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ロボ君と私的情事  作者: 露瀬
最終章
88/98

捻じ切ります

 はいみなさんこんばんは、絶体絶命のピンチです、佐倉・P・サクラです、PーすPーす。


「意外と余裕ありますね」


「うるさいよ」


 はい、うるさいよ、余裕なんて無いからね、ただの空元気だよ、なんたって絶体絶命なんですからね……いや、確かに今までも、色々とピンチはあったのですが、でもね、その時はいつも、おばあちゃんやロボ君達が、すんでのところで助けてくれてた訳なのですよ。でもね、今はちょっとマジピンチなのです、何しろ全部見えてしまっているのだから……うう、この万能視点、こないだとおんなじだよ、これはサーラに見えてる世界の、ほんの一部だとは言うのだけれど、目の前に座ってるサーラの身体と、横に控える剣姫さん、それと全く同時に、ロボ君達の校庭での戦いが、全て把握できてしまってる。


「間に合いませんね……さんは」


「う、うるさいってば! そして間に合いますゥ、ロボ君は来てくれるんだからね、私、信じてるもん」


 かたり、と立ち上がった剣姫さんに、私のちんちくりんな心臓は、一瞬だけ、キュッと縮んでしまったのですが、しかしそのまま、彼女は微動だにしなかったのです……な、なんだろう、てか怖いなぁ、目が死んでるというか、空っぽな感じ……そもそも彼女、こっちを全然見てないし。


 うぅん、でも、私だって、ロボ君をあてにして待つばかりじゃないよ、こっちだって頑張るんだ……さしあたっては、ここから脱出しないと、今は大人しくしてるけど、剣姫さんだっていつ動き出すか分からないんだ、よし、刺激しないように、そおっと、そっと。


「ちなみに、出口とかありませんよ」


「うるさいな! せっかく考えないようにしてたのに! そんなの見れば分かりますゥ、もーあったまきた、一発殴ってやる! だから剣姫さんは下がらせてください! 怖いから! 」


「なんでサクラが怒るんですか……私はもう、半分切り捨てられてますので、肉体の操作権がありません……また私は、爪切りをするんですよ、そしてまた小さくなるんです、繰り返しです……もう、創世どころか、この世界の維持すら難しいのです」


「そんな……それじゃ、どうすれば良いのよ? 」


「何度も言ってるでしょう、どうにもなりません……もう、疲れたのです、どうでもいいんです、私は、このままで構いません、全てが無に帰すならば、私も消えるでしょう……もう、休みたいのです、眠りたいのです」


「勝手なこと言わないで! いや、私も勝手なこと言ってるけども、それは承知してるけども、もう少し頑張ってみようよ、だって皆んな頑張ってるんだから、一所懸命、頑張ってるんだよ? 私も頑張るよ、精一杯頑張るから、なんでも手伝うから、だからなんとかしようよ、サーラだって私でしょ、諦めないでよ、頑固でしぶといのだけが、私の取り柄じゃない! 」


「そんなの、初耳です」


「そうだよ、それがどうした! 」


 相変わらずサーラの姿は見えないけれど、存在感だけの彼女が、確かに苦笑いした気がした。


「もしも……もしもサクラが、消えなかったら……そうですね、その時は、奇跡とか、あるかも知れませんね」


 いつの間にか、剣姫さんの手に、銀色の長剣が握られていました。



「せんぱい! 代わります、行ってください! 」


 四人から一人に戻ったシャーリー君が、ウォーレン先輩に打ち掛かった。校庭での戦闘は大乱戦、あちらこちらで遠慮の無い爆発と地響き、悲鳴と怒声は、その全てが赤く彩られ、私の目から見ても、なにがなにやら……いや、残念ながら、今の私の目には、総てが観えてしまっているよ……敵陣に突入した新生天領騎士さん達も、ピッチリ軍団の生き残りも、ほとんどが白騎士に飲み込まれてしまっている、テンプル騎士団も生き残りは三人だけ、アシナガさんの仲間も、既にバラバラにされてしまっているのです。


 唯一の救いと言えるのは、私が連れ去られた為に、壁を作る必要が無くなったという事、ハナコさんやシャーリーくんが好きに戦えているからこそ、こうして全滅せずに、いまだ生き延びていられるのでしょう。


「シャーぁリーィ! お前に出来るのかぁ? 代われるのかぁ? そんなナマクラで、この『飛び魚』が受けられるのか? この『浮き板』が貫けるのかいぃ? 出来損ないは大人しく、数に飲まれてりゃ良いんじゃないのぉ! 」


 ウォーレン先輩の振り回す銀色の長柄斧槍(ハルベルト)と銀の鎧は、なにか曰く付きの名品だとか。


「三種の神器と呼ばれる武具ですよ、余った『森の銀』で適当に作ったものですが、それでも人の手では破壊出来ません」


 そうなんだ、サーラすごいね、流石は神さまだよ、でも解説はいらないからね? そんな絶望的な説明なら尚更だからね、というかどうせなら、アドバイスというか攻略法を教えなさい。


「同じ森の銀で、より強い力で叩けば壊れます」


 うわぁ、役に立たない。


「せんぱい、行ってください、まだサクラ先輩は生きてます、まだ間に合います」


「……サクラは『みんなで』と言った、そこには、お前も入ってる」


 がつがつと、目にも止まらぬ速さで戦い続ける二人は、ときおり白騎士達を数人吹き飛ばしながら、ウォーレン先輩の攻撃をなんとか凌いでいる様子なのです、ですが、流石のロボ君も何か動きが鈍っているような……これはウォーレン先輩が強いからなのか、今まで蓄積されたダメージが深いのか。


「どうせサクラ先輩は、どうしてせんぱいがこんなに焦ってるのかも、理解してないでしょうけどね、馬鹿ですからね」


 なんやと。


「言われてますよ、馬鹿ですって」


 なんやと、てかサーラが言うな、私が馬鹿ってことは、あんただって馬鹿なんだからね……でも、ロボ君、ちゃんと覚えてくれてたんだ……頑張って、ロボ君頑張って……どうか、みんな、死なないで。


「僕は、サクラ先輩がどうなろうと、関係ありません、ですが……僕の好きなせんぱいは、サクラ先輩のことが好きなせんぱいなんです……好きなんです、後悔して欲しくありません、行ってください、居てください、最後まで、一緒に」


「泣ァかせるじゃないの! 変態のくせにさぁ! おお、行けよ辛島、やってみろよ、兄妹喧嘩はこっちに任せて、夫婦喧嘩のしまいをつけろよ! 」


 だん、と踏み込み、ロボ君は何も言わずに走り出したのですが、まだまだ残っている白騎士達が壁を作って彼を阻むのです、さっきまでとは真逆の展開、敵は守りを固めて通せんぼをするようなのです。


「ははァ! こりゃ無理かもな、マコっちゃんの献身的変態的自己犠牲もォ、無駄に終わっちゃうかぁ! 」


「伝える事は、無駄になりませんよ、告白も出来ないヘタレ野郎」


 がいん、とぶつけたシャーリーくんの剣は、ウォーレン先輩の斧刃に負けて根元から折れてしまうのです……あ、駄目、武器が無くなっちゃう! いくらなんでも素手でどうにかなる相手じゃないよ、ど、どうしよう、ちょっとサーラ、神さまなんでしょ、見てないでなんとかしなさいよ。


「ああヘタレだよ! 我ながら情けなくって泣きそうになるさ! でもな、こうもなるだろう! 脳ミソだけ上書きしながら、身体を替えながら、グジグジと200年も生きたんだ! 女々しいんだよ、すがってんだよ! 忘れられないんだよ、俺の全てなんだよ! それでも視線さえ合わせて貰えない……お前に分かるのかよ! だから! 俺と死ね! 一緒に消えろ! 妹だろうが、弟だろうがァ! 」


 ぶん、と振り下ろされたウォーレン先輩の斧槍はしかし、突然に飛び込んできた白くて丸い生き物に、ぽいんと阻まれるのです……え、なに? もこたん? ちょっと! 何やってるの! 危ないから下がって……あれ? なんで、刺さってない?


「200年も生きた割には、いえ、それが脳の限界ですかね? 物忘れが多いヘタレ野郎、独りで勝手に消えてください」


「この手ごたえ……まさか森の銀? いや、他に現存する銀は……無い、はずだ」


「おいで……くるぶし」


 数歩下がって斧槍を構えるウォーレン先輩の前で、もこたんの姿がグニャリと歪み、白いたてがみと銀色の体毛を持つ、一匹の狼が現れた。


「あれは私の月狼です、あの合成羊に偽装してたのですよ……というか、今まで気付かなかったのですか? 合成羊にしては万能過ぎたでしょうに」


 え、いや、だって……確かに東京のとは違うと思ってたけど……それは、新型なのかなって……えぇ、もしかして最初から? おのれシャーリーめ、なんて事を、でもありがとう、頑張って!


「くっ、それでも、性能はこっちが上だろォ! 」


 ぐるんと斧槍を回し、ウォーレン先輩が吼える。サーラが言うには、総合的に判断すると、確かに彼の方が三割り増しくらい強いそうなのですが……でもね、ウォーレン先輩、分かってる? なんかもう立っちゃってるからね、パッタパタに旗が立っちゃってるから。


「もうヘタレてる……それじゃ、僕には勝てませんよ、あぁ、そういえば前に言いましたか……もう、ことも済みましたので、僕は満足しました……なので」


 シュワシュワと音を立て、銀色の狼が、今度は刀に変貌してゆくのです、それを構えるシャーリーくんは、焦るウォーレン先輩と対照的に、なんとも堂々とした態度にて宣言しました。


「捻じ切ります」


 はいこわい。


 でも、頑張って、シャーリーくん!



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