だから、うるさいです
あいも変わらず、シャワシャワと鳴き続ける合成ゼミの並木道、いつもと同じ通学路……でも、なんだかすっごい久し振りな感じがするよ、ついこないだまでは、ドタバタしつつも楽しく歩いてたはずなのにね……はい、なんだかちょっぴりおセンチ気分、佐倉サクラです、ぴーすぴーす。
「サクラ先輩……弛みすぎですよ、もう少し緊張とか無いんですか? まったく、お腹と一緒で図太いというか、マイペースな人ですね」
「なんやと」
なんやと! 聞き捨てならないよ! というかシャーリーくんには言われたくないんだけれども、あと、お腹の事は言うな、彼氏の前で言うな、私だって少しは反省してるんだからね、帰ったらきっとダイエットします、多分します、でもおやつは許してくださいね。
「別に、太いのは気にしないぞ? というかお前らは細過ぎるんだよ、もう少し食っても良いだろう……華村以外は」
「聞き捨てなりませんわっ! 」
それまで真面目な面持ちにて歩み続けていたハナコさんだったのですが、ロボ君の台詞を聞いた瞬間、くわ、と目を剥いて彼に詰め寄ったのです……もう、ロボ君は相変わらずデリカシー無し男だよ、女の子に体型とか体重とか、丸いだとかプヨってるだとか、A5ランクだなとか霜降りかなとか、そう言った会話は禁忌だよ、タブーです、ハナコさんが怒るのも無理ないよ、訂正して、謝って、でも、もう少し余裕がもてるというのは有り難いので訂正しないでください、ダイエットは来月からにします。
「なんだよ、そんなムキになるな、別に……いや、そうだな、萎むのは勿体無いか……華村は今のままで良いぞ」
「うはは、確かに、陛下の乳房はテンプル騎士団の、いや、西京の至宝であるからな、しかも入団時よりふた回りは成長しておられる……栗原も、少しは見習ったらどうであるか? ……団長として、部下の寸法変化にも気を配る男、ビッケ=パイパンでありますぞ」
「シャーリーくん」
どむっ、と低く重い音を残し、セクハラおやじの身体が30センチ程も浮き上がる、でも、下ネタビッケツに蹴りを入れたのはシャーリーくんではなく、栗原さんでした……あ、うわぁ、すんごい笑顔だ……気にしてたんだね、わかるわーその気持ち、あ、シャーリーくん、とりあえずロボ君のお尻も蹴っ飛ばしといて、同罪だからね……あとハナコさんも赤くなってないで、なんや、乙女か、純情なのは良いけどね、持たざる者の気持ちも考えてくださいよ? 許さへんからね? あとハーレムルートは無いからね? 何度も言うけどね? いや、言ってはないけど、あげないよ。
「陛下、やはり学園周辺は感知阻害網が徹底されております、手薄な突入門は確認できませんが、いかがしますか」
「アシナガ、普段の呼び方で構いません、貴女方は私の勅騎なのですから……しかし、どうしましょうかサクラさん、敵は学園を囲っているはず、戦力が等分ならば、何処から攻めても同じと思えますが……」
私達は聖十字学園に向けて進んではいたのですが、当然にその動きは相手にも筒抜けのはずなのです、なので、学園に向かう最後の分岐である、主要道路の大交差点……つまりは、まさに今ここなのですが……シャーリーくんの先端呪術を行使して身を隠し、学園の四方門、そのいずれかから攻め入る手筈になっているのです。なにしろ相手は300人のテンプル騎士団、まともに正面から激突するのは得策ではありません、私達が姿を消せば、敵も戦力を分散させる事でしょう……まぁ、校長室のある議事堂周辺を、全戦力にて固められる可能性もあるにはあるのですが……それならそれで一点突破しやすいだろうというのがロボ君の意見でした。
「ですが、その可能性は低いと思いますよ、そんなギリギリで防衛したのでは、議事堂の中に居るサーラにまで被害が及ぶことになりますしね、ウォーレン先輩は儀式の邪魔をさせたくないのですから、中央広場以内に、僕たちを入れないように守るでしょう」
「な、なら、やっぱり、正門辺りに固まってるのかな? ……どうしよう、裏門に回ってみる? あと、こころ、読まないで」
ううん、難しいところではあるなぁ……いや、いまさら迷うこと無いかも……選択権はこちらにあるのだし……そうだね、一番近くの門から真っ直ぐに、わーっと攻め入るっていうのも、すっきりするかなぁ。
「ま、どのみち戦うんだ、300騎全てを相手にすると思っておいた方が良い……そもそも、シャーリーの『存在透過』が通用するかどうかも分からないんだからな」
「先端呪術だけなら、ウォーレン先輩より僕の方が上ですけどね……でも、サーラの出方次第ですか、あれに誤魔化しは通用しないでしょうし」
うぬぬ、悩むといえば悩みところでもあるのですが……こんな所で無駄にエネルギーを消費するもの勿体ないよ、というか、なんで私が決めるみたいな流れになってるんだろ? まぁ良いけどね、他に役立ちそうな場面も無いだろうしね、所詮私なんて、ただの女子高生なんだし……あ、でも、そうだ、そうだよ。
「は、ハナコさん、やっぱり正門から行こうよ」
ちろり、と視線を向けると、ハナコさんはいつものように、ふわり、と笑うのです……花のように優しげで、でも、眩しいくらいにキラッキラの美少女スマイル……あ、やっぱり分かってくれてるんだ、考えても無駄なら、そうだもんね……ひょっとして、おんなじ事、考えてたのかな?
「そうですわね、わたくし達が、いつも通った道ですもの……普段通りに登校しましょう」
うん、そうだね、こんなの日常だよ、なんてことないよ、全部解決したら、また明日から通学しなきゃ……みんなで一緒に、ね。
「うむ、我等は正道を征くべきであるな……ならば威風堂々、正旗に風はらみィ……西京テンプル騎士団、前進である! 」
おおぉ、と気合の入った鬨の声、みんな、なんだかやる気充分って感じだね、ちんちくりんの私に、何が出来るかは分かんないけど……やるぞ私も、目一杯だ!
「お、おおーっ! 」
「あ、ここからは喋らないでくださいね、敵に察知されますから」
……あ、そうですか……まぁ、そうですよね、いくら先端呪術で身を隠すからって、騒がしくしちゃダメですよね、はい、大人しくしときます……でもねシャーリーくんや、なんでこのタイミングで言うのだろうか? みんなテンション上がったとこだよ? そういうとこだよ? マイペースってのはさぁ!
「めぇ」
うん、ありがともこたん、分かってくれるのはお前だけだよ、一緒に頑張ろうね。
でも、そうだね、ほんとに頑張るよ、頑張らなきゃね……うん、よし、せめて心の中だけでもテンション上げてこう! いよーっし! やるぞ!
「だから、うるさいです」
だから、読むんじゃないよ。




