ先輩だけに良い思いをさせるのも、なんだか癪に障ります」
「ごぼ、っぴゅ……んっ、んっ……シャーリーさんも、サクラさん、のことが、大好き、なのです、ね……うふ」
「なんでそうなりますか」
「……手を、繋いだのは、失敗でしたわね……シャーリーさんの、心まで、こうして、手に取るように……うふふ……とても、あたたかい……です、わ……」
「はぁ……もう、呪術のコントロールも効かなくなってしまいましたか……流石にそろそろ終わりですね……華村先輩、もう喋らなくても良いですよ、後は勝手に伝わりますから」
「……華村先輩? 」
「もう、勝手な人ですね……最後まで」
「サクラ先輩、聞こえてますか、こちらはこの通りです」
「もうこの世界に、生きている者は居ません、あとは祈りの塔の中だけです」
「はなはだ遺憾ではありますが、後のことはお任せします」
「もう、崩壊は止められません、何をしても無理です……なので、ひっくり返してください、全てを」
「僕は馬鹿ではないので、その方法は分かりませんが……でも、サクラ先輩は馬鹿ですからね、なので、先輩の思う通りにやればいいと思いますよ」
「……ただ、ひとつだけ言わせてもらうなら……サクラ先輩は、まだ、大事なことを言ってませんよ……馬鹿のくせに、いや、馬鹿だからこそ、なのですかね? とても、簡単なことなんですけれど」
「まぁ良いです、僕はサクラ先輩がどうなろうと……」
「はぁ……サクラ先輩、良いですか『魔法はひとつじゃありません』これ以上は言いませんからね……ちゃんと、聞いてますか? 」
「……泣かないでください、そんなのは、サクラ先輩に似合いませんから」
「……僕も……大好きですよ」
私には、何も聞こえませんでした。
涙の止めようが、なかったから。




